126話

「うわっ……本当に広いなぁ~」


 浴室の扉を開けると、そこには大きな浴槽と山々を見渡すことが出来るガラス張りの大きな窓があった。

 露天風呂もあるらしく、外に出られる扉もついており、誠実のテンションはどんどん上がっていった。


「ふぅ~良いお湯だなぁ~」


 体を洗い、誠実は浴槽につかって、今日一日の汗を流す。

 色々あったが、良い経験になったなと、誠実は二日間を振り返る。


「はぁ……これで明後日のデートも問題なさそうだな……」


 明後日の沙耶香とのデートの事を考え、誠実はそろそろデートの計画を立てなくてはと考える。


「そういえば、美奈穂に相談するなって言われたんだよなぁ~、どうすっかなぁ~」


「お困りのようね」


「うわっ! な、中村さん……居たんですか」


「ウフフ、心は女でも体は男だからね、男湯に入らないと捕まっちゃうわ」


「そ、そうですか……」


「それよりも誠実君!!」


「な、何でしょう…」


 誠実は昨日の事もあるので、中村に色々な意味で恐怖を抱いており、一定の距離を置いて話しをしていた。

 二人は並んで湯に浸かりながら、話しを続ける。


「明後日にデートなんですって?」


「は、はい……そうですけど……」


「もうプランは考えてあるの?」


「いや、一緒に映画に行く約束だけで……映画の後どうしようかとかは全く考えて無くて… …」


「なるほどね、それは相当お困りのようね」


「いや、でも適当に町をぶらぶらしておけば良いかななんて……」


 誠実がそう言った瞬間、中村は勢いよく湯から立ち上がり誠実に言い放った。


「何を言ってるの誠実君! デートっていうのは遊びじゃないのよ! 男と女の戦争よ!!」


「せ、戦争ですか?」


 誠実は中村の言葉に苦笑いをしながら答える。

 勢いがついた中村の言葉は止まることなく続く。


「そうよ! 男は女を喜ばせ、好感度を勝ち取りに行き、女はそんな男をその気にさせる為に猫を被る……デートっていうのはそう言うものよ!」


「あんまり知りたく無かったです……」


 一通り言い終え、中村は湯に浸かり直す。


「私がデートプランを一緒に考えてあげる。まずは……」


「は、はい……」


 その後、湯に浸かりながら誠実と中村は明後日のデートのプランを練った。

 お湯から上がる頃には、二人はすっかりのぼせており、着替えをする前に体を脱衣所の扇風機で冷やしていた。


「あ、あつい……」


「せ、誠実君……わかった? 私の言うとおりに……明後日は頑張るのよ……」


「は、はい……頑張ります……」


「そ、それと……ちゃんと……美奈穂ちゃんとも……デートしてあげるのよ……それが私のアドバイスの条件なんだから……」


「い、良いですけど……なんで美奈穂なんですか?」


「良いから……そうすれば……みんな幸せになれるから……」


「は、はぁ……」


 二人して脱衣所の長いすに倒れ、熱が冷めるのを待つ。

 ようやく歩けるようになった誠実と中村は、浴衣に着替え自室に戻って行く。


「あぁ……のぼせたのぼせた……」


「ん、お帰り」


 誠実が部屋に戻ると、美奈穂が浴衣姿で部屋でお茶を飲んでいた。

 時刻はまだ夕方の6時、宴会は7時からなのでまだ時間がある。


「随分長く入ってたわね」


「あぁ、風呂場で中村さんと一緒になってな」


「襲われたの?」


「ぞっとするような事を言うな!!」


 昨日の晩の事が若干トラウマになりつつある誠実。


「それにしても、一時間暇だし、少し外にでも行かない?」


「外? 良いけど、何かあるのか?」


「大きな中庭があるんだって、ちょっと行ってみない?」


 そう言われ、誠実は美奈穂と共に旅館の中庭に向かう。

 中庭には大きな池があり、松ノ木も一本立って居た。

 本当に旅館なのか? などと思ってしまうほどの立派な庭に誠実は少しばかり感動していた。


「すっげーなぁ……」


「そうね」


 二人は広い中庭を二人で散歩していた。

 行けには色鮮やかな鯉がおり、小さな橋が掛かっていた。

 誠実と美奈穂は夕焼けに照らされた池を橋の上から覗く。

 ふと、誠実が隣の美奈穂の方を見ると、夕日に照らされた横顔がとても綺麗で、誠実は少しの間不覚にも見惚れてしまっていた。


「ん? どうかした?」


「いや、やっぱり綺麗な顔してるなって……」


「は、はぁ?!」


 美奈穂は誠実の視線に気がつき、誠実に尋ねる。

 返ってきた答えに驚き、美奈穂は頬を赤く染めながら、驚きの表情を浮かべる。


「はぁ~あ、俺もお前みたいに綺麗な顔に生まれたかったなぁ~」


「な、何を言い出すのよ! 気持ち悪いわね……」


 言葉とは裏腹に、美奈穂は頬を赤く染めながら、誠実から視線をそらす。


「別に本当の事を言っただけだっての……ほんと、デカくなったなって思ってよ……」


 どこか寂しそうな表情の誠実。

 そんな誠実に美奈穂は、何かあったのでは無いかと尋ねる。


「なによ、寂しそうな顔で、何かあったの?」


 聞かれて誠実は目をつむり、笑顔になって美奈穂に言う。


「なんでもねーよ、ほら行こうぜ」


「髪をかき乱さないでよ!」


 誠実は美奈穂の頭をくしゃくしゃと撫で、そのまま旅館の中にもどって言った。

 もうすぐで宴会の始まる7時と言うこともあり、誠実と美奈穂は準備をして宴会場に向かう。





「では、皆さん、お疲れさまでしたぁ!」


「「「お疲れ様でしたぁぁ!!」」」


 お疲れ様のかけ声と同時に、宴会はスタートした。

 未成年者にはお酒を飲ませないように、「私は20歳以下です」と書かれた札を首に掛けられ、ジュースで乾杯をする。

 もちろん、誠実と美奈穂も未成年なので、札を首から掛けてジュースで乾杯する。


「それにしても、本当に全員で宴会するんだな……モデルさんも勢揃いかよ」


「いつもの事よ、それよりも私の友達に変なことしないでよね」


 そう言って、美奈穂は向かいに座るモデル仲間の女の子達の方を見る。


「心配するな! 俺はどっちかっていうと年上派だぜ!」


「フン!」


「ぐはっ! な、なんで……」


「どっちにしたってダメよ」


 誠実が答えた瞬間、美奈穂は誠実のみぞおちに思いっきり拳をたたき込む。

 誠実は息の詰まるような間隔を覚え、みぞおちを抱えてうずくまる。


「あれあれ? 誠実君どうしたの?」


「あ、恵理……さん……」


 そんな誠実と美奈穂の前に現れたのは、浴衣姿の恵理だった。

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