二章 2 予想外の人物

狐太郎はゆっくりとギルドの扉を開ける


先程ライアーから聞いた通り、ギルド内はほとんど冒険者はおらずに閑散としているのでギルド内の人達の顔も良く見えた

冒険者数人がテーブルに座り特に何をするでもなく話し合ってたり、掲示板を見つめ溜め息をつく者

どうやら仕事があまりなくて退屈しているようだ

掲示板にはほとんど依頼の張り紙はない

狐太郎が入ってきた事で数人がこちらに目を向けるも、だるそうな視線はすぐに興味を失い視線を戻した


だが、ただ1人こちらに視線を向け固まってる人がいた

狐太郎も視線を感じそちらを見ると驚きの表情になる


「ーーあっ!」


その人物は満面の笑みを作ると受付の席から立ち上がりまっすぐ狐太郎に向かってきた


『あれ?リリアさん?お久しぶりーーっむぐ・・・・』

「久しぶり~!コタロー君待ってたわよー」


いきなり狐太郎を抱きしめると嬉しそうに頭を撫で始めるリリア

狐太郎はリリアの胸に顔が埋まり、息ができなくてジタバタもがいている


【おい、そこな娘。そのままでは狐太郎が死んでしまうぞ】

「あっ!ごめんねコタロー君」


朱姫の言葉で慌てて狐太郎を開放するリリア

狐太郎は大きく息を吸い肺に酸素を送っている

一部の冒険者達は羨ましいのか嫉妬の視線を狐太郎に送っている


『ふぅ・・大丈夫です。それよりリリアさん何故ここに?』

【狐太郎、先に紹介してくれんか?】

『あ、ああ。そうだね。リリアさん、こっちはび・・朱姫ーー』

【わけあって狐太郎の保護者をしている】

「朱姫さんね。リリアよ、よろしくね」

【うむ】


朱姫は畏まらないリリアの態度に好感を得たようで機嫌が良くなる

まぁ本性を知らないだけなのだが


『それで、さっき待ってたって』

「そうよ!ってコタロー君レフィルは一緒じゃないの?」

『今は宿屋で休んでるはずですよ』

「なんでコタロー君をほっといて休んでるのよあいつ」

『ちょっと色々あって寝不足なんですよ』

「コタロー君は起きてるじゃない」

『それは、まぁ』


リリアはぶつくさ文句を言っていたが落ち着いたようで狐太郎に向き直る


「んじゃ詳しい話は宿に行ってからにしましょ」


そう言うと狐太郎の手を握りギルドを出ようとするリリア

朱姫とリリアに挟まれた狐太郎を嫉妬と羨望の視線で見つめる冒険者やギルド職員に狐太郎はかつての居心地の悪さを再確認した


『リリアさん仕事中じゃないんですか?』

「休みだったけど暇だったからちょっと手伝ってただけよ。あ、ギルドマスターに目的の人が来たからって伝えといて」


受付の女性にそう言って、そのままギルドを出て歩き出すリリア


「長期休暇もらったのよ。今までろくに休みくれなかったし、じゃあ辞めますって脅したらもらえたの。別に辞めても良かったんだけど全力で引き止められてね」

『あはは・・』

「あ、そう言えばコタロー君は何でギルドに来たのかしら?」


リリアの質問に狐太郎はあっ!っと小さく声を上げる


『エルエリア大陸に魔族が向かってるって聞いて、ギルドなら何かわかるかなって』

「そう言えば魔族侵攻の情報あったわね。残念だけど、理由はギルドもわからないみたい」

『そうですか・・』


リリアの答えに若干がっかりする狐太郎に今度は

逆にリリアが質問する


「コタロー君達はそのエルエリア大陸に向かうのよね?」

『なんで知ってるんですか?』


驚愕の表情で見上げてくる狐太郎にリリアはニンマリと笑う


「ギルドの情報網を舐めたらダメよ。まぁ大体は私が独自で調べたんだけど」


相変わらず行動力がすごいなと狐太郎は内心思ったが口にはせずにすんだ

そしてしばらく歩いた後、ピタリとリリアが立ち止まり狐太郎の方へ振り向く


「そう言えばどこの宿?」

【知ってて歩いてたのではないのか?】

「なんか勢いで・・コタロー君に会えたのとギルド早く出たくて」


あははと笑うリリアに朱姫はヤレヤレと軽く溜息をつく


『宿はアクアの恵み亭ですよ』

「あら、じゃあこっちで合ってるじゃない」


リリアはそのまま狐太郎の手を握ったまましばらく歩き、アクアの恵み亭へたどり着いた


「ここね」


言うと当たり前のように中へ入る


「いらっしゃいませ。おや?」


先程と同じ受付の人が先頭のリリアに挨拶をかけるが後ろの後ろの狐太郎達を見て首を傾げる


「あ、私この人達の知り合いなの。レフィルは部屋にいるのかしら?」


リリアの言葉に受付の男性は狐太郎へ視線を移す

