二章 5 vs魔族(船上戦)

カミラに案内してもらった部屋は想像よりも広かった

船内と言う事もあり二段ベッドが乱立するたこ部屋みたいのを想像していたのだが

といっても8畳程の部屋に二段ベッドが3つあれば圧迫感が凄い

狐太郎達はベッドに座りながら騒ぎが収まるのを待っている感じだ

唯一付いている丸窓も、現在は外が見えないようにされている

万が一見られないようにとの事だ


カミラは狐太郎達を案内した後どこかに行ってしまった

おそらくレイラの所だろう


「まぁそのサンバロとか言う貴族の事は、今回の事が終わったら調べればいいさ」

「無論そのつもりだ」


レフィルの言葉に幾分元気を取り戻したミレリアだが未だに貴族が悪さをしてると言う事が信じられないのか難しい顔をしている


貴族に良い印象を持ってない狐太郎や朱姫は平然としており、レフィルやヴァージルなどはあまり貴族に関わる事はないのでピンと来てない


「フリッグ侯爵みたいないい貴族もいるんだし、悲観的にならなくてもいいんじゃない?むしろ後々手遅れになる前に発覚しなくて良かったじゃない」

「・・うむ、そうだな。リリアの言う通りだ」


ミレリアはリリアのフォローで再び立ち直る




しばらくすると喧騒が収まり、船の揺れも次第に穏やかになっていく

そして廊下から足音が聞こえてくると、不意に扉がガチャりと開いた


「ふぅ、ようやく巻けたよ。ほんとしつこいったらありゃしない」

「おい、ノックぐらいしろ」


ズカズカと部屋に入ってくるレイラにヴァージルは文句を言う


「まだ寝てないだろうと思ってさ」


まったく悪びれもせずにいうレイラにヴァージルは毒気を抜かれた様子


「ま、これでもう追っ手の心配はないよ。流石に夜も遅いから詳しい話は明日にしようか」


軽く欠伸をしながら言うレイラも眠そうで、狐太郎達にも異論はなかった


「それと悪いけどこの部屋で我慢しとくれ。部屋を割る余裕なくてね」

「その辺はわかっている」

「話が早くて助かるよ」

「他に何かあるか?」

「いや、こっちはないね。そっちは何か要望とかあるかい?」


レイラの言葉に首を横に振る狐太郎達


「それじゃ明日朝の朝食の時間になったら使いを寄越すから、それまでゆっくりしていておくれ」


そう言うとレイラは部屋を出ていった


「それじゃ俺達も休むか」









~翌朝~


狐太郎はむくりと布団から起き上がる

部屋は薄暗く、朝かどうかもわからないが丸窓のに掛かるカーテンの隙間から光が差し込んで来ているので、少なくとも夜は明けているようだ


「おはようコタロー君」


声の方を向くとベッドに腰掛けたレフィルがいた

ヴァージルも起きているようでベッドが空になっていた


『おはようございますレフィルさん』


ちなみに下のベッドは男性陣が寝ることになった

下なら何かあってもすぐに動けるだろうと言うことだが、女性陣は特にミレリアはこういった部屋で寝るのは初めてらしく、さらに寝姿を見られたくないと言う事で上のベッドに率先して移動していた

