第49話

 どうなんだろう、誠実は考えれば考えるほどわからなくなっていった。

 綺凛を助けたところで、自分には何のメリットも無い。

 でも、何とかしたいと思っている自分が誠実の中には確かにいる。

 

『別に意地悪言ってる訳じゃないけどさ、そこのところどうなのかなって、そう思っただけ、別に綺凛に言うのは良いよ。私も友達の事だし』


「あぁ、そうか……ありがとう」


 美沙は友人だから、そういう理由で綺凛に注意を呼び掛けようとしている。

 誠実はそれだけいうと、電話を切り、ベッドの上に座り、体から力を抜くようにゆっくり倒れていく。


「……なんでだろう」


 誠実はそうつぶやきながら、再び考える。





 翌日の朝は快晴だった。

 誠実は美奈穂との約束があるので、休日にも関わらず、朝早くにベッドから起き上がり、身支度を始めていた。


「こんな時に、俺は何をしてるんだか……」


 昨日の事があった後で、妹とショッピングなど、実に平和であり、昨日の事がまるで嘘の様で、誠実は違和感を覚える。


「あぁ~眠い……」


 大きく伸びをしながら、誠実はそんな事をつぶやく。

 着替えを終え、一階のリビングに向かうと、そこには既に着替えを済ませ、朝食を食べる美奈穂の姿があった。


「ん、おはよ」


「おはようさん、ただの買い物の癖に、随分気合入って無いか?」


「そんな事ないわよ、おにぃの気のせい」


 誠実から見た美奈穂は、なんだか普段と違って可愛らしく思えた。

 大人っぽい感じがするのだが、それでも服装は年相応だった。

 薄っすら化粧をしているからだろうか?

 などと誠実は考えるが、それだけでは無い感じもしていた。


「あんたら2人で出かけるなんて、珍しいわね」


 母の言葉に、誠実はため息を吐きながら応える。


「無理矢理駆り出せれたんだよ」


「そうよ、おにぃはただの荷物持ち」


 誠実の言葉に続いて、美奈穂が母に言う。

 そんな2人を見て、母は短く「そう」と答えてそのまま家事に戻る。


「何時に出るよ?」


「今が9時半で良いわよ、あんまり早いと電車も混むし」


「ちなみに、今日は何軒回るんだ?」


「目についたところ全部」


「鬼か……もう少し計画を立ててだな……」


「計画なんて立てても意味無いわよ。どうせ目移りして、他の店に行っちゃうんだから」


 今日の買い物は、精神的にも肉体的にも疲れそうだと、誠実は考えながら、トーストをかじる。

 なんだか行く前から気が滅入ってしまった誠実。

 時間になり、美奈穂と2人で家を出る。

 考えてみれば、こうして一日2人で出かけるのは初めてで、誠実はなんだか違和感を覚える。


「なんか変な感じだな、お前と買い物って言うのも」


「そう? 私は別に何とも、それはそうと、おにぃも一応ちゃんとした格好は出来るのね……」


「お前は俺を引きこもりか、ニートだと思ってるのか?」


 誠実の服装をじろじろと見る美奈穂。

 一通り見終わり、小声で「良し」とつぶやくと、元の位置に戻って行く。


「何が良しだよ……」


「あんまりダサいと私が全身コーディネートし直さないといけないでしょ?」


「何その使命感……自分の服くらい自分で選ぶっての、今日はお前の服を買いに行くんだろ?」


「まぁ、そうだけど、おにぃも見たいお店とかあったら言ってよ」


「俺は良いよ、どうせ金もあんまり無いし」


 誠実はため息交じりに美奈穂にそう言う。

 全くの無一文と言う訳ではないが、財布の中身が少ないと気分まで萎えてしまう。

 そんな誠実に美奈穂はニヤニヤしながら言う。


「中学生の私よりお金ないなんて、おにぃは一生彼女なんて出来ないかもね~」


「うっせ! 今はそれを言うな、大体お前はモデルやってるから、そんなに金持ってんだろ? 俺はバイトすらしてないんだぜ……」


「ならバイトすれば? 学校で禁止されてる訳じゃないでしょ?」


 美奈穂にそう言われ、誠実は考える。

 確かにバイトは良いかもしれない、金も入るし、社会勉強にもなる。

 学校外で友人が出来るかもしれないし、暇な時間に働いて金になるのはうれしい。


「なるほどな……考えてみるか、どうせ毎日暇だし」


「本当に、暇なんだ……」


「おい、妹よ。あんまり兄にそんな冷たい視線を向けるな、傷つく」


 そんな事を話しているうちに、誠実達は駅に到着した。

 改札を抜け、電車に乗って2人は目的地に向かう。

 数分ほど電車で揺られ、誠実達は大きなビルやショッピングモールなどが立ち並ぶ街に到着した。


「人多いなぁ~、休日の朝から何をやってんだか……」


「おにぃが引きこもりすぎなのよ、まずはあの店に行くわよ」


「あ! おい待てよ!」


 美奈穂はさっそく入る店を決めると、吸い込まれるようにそのお店に入って行く。

 誠実は離れないよう、美奈穂の後ろについて行く。

 最初に入ったのは、女性向けの洋服専門店だった。

 いきなりの女性ばかりのお店に、誠実は冷や汗をかく。


「お、おれ…外で待ってても良いか?」


「なんのために来たのよ。ほら、行くわよ」


「ばか! 襟を引っ張るな!」


 2人そろって店に入ると、女性の店員が笑顔で接客を始める。


「いらっしゃいませ~、本日は何かお探しでしょうか?」


「そうですね……」


 美奈穂が店員と話始め、誠実はその後ろでジッとその様子を見ていた。

 早く終わってくれないかと思いながら、ただひたすら待つ誠実。


「これなんてどうですか?」


「う~ん、私には大人っぽすぎると思うな~」


「そんな事ありませんよ~、彼氏さんもそう思いますよね?」


「え?」


 急に店員に話を振られる誠実。

 彼氏と勘違いされ、誠実は「まぁ、無理もないか」などと思いつつ、特に弁解もせずに短く応える。


「あぁ、良いんじゃないっすかね?」


「もぉ~駄目ですよ? 可愛い彼女さんなんですから、ちゃんと見てあげなくちゃ!」


 フレンドリーな感じの店員にそう言われ、誠実は少し面倒になってしまった。

 彼氏では無く、兄だと言ってしまった方が楽かもしれない、誠実はそう思い弁解しようとするが、先に美奈穂が話出す。


「そうよ、なんのために連れて来たんだか」


 美奈穂が兄弟だと言うのかと思った誠実だったが、そうではなく自分が責められてしまった。

 このままこの彼氏設定貫くのか?

 などと考えながら、とりあえず感想を言う。


「んな事言われてもな……何着ても似合うやつに、どれが一番良いかなんてわかんねーよ」


 誠実がそう言うと、美奈穂は頬を赤らめる。

 そんな誠実と美奈穂を見て、フレンドリーな対応の店員さんは、ニヤニヤしながら楽しそうに次の服を選び始める。

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