167話



「ただいま~」


「おぉ、おかえり」


「やっと帰ったか」


「なんだ、健も起きてたのか」


 誠実はコンビニから、旅館の部屋に戻ってきた。

 手にはコンビニで購入した、お菓子や飲み物がたくさん入っており、誠実は机の上に買ってきた物を出していく。

 寝ていた健も、いつの間にか目をさましたようで、スマホを弄って外を眺めていた。


「ほらよ、コーラとその他炭酸飲料」


「サンキュー、ほら金」


「おう」


 誠実は武司から金を受け取り、財布にしまう。


「俺も渡しとこう、どうせごちそうになるしな」


「じゃあ、三人で割り勘で…」


 健からも金を貰い、誠実は財布に金をしまい、三人でテーブルを囲んで、飲み食いを始めた。


「なぁ、前から聞きたかったんだけどよ」


「なんだ?」


 誠実はスナック菓子を食べながら、健に向かって尋ねる。


「健と島崎って、一体どう言う関係なんだ? なんか、テスト勉強の辺りから、妙にお前懐かれてるよな?」


「………聞かないでくれ」


 誠実の質問に、健は顔を真っ青にし頭を押さえながら、誠実にそう言う。


「でも、見たんだろ? 裸」


「それを言わないでくれ……俺は見たかった訳じゃない……」


 健は溜息を吐きながら、武司に言う。

 女性の肌を見て、男としてこの反応はどうなのだろう、なんてことを思った誠実だった。


「そう言う、武司も何を古賀と何をしてたんだ?」


「え? お前見てのか?」


「なんだ、その話? 俺にも詳しく教えろよ」


 健は話題をすり替えようと、武司の話題を切り出す。

 話しを振られた武司は、コーラを飲みながら、つまらなそうな顔で答える。


「別にただ偶然会ったから話してただけだ、なにも面白い事は無いぞ?」


「本当か? お前と古賀は最近やたらと仲がいい気がするが?」


「健、お前のその目は節穴か? 仲なんて良くねーよ……ま、少しは仲良くなったかも知れねーけど……」


「ほう……狙ってるのか?」


「はぁ?! んな訳ねーだろ。変な事を言うなよ……そういう話しは、誠実にしろよ」


 武司は、これ以上話しをしたくないのか、誠実の方に話しを振った。

 

「なんで、俺に話しをを振るんだよ?!」


「俺らの話しより、そっちの方が面白いだろ?」


「話題にされる方の身にもなってくれよ」


「その言葉、お前にそのまま返すよ。で、どうなんだ? 実際はどっちを選ぶんだ?」


 武司は笑いながら、誠実に尋ねる。

 誠実はそんな武司の言葉に、胸が痛くなった。

 そして同時に、先ほど綺凜との会話を思い出した。


「………さぁな」


「おいおい、さっさ決めてやらねーと、あの二人が可愛そうだぜ?」


 誠実は短くそう答えた。

 本当は答えなんて決まっていた。

 二人への返事も決まっていた。

 でも、今はそのことをこの二人に話すべきでは無いと誠実は思っていた。


「武司、こういうことは本人達の問題だ、俺たちが口を出す事じゃない」


 健は誠実の表情を見て、武司に言う。


「ま、それもそうか……んで、島崎の裸はどうだった?」


「おい、俺の話を聞いてなかったのか、健?」


「いや~、そうは言われても、気になるじゃんよ~」


 武司はニヤニヤした表情で、健に尋ねる。

 下心丸出しの表情に、健は後ずさり、武司は健に詰め寄る。


「武司、よく考えろ、あの島崎だぞ?」


「確かにあの島崎だしな……あの体型だし……」


 誠実も健の意見に同意する。

 鈴はよく言えばスレンダー、悪く言えば貧乳。

 そんな凹凸の少ない体つき故に、あまりエロさを感じない。

 一部の特殊な趣味をお持ちの方には、大変に人気だろうが、一般的にはあまり魅力のある体つきとは言えない。


「まぁ、そうだが、女子の裸に代わりはないだろ?」


「そうだけどよ、どうせならもっと凹凸のある体を見たくないか?」


「貧乳でもアイドルなら良し」


「健は相変わらずだな……」


 話しの流れで、女性の体の好みの話しを始める三人。

 結局議論は白熱し、夜通しそんな馬鹿みたいなくだらない話しを続けた。


「だから! アイドルだって、元をたどれば女の子なんだぞ!!」


「武司! 女には裏と表が必ず存在する、アイドルもそれは同じだ……しかし! アイドルはステージの上では最高の女の子! 最高に可愛い女の子だ! 俺はそんな彼女達を応援できればそれで良い!」


「アホか、応援だけで満足なんて馬鹿だ! 女とエロい事したいと思わないなんて……お前金玉付いてんのか!!」


「聞きずてならんな、女と付き合う、イコール繁殖行為という考えは、動物のそれと変わらん……愛では無い!」


「愛の果てにそう言う行為があるんだろ?! お前の愛なんて、所詮画面に向かって叫ぶだけの偽物だ!」


「ほう……言うようになったな武司……なら、俺がこれからアイドルの奥の深さを教えてやる」


「良いだろう……今日こそお前の目を覚まさせてやる!」


「「なぁ、誠実!」」


「眠いから寝て良い?」


「「おい!」」


 白熱する二人を他所に、誠実は目をこすりながら二人に言う。

 時刻は既に0時を過ぎており、誠実は海でのつかれもあってつかれていた。

 しかし、誠実は眠らせてもらうことが出来ず、二人の議論に巻き込まれた。


「なぁ……もうどうでもよくね?」


「「良いわけあるか!!」」


「誠実、お前もわかるだろ?! 付き合ったら、いろいろしたいだろ?」


「騙されるな誠実、見ているだけで、そこにいるだけで十分……それこそが本物の愛だ!」


「いや、お前ら二人、何を言ってんだよ……」


 深夜のテンションなのか、二人はいつも以上にテンションがおかしかった。

 誠実はそんな二人のテンションについて行けず、重たいまぶたを必死で開けて、耐えていた。

 しかし、二人の議論は更にヒートアップする。


「だぁぁぁかぁらぁ!! 人がエロく無かったら、種族の繁栄ができねーだろ!!」


「それは動物的な考えだ! 愛という定義に基づいて考えるならば……」


 時刻は深夜の2時過ぎ、誠実は意識を保っているのがやっとだった。

 他の二人はと言うと、昼間以上の元気の良さで議論を続けていた。


「なぁ……もう……寝ないか?」


「「まだだ!」」


「じゃあ……俺だけで……も……寝か……せて」


「「ダメだ!!」」


「俺は……関係なくね?」

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