二章 28 因縁の相手

─朱姫視点─



私はルシーリアに一歩出遅れる形で黒装束の敵と相対した

仕方がないから一番手強そうなのはルシーリアにくれてやろう



その代わり、敵は完膚なきまでに叩き潰す



私はあるじから借り受けた刀紅時雨べにしぐれの鞘を一撫ですると鞘から抜き放つ

よろしく頼むぞ相棒よ…



しかしこのまま暴れるのは周りに被害が大きすぎる

特にこの大樹は……

その時、ルシーリアがイルフリーデとベアトリスに結界を張れと言っているのを耳にする



なるほど、結界か

それも良さそうだ



私は大樹に視線を向ける

すると大樹は私の視線に気付き・・・・・・・・枝葉を少し揺らした



「なっ…!?」



目以外は覆っていて分かりづらいが敵が驚いた様子が見て取れた

それもそのはず、私と敵は丸い球状の空間に閉じ込められてしまったからだ

外から見ていた仲間も恐らく驚いたろうが、主がいるから大丈夫であろう



ほんとに一瞬の事だったので敵も動き出す暇ははかったようだ

相変わらずあるじ並に飛び抜けているな、────よ



一瞬の驚きの様子を見せた敵だったが、すぐに把握したのか落ち着きを取り戻している

閉じ込められた中は草原だ

視界一面に広がる緑が風が吹くたびにザザーと音を奏でる

私の好きな場所で嬉しいぞ────よ

そして一緒に閉じ込められた敵だが、双眸は私を見据えている



【随分と余裕そうな感じじゃのぅ?】

「……………貴様…の……存在は……知って…いる」



普通の忍はあまり黙して語らない

だが、こやつといい主と相対している忍といい、そこそこ喋る

若干舌っ足らずな感じだが…



「ほぅ、私を噂程度には聴いたことがあるか…」

「………武神…ヴァイ……シュ…ラ…ヴァナ……先の…ラグアニアの……戦い…から………エルエリア…大陸……魔王…ボルガ……の…戦い……まで……情報…は……既に…手に……入れてい…る」



噂ではなく、見聞きした情報と言うことか

しかし…



「ほぅ、それだけの情報で私の全てをわかったと…?」

「……多少の誤差…は、想定…内……だ」



そろそろ話疲れたのかそれとも飽きたのか、敵がこちらに仕掛けてきた

予想以上の速さじゃが…



距離を半分程詰めたくらいで、敵が両手に持つクナイをこちらに投げつけてくる

若干の時間差を付けた面倒臭い攻撃…

と同時にスピードを上げて投げつけたクナイに追いつくような速さに私は驚いた



ほぅ…まだ全力ではない、か?



