118話

 時刻は朝の八時、誠実達は目的地に到着した。

 とりあえずは、宿にチェックインする事になり、誠実達は海辺のホテルにやって来ていた。 ホテルには、先に来ていたカメラマンやスタイリストが待機しており、その他にも綺凜以外のモデルさんが待機していた。


「じゃあ、とりあえず部屋で休んできて、お兄さんの方は30分後にロビーに来てくれる? これ部屋の鍵だから」


「あの……俺と美奈穂の部屋って……」


「えぇ、一緒よ。兄妹なんだし問題無いでしょ?」


「ま、まぁ……そうですけど」


 誠実が渡された部屋の鍵は、美奈穂と同じ部屋番号だった。

 てっきり部屋は別だと思っていた誠実は、若干抵抗を覚えた。


「さっさと行くわよ」


「あ、あぁ…」


 部屋に向かう道すがら、誠実と美奈穂の間に会話は無かった。

 まさかこの年になって、一緒の部屋に寝泊まりすることになるなんて思いもしなかったし、正直気まずい。

 しかし、雇ってもらって居る身分で我が儘を言う訳にもいかないので、誠実は黙って二泊三日を何事もない事を願いながら、部屋に向かう。


「なかなか良い部屋ね」


「そうだな……海も見れるのか!」


 誠実達の部屋は二人部屋で、窓からは海が一望出来た。


「はぁ……なんだか車に乗ってるのも楽じゃないわね……」


「後半お前は寝てたじゃねーか」


「変な格好で寝たから、逆に疲れたのよ……それより、行かなくて良いの?」


「あ、そうだった」


 誠実は部屋を出て、ロビーに向かった。

 おそらく三日間の説明があるのであろうと、思い誠実はドキドキしながらロビーに向かう。

「あら、来たわね。それじゃあ三日間の仕事の説明をするわ」


 ロビーに行くと、中村の他に数名のスタッフらしき人たちが集まっていた。

 仕事の内容は、言ってしまえば雑用担当だった。

 荷物の運び込みや弁当配りなど、本当に誰にでもできそうな仕事ばかりだった。


「じゃあ、まずはこの機材を車に運び込んでくれる?」


「はい、わかりました」


 誠実は言われた通りに仕事を開始した。

 これを境に、誠実の短いようで長い二泊三日のアルバイトが幕を開けた。

 

「はーい、じゃあ撮影開始しまーす」


 海での撮影が始まり、誠実の仕事も忙しくなり始めた。

 カメラマンからは、機材運びを頼まれ、スタイリストからはメイク道具の準備を頼まれ、モデルの方々からは飲み物を買ってくるくるように言われたりと、それなりに急がしかった。

「は、はい…スポーツドリンクです」


「ありがとう、悪いわね」


「いえいえ、仕事ですから」


 誠実は、飲料水を買ってくるように頼まれた女子大生のモデルさんに、買ってきた飲料水を渡す。

 流石モデルと言うべきか、スタイルも良いし、ルックスも良い。

 その他にもモデル特有のオーラみたいなものがあり、普通の綺麗な人とはまた違った感じがした。


「貴方、美奈穂ちゃんのお兄さんなんだって?」


「え、えぇそうですけど」


「へぇ~可愛い顔してるね君」


「え? あ、ありがとうございます」


 年上の綺麗なお姉さんにそんな事を言われてしまい、照れる誠実。

 そんな誠実を気に入ったのか、女子大生のモデルさんは、何かに付けて誠実を呼んでは話し相手にするようになった。


「じゃあ、まだ高校は入って四ヶ月くらい?」


「そうですね」


 彼女の名前は、仁科恵理(にしな えり)と言い、大学に通いながらモデルとして活動しているらしい。

 年齢は19歳で、今年の4月に大学に入学したらしい。

 同じ年上の栞とは違い、大学生ともなると本当に大人の女性という感じがして、誠実は緊張しながら話しをしていた。


「いいなぁ~高校一年生かぁ~懐かしいな~」


「高校生にしたら、大学生の方が楽しそうですけど?」


「私もそんな事思ってたけど、実際は大変よ? まぁ、私も入学したばっかりだけど」


 休憩時間、話し相手の少ない誠実にとって、話し相手が居るのはありがたかった。

 休憩が終わると、次は水着での撮影になるらしく、誠実は撮影の準備を手伝っていた。


「がんばってるわね、誠実君」


「あ、恵理さん……お、お疲れ様です」


 白のビキニ姿で現れた恵理に誠実は、目のやり場に困ってしまう。

 そんな誠実に恵理は余裕の笑みで誠実に言う。


「見たかったらいくらでも見ていいわよ、こんなので良ければ」


「いや、そういう訳じゃなくて……その……」


「ウフフ、可愛い」


 そう言って誠実に微笑み掛け、恵理は撮影に行ってしまった。

 小悪魔のようにからかってくる恵理が、なんだか色っぽくて、誠実はドキドキするのを感じるのと同時に、来て良かったと心の中で強く思った。

 しかし、その事を良く思っていない人物が一人居た。


「ふん!」


「イッテェ!! 何すんだよ!」


「あんまり他のモデルさんをエロい目で見ないの! 全く、恥ずかしい」


 デレデレしていた誠実を美奈穂は後ろから思いっきり蹴り飛ばした。

 誠実は砂浜に倒れ、美奈穂に文句を言う。


「べ、別にそんな目で見てねーし、それよりお前もこれから撮影なんだろ?」


「そうよ、待ってる間はパーカー着てるの、それにおにぃは見張っておかないと、他のモデルさんに何するかわかんないし」


「何もしねーよ! 人を変態みたいに言うな!」


 誠実と美奈穂が言い争っていると、中村が声を掛けて来た。


「美奈穂ちゃん! 出番よ、準備して!」


「はーい、今行きます。これ持ってて」


「あ、あぁ……」


 美奈穂は中村に返事をし、パーカーを脱いで水着姿になり中村の元に向かう。

 

「あ……」


 水着姿の美奈穂に誠実は少しの間見とれてしまった。

 赤いビキニに、白い肌、そして長くほっそりした手足が綺麗だった。

 もう何年も美奈穂の水着姿など見たこともなかった誠実は、やはり美奈穂も成長しているんだなと、感慨深く見ていた。


「女って成長早いなぁ」


 少し前までは女の子だったのに、今ではすっかり女性と言っても間違いではない。

 誠実は仕事をしつつ、横目で美奈穂の撮影を見守っていた。

 きっとこのまま直ぐに結婚して家を出てくんだろうと考えると、なんだか寂しく思える。

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