155話

 冷めたい視線で健から言い返される武司だったが、武司はどや顔で健に対して口を開く。


「残念でした~、俺見たいなモテないやつは、女子と来ても相手にされないから、別にナンパしてても他の女子見てても、結局相手にされないから、別に失礼にはならないんです~」


「……武司、言ってて悲しくないか?」


「うるせぇ! 俺は海に、女の子を眺めに来たんだ! お前らは勝手にモテてろ!」


 高志はそう言うと、サングラスをしながら、砂浜に横になり、再び水着女子の観察を始めた。


「武司、なんか最近荒れてないか?」


「お前のせいだと思うが?」


「俺が何をしたよ?」


「自分の胸に聞け」


 健は呆れた様子で、誠実にそう言い、座って買ってきた飲み物を飲み出す。

 誠実も腰を下ろし、武司に何かしただろうかと考えるが、全く心当たりがなく頭を悩ませる。


「ぐへへ……あのお姉さん胸デカいなぁ……」


「視線をわからなくする為にグラサン持ってきたのか……」


「言っておくが誠実、お前も数分前まであれと同じレベルだったんだぞ?」


「冷静になって見ると、完全に変質者だな……で、でも…海だし、やっぱり水着女子には目を奪われちまうだろ?」


 青い海、白い砂浜、海で戯れる水着美少女。

 そんな状況で、目を奪われない人間はいないと思う誠実。

 しかいし健は、冷めた表情のまま飲み物を飲みながら、誠実に言う。


「いや、別に……そもそも皆が皆、美少女じゃないし」


「それは女の子に失礼だろ……」


「そもそも美少女でも、アイドルでなければ意味が無い」


「お前のそのアイドルに対する執着芯は変わらないのな……」


 誠実と健が話している間も、高志はビーチを眺めながら、口元をニヤニヤさせていた。

 二人はそんな友人を見ながら、声をそろえて言う。


「「あぁは、なりたくないな……」」


「おい、今なんか言ったか?」


「聞こえたのかよ……」


 男三人でそんな話しをしていると、着替えを終えた女子達が、誠実達三人の元にやってきた。


「お待たせ~」


「なかなか良い場所だね、自販機近いし、海の家も近いし」


 女子の登場に、武司と誠実は目を奪われたが、健はどこか遠いところを見ているような感じで、話しを聞いていた。


「誠実君、どう? 結構似合うでしょ~?」


「ん、あ…あぁ……そうだな……」


 誠実に声を掛けたのは、青いビキニにホットパンツを履いたような水着姿の美沙だった。

 丁度良いサイズの胸に、細い手足が水着に合っていた。

 誠実はなんとなく恥ずかしくなり、目を反らす。


「お~い、なんで目反らすの?」


「ま、まぁ……いつもと違う格好だから……その……目のやり場がな……」


「なるほど~、私の体に欲情しちゃったのか~」


「それは断じてないから、安心しろ」


「なんでよ!」


 確かに似合っているし、正直良い体つきだとは思った誠実だったが、性的な興奮を覚えた訳では無く、あくまでいつもと違う姿にドキッとしただけだった。


「せ、誠実君……」


「ん? あ、沙耶香どうした?」


 次に現れたのは、沙耶香だった。

 パーカーを羽織っており、どんな水着かはよくわからないが、ところどころにフリルが着いているデザインなのがわかった。

 沙耶香は顔を赤く染めながら、何やらもじもじした様子だった。


「え、えっとね……その……わ、私の水着見たい?」


「え? いや……その……見せたく無いなら、別に無理する必要は無いと思うけど」


「え……見たくないの……」


「誰もそんな事言ってませんが?!」


「え! じゃあ……見たいの?」


 不安そうな表情になったり、元気になったかと思ったら、恥ずかしそうにしたり、今日の沙耶香はなんだか表情豊かだなと誠実は思った。

 それはそうと、ここまで言われてしまうと、どんな水着なのか気になってきてしまう誠実。


「そこまで言われたら、少しは気になっちゃうよ」


「そ、そっか……じゃ、じゃあ…その……どうぞ」


 そう言って、沙耶香は着ていたパーカーを脱ぐ。

 その瞬間、誠実を含めた周囲の男性の視線が、一気に沙耶香の方を向いた。


「ど、どうかな?」


「あ、あぁ……に、似合っているぞ? ……それと、早くパーカー羽織った方が良いと思うぞ?」


「目を反らしながら言われても……」


 一瞬だけ見た誠実だったが、沙耶香すさまじい兵器をパーカーの下に隠し持っていた事を誠実は気づいてしまった。


「ねぇ、誠実君! ちゃんと見てよ」


「いや……そ、その……」


 ピンク色のフリルが着いた水着は沙耶香に似合っていた。

 しかも、ビキニのおかげで、いつも以上に胸が強調され、誠実は沙耶香を直視出来なかった。


「う~、沙耶香ずるいわよ! そんなエロい体で誠実君を誘惑しようなんて!」


「え、えろ……って……わ、私はエロい体じゃないわよ!」


「そんな立派な胸で言われても説得力ないわよ!」


 割り込んできた美沙のおかげで、誠実は沙耶香から解放される。

 色々と誠実の男の部分が反応してしまい、正直しばらく立ち上がれなくなってしまった誠実は、ビニールシートの上でスマホを弄って気を反らしていた。

 未だに言い争う二人を見ながら、誠実は改めて考えてしまう。


(やっぱ……どっちも可愛いよな……)


 沙耶香も美沙も、普通に可愛いし、性格も良い。

 なのに何故だろうか、告白されて嬉しかったはずなのに、不思議と二人に恋愛的な感情を抱けた事がなかった。


「なんでだろうな……」


 沙耶香とデートをしたときも、美沙と勉強したときも、誠実が感じた二人に対するドキドキは、初めて綺凜の笑顔を見た時のそれとは違っていた。

 そんな事を考えながら、ぼーっとビーチを見ていると、未だにビーチの女子を眺める武司が目に付いた。


「はぁ……眼福、眼福~」


「何やってんのよ」


「いってぇ! な、なにすんだよ、古賀!」


 水着姿の志保が、武司の頭を小突く。

 

「恥ずかしいからやめてよね」


「なんだと! 俺は美少女の水着を見るためだけに、ここに来たんだよ!」


「バッカじゃないの?」


「うるせー! どうせモテないんだから、こういう楽しみ方でも良いだろ!」


 言い争う、武司と志保。

 志保は、武司からサングラスを取り上げ、武司はそれを奪い返そうとしていた。

 そこで武司は突然、動きを止めて志保を見始めた。


「な、なによ……」


「……いや、以外と……似合ってるってか……エロいなと……」


「な、は?! な、なにを言ってるのよ!! この変態!!」


「ぐはっ! ま、またか……」


 武司は志保に腹部を殴られ、青い顔をして砂浜に倒れ込んだ。

  

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