敵がクナイに追いつく前に私は紅時雨を抜き放つと間合いに入った飛び来るクナイを最小の動きで払う

キン、キィンと二つ金属音が響き、クナイは地面に落ちる



それを見た私は一瞬驚きに固まる…



【む…】



その隙を狙ったのか、敵は瞬時に私の背後へと移動していた

両手には新しいクナイが握られている

それが振り下ろされるや私は横に回避する



今度は敵が驚き固まる番だった

これくらいで驚いていてどうする…



私は敵がしたのと同じように背後に回り込むと紅時雨のを敵に叩きつける



【!?】



ゴッという肩辺りを打つ鈍い音が聞こえる

しかし敵は意に返さずに振り向きざまにクナイを振るってきた

私はそれをで受けるとちょっとした鍔迫り合いみたくなる



【貴様、痛覚を遮断しているのか…もしくは薬…】

「………」



敵は返事をもう片方のクナイで返してきた

それを私は紅時雨の鞘で受け止める



【だんまりか…どっちにしろ……】



私は両方のクナイを弾くようにして間合いを数歩空け刀を鞘へ仕舞う

右手は柄に添えている



【私には関係、ない!】



地面を踏みしめ、低い姿勢で瞬時に間合いをゼロにすると鞘に収めていた刀を抜き放つ

所謂居合斬り、である



【……!】



流石に敵はわかっていたのか咄嗟にクナイで防御する、しかし



キィィン



「!?」

【愚かな…】



かざしたクナイごと斬り裂き、胴を凪いだ

クナイのせいで狙いと威力が弱まったのか完全には分断できなかった

しかし傷は浅くはなく、そのままでは出血多量でどの道死ぬが…

敵は完全に動きが止まる



ならば…と振り抜いた回転力をもって左手の鞘をバックハンドの如く叩きつける



しかしこれは右手のクナイに防がれた



【いくら痛覚がないとは言え、そのままでは出血多量で時期に死ぬ】



再び間合いを開けた私だが、敵はその場から動いていない

かといって攻撃する様子もないし、さらに左手首から先はない



すると何を思ったか、残った右手のクナイがスルリと掌から落ちる



【何を…】



一瞬訝しむ私に敵は右手を懐につっこんだ

警戒する私を嘲笑うかのように取り出した物は武器ではなかった

しかし私は背筋が薄ら寒くなる感覚に襲われた

右手に握られているのはピンポン玉くらいの黒い球体だった



それはまさか…

悪い予感が頭を過ぎると私は全力で敵に突っ込んだ



しかし間に合わずに敵は黒い球体をいとも簡単に割ってしまった

瞬間黒い瘴気が噴き出し辺りに広がる



私は攻撃を中断して再び少し間合いを開けた



敵が私に笑みを向けた気がしたが、すぐに黒い瘴気に覆われて見えなくなる

笑みではなく愉悦の表情だった



待ってる間も惜しく、渦巻いている瘴気に斬りかかろうと思ったが短時間で瘴気はすぐに収まった



【……!?】



黒装束を着た体型にはさほど変化はない

若干痩せたと感じるくらいだが、目はやはり深紅に変わっており頭巾からは小さい角が左右から突き出ている

切り落した左手も再生しているか…

さらに…



【翼…だと……!?】



背中からは漆黒の翼が見えた…

あるじからの情報では翼が生えていたとは聞いていない

ならあの黒い球体の…瘴気を吸い取った魔族の姿を反映しているのか…

もしくは使い手が何か関係しているのか…

情報は少なすぎて判断出来ない

そもそも



【私は深く考えるのは性にあわないのだ】



深く考えるのをやめ、刀を正眼に構える

相手より、まずはこの刀に慣れねばいかんな…

最初のクナイを弾いた時、地面に落ちたクナイは綺麗に二つに断たれていた

もしやと思ってもう一度試した

もはや確信に近かったが今度は居合斬りをやって悟った



バカあるじよ、斬れすぎるにも程があるぞ

どこが予備の刀じゃ…

この様子だと狐太郎に渡した姉妹刀と言っていた叢時雨むらしぐれも何かありそうじゃな…



瘴気をすべて吸収し終えた敵を油断なく見据え色々と思案している、と



「……考え…事……とは、随分……余裕…だ……な………」

【…!?】



敵の言葉にハッと我に返ると、すでに目の前に敵が迫ってきていた

翼を使い加速させたのか…



【速い…】



敵は指先から伸びた?爪を剣の形にした武器を振るう

剣と腕が一体化しているような武器で恐らく強度もあるだろう

一体化していると言うことで魔力、或いは瘴気を込めているはずだ

魔力を込めた武器は得てして強力無比で頑丈だ

使い手の魔力にもよるところが大きいが、魔族の魔力は人間に比べて膨大である





それを紅時雨で弾かずに、なるべく体術のみでかわす

速さは…早いが些かその速さを敵はものにしてない感じがするな



ぶっつけ本番でやっている?