狐太郎が小さく頷くのを確認し、返事をした


「はい。現在はお部屋でお休みになられていると思います」

「そう、部屋はどこ?」

「202でございます」


再び狐太郎が頷くのを確認して受付の男性は答える


「ありがとう」


お礼を言って二階に上がるリリアは途中で立ち止まると振り返る


「ちょっとレフィルに用事があるからコタロー君は待っててもらえるかしら?」


振り返ったリリアは表情は笑顔だったが目が笑っていない

その表情と言葉に有無を言わせぬ迫力を感じ取った狐太郎は無意識にコクコクと頷く

それを確認するとリリアは階段を上がっていった


【何か修羅場の匂いがするぞ】

『そうーー』


だね、と狐太郎が返事を返そうとした時、二階から小さな悲鳴が聞こえた気がした


『・・座って待ってよう』


受付の男性に促され、10人は座れそうな大きなテーブルに案内され、座ること数十分・・






夕食の鐘が鳴り、しばらくして二階から降りてくる足音が聞こえた


「おまたせー」


何故か付き物と言うか吹っ切れた感じがするリリアを先頭に、レフィル、ヴァージル、ミレリアと降りてくる

レフィルらは表情が暗い、ヴァージルもさらにはミレリアまでしょんぼりして見えるのは目の錯覚だろうか

寝てるのを起こされたせいだけではなさそうだ

そのレフィルは狐太郎を見つけると弱々しく笑った


「やぁ、コタロー君待たせたね・・」


声に張りがなかった

他の2人は視線だけ狐太郎に向けると、無言で席に座る

全員が座ったのを見計らってウェイトレスらしき人がこちらに来た


「夕食をお持ちしてよろしいでしょうか?」

「はい、よろしくお願いします」


元気に返事したのはもちろんリリアだ

ウェイトレスは軽く会釈して下がると、すでに出来上がってたのか料理を次々と運んできた


目の前に料理が届き、空腹を刺激されたのかレフィルらは幾分元気を取り戻したようだ


「じゃあ冷めないうちにいただきましょ」


リリアの言葉で食事を開始する

よほどお腹が空いていたのか瞬く間に料理は皆の胃袋へ消えていった








「それで、レフィル達にはさっき話をしたんだけれど」


食事を終え、食後の茶のような物を飲み一息ついた時にリリアは口を開いた


「私もエルエリア大陸に一緒に行く事にしたわ」

『え!?』


狐太郎は驚き、思わずレフィルを見ると目が合ったが小さく首を振る

ヴァージルとミレリアも同じように首を横に振る

どうやら説得したが無駄だったようだ


「あの事件の真相かわかるんでしょ?なら行かなきゃダメだと思うの。私も一応被害者だし」


真剣な表情で話すリリアの顔は決意に満ちていていかなる説得にも応じないという雰囲気が見てとれた


『みなさんがいいなら構いませんよ』

【ふむ、私も構わないが・・】

「ありがとう」


パッとリリアの表情が笑顔になる


【何かあれば私が守ってやればいいだけだしな】

「あ、そうだ」


朱姫の言葉で思い出したのかリリアは朱姫に向かい唐突に頭を下げた


「私、あなたが伝説の神霊だと知らずに生意気な口きいてしまって・・」

【ふふ。なに、構わん。これからしばらくは共に旅する仲間よ。堅苦しい言葉は抜きにしようぞ。こヤツらは硬すぎてこちらの肩が凝るわ】


レフィルらをチラリと見た朱姫は改めてリリアを見てニヤリと笑う


【先程と同じ言葉使いで構わん】

「ありがとう朱姫」

【うむ、よろしく頼むぞリリア】


「よくヴァイシュラヴァナ様がいいとはいえ、あんなに軽々しく話せるものだ」

「それがリリアの長所でもあるんだよね」

「短所でもあるがな」


「ちょっとヴァージル、短所って何よ」

「ふん、そのまんまの意味だ。お前は猪突猛進すぎる。よくそれでギルドの受付が務まったものだな」

「ギルドは仕事だもん。仕事とプライベートの区別は付けなきゃね」

「なるほど。レフィルも大変だな」

「ーーちょっ、なんで僕の名前が出るのさ」

「そうよ、レフィルは関係ないでしょ」


ギャーギャーと騒ぎ始めた3人を傍目で見ていたミレリアは小さく溜め息を付く


「やれやれ、これでは旅行に行くみたいではないか」

『重い雰囲気を出さないように気を使ってるのかもね』

「仲間か・・羨ましいものだな」

『ーーえ?』

「コタローも知ってると思うが、私は王族だ。おいそれと遊びに行くことも出来なかったし、常に誰かしら大人がいるし、周りにも大人ばかりだったからな。同世代で何でも言い合える仲と言うのがちょっと羨ましい」


