102話

*



 武司と志保は今日も二人で勉強会をしていた。

 場所は学校近くのファミレスで、ちらほら同じ学校の生徒もおり、明日のテスト勉強をしている。


「……で、どうだったの?」


「あぁ、ばっちりだ! 自信はあるぜ!!」


「なら、良かった」


 今日のテストの手応え確認し、二人は明日のテスト勉強を始める。

 全教科で80点以上を取ると言った武司だったが、今は当初の目的とは大きく異なり、宣言した相手に勉強を教わるというおかしな事になっていた。


「そういえば、俺ってなんでこんな勉強してるんだっけ?」


「あのねぇ……なんで大前提を忘れてるのよ……」


「いや、勉強に記憶領域を持って行かれて、過去を思い出せないんだ」


「不便な頭ね……」


 呆れた表情で武司に話す志保。

 志保に言われて言葉がきっかけで、武司は勉強を頑張り始めた。

 しかし、今では見返す理由も無いのかもしれないと思えるほど、志保には武司の頑張りが伝わっていたし、あの時の事を謝りたいとも思っていた。


「ねぇ……なんかごめんね」


「なんで急に謝るんだよ? どうかしたのか?」


「アンタって、やるときはやるんだなって……なんか見直した」


 笑顔で言う志保に、武司はドキッとして、顔を赤く染める。


「は、はぁ? あ、当たり前だろ、俺は前からこうだっての! お前が知らなかっただけだっての」


「うん、そうだと思った。この前は色々言っちゃってごめん」


 いつもよりも素直な様子の志保に、武司は妙にドキドキしてしまう。

 なんで急にこんなに素直になったのか、内心では何か企んでいるのではないかと考えながらも、武司はそんな志保が可愛く思えた。


「な、なんだよ! なんか企んでんのか?」


「なんでそうなるのよ……ただ本心を言っただけでしょ? さ、明日もテストなんだから勉強するわよ」


「お、おう…そうだよ! 今は全教科80点以上を……ってよく考えたら、俺はお前を見返す為に勉強してたはずじゃ……」


「さ、早くしないと時間だけが過ぎちゃうわよ」


「え? あ、あぁ? う、うん??」


 自分が何の為に勉強していたのか、若干わからなくなり始める武司。

 しかし、して損は無いので今は深く考えずに、当初の目的通り80点以上を目指して勉強にいそしむ。


「……アンタがもし、80点以上取れたらさ」


「ん? 急になんだよ?」


「いいから聞きなさいよ! あの……その……」


 勉強の最中、いきなりそんな話しをしてくる志保に、武司は不思議そうに首をかしげる。

 志保は、顔を隠すように俯き、赤くなった頬を隠しながら話しを続ける。


「……わ、私に出来る事だったら、なんかしてあげるわよ」


「は? いきなり何を言ってんだよ……」


「だから! ご褒美あげるって言ってるの! ご褒美あればアンタも少し頑張れるでしょ!」


「わ、わかった! わかったから落ち着け……ここファミレスだし、言い回しがちょっと……」


「あ……うぅ……」


 周りの視線に気がつき、志保は再び顔を伏せる。

 志保のこの提案には理由があった、一つは言ったとおりに武司の勉強に対する意欲を上げる為、そしてもう一つは、最初の勉強会の時に言い過ぎてしまった事への謝罪の気持ちだった。


「う~ん、お前になんかしてもらってもな……」


「それはどういう意味かしら?」


「おい、頼むからシャーペンを握りしめて振り上げないでくれ、すっごい怖い!」


 笑顔のままシャーペンを振り上げる志保に、武司は怯えた様子でいう。

 志保は、怯える武司を見ると、満足したのかムスッとした表情のまま振り上げシャーペンを下ろした。


「でも……俺は別にお前頼みなんて……あ!」


「どうしたのよ?」


「女の子紹介してくれ!!」


「フン!!」


「いってぇぇぇ!!」


 武司の言葉に、志保はとっさに拳を振り上げて武司の頭上に思いっきり振り下ろす。

 頭を抱えてうずくまる武司を見て、店内の客やスタッフは全員、二人の関係を察した。

 志保は、うずくまる武司を無視して勉強を再会する。


「な……なんで俺が……こんな目に……」


 店のスタッフと客、全員がこのとき「自業自得だ」と思っていた。

 




 誠実は家で最後のテスト勉強をしていた。

 ファミレスでは、何かと知り合いに会うし、学校の図書室もテストまっただ中とあって混雑していたため、誠実は自宅で勉強する事にした。

 しかし……。


「集中できねぇ……」


 自宅の自室には、勉強の妨げとなる物が多く、なかなか勉強に集中出来ない。

 明日のテストは二教科だけなのだが、全く手が進まないまま一時間が経とうとしていた。


「あぁ、どうすっかな……リビングにはうるさいのが居るし……」


 なんとか集中出来る勉強の仕方を模索する誠実。

 そんな時、誠実のスマートホンが音を立ててなり始めた。


「誰だ? ん? 健か……」


 画面には健の名前が表示されており、確認した誠実は電話に出た。


「もしもし、どうした?」


『せ、誠実か? 頼む! 助けてくれ!!』


「どうした! なにがあった!!」


 健がここまで取り乱して電話をしてくるなんて初めての事だった。

 誠実は何か大変な事に巻き込まれたのかと思い、慌てて理由を尋ねる。


『あ、あの…女が……うわぁぁ! 来るな!』


「おい! 女って何だ!」


 誠実が必死に健に電話越しで尋ねていると、電話の向こうから鈴の声がかすかに聞こえてきた。


『だめだよ~間違えた古沢君がいけないんだよ~、大人しくこれを着て、この台詞をいうんだよ~』


『やめろ! 来るな!! 俺はそんな幼稚園児用のスモッグなど!! ………」


 電話はそこで切れた。

 誠実は切れた電話を眺めながら、一体あの二人はどんな勉強をしているのだろうと半ば呆れながら思う。


「ま、大丈夫だろ」


 誠実はそう思い、スマホを机の上に置き勉強を再開する。


「明日で最後か……まぁ、赤点はない……よな?」


 正直今までのテストも少し不安な箇所があり、明日のテストも気が抜けない。

 誠実はヘッドホンを耳に付けて、再び勉強を再開する。

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