第37話

「それで、誠実と山瀬さんはまだ戻ってこないのか?」


「そうだな、そろそろ戻ってきても、よさなもんだが……」


 話を聞いているうちに、いつの間にかそれなりに時間がたってしまった。

 誠実と綺凛がいつまでたっても戻ってこないので、3人は誠実と綺凛が消えていった路地の方に視線を向ける。


「もう10分くらいか?」


「なぁ、健よ。誠実の奴どんな顔で出てくんだろうな」


「あの雰囲気からして、誠実の喜ぶことじゃないのは確かだ。からかうのはやめよう、あいつは今まで真剣だったんだ、今回は流石にやりすぎた……」


「そうだな、あいつが今日、いつも通りだったんで、忘れてたが……昨日で一応、諦めるって決めてたんだよな……無理してたんだろうな」


 面白半分で誠実を尾行し、振られた相手まで連れてきてしまったことを反省する、健と武司。

 明日、ボーリングにでも誘って、励ましてやろう。

 そんな事を話していると、誠実が速足で戻って来た。


「せ、誠実……大丈夫か?」


 恐る恐る尋ねる武司。

 しかし、心配とは裏腹に、誠実は満面の笑みで3人に早口で言った。


「おう! 俺は大丈夫だぜ! じゃ! 俺、戻るからよ! 美奈穂から電話なりまくりでさ~、待たせるのもあれだからよ! じゃあ、お前らも早く帰れよ!」


「あ、おい! 誠実!!」


 誠実はそう言い終えると、今度はファミレスの方に足早に戻って行った。

 残された3人は一体何があったのか、不思議に思いながら、誠実の背なかを見送った。

 誠実がファミレスに戻って直ぐ、綺凛も戻って来た。


「……伊敷君は?」


「行っちゃったわ……綺凛」


「何?」


 戻って来た綺凛の顔は沈んでいた。

 悲し気な表情で、今にも泣きそうだった。

 そんな綺凛に、美沙は真剣な顔で話始める。


「綺凛がなんで伊敷君の告白に付き合い続けたのかわ知らない……でも、コレだけは言っておくね」


「どうかしたの?」


 美沙は、どこか覚悟を決めたような様子で、綺凛に話始める。


「私、伊敷君の事、入学した時から好きだったの」


「え……」


 綺凛はもちろん驚いた。

 美沙と綺凛は高校に入学して仲良くなり、まだあまり互いを良く知らない。

 綺凛と美沙はどこか気が合い、今まで仲良くしていた。

 しかし、美沙が誠実を好きだという事を話すのは始めてだった。


「入学式からずっと……それで、やっとチャンスがやって来た。綺凛は何とも思ってないんだよね? 伊敷君の事」


「……うん」


「私は綺凛が羨ましかった。伊敷君に毎日、好意を持って接してもらえて……」


 女の戦いが始まったと思い、武司と健は隅の方で小さくまとまっていた。

 美沙は真剣だった。

 対する綺凛は戸惑っていた。


「……なんで、今それを?」


「うん、やっと来たチャンスだから。私が伊敷君もらってもいいよね?」


「……えぇ……私は彼をなんとも思ってないから」


 そんな女の会話の脇で、健と武司はコソコソ話をする。


「決めるのは誠実じゃね?」


「いや、笹原ならわからん……意外と無理やり」


「でもよぉ~、他の3人もスペック高いぜ? それに比べて笹原はよぉ~」


「あぁ、普通だな」


 コソコソ話をしていた健と武司だったが、美沙に聞こえてしまったらしく、美沙が笑顔で2人の方を見て言う。


「そこの2人~、黙らないと、2人はホモだって女子生徒中に流すわよ~」


「「すいませんでした!! 黙ります!」」


 恐ろしいことを言われ、健と武司は黙って女の戦いを見守ることにした。


「綺凛がなんであそこまで付き合うのか、私は分からなかった……でもね、何回かの告白の時に、気がついたのよ。綺凛はどこか、伊敷君を利用してるんだなって……」


 美沙の表情は、真剣なままだった。

 一方の綺凛も沈んだ表情のままだった。

 美沙は綺凛を責めるのではなく、ただ単に自分の気持ちを話していた。


「まぁ、今日のあの言い方は少し酷かったかもしれないけど……これですっきり出来た?」


「えぇ……自分がどれだけ酷い人間だったか、よくわかったわ……」


「……そっか……じゃあ、次は無いように気を付けないとね……」


 綺凛を慰めるように、美沙はそういう。

 いつかは、こういう時が来る、それを綺凛も美沙も知っていた。

 しかし、きっかけが無かった。

 そんな時に、この状況がやってきた。

 美沙は良い機会だと思った、自分が誠実を好きだと打ち明けるのにも、綺凛が本当の事を打ち明けるのにも……。


「綺凛、これから私頑張るから……」


「えぇ……応援するわ……私が言えた立場じゃないけど……」


 お互いに、今までの隠し事を打ち明ける事が出来、少女2人はどこかスッキリした表情で言葉を交わす。

 綺凛は誠実に対して、申し訳ない気持ちで一杯だった。

 しかし、今まで隠していた事を彼に打ち明ける事ができ、体が軽くなるのを感じた。

 これで本当に誠実とは終わりだ、そう思うと綺凛はどこかで寂しさを感じた。


「あのぉ~、俺らも一応当事者なんで……」


「説明をしてほしい」


 先ほどまで、少し離れたところで小さくまとまっていた武司と健が、美里と綺凛に尋ねる。


「あ、ごめんごめん! そうだよね、2人も気になるよね! 綺凛、どうする?」


「良いわ、伊敷君の友達なら、知りたいと思うのも同然だもん……私がなんで彼の99回の告白を受け続けたか、教えるわ」


 健と武司は、ついに真相が知れると思うと、なんだかドキドキした。

 毎回毎回、誠実の告白を受けては、丁寧に断る。

 そんな彼女が、健と武司は不思議だった。

 30回か辺りからは「きっと優しい人なんだろう」と、2人は勝手に決めつけ、それ以降あまり気にしていなかったが、こうして改めて言われると、告った方もそうだが、告られた方も良く付き合ったものだと再確認する。

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