一章 40 狐太郎vsラルガス①
狐太郎に向かい3本の黒い影が針のようにラルガスから伸びて襲いかかってくる
それを体術で捌きながらラルガスにジリジリと接近する
「へぇ、かわせるんだ。さっきのオモチャよりは楽しめそうだね」
ラルガスに焦りはなく、むしろ楽しんでいると言う感じで狐太郎に影での攻撃をしかけている
しかし狐太郎には余裕の表情はない
ラルガスの人間を弄ぶような行動に怒り心頭なのだ
過去に師匠に言われたとは言えよく飛び出さなかったと内心思う
これが知己とかだったら我慢できたかどうかは自信がない
ジリジリとラルガスに接近する狐太郎だが、ある程度攻撃に慣れてきたのかラルガスに向かう速度が上がる
このままならいける!と内心狐太郎が思ったのもつかの間
「あれ?慣れられたかな?それじゃもう2本程増やしてみようか」
『--!?』
その言葉通り、狐太郎に襲いかかっていた黒い影が3本から5本に増えた
『くそっ!』
先程よりも攻撃が激しくなりかわすので精一杯な狐太郎は前進できずに、その場に縫い付けられるようになる
「あはは、これはちょっと厳しいかな?でも避けなきゃ死んじゃうから頑張ってね」
当然だが近づくにつれ攻撃も激しくなる
それが倍に近い数になれば尚更で、狐太郎は必死に襲い来る伸びた影をかわす
「あ、そっちはダメだね」
狐太郎がかわした動きを見たラルガスが笑顔で忠告する
右足のつま先に体重を乗せた態勢で前と左右から時間差で影が伸びてくる
狐太郎は最初に迫り来る前から襲い来る影を体を左に傾けてなんとかかわす
次いで左から来る影には身を捻ることで対応するが、反応が遅れ左腕を浅く掠め傷を負う
そこから最後に右から伸びくる影
左からの影の攻撃を躱しきれずに接触した為に不用意な体勢になってしまった
躱せない!
そう踏んだラルガスは狐太郎が串刺しにされた未来を想像し喜悦に歪んだ表情になる
事実狐太郎も躱せないと判断した
ザシュ・・・
貫く音にラルガスは喜色満面の笑顔に染まる
が、それは一瞬だけだった
「--えっ?」
次いでラルガスは呆気に取られた表情を浮かべた
それは想像と違う結果だったからだ
狐太郎を貫くはずだった影は狐太郎の手前で断ち斬られて、斬られた先は地面に落ちる前に虚空に溶けて消える
「・・・か・たな・・?」
何故か震える声で呟くラルガスの視線の先には、狐太郎の右手に鞘から抜かれた刀が鈍い光を放っていた
刀がラルガスの影を断ち斬ったのは言うまでもない
ラルガスは斬られたショックでと言うわけではないだろうが影を狐太郎から引き上げる
「それ、刀かい?」
いつもの相手を馬鹿にした表情はなりを潜め真面目な表情でラルガスは口を開いた
『よく知ってるな。これは刀だよ』
狐太郎の答えにラルガスは苦虫を潰したような顔になる
「そうか、やっぱり刀か。それじゃもしかしてあの精霊も君が召喚したのかい?」
『いや、召喚したのは俺じゃない』
「そう?でも精霊と親しく話してたようだけど?」
尚も食いつくラルガスに狐太郎は些か戸惑う
刀と精霊に何か嫌な思いでもあるのだろうか
現にラルガスは先程までの余裕の表情は消え失せ狐太郎を警戒する様子を見せている
『答える必要はないな』
狐太郎は素っ気なく言い放ち、ラルガスが攻撃する素振りすら見せないので急いでポシェットからポーションを取り出し左腕の傷口に振り掛ける
もちろんラルガスの動きを警戒しながらだが、ラルガスはそんな素振りは見せなかった
「刀・・精霊・・・それに言葉遣いまでそっくりだ。あー嫌な事を思い出しちゃったよ・・・・・・-死-リ--」
最後の一言は聞き取れなかったが、やはり何かあったらしい
さらに何かぶつぶつ呟いているラルガスは傍から見たら不気味に見える
先程までの余裕の態度はどこへやら、その変わりっぷりに逆に狐太郎は警戒する
「脆弱な人間如きがぁ!!僕を見下すなぁぁぁ!!」
急に叫び出したかと思うと同時にラルガスから黒い影が急激に無数に分かれ、狐太郎に遅いかかった
速さも先程よりも断然こっちの方が速い
『--っ!?』
いきなり出現し高速で襲いかかってくる影に、その多さに驚いた狐太郎だが警戒していた為迎撃準備はできていた
先程よりも高速で迫り来るそれを捌き、或いは刀で斬り飛ばす
「くそっ、くそっ、くそっ!バカにするな!僕は高貴な魔族だぞ。人間如きが僕に、僕にぃぃぃ!!!!」
尚もラルガスは意味不明な事を口走り攻撃は苛烈を極める
「死ぃぃぃねぇぇぇぇぇぇ!!!!!!
ラルガスが叫ぶと数十本の黒い影が一斉に四方八方、全方位から襲い来る
『--っ!?