ミレリアのベッドには自分でこさえたのかカーテンのような仕切りがされていた


「む、起きたかコタロー」


丁度その時ヴァージルが部屋に戻ってきた


『みんな早起きですね』

「そりゃ冒険者は朝が早いからね。職業病だよ」

【む、もう朝か】


狐太郎の上から声が降ってくる


『おはよう朱姫』


狐太郎が声を掛けると上からスルスルと降りてきた

いつもの革鎧はもちろん寝るときは外しているので、今は体にフィットしたスエットスーツのようなもの1枚である

それが朱姫のメリハリある体をさらに舐めかましく見せている

男性陣には朝から目に毒だった


朱姫が降りた音で、ミレリアとリリアも目が覚めたようだが、ミレリアはカーテン越しなのでわからない

ゴソゴソしているから起きてはいるのだろう


対するリリアは上半身を起こしたがボーッとしている

普段は縛られている髪も寝るときは解いているようで、あちこち寝癖が跳ねている


先にミレリアが準備が終わったのか降りてきて、しばらくしてリリアが降りたタイミングで扉がノックされた

なんというタイミング、外で待機していたのだろうか


「食事の準備ができています」


声はカミラだった




その後待機していたカミラを先頭に食堂へ

と言っても先日入ったレイラの手前の部屋

あれが食堂らしい


食堂に着くとレイラ以外は誰もいなかった

聞けばすでに他の船乗り達は食事を取って仕事に取り掛かっているという


「遅かったね。食事は出来てるから適当に座っておくれ」


言われて席に着くとすぐに横の厨房から食事が運ばれてきた


「食べながらでいいから聞いとくれ。とりあえずもうリザールは出た。後3日もしないうちにエルエリア大陸のインクに着くよ」

「例の貴族は大丈夫なのか?」

「ああ、完全に巻いたよ。海はあたしらのフィールドだからね。素人集団なんかに捕まりはしないよ」


自慢げにニヤリと笑うが一転表情を改めるレイラ


「問題は3日目。大陸に近づいた時さ。間違いなく魔族が来る」

「そいつらを倒せばいいんだな?」

「そうなんだけど、毎回手強くなってる。あたしらも手伝うつもりでいるけどーー」

「魔族退治は俺達の仕事だ。あんたらは船を守ってくれればいい」

「ふふ、じゃあ魔族の方は頼んだよ」


ヴァージルの言葉にレイラは笑みを浮かべる


「それまでは特に何もないと思うから自由に過ごしてくれて構わないよ。甲板に上がってもいいし、部屋に篭ってても構わない」




食事も終わり、レイラの言う通り各自思い思いに過ごす

と言ってもあまりやる事はない


リリアとレフィルとヴァージルは甲鈑の船首の方で何やら話をしている

時折笑顔も見えるので込み入った話ではないのだろう


ミレリアはミレリアで部屋で日課の日誌を書いている

あとは国に送る書簡もしたためているようだ


そして手持ち無沙汰な狐太郎と朱姫は甲鈑の真ん中辺りでレイラと話をしていた


「アギオス、ディアル、マルヴィナこっち来な」


呼ばれた3人がレイラの所へ走って来た


「こないだ奴隷商船に乗ってた半獣人さ。何人かはうちの船に残ってくれてるんだ。挨拶しな」


レイラに言われて戸惑いながらも頭を下げる3人

人間に大してやはり苦手意識はあるのか表情は固くぎこちない


「コタロー達は大丈夫だよ。今まで会った人間とは違うから安心しな」


レイラの言葉にホッとした表情になる3人

人間と獣人のハーフだからと何かと辛い思いをしたのだろう


「ちなみにアギオスは剣、ディアルは槍、マルヴィナは弓の使い手さ。下手な奴らより腕は立つ。残ってくれて大助かりだよ」


ニコニコ笑うレイラに3人は少し恥ずかしいのか照れ笑いだ

アギオスは中肉中背といった感じだが無駄な筋肉が一切なくアスリートのようだ

おそらくスピード重視の剣士なのだろう

逆にディアルはアギオスに比べ筋肉質だ

