66話



 誠実は現在、自室にて考え事をしていた。

 考えることは一つ、どうやって駿と綺凛を引き離すかだ。

 美沙に話をしておいてくれとは言ったものの、そんな簡単に信じてはくれないだろうと、誠実は思っていた。


「う~む……やはり明日か」


 今日、栞と誠実が街に居た時、駿が誠実に言ったセリフがずっと引っかかっていた。

 明日、駿は自分か綺凛に対して何か行動を起こすのだろうと想像していたが、それがなんなのかもわからない。

 


「どうしたもんかなぁ~」


 悩みながら椅子に体をあずける誠実。

 そんなことをしていると、部屋のドアをコンコンと2回ノックする音が聞こえる。


「誰~?」


「私、入っても良い?」


 声の感じから、誠実は直ぐに美奈穂だとわかった。

 一体なんの用かと誠実は不思議に思いながら、部屋のドアを開ける。

 美奈穂は部屋着姿のラフな格好で、ドアの前に立っていた。


「どうかしたか?」


「ちょっとね、入っても良い?」


「え? お、おい……」


 誠実の返答を待たずに、美奈穂は誠実の部屋に入っていく。

 美奈穂はそのまま誠実のベッドの上に座り、壁にもたれ掛かりながら、近くに置いてある雑誌を読み始める。


「おい、何しに来たんだよ。俺も忙しいんだぞ」


「どうせエッチな本でも見てたんでしょ?」


「見てねーし! そんなん部屋にねーし!」


 半分本当の嘘をつき、誠実は先ほどまで座っていた、学習机の椅子に座りなおす。

 美奈穂は雑誌を読みながらベッドに横になり始め、いよいよ何をしに来たのかわからない。


「んで、なんの用だよ。用がないなら部屋戻れよ」


「用ならあるわよ。今日のデートは楽しかった?」


「デート? あぁ、先輩の家に行った話か……別にデートでもなんでもねーよ」


 (何かと思えば、今日の話を聞きたいだけか……)


 やっぱり美奈穂も気になるのだろうか?

 などと誠実は考えながら、美奈穂にそう言う誠実。

 しかし、美奈穂の表情はどこか怒りに満ちている感じがする誠実。

 何か怒らせるようなことでもしたか?

 などと考える誠実だったが、残念ながら何も心辺りが無い。


「ふーん、何もなかったんだ……」


「あぁ……何もなかった……あ……」


 誠実は何もなかったと言おうとした瞬間考えてしまった。

 そういえば、先輩と手をつないだことは、何かあった事になるのだろうか?

 などと考えていると、美奈穂は雑誌から目を離し誠実の方を見る。


「あ、ってなに? 何かあったの?」


 機嫌悪そうに言う美奈穂。

 誠実はなんでこんなに機嫌が悪いのだろうか? と美奈穂に対して疑問を抱きながら、正直に話す。

 別にてをつなぐ位は何かあった内に入らないだろう、そう思って誠実は美奈穂に言う。


「いや、手は握ったけど、それ以外は何も……」


 言わなければよかった。

 誠実は美奈穂の顔を見ながら、後悔した。

 なぜかわからないが、美奈穂は元々不機嫌そうだった表情をさらに暗くし、さらに不機嫌になっている。

 なんで先輩と手を繋いだくらいで、うちの妹はこんなに機嫌が悪くなるんだ?

 などと考えながら、誠実はとにかく美奈穂の機嫌を取るために考え始める。


「そ、そんな事より、お前は今日は仕事どうだったんだ? 疲れてるんだし、風呂でも入ってきたらどうだ?」


「いい、それよりもおにぃ」


「な、なんだ?」


「おにぃって胸の大きな人が好きなの?」


「いやぁぁぁぁぁ!!!」


 誠実はすっかり忘れていた。

 美奈穂が今まで読んでいた雑誌は、誠実がカモフラージュの為に、表紙を変えてカモフラージュしていたエロ本。

 最近では家族の誰かが、部屋に入ることは無くなっていたので、誠実は油断して出しっぱなしにしていたのをすっかり忘れていた。

 誠実は大声で叫びながら、美奈穂が持っている雑誌を奪い取ろうとする。


「お! お前はまだ! そういうのはっ! 早い!!」


「おにぃが、出しっぱなしなのがいけないんでしょ」


 美奈穂は誠実をよけながら、雑誌の中を凝視する。

 誠実じゃ何とか取り返そうとするが、美奈穂がするすると誠実の手を逃れていくので、なかなか捕まらない。


「へぇ~、巨乳妹……ごめんね~巨乳じゃなくて」


「やめろ! そんなごみを見るような目で見るな!! それに、その雑誌の本命は一番後ろのお姉さまだ!」


 誠実と美奈穂は言い争いながら、部屋の中をドタバタと走りまわる。

 このままでは自分の性癖がどんどんバレていく気がして誠実は、必死になって美奈穂を捕まえに行く。

 最早なりふり構っていられない誠実は、美奈穂の後ろから抱きつき、無理やり本を奪還することにした。


「おりゃぁ!!」


「きゃっ!」


 誠実は美奈穂の背後から抱きつき、動きを封じる。

 しかし、ここで異常事態が発生した。

 別にその部分を触ろとして抱きついたわけではなかった誠実だったが、誠実の手はしっかりとその部分を触っていた。

 それはもうしっかりと掴んでいた。


「な、何胸触ってんのよ!!」


「す、すいません!!」


 誠実は顔を真っ赤にした美奈穂に言われ、すぐさま美奈穂から離れベッドの下で土下座をする。

 美奈穂は顔を真っ赤にしたまま、胸を隠すように腕を組む。

 以外にも妹の胸があった事に驚いた誠実。

 そんな時、誠実のスマホが、机の上で音を立てて鳴り始める。


「あ、あの……出ても良いでしょか?」


「す、好きにすれば!」


 美奈穂の顔はまだ真っ赤なままで、誠実のベッド上で胸を隠したまま座り込んでいる。

 誠実はそんな気まずい空気の中、電話に出る。

 ディスプレイには「蓬清栞」の名前が表示されていた。

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