時期に慣れてくるとやっかいだな…



私は敵の斬撃を右に左にかわしながら作戦を考える

翼は畳まれており先程程の速さはない

接近戦で翼は邪魔になる

狙われやすいからな

敵が武器を振り下ろす、それを右に避けてかわす

すると一瞬敵の表情が歪む

いや、ニヤリと笑った…が正しいか



無手だった左手にも剣を生み出した敵は完全に私の虚をついた…



【甘いわ!】



横凪に首を狙った一撃を私はしゃがんでやり過ごすと起き上がりざまに刀を逆袈裟斬りに斬りあげる

威力はそこまで込めていない、牽制程度だ

しかしこれは余裕で防がれた



ギャリィィィンと金属が擦れ合う耳障りな音を響かせる



さすがに魔力と瘴気を込めた剣は斬れなかったか

おかしい話だが、正直ホッとした

あまり斬れ過ぎる、上質な武器を持つと武器に頼った戦い方になる

そしてそれが自分の力だと過信する



若い人間によくあることだ

道具に頼るのはいい、しかし頼りすぎるな

あのバカあるじが昔よくいっていた



依存しすぎるなと



目の前の魔族化した男もそうなのだろうか



弾かれた刀を再び振るいながら思案する

力を欲して道を誤るのもよくあることだと



そしてこの男の目からは狂気の色が見て取れる

力に溺れたか…



心臓目掛けて振るわれる斬撃を迎え撃つ形で刀を力を込めて・・・・・振るう



ギーーギンっ



【──!?】



鍔迫り合ったのはごく一瞬、刀は剣の刃に食い込み………いとも容易く断ち切った

呆気に取られる敵…正直私も一瞬驚いた

無意識に刀に魔力を込めてしまったのだが、問題はその切れ味だ

この紅時雨は……



再び思考の渦に巻き込まれそうになるが、敵が残ったもう片方の剣を横凪に振るってくるのが見えて慌てて左手に持った鞘で受け止める



先程とは一転し、敵は苛烈に攻め立ててくる

右手にある半ば断ち切られた剣を振り上げ……



【!?】



ーギィンー



瞠目し慌てて刀で斬撃を防いだ

剣が再生している…?



敵は剣をぶつけ合った状態からさらに押し込もうとグイグイと力を込めてくる

先程とは違った力強い攻撃に面食らい、敵の顔を見てハッとした



【まさか…】



目の挙動がおかしい…



「ああ、ある程度攻撃したらダメージの蓄積からか自我が喰われかけてた。行動も魔獣じみてきてたし、目の瞳孔もおかしかった。ほっておけば滅びの魔族化してたかもしれない」



私は主の言葉を思い出した



【滅びの魔族化…】

「………ぐっ…」



敵は小さ呻くと力で鍔迫り合いの力が一瞬緩んだ

それを私は利用し、武器を弾くようにかち上げて間合いを開ける



敵は両手で頭を押さえていて、苦しそうにしている



何故?そこまでダメージは与えていない

それとも魔族化した時間?

