一章 52 蒼と黒の雷光
魔族の前には狐太郎が倒れていた
レフィルはそれを見た為に飛び出した
2人の接近に気付いた細身の魔族はゆっくりと視線を2人に向ける
「
蒼白い光は稲妻のようにスパークし大剣からレフィルの全身へ駆け巡る
瞬間レフィルの姿がかき消えた
「--!?」
「・・・・・・・・」
ヴァージルはいきなり消えたレフィルに驚き、魔族は別段表情を変えぬまま長剣を無造作に頭上に掲げた、その直後
-ギィィィン-
金属同士がぶつかり合う音が響いた
一瞬動きが止まったからなのか魔族の背後にレフィルが大剣を魔族に振り下ろしていた
魔族が掲げた長剣とぶつかり合った音が今の音だったようだ
レフィルが魔族の後ろに一瞬で移動したのにも驚いたヴァージルだが、それを防いだ魔族にも驚いた
しかしヴァージルは駆ける足を止めない
再びレフィルの姿がかき消えると今度は魔族の右手側にスピードを殺すように地面をガリガリ削りながらしゃがむようにして現れる
蒼い雷光を纏ったままのレフィルはそのまま大剣を下からすくい上げる
魔族はそれを半歩下がりやり過ごすと持っていた長剣を無造作に横凪に振るった
「--っ!?」
レフィルは長剣を飛び上がり躱すと今度はそのまま縦回転でコマのように遠心力を利用して大剣を魔族に叩きつけた
-ギギィィィン-
「・・・・・・・・」
上空からの攻撃と中段からの攻撃も、魔族がかざした長剣に阻まれて阻止される
再びレフィルの姿が消え、数m離れた場所に現れる
雷光は消え去っておりレフィルは荒く息をついている
が、怒りの表情は変わらない
-パリッ-
その横を黒い雷が駆け抜けた
ヴァージルは曲刀を逆の向きに持つ
通常の刃の部分を自分側に反ってる方を相手側に、そして曲刀の黒さも相まってさながら死神の鎌のような禍々しさを帯びる
「
発動させた魔術にレフィルは思わず目を見開いた
曲刀は刃の部分を残して持ち手が折れ、伸び、死神の鎌そのものに変わっていた
そしてその死神の鎌から放出された黒い闇色の雷光がヴァージルにまとわりつき、爆ぜた
ように見えた
実際はヴァージルの踏み込みにより地面が抉れただけなのだが、爆発的な瞬発力でそう見えたのである
レフィルと同じようにヴァージルは一瞬で魔族の後ろへ移動する
しかし魔族はもう慣れたと言わんばかりに振り返り迎撃体勢を整えていた
だが、ヴァージルは攻撃する気はなかったのか稲妻を纏いながら再びブレるように姿を消す
これには魔族も驚いたのか動きを止め、僅かばかりだが目を見開いた
その刹那ヴァージルはさらに魔族の背後に出現すると、今度は闇色の雷光がまとわりつく大鎌を躊躇なく振り下ろした
「死ね」
死神が首を刈り取るかの如く
しかし
-ギィィィン-
「--なっ!?」
振り下ろされた大鎌はレフィルと同じように長剣に防がれた
驚愕の表情を張り付けたヴァージルは一瞬動きが止まる
それを見逃す魔族ではない
「
-パリッ、バリバリバリッ-
ヴァージルを纏っていた闇色の稲妻が魔族へ襲い掛かる
魔族は逃れようと間合いを開けるべく下がる
だが、稲妻が魔族へ襲い掛かる方が僅かに速い
魔族は下がる途中で闇色の稲妻に撃たれ、動きが止まる
その間にヴァージルはレフィルの場所まで下がる
死神の鎌は今は曲刀に戻っている
「ヴァージル!」
「落ち着けレフィル、斬られた
ヴァージルに言われ未だ怒りが収まらないレフィルは倒れている狐太郎を見つめる
先程よりも距離が近い為に良く見えた
「--あ」
「気づいたか、あれは擬態だ。血がまったく出ていないだろう。何か身代わり的なアイテムを持っているのだろう」
