第34話



 美奈穂達、女性陣がファミレスで話を始めたちょうどその頃、誠実は尾行してきた綺凛を見て、とうとう幻覚を見るほどまでに、自分がやばい奴になり始めていると勘違いをしていた。

 綺凛と誠実以外の3人は、ファミレスの店内を凝視しており、誠実と綺凛の間には気まずい空気がながれていた。


「えっと……覗きと尾行が趣味なんですか?」


「違うわよ! この3人に無理やり……」


 昨日の家庭科室での一軒もあったため、まさかとは思い、誠実はそんな質問を綺凛にする。

 綺凛も勢いよく断ったが、そう思われても仕方ないのかもしれないと思い、申し訳なさそうに店内を凝視する3人を見ながら言う。


「ごめんなさい、この3人を止められなくて……」


「あぁ……大体事情は察したよ……」


 誠実と綺凛を放って、店内を見ながら何やら興奮気味に話をしている3人。

 誠実はため息を吐きながら、再び健と武司に尋ねる。


「んで、お前らはなんで俺を尾行なんかしてきたんだ?」


「なんかよ~、帰ろうと思って、校門前まで行ったら、誠実が美少女に囲まれてんじゃん。しかも遠目から山瀬さんがその様子を見てるなんて、そんな面白い状況に介入すんなって方が無理だぜ」


「武司の言う通りだ」


 楽しそうな声で、武司と健はファミレスを凝視したままそういう。

 誠実は、そんな自分の不幸を楽しんでいる2人に怒りが芽生えた。


「んで、君は誰?」


「ん、私? 私は綺凛の友達で、美沙。 笹原美沙よ、よろしくね~」


「おう、よろしく! ……じゃ無くて! なんで健と武司と一緒になって君までのぞき見してるの!?」


「私……昼ドラって好きなのよ……」


「うん……それで?」


「それだけよ……」


「意味わかんねーよ!」


 初対面にも関わらず、誠実は美沙の回答にイライラし、そんなツッコミをする。

 しかし、そんな機嫌の悪い誠実に、3人は逆に質問をする。


「大体、なんで振られた次の日に、あんな羨ましい状況になってんだよ、せっかく失恋パーティーしてやったのに」


「あぁ、武司の言う通り、全然悲しむ状況ではないな、むしろ前より状況は良くなって無いか?」


「確かに古沢君の言う通りね~、前は綺凛に付きまとうストーカーで、今は美少女3人に迫られる、プレイボーイだもんね~」


 3人にそんな事を言われ、誠実も黙っていられるはずもなく、さらに機嫌を悪くしながらも、あえて優しい口調で言う。


「そ、そうだなぁ~……でもその話は、ここではするなよ、お前ら~」


「あ、そうだ! 本人居たんだ……」


「すまん誠実。機嫌を直せ」


 誠実がマジで怒っていることに気が付いた、健と武司は直ぐに気が付き、誠実に謝罪するが、美沙はそうではなかった。


「なんで? 振られたんなら良いじゃんもう、2人から聞いたけど、諦めたんでしょ? 綺凛のこと」


「え……」


 美沙の言葉に驚いたのは綺凛だった。

 綺凛の居ないところで、健と武司はそのことを美沙にだけ伝えており、その場に居なかった綺凛はこの瞬間に初めて知ったのだ。


「……あぁ、そうだよ。でも、別に山瀬さんが居る場所で話すことじゃ……」


「大丈夫だって、綺凛はあんたの事、なんとも思ってないから!」


「美沙!」


 綺凛は美沙に大声を上げ、美沙の言葉を止める。

 言われた誠実は、昨日振られた以上のショックを受けた。

 やっぱりそうか、そう思いながら誠実は言葉を返す。


「知ってるよ。それに、悪かったとも思ってる。迷惑だっただろ? あんなにつきまとって……ごめん」


 誠実は綺凛に謝罪し、頭を下げる。

 しかし、綺凛はその謝罪を素直に受け取れ無かった。

 それは綺凛自身も誠実に告白を利用していた部分があるからだった。

 綺凛が何を言って良いのかわからずにいると、代わりに美沙が話し出した。


「本当だよね~、ほとんど毎日告って、やりすぎだよね~、普通3回目くらいで気が付こうよ」


「あぁ……そうだな」


「99回も告白してきたら、普通は引くって、なんでわからなかったのかな?」


「美沙! もういいでしょ、終わったことをあんまり言わないで……それにこれは私と彼の問題」


 綺凛は美沙に強い口調でそういった。

 しかし、美沙は言葉を止めない。


「綺凛、前も言ったけど、告白を本気で断りたいなら、これくらい言わなきゃだめだよ? 彼のためにも綺凛のためにもならない……それとも伊敷君を庇う理由でもあるの?」


 美沙に図星を付かれ、綺凛は何も言えなくなる。

 もう彼に本当の事を言ってしまった方が良いのだろうか? 綺凛はそう考えるが、なかなか口に出せない。

 その場に居た5人の空気は重くなり、すっかりファミレスの中のことなど、どうでも良くなっていた。


「そうね……彼には知る権利はあるわね……伊敷君。ちょっと2人っきりで話があるわ」


「え? う、うん」


 そういって、誠実と綺凛は奥の路地の方に姿消す。

 残った健と武司は、美沙のさっきの言葉の意味を尋ねる。


「……なにか知ってるんだな」


 先に尋ねたのは健だった。

 何かを見透かすように、美沙にそう尋ねると、美沙は少し笑って言う。


「うん……綺凛は隠せてるって思ってるだろうけど……私には無理だったみたいね……」


「じゃぁ……あんな風に誠実を馬鹿にしたのも?」


「そう、あの子に本当の事を言わせるため……だって可愛そうじゃない……自分の告白が利用されてたなんて……まぁ、綺凛もそうする以外の方法なんて思いつか無かったんでしょうけど……」


 さみしそうな視線を2人が消えていった路地に向けながら、美沙は優しく微笑む。

 健と武司は、先ほどまでとまるで態度の違う美沙に違和感を抱きながら、再び尋ねる。


「じゃあ、急に尾行に参加したのって……このためか?」


「うん、最初はチャンスがあれば、その機会を作れると思ったけど……こうも簡単にいくなんて……私って天才かも!」


 無理やり笑顔でそう言う美沙を見て、武司と健は何かを悟った。

 誠実が美少女に囲まれているところを尾行し、誠実に自分のおかしな行動の数々を思い出させると同時に、綺凛に誠実を振った本当の理由を明かさせる。

 この一連の流れが、美沙の計算ならば。健と武司はそう思うと、一つの答えにたどり着いた。


「まさかと思うが……笹原って……」


「うん、好きだよ。伊敷誠実君が……」


 その言葉に、健と武司は驚きを隠せなかった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る