チャンスなのだが、私は思考の渦に巻き込まれ攻撃を出来ずにいた…

すると敵の体から瘴気がゆっくり立ち上るのが見えたから



「…あ……ああ…」

【?】



なんだ、と思った瞬間…



「ああああああああああああああああああああああああああああああ」



突如敵が叫び出した

その絶叫は隔離した空間をビリビリと揺るがす

そして敵の体から再び瘴気が吹き出した



【くっ…】



竜巻の如く瘴気が敵を取り巻き近づくに近付けない

そして一際瘴気が大きくなったと思ったら、辺りに渦巻いていた瘴気が瞬時に消えた

同時に私は背筋がうすら寒くなるのを感じた



【……ま、まさか………】



私の鼓動が早くなる

目の前には敵の姿



しかしそれは以前の黒装束を纏った敵ではなかった



【子供の姿……】



その子供はどこにでもいる格好をしていた

髪は黒髪、肌も普通の人間と変わらない色をし、どこから見ても街に住んでいる子供と同じ外見だった

成人すればさぞモテるであろう容姿は、中性的で男とも女とも見て取れる

子供は自分の手や足を眺めては、色々動かしている

体の動きを試すように…



そしてその表情は純新無垢な子供のそれではない



「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは──」



急に狂ったように笑い声を上げる子供を私は呆然と見ていた

ひとしきり笑ったあと、私の視線を感じてか子供はピタリと笑うのをやめてこちらに顔を向ける



「あぁ、人がいたんだね。まったく気づかなかったよ。久しぶりの外の空気は美味しくてつい。あはははは」



声色も子供特有の声変わりをする前の若干高めの声

だが普通に喋ってるつもりなのだろうが内には狂気を孕んでいるのを私は知っている



「あははははは、ん?君…もしかして朱姫?」



子供が紡いだ私の名だが、寒気を覚えた



【……嫌な奴が出てきおったな…】

「え!?本物?ほんとのほんとに朱姫?」

【そういう貴様は本当にアティリオか…】



私が発した名前に一瞬驚くもすぐに満面の笑みに変わり…



「あは、本当に朱姫なんだね──」



笑顔を浮かべたアティリオの姿がブレて消える

途端に目の前に現れたアティリオは笑顔のまま強烈な抜き手を心臓目掛けて繰り出してきた



【!?くっ…】



咄嗟に体を捻り抜き手をかわす



「あはははは、本当に朱姫だね。僕の攻撃をかわすんだもん」



アティリオはかわされた瞬間驚くが、すぐに笑みを浮かべてもう片方の手を横に払う



ギィィン



【っく…】



かろうじて防いだ一撃だが、大きく後方に飛ばされる



「これも防ぐとか。朱姫決定だね」



アティリオは追撃はせずに両手を頭の後ろで組むと嬉しそうに話す



【何故貴様がここに…】

「?さぁ、気づいたらココにいたからわからないな。でもきっと贄になった人間と波長が合ったんじゃないかな」



媒体となった本体のダメージは関係ないのか…?

もしくは時間…封じられていた魔族の強さ…



頭の中で思考するもやはり結論は出ない

その間もアティリオは饒舌に話し続けているが、私の刀に視線を移すと動きが止まる



「あれ、それ一文字じゃないね?」



私が手に持つ刀を一瞥し首を傾げる

今持つ刀は愛刀の朱姫一文字ではない



「ねぇ、どうしたの?なんで一文字じゃないの?」



無垢な子供が質問するようにアティリオも疑問に思った事を質問してくる



【貴様には関係ない】

「あ、ひどいなぁ。もしかして僕が昔に折ったまま?……ってわけじゃないよねぇ…朱姫の主いないし…って事はあれから百年以上は経ってるって事でしょ?人間は百年以上生きられないもんね」



