犬規則ー万匹殺しは、異世界で境界屋を営むー

六輝ガラン

第1話 境界屋初陣-1 

 それは、至高の一振りだった。


 辺境の村で、幼子は、朧気に自分の運命を悟った。誰かが言ったその剣は勇者の証だと。

 山岳地帯に済む少女は、その光景を瞳に焼き付けた。闇夜を割いた一筋の光は、部族間の争いを終結させた。

 暗がりを歩き、人を憎んだ吸血の鬼は、価値観を砕かれた。


 ――――


 それは明確な拒絶だった。剣の形をした渾身の一撃は、消滅の因果律へと彼を誘った。絶望に打ちひしがれた亡者を救ったのは、異世界より召喚された勇者だった。



 月日は流れ、『世界樹大戦ツリーエンド』の口火は切られた。落葉の主ブルーリーフと呼ばれた参加者たちが己の願いをかけた闘争。勝者はたった一人――。


【正しい魔神の殺し方】著 ギャンブルデブリ


「いや、いや走るのはぇよ。こちとら絶賛貫かれ中なんだぞ」

「あと三本打ち込めば終了ですわ。それにしても、深窓の令嬢たるワタクシに負けるなんて、お笑いですわね」

 金髪縦ロールを揺らしながら少女は死地を駆け抜ける。


 そこは普通の高校だった。平凡な少年の在りようが少女を惹きつけて離さない。少しだけ特殊な人間模様。少年少女は青い春を謳歌していた。


 とある令嬢は、どこまでも冷静に自己分析を重ねていた。三位と四位の間を行ききする現状。それでも満足していた。そして、自覚した、この甘く時に痛みを与える時間は何物にも代えがたいと。


 加護の中の平和。一寸先は死が群生している。どんな代償を支払っても、繋ぎ止めたい命。少女は、猿神に願った。


【負け犬令嬢の学園ラブコメ攻略日記】著 負け犬令嬢


「このままでは全滅必至だな。さて、どうしたものか」

 黒髪を靡かせながら、美女は笑う。


 彼女はただ物語が好きだった。寂しさを、押しつぶされそうな不安を紛らわすため空想の世界に想いを馳せた。


 発現した能力は、どこまでも残酷で、唯一の楽しみを奪い去った。彼女は、人の身にあまる能力を憎んだ。そして、超異能力協会ブラックボックスで同胞に出会い。そして……犬に出会った。


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「少し時間を稼げるか?」

「まあ、何とかしてみるがねぇ」

「それは、心強い」

  無精髭が似合う精悍なアラサーは、決意を固める。視線の先映るのは、巨大な生物――ドラゴン。獰猛な牙にかぎ爪を備えた幻想種。


 運命は覆えらない。先祖が続けたことを次世代に繋ぐ。それこそが使命。

 冥道市――そこは古き神々が住まう特異点。神から土地を簒奪する家業。

 そこから派生した道司ロードマスター達が、鎬を削る。そんな現状を無価値であると切り捨ててしまえるのは歳を重ねてしまったからだろうか。

【とある道司の憂鬱】著 暴走武者


『もう少しでゴールだ。はぁ、はぁ』

 否日常に心を焼かれた青年は、ただ前に手を伸ばす。

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