オフライン最強の第六闘神
紙城境介
プロローグ 伝説は語られる
「お、おい……まだ勝ってるぞ……?」
2020年代前期。
諸々の事情からオンライン化が滞っていたVRゲームのメインステージは、街の片隅にひっそりと建つゲームセンターだった。
「マジかよ……何時間やってんだ……!?」
自前で高価なVRマシンを用意しなくてもいいことと、各社が次々に送り出したオフラインVR格闘ゲームのメガヒットにより、日本全国のゲームセンターは一時、30年前の活気を取り戻した。
「わかんねえ……俺が来たときにはもう……」
《ゲーセン・ルネッサンス》。
そんな言葉がネットニュースや雑誌の紙面に躍っていた時代。
その怪物は、そんな頃に現れた。
「にひゃくごじゅう……ろく連勝!?」
「ちげーよ……まだ1ラウンドも負けてねえんだよ、あいつ……!」
薄暗いゲームセンターの奥まった場所に設置された、公衆トイレのような巨大な筐体。
2台並んでいるうち、片方に次々と人が入っては、10分もしないうちに出てくる。
それがすでに数時間。
もう片方の筐体の扉は、決して開かない。
「おい……誰だよ、あそこに入ってんの……」
「知らねえ。ずっと出てこねえから……」
「もしかして……みんな顔も見てねえの……!?」
ランキング画面の頂点に君臨する、数字とアルファベット。
筐体の上のモニターに映った、対戦の中継映像。
そして、じかに相対した者が骨身に思い知った強さ。
それらだけが、筐体内の何者かについて知り得るすべてだった。
後に、伝説は語る。
そいつは、最低でも5時間もの間、筐体から一歩も出ることがなかった。
そいつは、285人ものプレイヤーを切って捨て、570ラウンドもの間、無敗でい続けた。
そいつは、結局、閉店時間になるまで筐体から出てくることはなく、誰一人、その顔すら見ることができなかった。
時代と時代の間に生まれた、束の間の夢のようなオフラインVR全盛期。
ゲーム史における特異点を彩った、孤高の最強伝説。
ランキングに刻まれた名は《JINK》。
未だ、その記録を破った者はなく。
未だ、そいつの正体を知る者はいない。
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