146話

「恵理さん行きましょう……この人達はダメです」


「へ? 誠実君の知り合いじゃないの?」


 不思議そうに尋ねる恵理に、誠実はきっぱりと言い放つ。


「知り合いたくないので、言ってるんです」


「一体この人達と何があったの……」


 誠実が恵理を連れて店を後にしようとした瞬間、店員姉妹は回り込んで誠実達を店内に戻す。


「まぁまぁ、もう既に知り合い見たいなものじゃ無いですか、ちょっと見ていってくださいよ~」


「ちなみにその猫耳は、夜の運動で使うんですか? そうなんですか?」


「あんたら姉妹揃って失礼だな……」


 その後、誠実と恵理は店員姉妹に半ば無理矢理店内を案内された。

 意外にも恵理はこういった店が好きらしく、楽しんでいたのだが、誠実は全く楽しむ事が出来なかった。

 そして、一通り見終わり、誠実は疲れた表情を浮かべていた。


「はぁ……」


「どうしたの誠実君? 疲れた?」


「はい、精神的に……」


 会計を済ませてやって来た恵理に、誠実は疲れた声で答える、

 恵理は店を見ているうちに、何個か気になった商品があったらしく、何個かの商品を購入した。

 誠実からしたら「そんな物いるのだろうか?」と言った物が多かった。


「そんなに買って、お財布の中身は大丈夫だったんですか?」


「うん、もう300円しか無い」


「アンタほんとに大学生?」


 衝動買いにしても、もっと後先を考えて買い物をした方が良いのでは無いだろうか?

 なんて事を思いながらも、誠実はそれ以上何も言わなかった。


「今回の彼女さんは、女子大生のお姉さんなんですか?」


「だから、彼女じゃ無いですって」


「酷いわ誠実君! 私の事は遊びだったの!?」


「恵理さんも乗っかんなくていいですから」


 舞との会話は毎回誠実にとって疲労の原因だった。

 美奈穂と買い物に行った時も、沙耶香と買い物に行った時も、大体舞のせいで面倒な事になったりしていた。


「えっと……最初にあった時が年下で、その次が同い年、今回は年上で、フルコンプって事ですね!」


「何がだよ……」


「ほうほう、私以外にも誠実君は女の子と二人で買い物に来たことがあるんだね……お姉さんちょっと悲しいなぁ~」


「一回目は美奈穂で、二回目はクラスの女子ですよ! 高校生なんだし、そういう事だってあります!」


「同じ屋根の下で寝たのにな~」


「同じホテルの別々の部屋でしょうが!」


「えぇ! ホテルですか! 最近の若い子は全く……」


「舞さん! 貴方が考えてる方のホテルじゃ無いですからね!」


 いつも以上にツッコミを入れているなと、誠実自身も思いながら、荒げた呼吸を整え、さっさとこの店を出ようと恵理の手を取る。


「もう行きましょう、十分買い物したはずです!」


「「またのご来店お待ちしてま~す」」


「来るか!」


 誠実はそう言って恵理の手を握って店を離れた。


(……意外と手……大きいんだ)


 誠実に手を握られ、恵理は思わず頬を赤らめる。

 異性と手を握ったのは一体いつ以来だろうと、思わず恵理は考える。

 少し歩いて、ショッピングモールの出入り口付近のベンチに座る誠実と恵理。

 座る際に誠実が手を離し、恵理はどこか寂しさを感じる。


「はぁ……災難だったなぁ……」


「そうかな? 面白い人達だったじゃない?」


「俺は苦手なんですよ」


 時間も結構遅くなってしまい、誠実は恵理にそろそろ帰る事を提案する。


「そろそろ行きましょう、もう遅いですし、送って行きます」


「もぉ~誠実君は~、そんなにお姉さんのアパートの場所を知りたいのかなぁ~?」


「あぁ、そういうの良いんで……置いて行きますよ!」


「あぁ! 待ってよぉ~!」


 誠実と恵理はそのままショッピングモールを後にする。

 この時間では、美奈穂は先に帰っているだろうと考え、誠実は特に美奈穂に連絡を取らずに帰ってしまった。

 そして、誠実は気がついていなかった。

 この広いショッピングモールの中で、誠実と恵理を見つめる人影を__。





 時間はすこし戻って、誠実と恵理が雑貨屋に入った後、沙耶香、美沙、そして美奈穂の三人は水着を選んでいた。


「う~ん……どれが良いかな……」


「誠実君は……ビキニとか好きかな?」


 美沙と沙耶香は水着を見ながら唸り声を上げていた。

 美奈穂はそんな二人を見ながら、誠実と恵理がちゃんと帰ったかを心配していた。

 

(あの二人……ちゃんと帰ったんでしょうね……てか、なんであたしが焦ってんのよ! 全部おにぃのせいなのにぃ~)


 美奈穂別な意味で唸り声を上げながら悩んでいた。

 

「美奈穂ちゃん、これどうかな?」


「え? あぁ……沙耶香さんはやっぱりビキニの方が良いと思いますよ? スタイルも良いですし……胸も……」


 沙耶香が美奈穂に見せたのは、クロシェ系の水着だった。

 胸部分がニット編みのようになっていて、胸を隠しているデザインだった。

 悪くない。美奈穂は最初にそう思ったが、折角胸が大きいのだから、普通のビキニを着た方が、沙耶香には似合うと美奈穂は思った。


「そ、そうかな? ビキニは目立ちそうで……」


「ちなみに、私がおにぃと海に行った時は、ほとんどビキニ姿での撮影でした」


「買ってくるわ!」


 美奈穂の話しを聞いた沙耶香は、持っていた水着を戻し、ビキニを選び始める。

 

「え、なになに? もう美奈穂ちゃんは、おにぃちゃんと海に行って来ちゃったの?」


「あくまで仕事ですが……それと……あんまりくっつかないでもらえませんか? 暑いので……」


 美沙は美奈穂を後ろから抱きしめながら、美奈穂と誠実が海に行った話しを聞いていた。 美奈穂を気に入っている美沙は、美奈穂を見つける度にこうして抱きつく。

 そんあ美沙から逃れつつ、美奈穂は二人に尋ねる。


「皆さんで海に行くんですか?」


「うん、そうだよ、あ! 美奈穂ちゃんも行く?」


「気を使っていただいて嬉しいですけど、私は仕事もあるので今回は遠慮します。それに、おにぃにはもう、水着姿をさんざん見せつけましたし」


 美沙の提案を美奈穂は笑みを浮かべながら断り、どや顔で勝ち誇ったように、二人に言い放つ。

 いくらこうやって仲良く水着を選んでいても、この三人は恋敵。

 言われた美沙と沙耶香も負けじと、美奈穂に言い返す。

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