一章 51 ミレリアの本領

ラーヴァバレット溶岩弾


ミレリアの手から生み出された[溶岩弾]で再び先端が開かれた


目標とした悪魔は手から真っ黒な闇色の菱形の盾のような物を生み出し[溶岩弾]を防ぐ


「ほぅ、どうやらそこらの悪魔とは少し勝手が違うようだな。ならばこちらも気合いを入れてやらねばならぬな」


バサりとローブをはためかせながらミレリアは杖を取り出す

それは杖自体が真っ赤なデザインで尖端に埋まる魔石はさらに赤い


「では本気でいかせてもらおうか」






・・・・・・・・





「--ミレリア本気だな・・・プロミネンスロッド紅炎の杖使うなんて」


レフィルの小さな呟きにヴァージルは面白そうに反応する


「あの杖からかなりの魔力を感じる」

「少し離れた方がいいかもしれない・・」

「そんなに危ないのか」

「と言うか、あれを持った彼女がね・・・・」

「くっくっく、なるほど」


愉快そうにくつくつ笑うヴァージルはレフィルの言葉に従い移動する


「この辺りなら巻き添えはこないだろう」

「くっくっく、お前の仲間は面白いな」

「事が済んだらヴァージルにも紹介してあげるよ」

「ふん、それは楽しみだ」


言いながら曲刀を構えるヴァージルにレフィルも大剣を眼前に構える


「ではこちらも始めるか」

「そうだね」


2人は示し合わせたかのように同時に駆け出しお互いの刃を合わせる


「くっくっく、まさかお前が大剣使いになっているとはな。重くて嫌だと言っていたはずだが」

「昔の話さ。誰かのせいで強くならざるを得なかったからね」


刃を合わせたのは一時で、お互い1歩間合いを開けると剣を振るう


「リリアはどうした?まさか・・」


ヴァージルの顔に怒りと不安がごっちゃになったような表情が浮かび上がる


「気になるかい?安心してくれ、無事だ」


その言葉にほんの一瞬安堵したような表情になるヴァージルにレフィルは口角を釣り上げる


「はは、リリアは今はギルド職員として働いている。その方がサポートしやすいと言ってね」

「あいつはどちらかと言えば冒険者には不向きだったからな」

「見た目と違って臆病だしね」

「リリアに聞かれたら泣かされるぞ」

「違いない」


話してる内容は昔話に華を咲かせている2人だが、現実は剣を交え命のやりとりだ

全ての剣戟がお互いの急所を目掛け一撃必殺で容赦なく2人から繰り出される


「あいつはお前の新しい女か?」


ヴァージルが視線だけをミレリアの方へ一瞬だけ送り不敵な笑みを浮かべながら曲刀を斜めから振り下ろす

それをレフィルは大剣をかざし弾くでもなく受け流す


「まさか。彼女はロマレイアの第二王女、僕の監視役さ」


受け流され体が流れたヴァージルにレフィルはクルリと回転し回し蹴りを放つ

ヴァージルは無理に防御や迎撃体勢を取ろうとせず体が流された方へ逆らわずに体を投げ出すとすぐさま体勢を立て直すべく間合いを開ける


「・・なるほどな。しかし第二王女があんなお転婆とはな」

「ミレリアに聞こえたらマズイから」


レフィルの若干焦ったような声音にヴァージルはくっくっくと笑う


「昔も今も女の尻にしかれているな」

「余計なお世話だよ」






・・・・・・・・・







ラーヴァバレット溶岩弾


ミレリアは[紅炎の杖]から再び・・[溶岩弾]を放つ

しかし杖から生まれた[溶岩弾]の大きさは先程のバレーボール程の大きさから目に見えてふた周りは大きい

さらに温度も上がっているようで熱気が凄まじい

しかもそれが2つ同時に放たれた


流石にこれは危機を察したのか、悪魔は咆哮を上げるとこちらも先程生み出した闇色の盾より大きく分厚い盾が2枚悪魔の眼前に出現する


[溶岩弾]は盾に当たるとボッと言う音で盾が炎上するも盾はまだ原型を留めている

さらにジュワッと言う蒸発するような音が上がる


[溶岩弾]と盾がせめぎ合っているのか相殺しあっているのか、お互い小さくなっていく

そしてどちらか残ることもなく同時に消え、後に残るは陽炎のように揺らぐ熱気だけだった


プロミネンスロッド紅炎の杖を使った一撃を凌ぐとは」


ミレリアは感嘆とも称賛ともとれる発言をする

その言葉に焦りはなかった

一方盾で直撃は防げたものの余波をまともにくらった悪魔は全身に火傷を受けたのかブスブスと煙を上げていた

