第11話 プロ見習いは先輩と親交を深める
「というわけで」
コノメタがソファーの上で体育座りをして自分の膝に顔を埋めた金髪ツインテール少女を紹介した。
「彼女が我がチームの誇る金髪エロリ美幼女、ニゲラちゃんだよーん! イエスロリータ、ノータッチ!」
「誰が金髪エロリ美幼女よHENTAIジャパニーズっ!!」
上がった顔はいまだに真っ赤で、なんだか申し訳ないことをした。
「なんか……ごめんな? お楽しみのところを覗いちまったみたいで……」
「おっ、おたっ、お楽しんでなんかいないわよっ! アタシはただ日課のコンボ練習をしてただけだし!」
「コンボ練習だって、ジンケ」
「夜のコンボ練習でもしてたのかね、リリィ」
「(……わたしは3日に1回くらいしてる)」
「ごぼごぼごほっ!!」
「うそ」
真顔で嘘をつくのも文脈ぶったぎってぶっこんでくるのもやめろ!
「わっ、悪かったわね、変な声で……! 地元じゃ何にも言われなかったのよっ……」
「地元?」
「ニゲラちゃんはイギリス人だよ」
コノメタがソファーの後ろからニゲラの肩を掴んだ。
「
「へー。そんなプロゲーマーもいるのか」
「日本も今やeスポーツ先進国だからねー。特にVRゲームの分野では」
フン、とニゲラは高飛車に鼻を鳴らした。
「思ったより低レベルだったけどね! あれほどたくさんの素晴らしいゲームを生み出してきた国なのに、どうしてニッポンの大人どもはどいつもこいつも目が死んでるのかしら! 生きてて全然楽しそうじゃない!」
「それは……」
経団連とかに言ってくれないかなあ?
「楽しそうにしている大人に子供は憧れるものよ! アナタもプロゲーマーを志すなら肝に銘じておくことね!」
それは箴言ってやつだとは思うが、ひとつ気になることがある。
「お前も子供じゃん」
「ア・タ・シ・は! 18歳よっ!! れっきとしたせ・い・じ・ん!」
「「えっ」」
ウッソだろ。オレらよりふたつも上? 中学生……どころか小学生に見えるんだが……。
「ロリアバターが好きなの?」
リリィが聞きにくいことをズバッと言った。
MAOのアバターは、一応、リアルの体格に拘わらず決められる。性別だけはリアルの肉体性別に準拠しなければならないが、背丈とかスタイルとかスタイルとかスタイルとか要するに胸の大きさとかは自由なのだ。隣に座ってるこいつみたいに。
あまりリアルと体格が違いすぎると操作感に違和感が出ることがあるので、アバターエディットの際に現実に近い体格にすることを推奨されるものの、リアルではむくつけき巨漢がゲーム内できゃるるんとしたショタだったりすることは珍しくない。
無論、リアルではまな板みたいな奴がGカップのナイスバディになってることも。
実例は一人しか知らないが。
だから、もしかしたらニゲラもロリが好きすぎて仕方なくて自分もロリになってみたかった系の人間かと思ったのだが――
「アナタたちと一緒にしないでくれる? ロリコンの国のロリコン人ども!!」
ロリコン人って。
そんな人種差別を受けたのは初めてだ。
「プロVRゲーマーはリアルとアバターに差を付けないものよ! 常識でしょう!?」
「えっ。じゃあマジで18歳でその体格なのかよ」
「すごい。リアル合法金髪ロリ。スクショ撮っていい?」
「ちょっ、やめるのだわ! 知っているのよアタシ! アタシの画像を勝手に
どこから得てるんだその日本知識は。
そんな陰険なイジメみてーなことしねえよ。
「大丈夫。安心してほしい。知り合いの同人作家にネタを提供するだけ」
「きゃーっ! ジャパニーズ・エロDOJIN!」
「煽るなリリィ」
真顔での悪ノリは素人には対処が難しい。
「ううっ……」
ニゲラは自分の胸をかき抱き、膝を持ち上げて、身体を隠すようにした。
「ほ、本当に大丈夫なの、コノメタ? アタシ、キズモノにされちゃわない?」
「えー? それは当事者の問題だよね。ハウス内ならともかく、その外でのプライベートには関知しないから」
まあ、とコノメタはオレの隣を指さした。
「ジンケ君は大丈夫なんじゃない? そこの銀髪巨乳っ娘で間に合ってるでしょ」
「間に合わせてます」
「しれっと肯定するな。ピースもするな。お前に間に合わせてもらったことなど3回くらいしかない」
「さ、3回はあるんじゃない!」
まあちょっと個人的にね?
