205話

「あの・・・・・・観覧席はどの辺りなんですか?」


「この人の流れに乗って行けば自然とつきますよ。それよりもお腹とか減りませんか?」


 そう言えば、来る前も何も食べていなかったので、お腹が空いていた誠実。

 並んでいる屋台を見ながら、栞と何を食べるかを相談する。


「先輩って、焼きそばとか綿飴って食べたことあるんですか?」


「なんですかぁ~、その少し馬鹿にしたような言い方わぁ~」


「い、いや……先輩みたいなお金持ちだと、あんまりこういう物は食べないのかなって思って……」


「そんな風に見えますか? 私だって焼きそばくらい食べたことありますよ!」


「すいません、完全に俺の偏見でしたね。じゃあ買ってきますよ」


「二人で行きましょうか、その方がはぐれないでしょうし」


 栞にそう言われ誠実は栞と一緒に焼きそばの屋台に向かった。


「すみません、焼きそば二つお願いします」


「はいよっ! 焼きそば二つだねぇ!」


 元気の良いおっちゃんが威勢良く言ってくる。

 そんなおじさんが、誠実と栞を見た途端にまたしても威勢良く言う。


「お! 兄ちゃん可愛い彼女連れて~、デートかい? かぁー!! 羨ましいねぇ~」


「い、いえ! 俺たちは……」


「はい、そうなんです!」


「先輩!?」


 屋台のおっちゃんの言葉を否定しようとした誠実だったが、言い終わる前に栞が言い切ってしまった。

 誠実は栞の言葉に驚き、栞は笑顔でおっちゃんと話しをしていた。


「兄ちゃんやるねぇ~、こんなべっぴんさん捕まえてぇ~」


「だ、だからそういうわけじゃ……」


「ホントですよねぇ~」


「だから先輩!? さっきから何を言ってるんですか!」


「ほらぁ~、いつもこうやってごまかすんですよ~」


「あらら、さては兄ちゃんシャイボーイだな! お嬢ちゃんも大変だねぇ~」


「本当ですよぉ~」


「もう……どうでもいいや……」


 誠実は誤解を解くの諦め、そのまま黙る。

 おっちゃんは仲の良い二人のためにと、少しおまけをしてくれた。

 屋台を後にした後、誠実と栞は観覧席に向かった再び歩き始めた。


「先輩、さっきのあれはなんすか」


「あれとは?」


「ほら、彼女だのなんだのっていう」


「あぁ、別に良いじゃないですか。花火大会なんてカップルだらけですし、あの場合は訂正するほうが面倒です」


「そうですけど……もし学校の奴らが居たら……」


「私は気にしませんよ? それとも、私が彼女じゃ不服ですか?」


「あ、いや……そういう訳では……」


「なんですかぁ~? そうですよねぇ~、私ってあんまり可愛くないですし~」


「い、いや! そんなことは……」


「じゃあ、可愛いですか?」


「は、はい?」


「どうなんですか?」


 問い詰めてくる栞に誠実は戸惑う。

 簡単に可愛いと言えれば一番良いのだが、なかなかそれは難しいし気恥ずかしい。


「う……か……」


「か?」


「か……わいいです……」


「え? なんて言いました? 聞こえませーん」


「な! 絶対聞こえてましたよね!」


「うふふ、もう一回ハッキリお願いします」


「あぁ! 可愛いです! これで満足ですか!」


「うふふ、ありがとうございます」


 満足そうに笑う栞。

 余裕そうな栞だが、実は栞の心臓は破裂するのではないかというほど、ドキドキしていた。 頬もわずかに赤かったが、誠実は気恥ずかしさで気がつかない。


「じゃあ、席に座りましょうか」


「なんだか、このまま先輩にからかわれて終わりそう……」


「あら? 今頃気がつきましたか?」


「確信犯!?」






「わー凄いねぇ!」


「人多い~」


「ま、こんなもんでしょ」


 私、伊敷美奈穂は現在、学校の友達五人と花火大会に来ている。

 会場は人が多く、気を抜いたら皆とはぐれてしまいそうだ。

 そんな会場で私は無意識に人を探していた。


「……どこかに……居るのかしら」

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