人間で言うなら全身高温火傷を負ってすでに死んでいるだろう

そこはさすが悪魔と言うべきか、生命力は人間の比ではないらしい


「まぁ完全に防げたとは言い難いがな」


彼女の[紅炎の杖]を使った[溶岩弾]を完全に防ぐにはそれを上回る魔力量でもって相殺するか、部分的な盾ではなく自分を覆う防御壁が必要だろう

今回のように盾での相殺では直撃は免れても凄まじい熱波は防げない

ダメージを受けた悪魔は咆哮をを上げ攻勢に出る

拳大ほどの闇色の魔力の塊を多数生み出すと

再度の咆哮でミレリアに向かい打ち出す


「ほぅ、まだ反撃する気力はあるのか」


感嘆の声を上げるミレリアはそれでも慌てる様子は微塵もみせていない

手に持つ杖[紅炎の杖]を構える


フレイムヴァルワーク火炎防壁


ミレリアが魔術を発動させると、地面から幅5m程の炎の壁がせり上がってきた

高さは2m程、悪魔とミレリアの間を遮断するように出てきた[火炎防壁]は悪魔が放った闇色の魔力弾を完全に防いだ

こちらも杖を使い発動させているので、以前とは強度が段違いである


防がれたのを見た悪魔は狂ったように咆哮し、さらに多くの魔力弾を生み出し放つ


「学習能力がないのか、効かない攻撃を続けるなど・・」


魔力弾はすべて[火炎防壁]に防がれ蒸発し白い煙を上げる

それが数回続きミレリアもいい加減勝負を付けようと杖を構えようとした


「--!?なに・・」


突如背後に生まれた魔力の気配に咄嗟に身を翻す

眼前に迫った闇色の魔力弾がミレリアを襲う


「くっ・・」


あらかたかわした魔力弾だが、かわし損ねた魔力弾を一発横っ腹に喰らい膝を付く

魔力弾が飛んできた方へ視線を移すと悪魔が1体立っていた

先に戦っていた悪魔よりも体は1回り、いや2回りは小さく成人した人間と同じくらいで体格も痩せている

色が黒くなければ悪魔とわからないかもしれない


「新手か・・しかしそんな気配はなかった」


ミレリアは悪魔との戦闘中も周囲に他の敵がいないか気を配っていたのだ

見落とすはずがない


「とすれば空間移動・・」


ミレリアの言葉が終わる前にその悪魔は霞に溶けるように消えていった


「--!?」


慌ててミレリアは辺りの気配を探るがどこにも気配は生まれなかった

そして先程戦っていた悪魔の気配が小さくなっている事に気づき視線をそちらに移す


生み出した[火炎防壁]はミレリアに攻撃が当たった時点で消えている

悪魔との間に遮るものはない

何故か1回り小さく見える悪魔・・錯覚ではなければ


「・・なるほどな」


魔力弾を受けた横っ腹を抑えながらゆっくり立ち上がるミレリア


「無駄に打っていた魔力弾は煙幕だったわけか。まさか自身の魔力を使って分身体を生み出せるとは思わなかった」


先程の小さな悪魔は、目の前の悪魔が自身の魔力を使い生み出した分身体だった

込める魔力量によって大きさは変わり、その攻撃力も変わる


行幸だったのは[紅炎の杖]を使った[溶岩弾]でダメージを与えた為、分身体に回す魔力がそれほど回せず少なかった事だ

そしてその分身体も魔力弾を打って魔力が無くなったのか体を維持できなくなり消えた


攻撃も通常の魔力弾よりも弱い攻撃だった為、防御が弱い魔術師のミレリアでもある程度避けられたし、一撃にも耐えられた

立て続けに喰らえば耐えられなかっただろうが・・

後はミレリアが着ているローブにもある

クリムゾンローブ深紅の法衣、と呼ばれるこのローブは赤竜の魔力を練り込んであると言われ並の攻撃なら通常の鎧などよりもよっぽど防御性能に優れている

そのローブのおかげもあって致命傷は避けられた

しかし魔術を発動させるのを阻害するに十分なダメージだ


「・・この程度の傷で--」


ミレリアは苦痛の表情を浮かべながらも[紅炎の杖]を構える


「これで終わりにしてやる!」


ミレリアの言葉に悪魔も攻撃するべく息を吸い込む


「遅い!」


ミレリアの方が一瞬早く魔力を発動させた


プロミネンスフレア紅炎槍


ミレリアが力強く言葉を発すると悪魔を中心に直径2m程の紅い円が地面に数十の数で浮かび上がる

それは一瞬で膨張するように膨らんだと思ったら巨大な火柱を打ち上げた

悪魔はそれを避ける様にかわし攻撃は当たらない

しかし[紅炎槍]の攻撃はそれだけではなかった

数十mうち上がった火柱は言葉の通り炎の柱としてそのまま悪魔を取り囲むようにそびえ立つ


