149話

 美奈穂の言葉に、美沙と沙耶香はいつもの調子を取り戻す。

 これで、ようやく丸く収まった。

 そう思った美奈穂だったが、問題はここからだった。


「じゃあ、早速!」


「うん、そうだね!」


「沙耶香? 美沙? どうかしたの?」


 何かをしようと意気込む二人に、志保は不思議そうに尋ねる。

 すると、二人は生き生きとした瞳で志保に言い放つ。


「「誠実君の尋問!」」


「あぁ……ほどほどにね……」


 やめるように言おうとした志保だったが、自分達も誠実のせいで気を使って大変だったので、少し面倒ごとが誠実に行くくらいは丁度良いかもしれないと、半ば適当に答える。






 誠実と恵理は、ショッピングモールを出て帰宅している途中だった。

 辺りは夕焼けで赤く染まり、誠実と恵理は今日の事を話しながら歩いていた。


「恵理さん、なんで告白断ったんですか?」


「んー、好みじゃないし……いかにも自分大好き、見たいな感じが嫌だったからかな?」


「良い出会いでは無かったと?」


「そうだね~、私って理想が高いのかな~」


 あんなイケメンでもダメなら、一体どんな男となら付き合うのだろう? そんな事を考える誠実だった。

 やっぱり、こういう顔が良い人は選び放題なのかなと考えていると、恵理が誠実に言う。


「私さ、最近おもうんだよね」


「何がですか?」」


「誠実君みたいな感じで、話しが出来る人が好きなのかなって」


「なんすか、その告白みたいな言い方、勘違いするのでやめてください」


「なんだなんだぁ~? お姉さんじゃ不満だってのかい?」


「えぇ、不満です。俺じゃ、とても貴方とは釣り合わないですから」


「そうかなぁ~? 釣り合う釣り合わないって関係ある?」


 そう言われた誠実は、恵理の方を向き、ため息を混じりに言う。


「そりゃあそうですよ、恵理さん見たいに綺麗でスタイルの良い人は、俺みたいなのといるより、イケメンの隣にいたほうが、よっぽど絵になります」


 そう言われた恵理は、なぜだかカチンと来てしまい、誠実に言い返す。


「そんなの関係無いでしょ? それに、誠実君は告白した時、そんな事考えてたの? この人だったらつり合う、この人だったらダメだ、見たいに」


「そ、それは……」


 そう言われると、そんな事考えても居なかった誠実。

 ただ綺凜が好きだったから、告白した。

 それだけで特にそんな事は考え無かったのに、なんで自分は彼女にそんな話しをしてしまったのだろと、誠実は不思議に思えてしまった。


「そんな事……考えて無かったですね……その人が好きって気持ちでいっぱいでした……」


「でしょ? だから、誠実君と私が付き合っても何の問題も無いし、おかしいところなんてないの!」


「そ、そうですね……すいません、俺が間違ってました。釣り合うとか関係無いですよね!」


「そうだよ誠実君! だからお姉さんと付き合ってみよう!」


「お断りします!」


「なんで!?」


 恵理の言葉に、すかさず反応し頭を下げる誠実。

 そんな誠実に恵理はツッコミを入れる。

 確かに恵理も本気では無かったが、少しは面白い反応をしてくれても良いと思ったからだ。

「だって、どうせ家事とかさせるのが目的でしょ? そんな愛の無い恋愛を俺はしたくありません」


「えぇ~、お姉さんとエッチな事も出来るかもしれないのに?」


「あぁ……それにはちょっと興味が……って何を言わせるんですか!」


「アハハ! 冗談冗談、誠実君顔真っ赤だぞ~? 想像しちゃったのか~? うりうり」


「や、やめてください、突っつかないでください!」


 誠実をからかいながら、恵理は誠実の脇腹を人差し指で突っつく。

 誠実はそんな恵理から逃げながら、恵理にやめるように言う。

 そんな事をして歩いていると、恵理のアパートに到着する。


「はい、ここが私の家。結構、誠実君の家から近いでしょ?」


「そうですね、バスを使って十分ちょっと位ですね。そう言えば、良く俺の家がわかりましたね」


「美奈穂ちゃんに聞いたんだ~。お、開いたよ、お茶でも飲んでいかない?」


「いえ、時間も遅いですし、自分はここら辺で……」


「つれないな~、一人暮らしの女子大生の部屋だぞ~、良いにおいとかするかもよぉ~」


「そんな言われても、帰ります。全く……」


 軽く恵理をあしらいながら、誠実と恵理は部屋の入り口で分かれようとする。

 すると、誠実は立ち止まり恵理に言う。


「恵理さん、貴方可愛いんですから、あんまり誤解されるような事、しない方が良いですよ」


「なんだ~、お姉さんを心配してくれるのか~、どんだけお姉さんの事好きなんだよ~」


 またしてもからかうように言う恵理。

 どうせまた、いつも通りの感じで返してくるのだろう。

 そう考えていた恵理だったが、誠実は真顔でこう言った。


「えぇ、好きですよ」


「ふぇっ!」


「人としてですけど」


「紛らわしいわ!」


 思わず恵理が誠実にツッコム。

 いきなり何を言い出すかと思った恵理は、顔を赤らめて誠実を見る。


「俺に姉がいたら、こんな感じなのかなって……時々そう思うんです。だから、心配にもなりますよ」


 一切からかっている様子も無く、誠実は恵理にそう言い放つ。

 言われた恵理は顔を真っ赤にし、誠実に背を向ける。


「……全く……全く……よ、余計なお世話だよ~だ! 心配されなくても大丈夫だもん」


「そうですか、じゃあ俺はこれで……あ、また遊びましょうね」


 誠実はそう言って帰って行った。

 恵理は誠実の後ろ姿を見ながら、顔を真っ赤にして見送る。

 姿が見え無くなったところで、恵理は家に入り、玄関前で座り込む。


「はぁ~……もう! 何ドキドキしてるのよ! 誠実君はそう言うんじゃ無いでしょ!」


 一人になった部屋の中で、恵理はそんな事を叫びながら膝を抱えてうずくまる。

 先ほどまで一緒に居た、誠実の顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。


「誠実君……年上って………好きかな?」


 思わずそんな事を呟いてしまい、恵理はハッと我に返る。


「何を言ってるの私! これじゃぁ……まるで……」


 その後の言葉はわかっていた。

 しかし、あえて口に出さなかった。

 口に出してしまえば、本当にそうなのだと確定してしまい、逃げられないと思ったから恵理はその先を口にしなかった。

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