ダンジョンエレベーターガール

雪芝 哲

第1話

 エレベーターガールのわたしが、エレベーターごとダンジョンに飛ばされ、はや五年。

 今日もこのダンジョン、屋号『高島伊勢子』(わたしの名前)に客が訪れる。


「地下一階層、宝石、小物売り場となっております」


 語尾を強調し、自身の魔力を使ってエレベーターを停止させる。

『開』と書かれたボタンを押し、魔力で扉を開く。


「よう兄弟、おまえも魔石狙いか?」

「俺は小物目当てだ」


 二人の商人が売り場に向かった。

 冒険者たちが採掘したり、魔物を倒して手に入れる魔石。

 それをわたしが買い取り、商品として売っていた。

 ポーチや小物などは、死んだ冒険者たちの物を回収している。

 従業員としてゴブリンも雇っているので、売り場にわたしがいる必要もない。

 ゴブリンは三階層までに湧く魔物だ。

 だがわたしがフルボッコにしたすえ手なずけた。

 エレベーターを通す縦穴も、ゴブリンがせっせと掘ってくれた。


 てか、地下一階層に行くのに、エレベーターに乗らないでよね。

 階段があるでしょ、階段が!

 ともあれわたしは地下二階層へエレベーターを動かした。


「地下二階層、紳士服、婦人服売り場となっております」


 数人の冒険者が売り場に向かった。

 革鎧やローブ、主に衣服をここでは販売している。

 わたしが王都で仕入れたものだ。

 むろん、死んだ冒険者の衣服を回収し、販売もする。

 買いに行く手間がはぶけると、冒険者たちも重宝しているらしい。

 次は地下三階層だ。


「地下三階層、武器売り場となっております」

「さてと仕事仕事」


 一人の商人がフロアに向かった。

 彼は今日、お買い得な商品を目にすることだろう。

 昨日地下十五階層で死んだ、冒険者アラン。

 彼の武器である魔剣をわたしが回収した。

 高値で売れるだろうが、お買い得商品もたまには置いておく。

 ちなみにアランは、ジャイアントスパイダーによって殺された。

 パーティーを組まなかった彼の失策と言えるわね。


「地下四階層、おもちゃ売り場となっております」

「お、降ります……」


 冒険者でも商人でもない、若妻と思われる女性が売り場に向かった。

 紅葉したように頬を染め、彼女はモジモジした様子。

 振動魔石をはめ込んで制作した、太っとい――。

 いやいや、朝からわたしはなにを考えているの。

 てか、朝からそんなものを買いに来たあの女性がどうかしてるわ。

 わたしは大人のおもちゃ売り場から下層へ向かう。


「地下五階層、酒場となっております」


 まだ早朝だし誰も降りる者はいなかった。

 夕方には、下層から集まる冒険者たちで賑わうことだろう。

 わたしも仕事が終わればここでお酒を飲む。

 独身アラフォーのエレベーターガール。

 お酒を飲んでやさぐれたっていいでしょ!

 次は地下六階層っと。


「地下六階層、宿屋となっております」


 扉を開けると、二人の冒険者がエレベーターに乗り込んだ。

 彼らはこれから下層へ向かうのだ。

 エレベーターの中には、冒険者が六名。

 商人はもういない。

 ここから下層は冒険者たちの聖域よ。


「よう、姉ちゃん。地下十階層まで頼むわ」

「はい、招致いたしました」


 姉ちゃんと呼ばれ、わたしは内心ほくそ笑む。

 彼には今夜、一杯ごちそうしちゃおうかしら?

 わ、た、し、ご、と。

 ウフ。


「ボクたちは、地下二十二階層までおねがいします」

「招致いたしました」


 五名のパーティーが、ファイアードラゴン討伐に向かうらしい。

 地下二十二階層のレイドボス。

 彼らの実力を鑑みるに、たぶん負けるわね。

 まあその高そうな剣や杖はわたしが回収してあげる。


 その後、エレベーターでダンジョンの階層を行き来し、夕方となった。

 わたしの仕事もこれで終わり。

 でもお酒を飲むにはまだ早い。

 いったん、わたし専用の居住区まで行くことにする。


「地下百階層、ラスボスのフロアとなります」


 誰もいないがあえて声を出し、わたしはニヤリと口元を上げる。

 封印されし魔王、ガルベロスはわたしが倒した。

 そのラスボスのフロアがわたしの居住区だ。

 新たな魔王を倒す冒険者は、しばらくあらわれそうにない。

 それまでこうして仕事を続けよう。

 だってわたしはエレベーターガールなのだから。


                              (了)

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ダンジョンエレベーターガール 雪芝 哲 @yukisibatetu

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