第37話 プロ見習いは解説される


『では、この辺りで本予選の詳しい説明をしていきましょう!

《RISE》マギックエイジ・オンライン部門オンライン予選は、全7回戦のリーグ戦で行われます! 参加者128名のうち、好成績を残した上位16名が、後日東京の会場で行われる本戦――グランドファイナルへと招待される運びになります!』


 実況を務めるeスポーツキャスター・星空るるが、配信上ではきはきと説明を連ねていく。


『試合のルールは、2ラウンド先取を1セットとした3セットマッチのラスト・クラス・スタンディング制! これはいわゆる勝ち残り方式ですね!

 選手はセットごとに、事前に用意した2種類のスタイルから使用スタイルを選ぶことができますが、一度でも負けたスタイルはその試合では使用できなくなります! 互いのスタイルを潰し合い、先に相手スタイルをすべて負かした方の勝ちとなるわけです!』


『やろうと思えば、一方のスタイルのみで勝ち上がることもできるルールだ』


 星空るるの隣にいるサムライ風の男――解説のプロゲーマー・ホコノが、渋い声で言い添えた。


『だが、ぶつける相手を間違えば、せっかく強力なスタイルでも1勝とて挙げられずに退場してしまう可能性のある、恐ろしいルールでもあるだろう』


『そうですね! しかし、同じスタイルで勝ち続けることができる、ということにメリットを感じる選手も多いようですね』


『左様。たとえ敗北して追い詰められても、最後に残ったスタイルが自信のある得意戦法であるのなら、まだ逆転の目はある。心が折れないからだ。

 逆に同じスタイルで連勝することができたなら、その勢いに乗ってゆくこともできる。精神面がより大きな鍵を握るルール、と言うこともできるかもしれん』


『数々の名勝負を生んできた面白いルールです! ではルールの解説に戻ります!』


 ホコノが鷹揚に頷いた。


『細かいルールはランクマッチのそれにおおよそ準拠します! アイテム使用禁止。使用可能武器はレア度7まで。使用可能クラスは合計補正値8.5まで。レベルは50固定。魔法およびスキル熟練度は100・0固定。MP半減スタート。そして1ラウンド終わるごとに、勝者側は最大MPの4分の1、敗者側は3分の1、MPが回復します!

 異なるのは、まず1ラウンドの制限時間が120秒となること!

 そして、使ことです!

 これらについてどう思われますか、ホコノさん!』


『制限時間については、《バインドプリースト》や《TODランサー》といった、時間切れ勝ちを狙いやすいスタイルへの牽制だろう。最近の大会で増えているレギュレーションだ』


『やはりそういったスタイルは嫌われているんですかね?』


『無論そうだろう。だが今回の場合は、対策を持っていない際に対抗しにくいのも問題だ。

 勝ったスタイルをいくらでも使い続けられる以上、《バインドプリースト》や《TODランサー》への対策を持っていない相手に対しては非常に高い勝率を出せるはずだが、持っている相手には十中八九敗北を喫することになる。

 すなわち、組み合わせ相手によって勝率がブレすぎる。組み合わせという純然たる運要素によって、結果が左右されすぎるのだ。それを嫌ったのだろう』


『ゲームと運は切っても切り離せない関係とはいえ、程度の問題はあるということですね!

 では、スタイル公開についてはいかがでしょうか? 最初からすべて公開されるというルールはよくありますが……使用したスタイルのみというのはユニークですね。

 ちなみに公開されるのは、クラス、スキル構成、ステータス・ビルドの三つとなります。ショートカット構成と武器は含まれません!』


『出場者同士の情報戦を促しているのだろうな。ラスト・クラス・スタンディング制であれば、。無論、一つきりのスタイルで連勝を続けることができるならの話だが』


『使用スタイルと同様に、相手のどのスタイルと闘って勝ったのか、負けたのか、といった詳しい戦績も、選手が待機する対戦室のモニターで参照できるようになっております。

 スタイルそのものは事前登録制であるため今から変えることは不可能ですが、試合時のスタイル選択に大きな影響を及ぼしてくるであろうことは間違いないと思われます!

