116話
どうやら沙耶香は、来週から上映が始まる恋愛映画が見たいらしい。
人気漫画が原作の映画なので、誠実も少し気になっていた。
「それなら良いな、じゃあ来週いくか」
「うん! ……ふ、二人で……ね」
「お、おう……」
二人でと言われてしまったとたん、なんだか緊張してしまう誠実。
考えて見れば、女子こうやってちゃんと遊びに行くのは初めてかもしれないと誠実は思った。
誠実と沙耶香が話しをしている間に、長かった校長の話は終わり、長かった終業式も終わりを迎えた。
誠実達は教室に戻り、夏休み前最後のホームルームをしていた。
「……そう言うわけで、夏休み中に問題を起こさないように、それと男子はモテないからってナンパなんて無謀なこともしないように!」
「「「「どういう意味だこの野郎!!」」」」
小川から夏休みの過ごし方について話しを聞く生徒達。
モテない男達は、小川に声を荒げ、小川はそんな生徒達を笑いながらなだめる。
「まぁ、夏は開放的になるから、お前らでも彼女が出来るかもしれないからな、頑張れ!」
「お前らでもってどういう意味だ! 俺は絶対この夏、可愛い彼女を……グフフ」
「全く、三次元のどこが良いんだ? 時代は二次元だ!」
「俺、小学生って良いと思うんだ……」
小川の言葉に触発され、クラスの男子生徒が口々に言う。
なんだか頭のおかしい奴と、危ない奴しか居ないと思いながら、誠実は黙って話しを聞いていた。
するとなんだか聞き慣れた声が聞こえて来た。
「お前ら馬鹿か、彼女よりもアイドルを追いかける方が充実している」
「でた! 残念イケメンの古沢!」
「なんであいつがモテて、俺がモテないんだ……くっ!」
「単純に顔じゃね?」
珍しく健が声を上げて話しをしていた。
そんな健に反発するように、今度は武司が立ち上がり宣言する。
「何言ってんだ! 彼女がいた方が楽しいだろ! 一緒に出かけたり、手と手が触れてドキッとしたり!」
「馬鹿め! それと比例して嫌な事もあるに決まっている! わがままを言われたり、妙に束縛してきたり、その点アイドルにいくら投資しようと嫌な事など一ミリもない!」
「アイドルとなんて何もできねーだろ!」
「それが逆に良い、嫌なところは見なくて済むからな!」
徐々に女子生徒達が、クラスの男子生徒を白い目で見始める。
誠実は、友人二人のどうでも良い言い争いを見ながら、ため息を吐く。
「はぁ……何やってんだか……」
気がつけば、クラスの中で彼女要る派と要らない派のどうでも良い対立が起きていた。
女子はもう男子を放って女子だけで談笑をはじめ、小川は窓際に椅子を置いて眠り始めていた。
「健! いい加減そのアイドル命な生き方やめろ! 将来結婚出来なくなるぞ!」
「愚問だな、俺は一生独身で構わない」
「うわ、出たよ独り身宣言、そう言う奴に限って結婚するの早いんだよな~」
「そういう武司だって、付き合って何をするんだ?」
「何って……だからデートとか……一緒にいろいろだな……」
「色々ってなんだ?」
「あー! 色々は色々だよ! お前だって男ならわかるだろ!」
「そんな事しか頭にないのなら、彼女なんて出来ないぞ? なぁ、我がクラスの女性陣」
「「「武田キモーイ」」」
「ぐはっ! や、やめろ! 女子からのキモイは洒落にならん!」
女性陣からの言葉に、武司は精神的に大きなダメージを負う。
健と武司の一連の話しの流れを見ていた誠実は、この勝負は健の勝ちだと悟った。
口喧嘩なら健は強い、いつも何を考えているのかよくわからない無表情の為、表情が読めない上に、無駄な知識が豊富なのだ。
「はぁ~……よく寝たな……お前ら、そろそろやめろ~」
「あ、先生起きた」
「そろそろ時間だし、続きは放課後にでもしてくれ」
小川が目を覚まし、健と武司の言い争いを止め、このアホらしい言い争いは終わった。
「まぁ、明日から夏休みだ、事故無くまた9月に会おう! じゃ、解散!」
小川の言葉で、授業は終わり、夏休みが実質スタートした。
今日の授業はもう無い為、誠実は帰りの支度を始めていた。
「誠実は良いよなぁ~」
「いきなり何だよ」
帰りの支度をしていると、突然武司がやってきた。
「だって、お前ってモテ期来てるじゃん? 前橋に笹原、それに他諸々……あー誠実なんて爆発すれば良いのに……」
「おまえなぁ……俺だって色々大変なんだぞ」
「良いよなぁ~モテる奴は…」
「だから言っているだろ? アイドルは良いと」
武司と話しをしているところに、健がやってきた。
健は既に帰り支度を済ませたらしく、鞄を持って来ている。
「お前はそればっかだな、はぁ~彼女欲しい……」
「何馬鹿なことほざいてるのよ」
「へ?」
急に後ろから声が聞こえ、武司は間の抜けた声を出した後に声のした方を振り返る。
そこには鞄を持った志保が居た。
後ろに沙耶香が居る様子から、志保と下校しようと迎えに来た事がわかる。
「良いだろ別に……お前に迷惑は掛けてないし」
「そんな口に出しても出来る訳でも無いけどね……アンタのその顔じゃ」
「んだとぉ! 俺だって頑張れば……」
「頑張っても目標達成出来なかった人に言われてもね~」
「うっ……で、でも今まで一番良い成績だったんだし、良いだろ!」
「達成できなきゃ、目標を決めた意味が無いでしょ?」
「うっ……」
武司と志保の会話をただ黙って聞いていた、健と誠実は、コソコソと二人に聞こえないように話し始める。
「やっぱり仲良くないか?」
「あぁ、何かありそうだが……」
健と誠実が話しをしていると、そこに沙耶香が混ざってきた。
「良い感じだよね? あの二人」
「良い感じかはわからないけど、なんか夫婦漫才を見てる感じだな」
「そうだな、完璧に武司は尻に敷かれているが」
そんな話しをしながら、三人は笑いながら志保と武司を見ていた。
その様子に気がついた志保と武司は、不思議そうに誠実達を見る。
「何だよ、どうかしたか?」
「沙耶香、いつの間にそっちに?」
二人して不思議そうに尋ねてくるので、誠実は正直に何を話していたのかを二人に伝える。
「いや、二人ともなんか仲良いなって話しをだな」
「「はぁぁぁ?!」」
誠実の言葉に二人は声をそろえて反論し始める。
「なんでそうなるんだよ! さっきの会話のどこでだ!?」
「そうよ! 私は別にこいつとは……」
「あぁ……わかったわかった、さっさと帰ろうぜ、明日から夏休みだし」
「そうだな、短い夏休みの予定も立てねばならん」
「そうだね、じゃあ志保行くよ」
5人はそろって下校する。
明日からの夏休みに胸を躍らせながら、誠実達は夏休み何をするかで盛り上がる。
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