ヴァージルの言葉にレフィルはホッとする
「が、ゆっくりするのは後だ。アレを何とかしなければな」
未だに闇色の稲妻がまとわりついている魔族に視線を移す
「あれはいったい何だ」
レフィルは自身の必殺技が防がれたのに驚きを禁じ得ない
「名は知らんが異名は知っている。通称滅びの魔族。奴らが現れた国は滅ぶと言われている。圧倒的な破壊の力でな」
「滅びの魔族・・」
レフィルは小さく反芻するが聞いたこともない名だった
「実力は最低でも魔族の中位以上はある」
「あれで中位だって?」
ヴァージルの言葉にレフィルは驚愕する
「あれはほって於けばまずい事になる」
「--あれは--ヴァージル、君の味方ではないのか?」
「ふん、冗談はよせ。あんな滅びを司る魔族と馴れ合うつもりもない。俺が滅ぼすのはアルス教だけだ」
ヴァージルと魔族が繋がってないと知りレフィルは内心ホッとした
やはり心のどこかでかつての仲間を心配しているのだろう
「が、1度だけ見たことはある。見ただけだがな、実力はさっきのでわかっただろう」
「あれがここに現れたと言うことは、この国は滅びる。何もしなければな」
「止めるにはどうすればいい」
「簡単だ。奴を殺せばいい。触媒を破壊すれば具現化はできなくなるが、奴を召喚した触媒事破壊するのが1番手っ取り早い」
この場合、触媒となったのはアゼルの体なので破壊と言うのは所謂殺すと言うことだ
それはアゼルの死を意味する
すでに死んでるかもしれないのだが
『それはダメだ』
2人が振り返ると若干青ざめた表情の狐太郎、それに脇腹を抑えながらミレリアが歩いてきた
「コタロー君!?無事だったか」
『はい、なんとか・・』
レフィルの言葉に狐太郎は頷く
「あの魔族は何なのだ・・冷や汗が止まらん」
継いでミレリアが青い顔をしながら魔族をチラ見している
顔が青いのは脇腹の傷のせいだけではないだろう
・
・
・
・
・
「なるほど、滅びの魔族か・・」
話を聞いたミレリアは小さく呟いた
レフィルの眼差しに首を振る
ミレリアも知らないらしい
『あの魔族が生きてる限り触媒になった人間は死なない。ただ、時間が経つにつれて意識を乗っ取られいずれは死ぬ』
「それじゃあ--」
『だけど僕は助けたい。クリスティアを、あの人を、この国を』
狐太郎の言葉に黙っていたヴァージルが真剣な表情で見る
その眼差しは何かを探るような眼差し
「小僧、本気か?」
『うん』
「あの魔族を殺さずに無力化するのは生半可な事ではないぞ」
『うん』
「死ぬかもしれんぞ?」
ヴァージルの言葉に狐太郎は真っ直ぐな瞳を返す
「ふん、何か方法があるようだな」
狐太郎から目をそらしくるりと魔族の方へ向き直る
「5分だ、それ以上もたん」
「--!?」
『ありがとう』
「僕も行こう」
そう言うとレフィルもヴァージルの隣に並ぶ
「ふん、怖気付いたのかと思ったぞ」
「ヴァージルがコタロー君の策に乗るとは思わなかったよ」
「目が--」
「?」
「真っ直ぐな目が貴様に似ていた」
レフィルは軽く目を見開く
「あはは、それじゃあ行こうか。久々だね2人で前衛に立つのは」
「滅びの魔族だ。油断してると死ぬぞ」
そう言いながらもヴァージルの表情は明るい
言いながらヴァージルはポーションを取り出すとレフィルに渡す
「ありがたく頂くよ」
「さっきの技はもう1度出せるか?」
「もちろん、ヴァージルは?」
「愚問だ」
-パリッ-
その言葉と同時にヴァージルの曲刀から闇色の稲妻が生まれ、曲刀が大鎌に変化し稲妻が体を纏う
「
ヴァージルの体がかき消える
