171話

「ん? これは貝殻で出来てるのか……」


 誠実が見つけたのは、貝殻でキーホルダーだった。

 貝殻に色とりどりのガラス細工の装飾が施されており、中々可愛い。


「先輩と恵理先輩はこれにしようかな……値段も丁度良いし…」


 誠実は二人へのお土産を決定し、貝殻のキーホルダーを二つ手に取る。


「えっと……家とバイト先には同じお菓子で良いし……後は……あ、美奈穂にも一応買っていくか」


 美奈穂にも、バイトの事などで世話になったので、誠実は美奈穂にも何か買っていこうと再び土産物屋を探し始める。


「何が良いかなぁ……」


 栞と恵理と同じキーホルダーも考えたが、一応身内だし別な物を上げることにした誠実。

 何か良い物は無いかと、店内を物色する。


「う~ん……これか?」


 誠実が手に取ったのは、貝殻で作られた華の装飾が付いた髪留めだった。

 値段はキーホルダーよりも少し高いが、これ以外に良い物がおもいつかず、誠実は美奈穂のお土産を髪留めに決定する。


「これで全部だな」


 誠実は改めて買った物を確認し、買い忘れが無いかを確認する。


「よし、これでオッケーだな、あの二人はもう買い終わったかな?」


 誠実は会計を済ませ、美沙と沙耶香の方に向かう。

 二人はまだ何を買うかで悩んでいるらしく、先ほどの場所から動いていなかった。


「沙耶香、決まったか?」


「う~ん……やっぱり藁人形は多い方が……」


「………」


 なんとなくそっとしておいた方が良いと思い、誠実は沙耶香の元を離れる。

 美沙の方に行くと、美沙は買い物を終えた様子で袋を片手に先ほどと同じように、竜の巻かれた剣を見ていた。


「美沙は終わったのか?」


「うん……でも、これを機にもう一個買っていくべきかな?」


「好きにしろよ……」


 結局その後誠実は、二人を二十分も待つことになってしまった。

 ようやく二人も買い物を終えたところで、誠実達は旅館に戻り始めた。

 荷物を持って帰ろうとする道すがら、誠実はこの旅行で言おうと決めていた事を言おうと決意した。

 あとは旅館に荷物を取りに行き、買えるだけ。

 当事者が揃っている今がチャンスだった。


「あのさ……ちょっと良いか?」


「ん? どったの?」


「誠実君、どうかした?」


 旅館に戻る途中の海沿いの道で、誠実は立ち止まり二人の方を見る。

 困ったような、複雑そうな顔を向ける誠実を見て、美沙と沙耶香はなんとなく何か大事な事を言われる事を察した。


「あのさ……本当はこんなところで、こんな事を言うべきじゃないのかもしれないけど……」


 誠実が言おうと決めていた事、二人に言わなければと思っていた事。

 誠実がずっと考えていた、二人の気持ちに対する答えを誠実は口にする。


「あのさ、もう俺の事は諦めてほしいんだ」


「え……」


「………」


 申し訳なさそうな表情を浮かべる誠実。

 沙耶香は驚きで声を漏らし、美沙は来てしまったと言うような表情で、誠実から視線を反らす。


「俺は多分、まだ前の恋を完全に諦めきれてない……だから、二人の想いに答える事が出来ない。いつまでも答えを保留にするのもいけないと思って、今日言おうと思ってた……ごめん」


 誠実はそう言って、二人に頭を下げる。

 二人がどんな顔してるか、誠実はなんとなく予想が出来た、だから顔を上げるのが恐かった。

 行ってしまった、そうも思った。

 しかし、言わなければいけない、そうも思った。


「……」


「……」


 二人は何も言わなかった。

 誠実は、無言の二人が気になり、恐る恐る顔を上げる。 

 美沙も沙耶香も、泣いてはいなかった。

 しかし、表情は悲しげで、正直見ているのが辛くなってしまった。


「そ、そっか……フラれちゃったんだ……私」


 最初に口を開いたのは沙耶香だった。

 無理に笑顔を作っている事が良くわかった。

 誠実はそんな沙耶香に何も言うことが出来なかった。

 

「ま、そんな事だと思ったけど……結構きっついなぁ……」


 美沙も無理矢理に笑顔を作っていた。

 誠実はそんな二人に心を痛める。

 誠実もフラれる事のつらさを知っている。

 だからこそ、二人の悲しさを知っている。


「……ごめん」


「あ、謝らなくて良いよ! し、仕方ない……し……」


「そ、そうだよ! ……本当は……なんとなく気がついてたから……」


 誠実が綺凜にフラれた後も、二人は綺凜に無意識のうちに視線を送る誠実を見ていた。


「……戻るか」


 沈黙が続いた後、誠実の言葉で、三人は旅館に戻る。

 旅館には既に戻っていた残りのメンバーが居た。

 気を使って、美沙も沙耶香もいつも通りに振る舞っていた。

 そして、全員で旅館を後にし後は帰るだけになった時、バス停で誠実は言う。


「俺はここで別れるわ、ちょっと野暮用があって、行かなきゃ行けないとこがあるんだ」


「え、こんなところに?」


 尋ねたのは志保だった。

 誠実は不思議そうな表情を浮かべる志保に、誠実は笑顔でそう言い、皆に別れを告げ、その場を離れた。


「………はぁ……」


 当然、誠実には何の用事も無い。

 ただ、二人と一緒に居るべきでは無いと思ったから、誠実は皆から離れたのだ。

 

「もう一泊していくかな……」


 前から二人にこの旅行で話す事を決めていたので、誠実は少し金を余分に持ってきていた。 一人でゆっくり考えたいと思った事もあり、誠実はもう一泊分の宿代と、近くのビジネスホテルを事前に探していた。


「さて……行くか」


 ベンチに座りながら、海を眺めた後、誠実は荷物を持って立ち上がる。

 その瞬間、誠実のスマホが音を立てて鳴り始めた。


「着信? 相手は……山瀬さん?」


 綺凜からの突然の電話に戸惑う誠実。

 不自然に皆から離れたから、何か感づいたのだろうか?

 などと思いながら、誠実は電話に出る。


「も、もしもし?」


『あ、伊敷君? 山瀬だけど…』


「あぁ、どうかした?」


『今どこに居ますか?』


「えっと……さっきのバス停から少し歩いたところだけど……どうかしたの?」


『あ、実は旅館に忘れ物をしてしまって、それで私もバスに乗らなかったんです。なので近くに居たら、一緒に帰らないかと思って……』


「あ、そ…そうなんだ……でも、俺は用事が……」


「あ! 伊敷く~ん!」


「あ……」


 用事があると行って、合流を避けようと思った誠実だったが、その瞬間に後ろからやってくる綺凜に見つかってしまった。

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