パワー重視とまではいかないだろうが、スピードパワーのバランスが良さそうだ

対してマルヴィナは細身の女性でスレンダーと言う言葉がピッタリだった

背中に背負った長弓の腕前はこの船ではトップらしい


「アギオスは豹の獣人?ディアルは虎の獣人?マルヴィナは猫?だっけ?」

「お頭、なんでみんな疑問形なんですか」


レイラの首をかしげながらの言葉にマルヴィナは異論を口にする


「いやー、最近忘れっぽくなっちまってねー」


悪い悪いと悪びれもなく言うレイラだったが、一転険しい表情になる

獣人達も気づいたようで、アギオスとディアルは武器を取りに行き、マルヴィナは背負っていた長弓を取り出す

獣人以外の船員は気づいていない

するとマストに登ってる見張りから声が降ってきた


「頭、魔族だ。数は少ない。はぐれかも」

「数は?」

「・・・・3、いや4」

「ちっ、偵察にしては多いね。はぐれか。錨を下ろしな。帆は畳んで非戦闘員は避難だ」


慣れているのかテキパキと支持するレイラ

その時騒ぎに気づいたレフィル達もこちらへ掛けてきた時、ちょうど魔族が甲鈑に降り立った


「ほぅ、俺達を見ても逃げ出さないとは。単なるバカなのか、それとも・・」

「さっさと殺っちまおうぜ」


冷静な魔族の横で1人血気盛んに喋っている

1人だけ船尾の方へ降り立っている


「退屈な船旅で腕が鈍る所だった。ちょうどいい。俺とレフィルで1匹ずつ殺る」

【ふむ、このレベルならば狐太郎でも1対1ならば遅れはとるまい】

「ミレリアはリリアの護衛を頼む」

「む、仕方あるまい」


ミレリアは些か不満そうな表情をするも大人しく従った

何せミレリアのメインは火魔術である

溶岩や火柱なんぞを出されたら船が沈みかねない


「タイマンで魔族を蹴散らすとか、流石だねぇ。残り1匹はうちらで受け持つよ。アギオス、ディアル、マルヴィナ行くよ」


レイラは獣人を従え船尾にいる魔族へ突っ込む


「いいねぇ、面白い」


血気にはやる魔族が嬉しそうに声を上げる

冷静な魔族はこちらを見据えたまま油断なく様子を伺っている


「油断はするなよ」

「大丈夫だって。んじゃ俺の相手はーー貴様でいいか」


狐太郎達を眺めていた1人の魔族がヴァージルに狙いを定め突っ込む


「後悔するなよ」


いきなりの突進にも慌てずにヴァージルは曲刀を取り出すと間合いに魔族が入ってきた瞬間振り下ろした


「ーー!?」


魔族はヴァージルの速さに驚き慌てて眼前に迫った曲刀を全力で回避する


「ってめぇ、やるじゃねぇか」

「ふん、貴様こそガッカリさせてくれるなよ」


ヴァージルはそう言うと曲刀をだらんと下げたまま、魔族へ走り出した


一足先に戦い始めたヴァージルの後で、レフィルはやけに落ち着いた様子で残りの魔族を眺めていた


「それじゃあ、僕の相手はーー」


その言葉が終わらぬ間に1人の魔族が前へ出てきた


「私が相手になってやろう。曲刀使いはなかなか楽しめそうだったが先に取られてしまったのでな」

「ーーへぇ、それって僕がヴァージルより弱いって事かい?」


魔族の言葉を聞いた瞬間すうっと目を細め無表情になったレフィルはゆらりと魔族へ歩み寄る


「そうはいっていない。ただーーっ!?」


魔族の言葉は最後まで続かなかった

何故ならレフィルが瞬間移動のように目の前に現れたからだ

いつの間にか手に握り込んでいる大剣を下から斬り上げる


「よく避けれたね」


その表情は酷く無表情だが、言葉には苛立ちが含まれている


「ーー貴様!?いったい・・」

「ただの冒険者だよ、だけどーー」


レフィルは再び高速で駆け出す

今度は魔族の左手側に現れると振りかぶった大剣を振り下ろした


「人間を見た目で判断すると痛い目を見るよ」


多少の怒気を含んだ言葉は誰に向けられたものなのか


「っ!?ぐおっ」


警戒していた魔族はなんとかレフィルの動きに反応して横から振り下ろされた大剣をギリギリで交わす







