148話



 悩むこと一時間。

 水着を選びに来た六人は水着を選び終え、会計を済ませて店を出た。


「これで水着は大丈夫ね」


「私、ビキニなんて初めて買ったんだけど……大丈夫かな?」


「それだけ立派な物ぶら下げて何を言ってんのよ」


 六人は店を出てショッピングモールの出口に向かっていた。

 時間も遅かったことから、六人は全員帰宅するために歩いていた。

 呑気に海の話しをしながら帰宅する一方で、六人のうちの四人は、ショッピングモール内をキョロキョロとしながら、歩いていた。 

 

「ねぇ、志保。どうしたの? さっきからキョロキョロして…」


「え? そ、そうかしら? 別にキョロキョロなんてしてないけど」


「鈴も挙動不審だし、一体どうしたの?」


「な、なな何を言っているのかな? 沙耶香ちゃん、私はいつも通りだよ?」


 友人二人の様子がおかしい事に気がついたのは、沙耶香だった。

 水着を選んでいる時から、なんだか様子が変だなと思っていた沙耶香は不信に思いながら、志保と鈴を見ていた。

 その後ろでは、美沙と綺凜、そして美奈穂がついて来ていたのだが、美沙も二人の行動に不信感を持っていた。


「確かに怪しいよね~、なんかキョロキョロしてるし。誰か探してるみたい」


「べ、別に誰も探してないわよ? ただ、お店の様子を見ていただけよ…」


 美沙の言葉に、志保は引きつった笑顔を浮かべて答える。

 そんな美沙の気をそらそうと、綺凜が話題を変える。


「そ、そう言えば、登校日っていつだったかしら?」


「急にどうしたのよ綺凜、八月の十九日でしょ?」


「あぁ、そうだったわね。ちょっとど忘れしちゃって……」


「綺凜がど忘れなんて珍しいね」


「それは、それとして何だけどね……なんで美沙は美奈穂ちゃんにこんなに警戒されてるの?」


 美奈穂は、綺凜の言葉通り、美沙を警戒していた。

 綺凜の陰に隠れ、美沙を一切近くに寄せまいとしていた。

 壁代わりとして使われていた綺凜は、美奈穂が美沙を警戒する理由がわからず気になっていた。


「気のせいじゃない?」


「いや、あからさまに美沙から距離を置いてるわよ……」


「もう、照れちゃって、可愛いなぁ!」


 そう言って美沙は、綺凜にしがみつく美奈穂に背後から抱きつく。

 美奈穂は逃げ遅れてしまい、美沙に抱きつかれる。


「だからやめてくださいって!」


「もう、そんなに照れないでよ~本当に可愛いなぁ~、肌なんてモッチモチだし~」


「頬をくっつけないで下さい!」


 美沙と美奈穂のそんな状況を見て、綺凜はなんとなく美奈穂が美沙から距離を置いていた事に納得する。

 綺凜は美奈穂から美沙を引きはがし、美沙に言い聞かせる。


「美沙、嫌がってるでしょ。やめなさい」


「え~、でも可愛いでしょ? 美奈穂ちゃん」


「可愛くても、人の嫌がる事をしないの!」


 綺凜が美沙を叱りつけている様子を見て、横で見ていた美奈穂は、親子みたいだなと思いながら二人を見ていた。

 

「何やってるの? いくわよー!」


 そうこうしているうちに、前を歩いていた三人と距離が開いてしまった、綺凜達三人。

 出入り口付近のエレベーター前で、待ってくれている沙耶香達の元に急ぎ、綺凜達は合流した。

 ようやく外に出られる。

 そんな事を考える約四名は、何事もなくて本当に良かったと思いながら、気を抜いてしまった。

 その瞬間、沙耶香が見慣れた人物を見つけてしまった。


「あ、あのさ……」


「どうしたの沙耶香? 何を見て……!!」


 沙耶香がどこかを見て驚いていたのを見た志保は、沙耶香の視線を追った。

 そして、その先にいた人物を見て、志保は驚いた。

 そこには、先ほど綺凜と鈴と一緒に居た時に、見かけた女性と一緒に手を繋いで歩く誠実の姿があった。


「や、やばいよね……これ……」


 鈴は気まずそうな表情で言う。

 しかし、場の空気は氷ついており、誰も鈴の言葉に反応しない。

 綺凜と美奈穂もそんな誠実を見て、やらかしてしまったと言う感じの表情で顔を手で覆う。


「確か誠実君って、お客さんが来て先に帰ったんだよね?」


「そ、そのはずだけど……手握ってたわよね……」


「誰かな…あの人、年上っぽいけど」


「あぁ……すいません、こうなったら全部お教えします……」


 不思議そうに誠実を見つめる美沙と、どこか絶望を感じたような表情で、誠実を見る沙耶香。 そんな二人を見て、こうなったらもう仕方が無いと、美奈穂は今日の出来事と一緒にいる女性の説明をする。


「……じゃ、じゃあ! あの人は誠実君が言ってた、海のバイトで仲良くなった、女子大生? しかもモデル?!」


「ほら! 私の言った通り、新しい女の陰が……」


「陰って言うか、実物だったよ!」


 話しを聞いた美沙と沙耶香は、興奮気味に騒いでいた。

 新しいライバルの出現かもしれない為、無理も無いだろうと思う一同だったが、やっぱりややこしい事になったと、全員ため息を吐く。


「美奈穂ちゃん! なんで教えてくれないの!?」


「教えたら、その場で修羅場になりそうだったので……それに、多分恵理さんは兄に恋愛感情は無いと思いますよ?」


 興奮する沙耶香は美奈穂に詰め寄る。

 そんな沙耶香に、美奈穂は落ち着いた様子で、話しをする。

 今までの恵理の誠実に対する言動などを見る限り、美奈穂の中では、恵理は誠実をただの気の合う友人程度にしか思っていないと思っていた。

 本当のところは本人に聞かなければわからないが、恋愛感情では無い気がしていた美奈穂。


「でも、どうせ時間の問題な気がするなぁ……」


「美沙、それはどういう?」


 頬を膨らませ、不満そうな顔で美沙は話し始める。


「だって、あんなにあの人楽しそうだったし、それに誠実君を頼って今日は来たんでしょ? 結構信頼してるんじゃない? 誠実君の事」


「だ、だよねぇ……綺麗な人だったし……なんか色気もあったような……」


 誠実と恵理の様子を見て、寂しそうな表情を浮かべる沙耶香と美沙。

 そんな沙耶香と美沙を見て、美奈穂はため息を吐き、二人に言う。


「そんなくらいで弱気になってたら、私になんて絶対勝てませんよ」


 言われて、二人はハッと顔を上げて美穂を見る。

 真っ直ぐな美奈穂を目を見て、美沙と沙耶香は目を覚ました。

 何を弱気になっていたんだと、もう既に片手が埋まりそうなほどのライバルが居ると言うのに、今更何を思っていたのだろうと。

 美沙と沙耶香は、気持ちを引き締め、美奈穂に言う。


「別に弱きになんてなってないよ!」


「美奈穂ちゃん、いいのぉ~? そんな事言われたらお姉さん本気出しちゃうよ?」

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