170話

「なんか、老舗って感じの店だな……」


 店内は、畳みに座布団、木のタンスに古いラジオなども置かれ、なんだか昔の家のようだった。

 誠実達は、四人テーブルに座り商品が来るのを待つ。

 誠実達以外のお客さんも多く、何故かその中で男性客は複雑そうな表情でそばをすすっていた。


「なんか、女性客多くないか?」


「そう? 普通だと思うけど」


「誠実君、最近良く女の子見てるね、なんで?」


「恐い恐い、沙耶香さん、顔が恐いっす! いや、変な意味じゃなくて、なんかそんな感じがしたから言っただけで……」


 そんな話しをしていると、店員のおじいさんが商品を運んできた。


「はいよ! 板そばお待ち!!」


「あ、ほら来たわよ」


「わぁ、美味しそう!」


「……」


 運ばれて来たそばは確かに美味しそうだった。

 しかし、誠実は一つだけ大きな疑問を感じ、おじいさんに尋ねる。


「すいません、なんか俺のだけ少ないんですけど……」


 誠実に運ばれて来たそばは、他の二人と比べて明らかに少なかった。

 美沙や沙耶香のそばよりも、誠実のそばは半分以下しかなく、付け合わせの漬け物も美沙達の分はあるのに、誠実の分は無かった。


「気のせいじゃないですかね? それじゃ、これで……」


「いやいや、同じ物ですよね? おかしく無いっすか?!」


「男ならぐちぐち言わず、早く食って一人で帰れ! 全く最近の若い男は…」


「えぇ……俺が悪いの……」


「大体店の看板を見なかったのか、ほれ!」


 そう言って、おじいさんは壁に貼ってある張り紙を指差す。

 誠実は言われた通り、その張り紙を見ると、そこには驚くべき事が書かれていた。


「えっと……『当店は、女性客に対する接客は他店以上ですが、男性への接客は他店以下です』って……アホか! 接客云々の問題じゃ無いだろ!!」


「文句があるなら、食わずに帰れ若造が! わしは本当は女性だけが入れる店にしたかったのに……ばあさんが邪魔するから……」


「こ、このエロジジイ~……」


 だから女性客が多かったのかと、納得する誠実。

 店の中に居る、誠実を含めた少数の男性客が複雑そうな表情をしていたのは、そういう事かと納得し、誠実は仕方なくそばをすする。


「……美味いのが逆に腹立つ」


 味の方は予想以上に美味しく、文句の付けようが無いところが逆に腹立たしかった。

 不満を抱えつつも、食事を済ませ誠実達は店を後にする。


「あ、レビューに書いてあるね、女性には最適の店って」


「男には最悪の店だったよ……」


「まぁまぁ、美味しかったし良いじゃん」


 昼食を済ませた誠実達は、再びガイドブックを見ながら、何処に行くかを考え始める。


「そう言えば、お土産まだ買ってないね」


「あぁ、確かに! 土産物屋さん行こうか!」


「そうだな、俺も一応買っていかないと」


「ちなみに誰に?」


「ん? まぁ、家族とバイト先……後は先輩と恵理さんかな……って、沙耶香なんでそんな恐い顔!?」


「別に怒ってないよ? 早く行こっか」


「じゃあ、なんで背後に鬼神が見えるんだ……」


「アハハ、沙耶香は人一倍嫉妬深いからね~」


「そんな事無いよ? さ、美沙も行きましょ?」


 そう言った沙耶香の笑顔に、美沙と誠実は恐怖を感じた。

 土産物屋に来た三人は、それぞれ家族や友人への土産を選び始める。

 家族へのお土産は、適当にお菓子でも買っていけば良いだろうと、誠実は適当に美味しそうなお菓子を選ぶ。


「う~ん……バイト先には、山瀬さんと被らないようにしないとな……」


 誠実はそう思い、綺凜にメッセージを送る。


『バイト先へのお土産買いましたか?』


 すると、直ぐに返事が来た。


『まだです、伊敷君は何を買いますか?』


「無難にお菓子だろうな……みんなで休憩中に食えるし」


 誠実は、綺凜に返信し返事を待った。

 そして、またしても直ぐに返事が帰ってきた。


『じゃあ、私は灯台の近くのお店で買って行きます。店が別なら被ることも無いと思うので』


『了解です』


 誠実は返信をし終え、再びお土産を選び始める。


「何か良い物は……さ、沙耶香……」


「え? どうかした?」


「そ、その手に持ってる物は?」


「え? 包丁だけど?」


 誠実がお土産を物色していると、沙耶香が真剣な表情で包丁を見ている様子が目に入って来た。

 誠実は、なぜだか知らないが、身の危険を感じてしまった。


「さ、刺すなよ?」


「え、誰を?」


 思わずそんなそんな事を聞いていしまった誠実。

 沙耶香は困った感じで、誠実に聞き返す。

 そんな沙耶香の言葉に、誠実は自分の言った事のおかしさに気がつき、話しを変える。


「い、いや~それにしても包丁なんて売ってるんだな」


「うん、なんか包丁を作ってる職人さんがこの町に居るみたいだよ」


「そうなのか、やっぱり料理部の部長としては、道具もこだわってたりするのか?」


「まぁね、でも高くて買えないから、ちょっと見てたんだよ」


「なるほどな、確かに万なんて単位は、高校生にはなかなか出せないしな……」


 誠実も包丁の値段を見て納得する。

 

「沙耶香はお土産決まったか?」


「うん、家族にはこのお菓子で……おねえちゃんには、これ」


「……なんでわら人形?」


「なんか、買ってきててお願いされてね。お姉ちゃん、最近フラれちゃったらしいから」


「呪うのか……」


 そんな話しを聞くと、なんだか自分まで恐くなって来てしまう。

 

「てか、藁人形なんて売ってるのかよ……」


 そんな事を思いながら、藁人形が大量に積まれた棚を見る誠実。

 すると、少し離れたところで、いつにく真剣な表情の美沙が視界に入った。


「美沙は何を悩んでるんだ?」


「ん? あぁ、これどっちが良いかと思って」


「……それ何処の観光地によく売ってる、キーホルダーじゃん……」


 何を真剣に選んでいるかと思ったら、美沙は観光地のお土産物屋さんによく売っている、竜が巻き付いた剣のキーホルダーを選んでいた。


「昔、お土産で親戚のお兄ちゃんから貰ってから、地味に集めてるんだ~、そのうちコンプリートしちゃうかも!」


「いらねーだろ……」


 誠実が呆れた様子でそう言い、美沙の元を離れ、お土産を再び選び始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る