94話

「だからって、隣に座る事はないだろ?」


「まぁまぁ、良いじゃん良いじゃん、気にしないでよ~」


 いつものような軽口で、誠実の隣に座り勉強を始める美沙。

 何だか休日に良く合うなと誠実は内心感じながら、美沙を気にせずに勉強を再開する。

 意外にも美沙が誠実にちょっかいを出すことはなかった。

 本当に勉強をしに来た様子で、まじめに机に向かっていた。

 逆にそんな姿を見てしまうと気になってしまい、誠実の方がチラチラと横目で美沙を見てしまっていた。

 ホットパンツに白シャツのカジュアルな服装で、露出が多く自然と視線が肌の方に言ってしまう。


(いけない、いけない……集中、集中)


 誠実はそう自分に言い聞かせ、勉強に意識を集中させる。

 しかし、ときおり隣から香ってくる、女子特有の良い臭いにゆって集中力をかき乱されてしまう誠実。


(俺はあほか! いまは勉強しないと……)


 そう自分に言い聞かせ、誠実はちょいちょい集中力を切らしながらも勉強に専念した。

 そしてあっという間に昼間になり、誠実は美沙に誘われ、近くのハンバーガーショップで昼休憩をしていた。


「いや~、やっぱり図書館って良いよね~集中出来る」


「あぁ、そうだな……」


 実際誠実は、美沙が隣に居たせいであまり集中出来ず、素直に美沙の意見に同意は出来なかった。

 美沙が邪魔をしてきた訳でもないので、文句を言う訳にもいかず、誠実は複雑な気分でハンバーガーを食べる。


「それにしても、誠実君は私の方をチラチラ見てたみたいだけど……なにかあった?」


「ぶっ! べ、べべつに見てねーし……お前の気のせいだろ?」


「そんなあからさまに同様されたら、見てましたって言ってるようなものだよ?」


「くっ! しまった……」


 動揺する誠実を見ながら、美沙はにやにやと小悪魔のような笑みを浮かべる。


「まぁ、男の子ならしょうがないよね~、私の生足でも見てたのかな~」


「わかってるなら、そんな足を出すな! 全く最近の若い者は……」


「それって誠実君もだよ?」


 などという話をしながら、誠実と美沙は昼食を食べていた。

 昼飯を食べ終えたら、また図書館に戻って勉強しようと誠実が考えていると、少し離れた席に見慣れた顔を発見した。


「ん……あれって……」


「どうかした?」


 間違いなく、武司だった。

 おそらくこの店で勉強していたのであろう、机には教科書が置かれている。

 今は休憩しているようで、誠実と同じくハンバーガーを食べていた。


「あいつも頑張ってるな……」


 いつもなら声を掛けるところだが、美沙と一緒だし、邪魔をしてはいけないと思い、誠実は武司から視線を外す。

 しかし、なぜか美沙は武司の方を見続けていた。


「ねぇ、誠実君。彼って彼女居るの?」


「なんだいきなり、狙ってんのか?」


「いや、私は誠実君一筋だから」


「さりげに何言ってるんだよ……」


 何を言っているのか、質問の意図がわからず誠実は疑問を浮かべる。


「ほら、あんまりガン見するな」


「う~ん、結構可愛い子だね」


「はぁ? あの武司が? お前何言ってるんだ、勉強しすぎて頭をおかしくなったか?」


「違うわよ、ほら向かいに座ってるあの子!」


「ん? そんな子居たか……って、なんで古賀?!」


 誠実が再び武司の席を見ると、そこには二人仲良く勉強する、武司と志保の姿があった。

 この前は半分喧嘩みたいな事になっていたと言うのに、今は知らない人から見たら完全にカップルだ。


「おいおい、どういうことだ? なんであの二人が……」


「え? 付き合ってるんじゃないの?」


「付き合うどころか、この前まで喧嘩してたんだよ」


 誠実は勉強会での出来事を美沙に話して教え、誠実が知っている志保と武司の関係を説明する。


「ふぅーん、前橋さんとね~、なんで私は誘ってくれないのかなー」


「え、そこなの?」


 武司と志保の事よりも、勉強会に誘ってもらえなかった事に不満がある様子の美沙。

 誠実をジト目で見ながら、ポテトを口に運んでいく。


「まぁ、今日一緒だから良いけど……じゃあ、あの二人は付き合ってないんだ?」


「あぁ、しかも古賀は説明が凄く下手でな……一番文句を言ってたあいつが、なんで勉強を教えてもらってるんだ?」


 誠実にとっては一番そこが謎だった。

 一体どうして武司が志保に勉強を教わっているのだろう?

 教わるにしても、あれだけ文句を言っていた相手となぜ一緒に勉強をしているのか、誠実は考えれば考えるほどわからなくなっていった。


「もしかして、どっちかがどっちかに片思いしてるんじゃない?」


「いやいや、あの二人の間にそんなラブコメみたいな展開無かったはずだぜ」


「誠実君、恋って言うのは突然始まるんだよ、何の前触れもなくね」


「そういうもんか?」


「そうだよ、私がそうなんだもん」


 満面の笑みを誠実に向けながら話す美沙に、誠実は思わず照れてしまい視線を反らす。

 そんな誠実の心境を感じたのか、美沙は更に追い打ちを掛ける。


「好きだよ、誠実君」


「そりゃどうも……」


 平静を装う誠実だったが、内心では心臓が飛び出すんじゃないかって位に、ドキドキしていた。





 誠実達に見られているなんて、思いもしない武司と志保は、朝からこの店で勉強していた。 相変わらず志保の説明はいまいちだったが、それでも武司がわかるまで粘りずよく教えていた。


「そこは、ここをこうして……」


「こうか?」


「そう。それからここを…」


 武司の真剣な姿に、志保は放って置くことが出来ず、力になろうと決めたのだが、最近はなんだかおかしい。

 いままでなんとも思って居なかったはずなのに、一緒にいるとうれしいし、こうして二人で居る時間も以前より楽しく感じていた。

 しかも、最近は武司の事ばかり考えてしまう志保。

 なぜなのか自分にもわからず、志保は向かいに座る武司を見つめながらその理由を考える。

「ん? なんか俺の顔についてるか?」


「え、あ! いや、なんでもないわよ……」


 見られていた事が武司にバレ、志保は慌ててごまかす。

 武司は勉強のことで頭がいっぱいらしく、あまり気にしている様子は無かった。


(どうしたんだろ……私……)


 なんでこんなにも武司の事ばかりを考えてしまうのか、志保は自分でもその理由がわからなかった。

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