・・・・・・・・・







「ふむ、と言う事は俺の相手は残った貴様と言うわけか」


リーダー格らしき魔族は先に戦闘に入った仲間を視界に収めたのち、朱姫と狐太郎を見据え言葉を紡ぐ

否、正確には朱姫を見ながらだが

残った魔族は船尾の方で獣人3人組とレイラが相手取っている


【まぁそう言う事になるのかの】

「くっくっく、俺は最初に来た時から貴様が一番危ない存在だと思ってたぞ。隠してもわかる」


紅い瞳に狂気の色を称えながら魔族は語る


【女性に対して一番危険だと言う言葉はいただけんな。失礼だと思わんのか】

「くっくっく、これは失礼した。しかしその余裕な態度がいつまでもつーーかな?」


言葉が終わらないうちに黒い長剣を生み出し朱姫に駆け出す魔族だったが間に入った狐太郎に行く手を遮られる


「邪魔をするな」


魔族さ速度を緩めずに長剣を振りかぶると刀を構えた狐太郎に無造作に振り下ろした

狐太郎は慌てずに居合いの構えを取ると、振り下ろされた長剣目掛けて刀を抜刀した

刀身はやや斜め下から放たれ、糸を引きながら魔族が振り下ろした長剣にぶつかる


「ーーっ!?」


狐太郎の刀の威力に押され魔族の長剣はかちあげられ、無防備な面をさらけ出した


『一の太刀--影炎』


聖属性が付与された白が纏いつく刀身に黒い闇が絡みつくとモノクロのコントラストを引きずりながら魔族の首へと刃が伸びる


「ーーっぐあっ!」


魔族は空いていた左腕を間に差し込むが刀は容赦無く腕を斬り飛ばした

しかし威力が落ちた隙を魔族は逃さず体を捻り首を飛ばされる事はなんとか防いだが、傷は浅くない


「ーーおのれ、よくも俺の腕を」


怨嗟の言葉を吐きながら、魔族は斬られた腕を再生させる


『子供だと思って舐めてたら痛い目みるよ』


狐太郎は油断なく魔族を見据える


【ふむ、まだまだ動きが甘いぞ狐太郎、今の相手が油断した状態なら一刀でカタをつけなければな。ほれ、今度は油断も隙もなくなったぞ】


朱姫の言葉に背中に受けながら狐太郎は魔族から視線を逸らしていない

魔族は狐太郎が警戒する相手と睨み、迂闊には飛び込んで来なくなった

時間を与えれば魔族は体力を回復させる

わかってはいるが狐太郎は魔族の隙が見いだせず動き出せないでいた


しばらく膠着状態が続くが小さくため息を付いた朱姫が懐から銅貨を1枚取り出すと、親指で空中へピーンと弾いた


クルクルと回転しながら甲鈑に吸い込まれる銅貨はカーンと言う甲高い音を響かせた


瞬間膠着していた時が動き出す

狐太郎はピクリと反応するも動きはなかったが、魔族は同時に狐太郎へ突撃を開始した


魔族は瞬時に間合いを詰めると右手の長剣を首目掛けて振るう

モーションが大きかったのかその一撃を軽く屈んで交わすと同じく右手に携えていた刀を下から立ち上がる反動も利用し、伸び上がるようにすくい上げる


「ーーちっ」


舌打ちした魔族は狐太郎の一撃を振り抜いた長剣をあてがい防ぐ

防がれた狐太郎はそのまま攻撃せずに1歩下がって間合いを開ける

が、魔族が下がった分踏み込んできた

長剣を今度は胴体目掛けて薙ぐ


下がって後ろに重心を置いたままの狐太郎は無理をせずに大きく後ろにジャンプし再び間合いを開けた

魔族が突っ込む

狐太郎も着地と同時に前へ駆け出す


魔族は刺突を繰り出した

吸い込まれるように心臓目掛けてくるソレを狐太郎は半身になって交わすと、止まらずにさらに一段強く踏み込む

上がった速度に魔族は驚愕し大きく目を見開いた


右足で力強く踏み込んだ狐太郎は凄まじい勢いで袈裟斬りに刀を振り下ろし、魔族を半ば両断した


「ーー見事・・だ」


魔族は一言呟くとぐらりと傾くが、倒れ伏す前に風に溶けて消え去った






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る