 ――おおっと!?』


 星空るるがカメラの手前を見て大仰に身を乗り出す。


『早くも1回戦が終わった選手が出始めた模様です! スタイル情報が公開されます! ホコノさん、注目したい選手はおられますか!?』


『そうだな……』


 無精髭の生えた顎に手をやりながら、着流しを着たサムライ風プロゲーマーは唸るような声で告げた。


『やはり、つい先日、ExPlayerSに所属していることが発表されたジンケ選手だろう。MAO歴わずか1ヶ月でゴッズランク1位というのは、普通ではない』


『コノメタ選手と同じチームですしね!』


『左様』


『では、ジンケ選手のスタイルを見てみましょう! 槍使いとして名を馳せる彼ですが、今回はどのような戦法を選択したのでしょうか!?』




【ジンケ:第一スタイル】


●クラス

《槍兵》

(補正内訳:

 HP↑ STR↑↑ DEX↑↑)


●スキル構成

《槍術》

《直感》

《受け流し》

《魔力吸収》

《フェアリー・メンテナンス》

《縮地》

《魔除けのルーン》


●ステータス(ポイント)

 HP:440(0)

 MP:276(16)

STR:936(500)

VIT:270(0)

AGI:462(150)

DEX:883(409)

MAT:285(5)

MDF:286(0)




『やはり十八番の《ブロークングングニル》! 来ましたねー、ホコノさん!』


『そも、彼はこのスタイルの発明者だ。持ち込んでくるのも当然と言えるだろう』


『しかも、公開されたスタイルは一つ! これは同じスタイルで2連勝したことを意味します! さすがと言うべきか! 話題のスーパールーキーの実力は、ランクマッチ以外でも発揮されるようです!

 解説のホコノさん。気になる点はいくつかあるのですが、まずは、MPに振られた16のステータス・ポイントにはどういった意味があるのでしょうか?』


『そもそも、MPには4ポイントだけ割り振るのが定石とされている。なぜならその方が無駄がないからだ』


『無駄がない、と言いますと?』


『レベル50換算で、無振り無補正――すなわち、ステータス・ポイントやクラス補正の影響をまったく受けていない状態の最大MPは、260。しかし、このままでは無駄がある。

 なぜなら、多くの大会やランクマッチで適用されるスタンダード・レギュレーションにおいては、ラウンドに勝利した際には4分の1、敗北した際には3分の1だけ、MPが回復するからだ。

 勝利した時には別に構わぬのだが、問題は敗北した時。

 


『端数が出てしまうんですね!』


『左様。端数になってしまった分が無駄になってしまうのだ。そのため、最大MPは4でも3でも割り切れる数――12の倍数にするのが望ましいとされている』


『ジンケ選手の場合は、無補正の16ポイントですから――276! 12の倍数ですね!

 しかし、一回り低い264に留めなかった理由はなんなのでしょうか? その分をクラス補正のあるHPやDEXに回しても良さそうなものですが』


『MP回復量の問題だろう。敗北時、MPが3分の1回復する時、最大MPが264であれば回復量は88。276では92となる』


『たった4ポイントの差ですが、その二つは違うのでしょうか?』


『まったく違う。なぜならば、《ブロークングングニル》は体技魔法を何度も使用しなければならないスタイルだからだ。

《ブロークングングニル》において使用される体技魔法は、その多くがMPを15消費する。

 ゆえに、回復量88ではそれらを5発しか撃てないが、92であれば6発放つことが可能となるのだ』


『たった4の違いで、体技魔法1発分の違いが出るのですね!』


『体技魔法を1発多く撃てるかどうか。《ブロークングングニル》はたったそれだけのことが勝敗を分ける繊細なスタイルである。さすがは開発者というところだろう。その点を深く理解したビルドと言えよう』


『では次に、スキル構成にあるこの《魔除けのルーン》ですが、これは確か、デバフに対して抵抗力を付けるスキルでしたね。

 デバフといえば《バインドプリースト》ですが、すでにお話しした通り、本大会は《バインドプリースト》に不利なルールとなっています。そんな中であえてデバフを対策しメタった理由とは?』


『《魔除けのルーン》にはMDFを上昇させる効果もある。《ダンシングマシンガンウィザード》などの魔法職系スタイルに対して強くし、スタイルのを広くしたという見方もできよう。

 それに――これは仮説だが』


『はい』


『未だ正体を現さぬもう一つのスタイルが、デバフに弱いのかもしれん。《ブロークングングニル》にその露払いをさせるため、デバフに対して強くしたのではあるまいか』


『おっと! これはプロから重要な見解が飛び出しましたね! 聞いてますか選手の皆さん!』


『むっ。これは失敬。選手に利する発言をしてしまったな』


『ほとんどの選手は試合中ですので、これを聞いているのはほんの一握りだろうとは思いますが! 配信をご覧の皆さんはできるだけ秘密にしてあげてくださいね(笑)

 さて! MAO歴わずか1ヶ月でゴッズランク1位を獲得したことで話題のジンケ選手! 彼が《ブロークングングニル》以外のスタイルで闘っている姿を、未だ誰も知りません!

 彗星の如く登場し、8月のMAOを席巻した《ブロークングングニル》! その生みの親たる彼が用意した新たなスタイルとは、一体どんなものなのでしょうか―――!?』

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