154話

誠実達が電車に乗って、十数分が経過していた。

 鈴が持ってきたトランプで、誠実が座っているボックス席の四人はトランプを楽しみ。

 沙耶香と美沙が座っている方のボックス席でも、なにやらゲームをしていた。


「………」


「健く~ん、早く取ってよ~」


「黙れ、集中できん」


 誠実と綺凜は早々に上がり、残ったのは関係性が謎に包まれている、健と鈴だった。

 今は健がカードを鈴から引く番で、健は残り二枚となった鈴のカードを真剣に選んでいた。

「こっちだ」


「フフ~外れ~」


「クソ! さっさとダイヤのエースをよこせ……」


 どうやら健はババを引いてしまったらしい、健は後ろにカードを隠し、カードを混ぜ再び鈴の前に出す。

 そんな二人の姿を見ながら、誠実はスマホで駅に着いてからの道のりを確かめていた。


「誠実君、何してるの?」


「あぁ、あっち着いてから迷わないように、地図アプリで道のりを調べてたんだ」


 隣の綺凜が誠実に話し掛けてくる。

 夏休み前の関係からは考えられない光景だが、駿の一件やバイトで会話をする事が多くなり、今ではすっかり良いお友達になりつつあった。


「駅からどれくらいあるの?」


「バスで十分くらいかな? 道を調べるほどでもないんだけど、一応ね」


「そっか、それにしても終わらないわね……」


「ん……確かにな、健も目がガチだからな……」


 いつまで経っても向かいの二人のババ抜きが終わらず、誠実と綺凜は暇だった。


「こっちだ……っち」


「ウフフ~可愛いなぁ」


「うるさい黙れ」


 すっかり二人のガチンコバトルになっており、当分終わりそうも無い。

 誠実と綺凜は、溜息を吐き隣のボックス席の沙耶香達を覗く。

 隣は女子三人と言う事もあって、女子トークで盛り上がっている。

 そんな中で、一人だけの男子の武司は窓に寄りかかって寝ていた。


「誠実君って、友達多いよね」


「え? そんな事ないよ?」


 急に話題を振ってきたのは綺凜だった。


「山瀬さんの方が、多いでしょ?」


「そんな事無いよ……こうして友達と遠出なんてしたこと無いし…」


 寂しそうに話す綺凜を見て、誠実はこれ以上この話しはしない方が良いなと、話題を変えようと、話題を探す。


「そ、そう言えばこの前武司が……」


 誠実は綺凜を笑わせようと、自分から話題を振り話しを続ける。

 誠実の話しに綺凜は笑顔を浮かべる。

 そして、誠実は気がつく。

 その笑顔も、あのときの駿に見せていた笑顔には及ばない事を……。





「あ、そろそろ到着だね」


「そうね、そろそろ下りる準備しないと……鈴ちゃん起こしてもらえる? 古沢君」


 時間が経ち、あと二駅ほどで目的の駅に着くというところまできていた。

 結局、トランプは健が負け、罰ゲームで鈴に膝枕をしていた。

 健は今までに無いような屈辱そうな表情で、鈴の頭を膝の上に乗せている。 

 鈴は膝の上で寝息を立てて寝ている。


「くっ……屈辱だ……」


「う~ん……ムニャムニャ……」


「起きろ、このちんちくりん、さっさとどけ」


 健が鈴を起こしていると、志保も隣で寝ている武司を起こし始める。


「起きなさい、武田! もう着くわよ」


「ん……う~ん……」


「え……!?」


 武司は肩を揺さぶられ、寝ぼけて志保の方に寄りかかる。


「な…な…何してんのよ! この変態!!」


「ぐぇ! な、なんだ……急に頬に激しい痛みが!」


 志保は寄りかかって来た武司を、顔を赤く染めながら殴る。

 殴られた武司は、窓の方に押し戻され目を覚ます。

 頬を押さえながら、何が起こったのかわからず戸惑っていた。

 丁度そんな時、目的の駅に到着した。


「あ、着いたな、じゃあ行くか」


「いい加減起きろ! このちんちくりん!」


「う~ん……おんぶ~」


「ガキか!」


 結局鈴は起きる事が無く、健が鈴を背中におぶって行くことになった。

 




 駅を下りてから十数分。


「着いたな……」


「あぁ……太陽がまぶしいぜ~」


「……帰りたい」


 誠実達は目的の海に到着した。

 男性陣は着替えを済ませ、荷物を預けて一足早く砂浜にやってきていた。


「おい誠実、健がいきなりクライマックスだぞ?」


「無理もない、島崎をずっとおぶって来たからな……」


「クソ……なんで俺が……」


 健は不満そうにそうつぶやきながら、海の家で借りたパラソルを地面に立てる。

 武司はビニールシートを敷く。


「しかし……絶景だな」


「誠実、それは海か? それとも……」


 武司と誠実は、砂浜で水と戯れる女性を見ながら同時に叫ぶ。


「「絶景だな!!」」


「アホ」


 そんな二人を見ながら、健は呟き、飲み物を買いに行ってしまった。

 誠実と武司は、目をキラキラさせながら砂浜を見ていた。

 

「おい! 見ろ誠実! あのスタイルの良いお姉さん!!」


「おぉ! すげーな! モデルみたいだ!!」


 興奮しながら、誠実と武司が砂浜を見ていると、武司が健が居なくなっている事に気がつく。


「あれ? 誠実、健は?」


「ん、あれ? 居ないな……一体どこに………って! 武司あれを見ろ!」


「あ、あれは!!」


 誠実達が健を探して周辺を見ていると、少し先の自販機の前で、見知らぬ女性二人に声をかけらていた。

 いわゆる逆ナンと言うやつだ。

 武司と誠実は、そんな健を見て急にテンションが下がる。


「神様って残酷だ……」


「なんであんなドルオタが…」


「って、ちょっとまて誠実! お前だって健と同じようなもんだろ! なにしょげてんだよ!」


「は? お前何言ってんだよ、俺は逆ナンなんてされた事……」


「最近、二回も告白されたモテ男が、俺と同じだと思ったら大間違いだボケ! 俺みたいな真のモテない男だけが、あぁ言うイケメンクソ野郎を恨む権利を持ってんだよ!!」


「お前……それ自分で言ってて悲しくない?」


 誠実と武司が騒いでいると、健が飲み物を買って帰ってきた。

 

「マジで帰りたくなってきた……」


 戻って来た健に武司は凄い勢いで迫って行く。


「おいコラ、このクソイケメン!」


「いきなり失礼だな……どうした?」


「女子と一緒に来てんだぞ! 逆ナンなんてされてんじゃねー!」


 武司の言葉を聞きながら、誠実は自分たちがさっきまでやっていた行為を思い出し、胸が痛くなった。

 

「武司、その言葉お前にのしつけて返すよ」

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