アティリオは辺りを見回しながら気配を探っていた様子だったがこの場には私しかいない

無論隔離されているので外の気配はわからないが、私はアティリオがホッとした表情を作ったのを見逃さなかった

恐らく無意識だろうが…



【百年以上はゆうに経っているぞ】

「だよね。じゃあ一文字は修復不可能だったんだね。まぁあの時代の鍛冶レベルじゃ無理もないと思うけど。朱姫の主がいないんじゃ直せないもんねー」



昔からそうだったが、本当によく喋る奴じゃ…



「あれ?でもそうしたら朱姫は誰に召喚されたの?主はいないのに…主の子孫とか?」

【教えると思うか?】

「んー、別にいいや。だって──」



首を横に傾けながら思案する仕草をとっていた、と思ったら再び姿が消える

そして再び私の眼前に出現した…



「すべて僕が殺しちゃうから関係ないよね」



笑顔でそう言いながら同じように抜き手を繰り出してくる

しかし私はそれを読んでいた

魔力を込めた紅時雨を下から上へ斬りあげる



─ザクッ─



「あれ…?」



あっさりと肘から先を切断した私にアティリオは間の抜けた声を上げる



【ふっ!】



その間を逃さずに斬りあげた紅時雨を振り下ろす



「おっと…」



しかしアティリオは後方に飛び、斬撃をかわす



「あ…」



飛び退りながら、残っている手で前髪を触っている



「髪も少し持ってかれた。その刀、一文字より斬れるんじゃないの?僕の腕も髪も斬ったよ。どこから手に入れたのさ」



再び疑問をぶつけてくるので私は先程と同じ答えを言う



【教えると思うか?】

「むー」



私の言葉にアティリオは口を尖らせる

その仕草は子供で…私は若干戸惑う

昔からこいつは変わらない

子供の格好で無邪気に楽しそうに笑いながら人を殺す…



アティリオは不機嫌な表情をしながら斬られた腕を上下に振るう



するとどんな魔術か斬られた腕が元に戻っていた

魔族の再生とは違うようだが…



「あはは、このタネが知りたい?でも教えてあげない」



再び腕を上下に振ると手に私と同じような刀が握られていた

アティリオはそれを鞘から抜くと刀身を見る



「うーん、この時代もまだ鍛冶はそこまで発達してないのかな…これ、朱姫の持ってる刀の完全に劣化版だよね。まがい物?」



刀の刃に添えていた指からは赤い血が一筋流れるが、それをアティリオはこぼれ落ちる前に口に入れてチューっと吸っている



「でもいっか。切れ味や強度は僕が魔力でコーティングすればいいんだもんね」



指を口から出すと人差し指と中指を刀の刀身に添うように撫で付ける

すると銀色だった刀の刀身が徐々に黒く染まる



「……うん、こんなもんかな」



満足したように頷くと黒く染まった刀を軽く振るう



「よし、これで大丈夫。もう簡単に斬られないよ」



そう笑顔で笑うとアティリオは私に向かって凄まじい速さで掛けてくる

もう先程の瞬間移動のようなものは辞めたようだ



【それはどうかな…】



私は紅時雨に魔力を込めて迎え撃つ



「あはは、楽しみ。昔よくこうして殺し合いっこしたよねー」

【ごっこ、ではない。私は常に貴様を殺す気持ちでいたぞ】

「あは」



間合いに入ったアティリオは笑顔のまま黒い刀を力任せに上から振り下ろした

受けようと刀を水平にした時、私は嫌な予感が走り、咄嗟に紅時雨に魔力を通わせる



─ギンっ─



【くっ…】



子供のくせになんという力だ…

さらにアティリオの黒い刀から瘴気がこちらに吹き出してきていたが、魔力を通わせた紅時雨が紅く薄く明滅する度瘴気を散らしている



「へぇ、よく防げたね。さすが朱姫。普通に受けていたら刀事斬れたんだけど」

【ふん、貴様のやり口はわかっている】



私は自分の魔力の性質をうまく使い、近づく瘴気を浄化させている



こいつが必ず何か仕掛けてくる時には裏がある

二手、或いは三手と…

子供の外見だが狡猾であざとい



主と一緒に戦った時は苦労した

あの時は…

いや、今は私一人でなんとかする



「ねえねえ、何考えてるの?」



鍔迫り合いの刀をグイグイ押し込みながら無邪気に問うアティリオ



【貴様を倒す方法だ】

「あは、それは無理じゃないかな?どんな奴が召喚主か知らないけど、並の魔力量じゃダメでしょ」



ググッと力を込めてくるのを私は耐える



「朱姫の欠点はその燃費の悪さだよね。並の魔力量の持ち主じゃ本気だせないし、長時間ここに留まれない。覚えてる?僕を倒した時の事を」

【忘れた】



ぶっきらぼうに返答する私にアティリオは一瞬無表情になるも、すぐに笑顔を取り戻す

しかしその声音は先程とは違い無邪気に遠く、底冷えする声音だった



「なら思い出させてあげるよ。あの日…朱姫はあの白い[滅びを滅ぼす者]リロイと一緒に何十時間も僕と戦い続けてようやく僕を追い払う・・・・事ができた」

【そうだったか?】



私の素っ気ない返事にイラッときたのか、物凄い力で押してくるアティリオに私は耐えるので精一杯になる



「わかるかな?滅びを滅ぼす者リロイと朱姫が揃っても僕一人を滅する事ができなかったんだ」



自分で言った言葉に気分を良くしたのかさらにしゃべり続ける



「そして今は朱姫は本気出せないでしょ?どこの誰かわからないけど、滅びを滅ぼす者リロイよりも上な契約者なんていないよ」

【そんな事はない】



遠まわしに主を褒めた事に驚きと、少しの嬉しさを内に秘め、私はアティリオの言葉を否定する

そこで頭に浮かんだのは狐太郎だ



弟子はいつか師匠を越えるもの

主の言葉だ

私もそうあって欲しいと思う

否、主を越えれるのは狐太郎以外いないであろう

この先永遠に…



【主を超えうる素質を持つ者はいる】

「じゃあ本気見せてよ。それで証明してみせて」

【……よかろう。後悔するでないぞ】



そう言うと私は文言を唱えた…













主の魔力を使って兜跋毘沙門天になるのはいつぶりだろうか…



流れてくる魔力が心地よい

あのバカ主は表向き面倒くさがりでちゃらんぽらんだが、その実周りをよく見ている

この魔力も私に合わせ、力を十全に発揮できるように無駄が一切ない

他者に気を使う事は人一倍なくせに自分の事となると疎かにする

何度文句をいったかわからない…

思い出してたら腹がたってきたので、戻ったら再び説教する事に決めた





私は細部まで魔力が行き渡るように私は神経を集中させる



主よ、今一度魔力を借り受ける

滅びの魔族・・・・・、アティリオを滅ぼさんが為に




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