70話

 誠実と武司は職員室を後にし、昇降口に向かっていた。

 昇降口に向かう道すがら、武司は一体誰がこんな噂を流したのだろうかと誠実と話ていた。


「なぁ、誠実。やっぱりこの噂を流したのって……」


「あぁ、金曜にコンビニで見かけた、山瀬さんの婚約者だと思う」


「お前、あの後何かあったのか?」


「…実はな……」


 誠実は金曜日に武司と健と別れた後に聞いた、駿の話をする。

 それを聞いた武司は、驚くと同時に怒りをあらわにして誠実に言う。


「誠実、なんで俺らに相談しないんだよ! そんな大事な事を!」


 誠実は武司から目を逸らした。

 あまりこの問題に、健と武司を巻き込みたくなかった誠実は、自分の力だけで何とかしようと考えていた。

 しかし、誠実のその考えに武司が納得できなかった。


「はぁ~、全くよぉ……何年の付き合いになると思ってんだよ。こちとら今まで何回迷惑掛けられたかわかんねーよ。今更何言ってんだアホ」


「でも、今回はただの俺の自己満足だし……お前らに迷惑は……」


「だろうな、正直お前はどうかしてる。あんなに気持ちを弄ばれておきながら、怒りもしないで、その女を助けるなんて……ただのMじゃん」


「そうだけど、でも!」


「あ~、ハイハイ知ってる知ってる。お前はそういうやつだよ。昔から……」


 武司は誠実の方に手を置きながら、呆れたような笑顔でそういうと、誠実の背中を思いっきり叩く。


「いってぇ!!」


「ま、仕方ねーか。お前バカだしな、そうと決まれば話は早い、その駿とかいう奴ボコって、噂の元を断ち切るか!」


「お前なぁ…簡単に言うけど、お前ってそんな喧嘩とかするタイプだっけ?」


「ふ、おまえは俺を舐めすぎだ、俺はこれでも格闘技をやっていたことがあるんだぞ」


「それって、中二の時に少しやってた通信空手だろ? 結局3カ月で飽きてたし……」


「そ、それを言うな……」


 全く頼りにならなさそうな武司だったが、誠実は正直嬉しかった。

 こうして自分を信じてくれる友人が居る。

 いつも一緒に馬鹿やってる時は気が付かないが、こうやって自分が困っている時に、何も言わずに助けてくれる。

 そんな自分の友人が、誠実は誇らしかった。


「でだ、まずはどうやって駿とかいう奴を探すかだが、健が居ないんじゃなぁ~」


「本当にどうしたんだろうな? 俺らにも連絡しないなんて……」


 そんな事を話しながら、誠実が自分の下駄箱を開けると、四角い封筒が入っていた。

 一瞬今の自分の状況を考えて、もしかして果たし状か? などと思った誠実だったが、そうではないらしい、茶色の封筒の中には丁寧に折られた一枚の手紙が入っており、誠実は紙を広げて手紙を読み始める。


「こ、これは……」


「どうした誠実? なんだその紙?」


「あ! おい!」


 誠実が読んでいた手紙を後ろから武司が取り上げる。


「えっと、何々……大切な話があります。放課後17時に四階空き教室で待って居ます。山瀬……ってえぇぇぇぇぇぇ!!!」


「声がでけーよ」


「だって、これ! え? なんで? 山瀬って! えぇ?!」


「言いたいことは分かるが、落ち着け武司。本来それは俺がするべき反応だ」


 手紙の主は綺凛だった。

 誠実はおそらく噂の事で何か話があるのだろうと察してはいたが、武司にとっては大声を上げるほどの事だったらしい。


「多分、噂の事だろう……」


「あ、あぁ…そうか、山瀬さんも当事者だもんな。いやぁ~、お前の下駄箱から、ありえない人からのラブレターが出て来たと思って、びっくりしたぜ……」


「………美沙がちゃんと話をしていてくれればいいんだけどな」


 誠実は金曜の夜に、美沙に頼んだことを思い出す。

 美沙から綺凛に、注意を促してほしいと誠実は頼み、そのあとどうなったかを聞いていない。

 土曜日に会った時も、その話にはならなかったので、誠実は正直不安だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る