火柱は触れるのは愚か、容易に近づけば死は免れないであろう程の熱気を湛えており、表面はよく見ればマグマのようにボコボコ泡立っている


そうすると逃げ場は上しかないわけで、悪魔もそう思ったのか上空を見上げる


しかし上空は炎の龍が柱の上部を行き来するようにアーチ状に飛び交っていて近づけばこれも炎の龍に襲われるのは明らかだった


「逃げ場はないぞ」


そう言いながらミレリアは杖を地面に刺すと再び魔術を唱える


「これで最後だ!アグニ火神のヴィーゲン・リート子守唄


悪魔の頭上に直径10mはゆうに超えるであろう火球が出現した

それは最初揺らめいていたかと思うと狙いが定まったのか一気に落下を始めたが、お世辞にも速いとは言えず通常なら十分逃げる時間があるが今回はどこにも逃げ場はない


それが死へのカウントダウンとなり恐怖となり悪魔に襲いかかる

悪魔は一際大きな咆哮を上げると落下してくる火球に向けてありったけの魔力弾を打ち込んだ


しかしそれは火球に届く前に炎に包まれ消し炭となり跡形もなく消滅する

もはやあたり一帯の気温は信じられない程上昇しており陽炎が揺らめき、さながら炎天下の砂漠にいるような雰囲気だ


ミレリアが放った火球は徐々に重力に従い落下を速め、途中[紅炎槍]の柱を喰らいながら落下してくる

そして地面まで10数mまで来た瞬間、悪魔の体が発火した

悪魔は炎を纏った苦しみで暴れ回る

火球が近づくにつれ発火した炎は大きくなり

やがて悪魔は死んだのかピクリとも動かなくなった

そして火球が着弾する前に消し炭と化した


一泊置いて火球が地面に着弾し噴火と言う言葉がピッタリの爆発と火炎をあたりに撒き散らした







・・・・・・・・・






爆風と火の粉ならぬ火の玉がヴァージル達の元にも降り注ぐ

2人はそれをかわしながらも斬り合い続ける


「なんだあれは・・過剰攻撃にも限度ってもんがあるだろう」

「彼女は加減が苦手でね。それに常に全力だ」


呆れたようにヴァージルが呟き、レフィルも否定はしない


「離れて正解だったろう?」


言いながら両手で大剣を横凪に渾身の力を込めて振るうレフィル

首を狙った一撃はヴァージルが咄嗟にしゃがんだ為に空を斬る

ヴァージルは立ち上がる伸びを利用し曲刀を下からすくい上げるように斬り放つ

レフィルは大剣を持っていた右手を離し曲刀を交わす

目の前を曲刀が紙一重で通り過ぎる


「間合いを掴むのがうまくなったな」

「ヴァージルには感謝してるよ」


レフィルはそのまま流された体を捻り回し蹴りを放つがヴァージルは蹴りの間合いからすでに下がっており空を切った


「これじゃきりがないな」


レフィルがポツリと愚痴る


「くっくっく、まさかここまで拮抗するとは俺も思わなかった。強くなったなレフィル」

「色々あったからね」


色々をわざと強調して言ってみせるレフィルにヴァージルは笑みを深くする


「あまり時間をかけるのも外野がうるさいだろう。次で決着を着けるか」

「・・そうだね」


ヴァージルの言葉に一瞬の逡巡があったレフィル

しかしお互いに剣を構え意識を剣に集中させる

ヴァージルの剣には黒の、レフィルの剣には蒼の光がぼんやりとまとわりつく

そしてお互い同時に駆け出した





しかし2人が間合いに入る刹那、轟音が大地を揺るがした


「な、なんだ?」


動きを止め倒れないようにバランスを取るレフィル


「--あれは・・まずい!?」


ある一点に何かを見つけたヴァージルは焦りの表情を浮かべると駆け出した


「--ヴァージル!?」


駆け出したヴァージルをレフィルは訳が分からないまま慌てて追う

そして2人が向かった先には轟音の元凶がいた


全身闇色をした魔族が長剣を携えて立っている

体型はいたって普通、身長は若干高めで傍から見れば、グゼルなどの方が強そうに見える

しかし魔族は見た目と実力は相反する

それを2人はひしひしと感じ取っていた


「やはり・・--あ、おいレフィル!ダメだ止まれ」


後から追いついたレフィルはヴァージルの側に駆け寄ろうとするが、魔族の側に倒れている物を見るや怒りの形相で飛び出した


「ちっ」


静止は無理だと判断したヴァージルも一拍遅れて駆け出した


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る