ミレリアが寂しそうな表情で呟く

恐らく国では1人だったのだろう

生まれた時からレールが引かれていてそれを歩く

周りは常に大人達だらけで、ちょっと気を抜けば暗殺者などにも襲われ誰が味方かもわからない

そんな中で、監視と言う名目だがレフィルと国を離れ色々見て回れた事は新鮮で、一気に世界がひらけたに違いない


そういう意味ではクリスティアはメアリーがいたから良かったとも言える


「私は、仲間が欲しかったのかもしれない。私はレフィルとの旅が楽しかった。全てが真新しく王都にいては味わえない事ばかりだった。本当はあの場でヴァージルを捕らえ連れて帰れば良かったのに。それをすればこの旅が終わり、また前の生活に戻ってしまう。それにレフィルにもリリアにも恨まれるだろう。それが嫌なのかもしれん。もちろん王族に生まれたからにはそれ相応の覚悟はあるが」

『仲間ならもういるじゃないですか』

「ーー!?」


狐太郎の言葉にミレリアは一瞬息が詰まったような表情をするが、瞬時に戻る


「なるほど・・」


目の前でギャーギャー繰り広げられるやりとりをじっと見つめ、そして何かを吟味するようにしばらく考え込む


「それなら尚更エルエリア大陸に渡って真実を知らねばならぬな」

『そうだね』

「仲間が犯罪者では肩身が狭いからな」


ミレリアの言葉に先程まで騒いでいたヴァージルがいち早く反応する


「誰が犯罪者だ!犯罪者に仕立てたのはお前だろうミレリア」

「うん?そもそもギルドからも賞金首がかかった極悪人ではないか」

「こっち(の大陸)ではまだ大丈夫だったんだぞ!」

「まさか大陸を移ってるとは思わなかったからな。しかしすぐにこの大陸中にお触れが回る」

「ーーなっ!まさか・・」


ヴァージルの絶句した言葉にミレリアは至極真面目な表情で言う

口元は笑っていたが


「うむ、エルエリア大陸に渡ると言う事をギルドを通じて国に報告しておいた。時期にこの大陸にもーー」

「おいレフィル、やっぱりコイツ仲間にするのは反対だ!今すぐノシつけて国に送り返した方がいい」

「それができればここまで一緒にいないよ」

「ダメよ!仲間は大事にしなきゃ。冒険者登録した時に教えてもらったでしょう?」

「冒険者ガイドブックは3日で無くした」

「俺は捨てた」

「あんたら・・」

「あ、コタロー君冒険者ガイドブックをーー」

『今ですか!?』

「後にしなさい」




「ふふ」

「あ、ようやくちゃんと笑ったわね」

「ずっと真顔だったから仮面でも付けてるのかと思ってた」

「女性は笑顔が1番よ」

「・・・私はそんなに笑っていなかったか?」

「そうだね。少なくとも僕と合流してからは見たことないかな。自虐的に笑みを浮かべるのはあっても」

「そうか・・」

『ね?仲間でしょ』

「うむ、いいものだな。心地よい」


ミレリアの言葉に狐太郎は笑みで答える


「これでミレリアも正式な仲間ね!飲みましょ」


そういうとリリアはお酒を注文する


「そういう事ならこの場は私が支払いを持とう」

「え?いいの?」

「うむ、初めて仲間に使う金にはふさわしだろう。たんまり貯めてあるからな」

「ありがとうミレリア!」


立ち上がり隣のミレリアに抱きつくリリア


「さすがミレリア太っ腹だね」

「腐ってもそこは王女と言うことか」


レフィルとヴァージルが口々に賛辞?の言葉を送る


「む・・レフィルとヴァージルは自腹で」

「「ーー!?」」

「あんたたち、女性に太っ腹とか腐ってもとかないわ・・」


リリアが呆れた表情で2人を見る


「優男と極悪人と認定された男達に気の利いた言葉を望むのは間違っていたか・・それは私の落ち度だったな」

「なにそれ、詳しく聞きたい」

「「ーーくっ・・」」


その時ジョッキに注がれたエール(ビール)が5つと果実酒が1つテーブルに届いた


「コタロー君はエール早いから果実酒ね」

『ーーえ!?』

「そうだね」

「うむ、エールは10年早い」

「子供はジュースで十分だろ」

『こっちに飛び火した!!それにもう成人してるよ!朱姫もなんとかいってやってーー』


朱姫は自身の前に置かれたエールに満面の笑みだった


【久々の酒だ】

『ダメだ・・・・』


こうなったら止められない


「それじゃあ久々の再会と新しい仲間にーー」

「「「「【かんぱーい】」」」」

『納得いかない・・・・』





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