「あー……とにかく、自己紹介が遅れたが」
オレはソファーに座る金髪少女に手を差し出した。
「ジンケだ。このたびEPSに入ることになった。よろしく頼むぜ、先輩」
「せ、センパイ……!!」
一瞬、目をキラキラっとさせたニゲラだったが、差し出したオレの手を見て表情を険しくした。
「……確か、その昔、ニッポンのアイドルの握手会とやらで、手にいかがわしい液体を塗りたくった男が――」
「……………………」
オレは無言で手のひらを合法金髪幼女の顔面にはりつけた。
「イヤーッ! 手で! 手で犯されるーっ!!」
「この脳内ピンク幼女! そんなにお望みならいくらでもくれてやる!」
「ジンケ、ジンケ。わたしにも」
閑話休題。
「そ……それで?」
ようやくピンクな被害妄想を収めたニゲラは、オレの隣にいるリリィに視線を移した。
「その男がEPSの新人なのはわかったわ。……どうやら、コノメタがそれを伝えるのを忘れていたらしいことも」
「いやはや面目ない」
たははー、とコノメタは笑う。
ニゲラがオレのことを知らない様子だったのは、そういうことらしい。
「《ジンケ》なんて名前、聞いたこともないけれど……コノメタが無名プレイヤーをスカウトしてくるのなんて今に始まったことじゃないし。……フン! 今度は何週間もつものかしらね!」
気になる言い振りだったが、その前にニゲラが言葉を続けた。
「それはわかったけど、よ。その
ニゲラが言っているのはリリィのことだ。
コノメタが「あー、それはね」と頬を掻く。
「彼女はバイト。主にハウスの雑用とか、その他諸々。いたほうが便利でしょ?」
「ふうん……。要するにハウスメイドね。ならちょっと頭が高いのではないかしらね! ひれ伏してパン買ってきなさい!」
「………………ジンケ」
「ん?」
「知り合いの同人作家にスクショ送って『この子でドロッドロのやつ一つ』って注文してもいい?」
「やめとけ」
「ひいいーっ!!」
そもそも誰なんだ、その知り合いの同人作家ってのは。
オレたちがわちゃわちゃやっている横で、コノメタが「うんうん」と頷いた。
「親交が深まってきたね」
「どこを見て言っているのかしら!?」
「そんなこと言わずにさぁー。いろいろ教えてあげてよ。ニゲラ先輩?」
ぴくっ――と、ニゲラが震えた気がした。
「……ま、まあ、教えてあげなくもないわ? 先輩だものね? 先輩の務めだものね?」
「そうそう。ほら、ジンケ君もお願いしよう!」
仕方ないな……。
「ごシドウごベンタツのホドよろしくおネガいしますニゲラセンパイ」
「ふふふふ! 仕方ないわね!」
棒読み全開の台詞に全力で引っかかった。
チョロい。
「じゃあ、まずはハウス内を案内してあげるわ! ついてきなさい!」
「わかりましたニゲラセンパイ」
立ち上がったニゲラにオレがついていくと、当然のようにリリィもくっついてくる。
それをコノメタが呼び止めた。
「ちょっと待った。リリィちゃんはこっちね」
「やだ」
「ジンケ君を悩殺するいい案があるって言ったら?」
「いく」
こいつ即決即断すぎない?
「じゃ、ニゲラ、悪いけど任せた。プロの何たるかを教えてあげて。先輩として」
「ええ! 先輩としてね!」
コノメタはリリィを連れて、リビングのすぐ横にある部屋に入っていった。何するつもりなんだ、あいつ。
「さあ、行くわよ後輩! まずは2階の個室から!」
「了解。ロリ先輩」
「ニゲラよ! ロリじゃない!」
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