161話
*
健が間違えて、お見合い風呂に入っている頃。
誠実と武司は大浴場に来ていた。
あまり人はおらず、入浴していたのは、誠実と武司以外では二人。
誠実と武司は、浴槽に浸かって今日の疲れを癒やしていた。
「はぁ~……良い湯だな~」
「健居ないけど……何処行ったんだろうな~」
あの後、一応お見合い風呂に行ってみた二人だったが、先客が居る様子で中には入れなかった。
仕方なく、この大浴場に来たのだが、こっちはこっちで大満足だった。
「景色も良いし、最高だな…」
「あぁ…広い風呂なんて久しぶりだわ~」
誠実と武司は、湯に浸かりながら、満足そうに声を上げる。
「んで、実際のところどうするんだ?」
「何がだ?」
「だから、笹原と前橋の事だよ」
「あぁ……」
突然の武司の問いに、誠実は短く答える。
誠実の顔は険しくなり、誠実は遠くを見つめながら、武司に言う。
「武司……恋愛って難しいよな……」
「なんだよ急に、早くものぼせちまったか?」
「ちげーよ……おまえには終わってから話すよ…」
「は?」
「そろそろ上がろうぜ、本当にのぼせちまいそうだ…」
「あ! おい待てよ!」
武司と誠実は風呂から上がり、脱衣所に向かった。
脱衣所で誠実は、武司の言葉を思い出す。
本当は、どうするかなんて決まっていた。
答えはもう出ていた。
しかし、これは先に武司に言うべきでは無いと、誠実は思い、武司に何も言わなかった。
誠実と武司は風呂から上がり、着替えを済ませて売店の方に向かった。
「やっぱり、風呂上がりは牛乳だよなぁ~」
「俺はコーヒー牛乳だな、買ってから部屋に戻るか」
武司と誠実は、売店により牛乳を購入する。
すると、恐らく風呂上がりなのであろう、女子のメンバーが売店に姿を表した。
「あ、誠実君達もお風呂上がり?」
「沙耶香達もか? 俺らは風呂上がりの牛乳を買ってたところだ」
全員浴衣に着替えており、さらにはシャンプーやボディーソープの良い香りが離れていてもわずかに香って来た。
「あれ? 島崎は?」
「あぁ、鈴ちゃんはちょっと別なお風呂に入ってて……そっちも古沢君は?」
「実は俺らも何処に行ったのかわからないんだよ、あいつ何やってんだか……」
誠実達は、それぞれ飲み物を購入後、売店横の椅子に座り、飲み物を飲み始める。
「晩ご飯までまだ時間あるし、部屋でゲームでもする? あたし、色々持ってきたよ」
お茶を飲みながら提案したのは志保だった。
食事は十九時からで、現在は十七時半、食事まではまだ一時間以上もあった。
「お、良いな、どうせ退屈だし」
「料理も大部屋の女子の部屋に運んで貰うようにしてたしな、丁度良いんじゃ無いか?」
「じゃあ、決定ってことで! 鈴と古沢君はそのうちくるでしょ?」
一同は全員一致で、志保の意見に賛成した。
誠実達は一旦着替えを部屋に置いてから、女子達の大部屋に向かう事にし、一旦部屋に戻っていった。
「あれ? 健、何してんだ?」
「おいおい、お前何処行ってたんだよ?」
部屋に戻ると、浴衣姿の健が疲れた表情で椅子に座って景色を見ていた。
健はゆっくり誠実達の方を振り向くと、疲れた様子で言った。
「あぁ……ちょっとお見合いをな……」
「「は?」」
健の言葉に、誠実と武司は間の抜けた声を上げる。
「なんでも良いけど、飯の前にゲームでもしようって話しになってな、お前も来るだろ?」
「いや……俺はいい……ちょっと休ませてくれ」
「そうか? まぁ、疲れてるなら、無理にとは言わんが」
「あぁ……飯時になったら行くから、お前らは楽しんでこい」
「そ、そうか? なら、ゆっくり休めよ?」
誠実は健にそう言い残し、部屋のドアを閉めて、武司と共に女子の部屋に向かう。
「健、どうしたんだろうな?」
「さぁな、あいつの事だ、すぐに復活するだろうよ」
話しをしているうちに、誠実と武司は女子五人が泊まる部屋に着いた。
誠実達の部屋から、四部屋離れたその部屋は、誠実達の泊まっている部屋よりも1.5倍ほど大きかった。
「お邪魔しまーす。おぉ、広いな」
「いらっしゃい、あれ? 古沢君、まだ見つからないの?」
「いや、それが健は体調が優れないらしくてな……そっちは島崎は?」
「はーい! 呼んだ?」
「あ。戻って来たんだ、別な風呂って何処の風呂に入ってたんだ?」
「えへへ~、試しにお見合い風呂に……」
「なにぃぃ!!」
「武司、過剰に反応しすぎだ……」
激しく反応する武司に、誠実は呆れた様子で言う。
その様子を志保も見ていたらしく、武司に冷たい視線を送る。
「鈴ちゃん、変な人とかじゃなかった?」
「うふふ~、大丈夫だったよ? それに面白い人だった!」
「?」
沙耶香が鈴に尋ねると、鈴は満面の笑みでそう答えた。
そんな鈴に一体風呂で何が合ったのか、沙耶香は疑問に思い首をかしげる。
「とりあえず、何やる? トランプ、人狼、ウノ、色々あるわよ?」
「本当に色々持ってきたんだな……」
「ねぇ、人狼って何?」
広げられた数々のゲームグッズを見ながら、綺凜が尋ねる。
人狼ゲームとは、とある平和な村に、人の見た目をした狼が紛れ込むと言う設定の元で行われるゲームで、プレイヤーは色々な配役を与えられ、村に紛れ混んだ人狼を探すゲームだ。 志保は、綺凜に大方のルールを説明をし、やり方を教える。
「つまり、犯人捜しをするってこと?」
「そ、まぁルールは色々あるみたいだけど、今回は人狼が人間の人数を上回ったら人狼の勝ち。人狼すべてを見つけたら、人間の勝ちってことで」
「なるほど、わかったわ」
「懐かしいな~、中学時代に良くやったよな?」
「あぁ、クラスの男子全員でやったな、誠実は顔に出るからすぐにわかったぜ」
「お、俺だって成長してるんだよ!」
「じゃあ、早速全員でやろうか! 配役カード配るよ~」
こうして、人狼ゲームはスタートした。
そして、誠実達はまだ気がつかなかった。
数十分後、全員がこのゲームをやらなければ良かったと気がつく事に……。
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