「じゃあ僕も行くよ。2人なら10分くらいは持たせないとね」
独り言のように呟くレフィルは言葉とは裏腹に楽しそうだった
「
蒼白い光が全身に纏わりつくと、蒼い雷光を残しながらかき消えた
「やれやれ、さっきまで命のやり取りをしてた2人が今は手を取り合う、おかしな物だな--少し羨ましいぞ・・」
狐太郎と一緒に残っていたミレリアは魔族に向かった2人がいるであろう方を見ながら呟く
最後の呟きは小さすぎて側にいた狐太郎にも聞こえなかった
そして戦いには興味がないのはミレリアは振り返る
「コタロー、何か協力する事はあるか」
狐太郎はすでに準備に入っていた
ポシェットから真っ白な、しかしどこか透明かがった宝玉を取り出す
それは小さく手のひらにすっぽり収まる大きさだった
それを2つ、両手で握り神経を集中させる
「出番はなしか・・」
若干の寂しさを含んだ呟きを残し、ミレリアは座り込む
「ならばこの目で結果を見届けよう」
・・・・・・・・・・・
ヴァージルが魔族に使った[黒雷解放]はとっくに解けていたが、魔族はその場から動かなかった
動く気がなかったのか、2人が来るのを待っていたのか・・・
先に駆け出したヴァージルの大鎌が魔族に迫る
今度は真正面から突っ込む彼の顔は、楽しそうだった
左からの闇色の稲妻を纏った胴凪ぎの一撃を魔族は長剣で簡単に弾く
「ちっ」
大鎌の攻撃は一撃一撃は強力だが、かわされると隙が大きい
もちろん魔族は大鎌が弾かれがら空きになった体へ長剣を振り下ろす
「させないよ!」
寸前、蒼い雷光が2人の間に割り込んだ
レフィルは上段からの長剣を大剣で迎え撃つ
「--っ!?なんて重い一撃だ」
弾こうと思っていたレフィルだが予想外の重い一撃に押し込まれる
魔族はそのまま力で押し込もうとさらに力を加える
「相手は1人だと思うなよ」
背後に回った闇色の稲妻を纏ったヴァージルが大鎌を振り下ろす
--これはかわせない--
そうヴァージルが思ったのも束の間、魔族は予想外の行動に出た
空いていた左手を頭上に持っていく
「--!?」
その予想外の行動に驚いたヴァージルの大鎌の勢いが弱まる
-キィィィン-
大鎌の一撃は魔族のかざした左手に防がれる
しかし受けた手に大鎌がくい込んでいる
ダメージは与えたようだった
今度は魔族が驚く番だった
よもや刃が通るとは思わなかったのだろう
レフィルを押え付ける力が弱まると、レフィルはそれを逃さずに長剣の間合いから離れた
ヴァージルも一撃を与えた後にすぐに下がり間合いを開けている
魔族は離れた2人には目もくれずに、斬られた左手を見る
傷口からは血も、何も出ていない
外見と同じように中まで真っ黒な断面
しかしそれは瞬時に再生される
「--!?」
「化物か・・」
そして魔族は左手にも長剣を生み出した
「舐めてるのか?いきなりの二刀流が通用するか!」
怒りの形相を浮かべたヴァージルは瞬時に魔族の左側に移動し、大鎌を振るう
ヴァージルは左手に持った長剣がどの程度か試すために魔族の左側から攻撃を仕掛けた
スピードと重さの乗った一撃は、にわかの二刀流では弾かれるか押し込まれるかのどちらかだっただろう
しかし魔族は淀みない動きて左手の長剣を動かすと大鎌の一撃を見事に防いだ
「--!?」
魔族は防いだ左の長剣はそのままに、右手の長剣をヴァージルへ振り下ろす
「後ろががら空きだよ」
追いついたレフィルは瞬時に背後に回り込むと振りかぶった大剣を叩きつけるように振り下ろすが、魔族はヴァージルの方へ1歩踏み込んでかわした
しかしそれで長剣を振り下ろすスペースがなくなり結果的にヴァージルは命拾いをした
