184話
*
私があの喫茶店に行った数日後、私は会社の飲み会に来ていた。
正直来たくなんて無かった。
しかし、上司に後日いろいろと言われるのが嫌で参加した。
案の定、私は早く帰りたくてしょうがなかった。
頼んでも居ないのに注がれるお酒。
女性社員も居ると言うのに、飛び交う下ネタ。
最悪な気分の中、私は静かに終わりの時間を待った。
そして、ようやく時間になり、私は帰ろうとしたのだが、運悪く上司に捕まってしまった。
「木崎ちゃん、二次会いくでしょ? 二次会!」
「え……いや、私は今日はちょっと……」
「良いじゃん、良いじゃん! 行こうよ!」
上司も相当酔っている様子で、私の肩を抱いてくる。
正直嫌で嫌で、鳥肌が立った。
私は上司のおじさんに肩を抱かれたまま、二次会に連行された。
早く帰りたい……。
もう、離れてよ! このスケベ親父!
なんて事を思いながら、私は喫茶店近くの商店街を通って二次会の会場に向かっていた。
「木崎ちゃんは、彼氏とか居ないの~?」
「い、居ないです……」
「ダメだね~、若い内から楽しんでおかないと損だよ~、あっはっはっは!」
「あ、あはは……」
「おじさんが立候補しちゃおうかな~? な~んてね!」
全く笑えないから勘弁してくれ!
私はそう言いたかったが、グッと堪えた。
やっぱりダメだ。
そう思い、私は上司に意を決して言う。
「す、すいません……やっぱり私、今日は帰ります……」
「え! 何? 俺の酒が飲めないって言うのか!」
「い、いや……そうではないんですが……」
「じゃあ、良いから! ささ! 行こう行こう!」
「い、いや……あの……」
強引に私を連れて行こうとする上司。
諦めるしかないのか……。
そう思った私の手を乗し以外の誰かが掴む。
「あの、この子帰りたいみたいですよ」
「んん? 誰だお前」
私は振り向き、手を掴んできた人物を見る。
そこには、あの喫茶店の店員さんが笑顔で立っていた。
「すみません、この方とこれから用がありまして。探していたんです」
「え? 何? アンタ木崎ちゃんのコレ?」
そう言って上司は小指を立てる。
そんな上司に、店員さんはさわやかな笑顔のまま上司に言う。
「それは彼女のプライベートの事ですから、貴方には関係ないはずですよ? 例えそれが、会社の上司であっても……じゃあ、行きましょう」
「え! あ、はい……」
店員さんはそう言って、私の手を引いてその場を後にする。
私は店員さんに手を引かれ、そのままあの喫茶店の前につれて行かれる。
「ここまで来れば、大丈夫ですかね?」
「あ、あの…ありがとうございました! あの人しつこくて……」
「いえいえ、出過ぎた事をしたのでは無いかと心配になりましたが、その言葉を聞いて安心しました。それじゃあ、私はこれで……」
「あ……」
そう言って店員さんは、喫茶店の先の通りに消えていった。
*
「それで……その……その時から……」
「店長の事が好きになってしまったと?」
「ハッキリ言わないでよ! 本人そこに居るんだから……」
話しを聞き、綺凜は木崎にストイレートに尋ねる。
木崎はそんな綺凜の口を急いで塞ぎ、注意をする。
聞かれて居ないかと、木崎が店長の方を見ると……。
「誠実君、コレ新作なんだけど、いけると思う?」
「コーヒーですか? ん……でもなんか変な匂いが……」
「なんと! コーヒーにココアパウダーを入れてみたんだよ! どうかな?」
「普通にココアとコーヒーが別で飲みたくなりました」
新作コーヒーの研究をしている様子で、気がついていなかった。
木崎は安心して息を吐き、綺凜の口から手をどける。
「で、その後私は会社を退社して、仕事を探して商店街に行ってたら、何回か店長に会ったのよ」
「それって、偶然を装って会いたかったからですか?」
「そ、そうよ……良いでしょ、別に……」
「お店に行けば良かったのでは?」
「それだと、お客さんとして扱われちゃうでしょ? 私は一人の女として扱われたかったのよ……」
「それで流れで、ここで働く事になって、今も店長の事を狙っていると……」
「ま、まぁ……大体そんなそんな感じ……文句ある!?」
「いえ、なんか納得しました。木崎って必要以上に店長に絡むな~って思ってたんですけど、そういう事だったんですね……」
「え?! そんなに不自然だった?」
「あ、大丈夫です、気がついてるのは私くらいだと思うので」
綺凜は不思議だった事が納得し、笑みを浮かべて木崎を見る。
「な、何?」
木崎は顔を赤くしながら、綺凜に尋ねる。
「告白しないんですか?」
「な、そ…そんなの……出来ない……」
「お似合いだと思いますよ?」
「だ、だって……店長は私の事なんて何も思ってないと思うし……」
木崎はいつもとは違い、顔を赤く染めモジモジしながらそう言う。
恋をしている人は、こんな顔をするものなのかと、綺凜は思った。
心なしか、店長の話をしている時の木崎は。いつも以上に可愛らしく見えた。
「うふふ、私応援しますよ、木崎さんの事」
「本当!」
「はい、私に出来る事ならですけど……」
そう綺凜が木崎に言った瞬間、店のカウンターで誠実が言った。
「そう言えば店長って、恋人とか居ないんですか?」
「あはは、恥ずかしい話しだけど、今そう言うひとは居なくてね。親からも見合いを進められて、今度の日曜日にお見合いなんだよ。ほら、臨時休業にしておいたろ?」
「そう言えばそうでしたね。俺はてっきり恋人でもいるのかと勝手に思ってましたよ」
「居ない居ない、僕ももう31だし、街コンとかにも行ってみようかなって」
「店長なら直ぐに彼女出来ますよ」
話しは綺凜達の方にも聞こえて来ていた。
木崎は綺凜の手をガッと握り、早速相談をする。
「綺凜ちゃん……どうしよう……」
焦る木崎を見て綺凜は思わず苦笑いをする。
協力するのは今から直ぐになりそうだと感じる、綺凜であった。
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