第39話

「わっ悪い!!」


 誠実は一気に目を覚まし、洗面所のドアを閉めた。

 美奈穂の裸など、小学生の低学年いらい見ていない。

 しかも、今の美奈穂は体が女子から女性になりつつある訳であり、しかもモデルをやるほどのスタイルの良さだ。

 誠実が驚くのも無理は無かった。


「はぁ~ビックリしたぁ」


 誠実は直ぐさま部屋に戻り、ドアを背にして座り込む。

 最近妹である美奈穂との仲も良好になってきたというのに、これが原因で嫌われたらどうしよう……。

 なんてことを考える誠実。

 誠実は美奈穂が着替えを終えて出てくるのを待ち、誠実は改めてシャワーを浴びようと思う。

 すると、誠実の部屋のドアをノックするを音が聞こえた。


「は、はい…」


「おにぃ、私だけど…」


 ドアの向こうから聞こえてきたのは、先ほど全裸を見てしまったばかりの美奈穂の声だった。

 誠実は部屋の中で、身構えながら、返答する。


「す、すまん! 寝ぼけてて、ノックするの忘れて!」


「なんでも良いけど、入れてくれない? そうじゃ無いと落ち着いて話せない……」


「あ、あぁ…」


 誠実は美奈穂に言われるがままに、部屋のドアを開ける。

 ドアを開けると、風呂あがりの美奈穂がラフな部屋着姿で現れる。

 誠実は思わず、先ほどの事を思い出し、思わず目を逸らす。


「今日、何かあったの?」


「え? あぁ……まぁ、ちょっと…」


 誠実は、美奈穂がファミレスでのことを言って居るのだとすぐに分かった。

 しかし、誠実は綺凛との約束通り、綺凛の話を誰かにするつもりは無かった。

 これは誠実と綺凛の問題だと思ったこともあったが、本当の理由は好きな相手にそうお願いされたからだった。

 誠実は自分でも馬鹿だと思っていた。

 あんなことを言われたのに、まだ綺凛が好きで、彼女に迷惑をかけまいとしている。

 そんな自分が、誠実は滑稽に思えた。


「そ、それより、お前の方はどうなんだ? あの2人と何を話してたんだ?」


「まぁ、女子トークかな? 恋バナとかね、そういえば前橋さんに告られたんでしょ?」


「うっ……やっぱり言ったのか」


 恋バナと聞いた時点で、薄々は感づいていたが、やっぱり話になっていたらしい。

 誠実は綺凛とのことで、沙耶香との事を気に掛ける余裕がなく、これからどうすか何も考えていなかった。


「まぁ、おにぃが告られたんだし、何も言わないけど、返事を待ってもらってるんだったら、ちゃんと考えないとダメだと思うわよ。何か他に悩みもあるんだろうけど」


「あぁ、そうだな……しかし、お前が恋バナか、誰か好きな奴でもできたのか?」


「は、はぁ?!」


 顔を赤らめながら声を上げる美奈穂。

 誠実はそんな美奈穂を見て、美奈穂に好きな男子が居るのではないかと思い始めた。

 最近やけに服装何かに気を使っている気がするし、自分に対してもフレンドリーなのは、そのせいではないかと誠実は考える。


「まさか図星か? 相手はどうせ同じモデルの年上男性とかだろ~? お前モテそうだもんな~。あ、家には連れてくんなよ、親父が泣くから」


「ち、違うわよ! そんな人居ないし! 大体私は……」


 そこまで言ったところで、美奈穂は言葉を止めた。

 何を言おうとしたのか、気になった誠実は、首をかしげて「どうした?」なんて聞いている。


「わ、私は今はそういうの興味ないの! それに私、一応受験生だし!」


「そ、そうだな、でもお前確か頭良いよな? じゃあやっぱ東星に行くのか?」


 誠実達の地域の高校は東星、西星、北星、南星と4っつの方位にちなんだ高校がある。

 そのほかにも工業高校や商業高校などもあるが、普通高校といえばこの4校が上がる。

 1番学力が高いのが、東星高校であり、誠実達の通う西星は学力は3番目で、行ってしまえば平均的な学力の平均的な高校だ。

 美奈穂の学力は高く、教師からも第一志望は東星だろうと言われていたのを誠実は知っている。


「行かないわよ、あんな遠い学校、おにぃと同じ西星にするわ」


「お前、そんな理由で……ん、今なんて言った?」


「だから、おにぃと同じ西星に行くって言ったの、前橋さんも蓬清さんも…良い人だったし……」


 誠実は美奈穂の言葉に驚いたのと同時に、絶望した。

 今日、美奈穂が校門前に来ただけで、誠実の学校の男子生徒は兄の誠実を追いかけまわし、美奈穂とお近づきになろうと必死だった。

 もし、美奈穂が西星に入ってしまったら、そう考えると、美奈穂の事が心配になる誠実。

 何とか、他の学校に志望校を変えるように交渉する。


「か、考え直せよ! もったいないぜ、せっかく頭良いのに、西星はやめておけよ! せめて、2番目の北星(きたほし)なんてどうだ? 家からもそこまで離れてないぞ!」


「何よ、そんなに私と同じ学校は嫌なの?」


「い、いや…そういう訳じゃないが、俺はお前の為にだな……」


「まぁ、あれだけ可愛いクラスメイトの女の子と先輩とイチャイチャするのを邪魔されたくない気持ちもわかるけど、私は西星に行くから」


 ムキになる美奈穂に困り果てる誠実。

 このままでは、中学時代の頃のように、美奈穂にラブレターを渡す橋渡しにされてしまう。


「なぁ、なんで西星なんだ? 家が近い以外にも何かあるんじゃないか?」


 とりあえず、なぜ西星が良いのか聞いたうえで、説得を試みる誠実。

 しかし、美奈穂の決意は変わらず、顔を少しむすっとさせ、誠実に言う。


「おにぃが居るから」


「は?」


 そういうと、美奈穂は機嫌を悪くしたまま部屋に戻って行く。


「なんなんだ……はぁ、最近こんなんばっかだ」


 誠実はそういうと、シャワーを浴びる準備を整え、改めて洗面所に向かう。

 もう誰も居ないだろう、誠実はそう思い、洗面所のドアを開ける。


「ん? あぁ、誠実か」


「ぎゃぁぁぁ!!」


 ドアを開けた向こうには、全裸の誠実の親父がなぜかスクワットをしており、誠実は思わず叫んだ。

 男の裸、しかもおっさんである。

 あまり目に良いものではない。

 

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