ヴァージルも間合いがゼロになった為に大鎌を振るえない
だが、大鎌を軽く引き戻すと柄の部分を槍のように魔族に繰り出した
密接した状態ではかわせるはずもなく、魔族はまともにくらい吹っ飛んだ
しかし刃がついてるならまだしも、平らな柄の部分では大したダメージにはならなかったようで魔族はすぐに体制を立て直した
「2人掛りでこれか・・」
「骨が折れるねまったく」
蒼と黒の雷光を纏った2人は吹っ飛んだ魔族を見つめながら言葉をかわす
「何分たった?」
「まだ5分くらいじゃないかな」
「あと半分もあるのか・・キツイなんてもんじゃないな」
「そう言う割には顔が笑ってるよヴァージル」
「お前もニヤケ面になってるぞ」
体制を立て直した魔族が今度はこちらに駆け出してくる
魔族から攻撃を仕掛けてきたのは初めてで2人を脅威と見なしたのかもしれない
「来るぞ」
「ああ」
どちかを先に攻撃するか迷った魔族だったが、ヴァージルが闇色の稲妻を引きずりながら接近してきた為にヴァージルへ襲い掛かる
レフィルは半歩程遅れて蒼い雷光を靡かせながら動き出す
魔族はそれを視界の端で確認していた
「ふっ!」
ヴァージルの大鎌が袈裟斬りに心臓の辺り目掛けて振り下ろされる
一瞬遅れてレフィルか反対側から大剣を横に薙ぎ払う
「これなら」
-ギギィィィン-
ほぼ同時に繰り出した2人の一撃は左右に展開させた長剣で防がれた
「ちっ」
舌打ちしたヴァージルは攻撃を続けるべく大鎌を引き戻すが、そのタイミングで魔族は長剣を大鎌を弾くように打ち払った
-ギンッ-
「しまっ・・」
継いで繰り出された魔族の蹴りがヴァージルに炸裂する
かろうじで左腕で防御するも踏ん張りきれずに数m吹っ飛ばされる
「ヴァージル!」
「・・・・・・・・」
ヴァージルが離れ事でレフィルに向き直る魔族
左右から繰り出される長剣が縦横無尽に繰り出されレフィルは防戦一方になる
「くっ・・
「!?」
レフィルを纏う蒼い雷光が一際激しくなる
蒼雷を纏った大剣が流星のように魔族へ刃を剥く
今度は魔族が防戦一方になる番だった
しかしすべて長剣に防がれ、決定打は与えられてない
「くそっ・・」
レフィルが焦りを滲ませたその時
「
吹き飛ばされたヴァージルが闇を纏い魔族に襲い掛かる
ヴァージルにまとわりつく闇が一層濃くなり傍目には完全に死神に見える
魔族の背後に無音で接近したヴァージルは大鎌を音もなく振り下ろす
それは既の所で魔族が防いだ
しかし
-バギンッ-
魔族は初めて驚愕の表情を浮かべる
防いだ長剣は大鎌に立ち割られていた
その隙をついてレフィルが最後の力を込めて大剣を振るう
-ザクッ-
その大剣は魔族の右肩から縦に入り込むが
「なんて硬い身体だ」
力を込めた一撃は大剣の半分も埋まっていなかった
「このまま押し切るぞ」
ヴァージルのその声が届く直前、初めて魔族が咆哮を上げた
「うわっ」
「くっ・・」
2人は魔族が上げた咆哮で吹き飛ばされる
そして慌てて体制を立て直した2人が見たものは
「--!?」
「なんだと!?」
斬られた箇所は何事もなく再生しており、ヴァージルか叩き折った長剣も再生されている
「僕らの全力でもダメなのか・・」
「レフィル、主旨を履き違えるなよ。俺達は前座だ」
そう言うとヴァージルはニヤリと笑う
「どうやら主役が登場したようだぞ」
その言葉にレフィルは狐太郎達の方を振り返った
「--!?あれが・・」
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