186話



 恵理に買い物に付き合ってもらう日の当日。

 誠実は着替えを済ませて、約束の駅前で恵理を待っていた。

 年上の女の人と買い物なんて、普通はドキドキする展開のハズなのだが、相手が恵理のせいか、あまり緊張は無かった。

 それを抜きにしても、沙耶香や美沙なんかと買い物に行ったりしたので、慣れてきたというのもあった。


「せ、誠実君……お、お待たせ……」


「あ、恵理さん! 俺も今来たとこなんでだいじょ………」


 誠実はやってきた恵理の姿を見て、驚き途中で言葉を失った。

 そこに居たのは、しっかりと化粧をし、ちゃんとお洒落をしてやってきた恵理だったからだ。

 海で最初に会った時も、家に来た時も、ここまでのちゃんと化粧はしていなかった。

 誠実は、そんな大人っぽさ全快の目の前の恵理に頬を赤らめ、呆然と立ち尽くす。


「誠実君? どうしたの?」


「あ、いや……何でも……」


「何~? お姉さんが綺麗でビックリしたの~?」


「ま、まぁ……正直」


「え……」


 からかうつもりで言った恵理だったのだが、誠実の反応に顔を赤らめる。

 狙い通り、誠実の顔を赤面させることには成功したのだが、自分も照れてしまった。


(な、なんで誠実君に褒められたくらいで照れてんのよ! 別にそう言うアレじゃないでしょ! 今日は買い物に付き合うだけ! デートとかじゃないんだから!!)


「ま、全く! そ、そんなにお姉さんは綺麗かな~? ほ、褒めたって何も出ないぞ~」


「いえ、正直別人かと思いました……普通に綺麗です」


(こ、この子は~! なんでこういう時だけこういう感じなの! いつも通りでいてよ! 言ってるこっちが恥ずかしくなるじゃ無い!!)


「ふ、ふ~ん……ち、ちなみに……どの辺が?」


「え? いや、なんていうか……全体的に大人っぽいと言いますか……やっぱり大学生なんだなって……」


(あぁ……いつも生意気なせいかな? こういう風に正直に言われると……年下って可愛い……ってちがうでしょ!)


「ほら、早く行こ! 何も決まってないんだから、お店一杯見なきゃでしょ!」


「あ! 恵理さん待って下さいよ!」


 恵理は顔を赤くしながら、誠実を置いて先に街に歩いて行く。

 誠実はそんな恵理を慌てて追って行く。

 最初に向かったのは雑貨屋だった、とは言っても前に行ったショッピングモールとは別の雑貨屋さんだった。


「美奈穂ちゃんって何か好きな動物とかある?」


「う~ん……猫とか犬は普通に好きだと思うんですけど……先輩が持ってるそれは絶対に無いと思います」


「え、可愛いじゃん、ダイオウグソクムシ」


「確かに一時期話題になりましたけど、そのぬいぐるみは無い」


「じゃあ、私が買おうかな……」


「え……」


「別に良いでしょ! 可愛いじゃない!」


「……そ、そうっすね……」


「あからさまに引かないでよ!」


 結局一件目の雑貨屋では、何も良い物が見つからず、二人はアクセサリーの売っているお店に移動する。

 

「高! え? こんなにするんですか?」


「何処見てるのよ! 誠実君が見るのはこっちの安い方!」


「あ、よかった……こっちならなんとか」


「まぁ、美奈穂ちゃんはまだ中学生だし、ネックレスとかの方が良いかもね……コレなんてどう?」


「う~ん……ハートのネックレスって言うのもなぁ……妹にハートのネックレスってどう思います?」


「別に気にならないと思うけど?」


「美奈穂は気にしそうだな……」


 誠実はそう言って、そのプレゼントを拒否し、結局その店でもプレゼントは決まらなかった。

 現在、誠実と恵理はカフェに入って飲み物を飲みながら、プレゼントについて考えていた。

「決まらないわね……」


「すいません、なんかピンと来なくて……」


「良いよ、お姉さん今日は完全にオフだから」


「大学生って夏休みも暇なんですね」


「その言い方はどうかと思うぞ~、全く相変わらず失礼だな~」


「それは恵理さんにだけなんで、大丈夫です」


「どうしよう、お姉さん急に帰りたくなってきたかも」


「すいません、お姉さん手伝って下さい」


「よろしい、じゃあ次は服でも見てみる?」


 誠実達はそんな話しをしながら、飲みものを飲み、次に行く店を探す。





 私、古賀志保は、駅前のベンチに座ってそわそわしながら、男友達が来るのを待っていた。

「お、遅いわね……まぁ、まだ時間前だけど……」


 うっかりして、私は約束の三十分前に来てしまった。

 何をわくわくしているのだろう、相手はあの武田君よ?

 別にカッコイイわけでも無いじゃない!

 スケベだし、変態だし!


「あ、なんかちょっとイライラしてきた……」


 海での事を思い出し、私は少しイライラする。

 私の水着をいやらしい目で見て………。

 本当にあいつはなんなのよ!

 そんな事を考えていると、向こうの方から武田君がやってきた。


「よう、早いな」


「わ、私も今来たとこよ……」


「んで、今日は何を買うんだ?」


「え? あ、あぁ……えっと、まずは服買いに行くわよ!」


「へいへい、ならさっさと行こうぜ」


「言われなくてもそうするわよ!」


 私と武田君は、二人で並んでお店に向かう。


 

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