狐太郎の全身が淡くエメラルドグリーンに輝くと流れるように動き出し、次第に勢いを増してゆく
さながら風神の如く剣風で鎌鼬をも発生させ、辺りに風が巻き起こる
そして狐太郎の間合いに入った黒い影は一瞬で全て断ち切られる
しかし数本が[風神円舞]を掻い潜り狐太郎の足を傷つける
痛みに顔を顰めながらも残りの[闇の漆黒針]を全て防いだ狐太郎だが、先程受けた傷と大技を出した後なのか、片膝をついて荒く息をついている
「--な、なんだって!?」
全力と言っていい攻撃を防いで見せた狐太郎を見たラルガスは驚愕に目を見開く
ラルガスの驚きは二種類の感情が入り交じっていた
1つ目はほぼ完璧に[闇の漆黒針]を防いだ事
2つ目は完全に防げずに傷を負った事だ
狐太郎が傷を負った事でラルガスは落ち着きを取り戻しつつあった
「あ・・あはは。あはははははは・・・・僕としたことが、我を忘れちゃったよ。そうだ、あいつと同じわけない。あいつと同じ奴が2人もいてたまるものか。あいつは今の僕の攻撃も涼しい顔で防いでいた」
ひとまず錯乱状態から回復したラルガスだが、まだ精神が落ち着いてないようで軽い興奮状態だった
「よくよく見れば技も動きもあいつよりもまだまだ荒い。今の技だってかなりの大技だったんだろう?技も未完成っぽいし、疲労困憊じゃあないか。隙だらけだよ。そんな彼があいつと同一人物のはずがないじゃないか」
ラルガスは自分自身に言い聞かせるようにひとり言をぶつぶつ呟き、次第に落ち着いてきたようだった
「ほら、よく見れば髪の色も違う。身長だって体型だって。なんだ全然違うじゃないか」
1人でつらつら話すラルガスに視線は外さずに警戒しながら狐太郎はポシェットからポーションを取り出し一気に飲み干す
「体力は回復したかな?」
ほぼ完全に自分のペースを取り戻したラルガスは再び、軽い口調に戻っていた
『待っててくれたのか?随分と余裕なんだな』
「あはは、もう少し遊ぼうと思ってね。君を見てると忌々しい奴を思い出すけど、払拭するいい機会だしね。できれば楽に死なせてあげたいけど似てる君を嬲り殺せば僕も吹っ切れると思うんだ。だから手伝ってよ」
『そんなに苦手な奴がいるのか?』
ラルガスの言う苦手な奴に多少興味があった狐太郎は思わず聞いてしまった
「気になるかい?そうだね、君も似てるだけで嬲り殺されるのは理不尽だろうしいいよ、少し話してあげようか」
激昴するかと思いきや、どうやら話してくれるらしい
このラルガスと言う魔族はお喋り好きなのだろうか言動も多少幼い感じがするし、個体によって違うのだろう
「では昔々、そうだねあれは僕が生まれて150年くらいたった時、今から1800年くらい前だったかなー」
『そんなに昔ならその人間は生きてないんじゃないのか?』
「普通はそう思うよね。でも生きてるんだ。だから君をあいつだと思ったんだけど」
どうやら生きているらしい
その時点でもはや人間じゃないだろとツッコミを入れたかった狐太郎だったが、思い当たる人物が数人浮かびまさかねと思考から追い払う
そしてラルガスは朗々と語り出した
「最初に会ったのは戦場だったんだ。我々魔族と人間達の戦争[魔人戦争]だった」
「戦況は数で見れば僕ら魔族が圧倒的に不利だった。でも当時の人間達は今よりも魔術の発達はしてないし、武の腕も未熟でね。ただ、数は圧倒的に向こうが優勢だったから数で押せばなんとかなると思ったんだろうね。現に人間達同士の争いは数頼りが多かったし」
「同族で争うなんて滑稽だよね。理由が大陸を統べたいから、とか個人の富や名声を高めたいとかくだらない自分の欲求ばかりだし」
「話が逸れたね、それで向こうは数頼りで僕達魔族にちょっかいかけてきたわけ。僕らは人間に比べて個体数ははるかに少ないけど個々の腕は人間が束になっても叶わない程強いからね」
「当時の人間達は僕ら魔族の事をよく知らなかった。今より情報を得る術がなかったってのもあるんだけど、外見だけで邪悪だと判断したんだ。現に倒せると踏んだんだろうね。まぁ倒されてきたのは末端のレッサーデーモンやグレーターデーモン、下級の魔族や悪魔だった。それが魔族の力だと判断したんだろうね。そして自分たちの欲求を満たしたい為だけに攻め入ってきたんだ」
「最初は人間優勢だった。前線に出張っていたのは下級の魔族や悪魔ばっかりだったからね。でも次第に僕ら中級や上級魔族が前線に出るようになって形勢は傾いていった。僕ら魔族が優勢な側にね。そして人間達は魔族を力を見誤っていたと気づくのは大陸半分くらい押し返されて、人間も半数くらいに減ったくらいだったかな」
「僕らの被害は微々たるものさ。普通の武器では完全には殺せないからね。一気に形勢は逆転してこれから人間達を本格的に根絶やしにしてやろうと言う時だったよ、あいつが現れたのは」
饒舌に語るラルガスは狐太郎からでもはっきりとわかるくらいに嫌悪感と、無意識の反応だろうかブルッと震え、
ここで茶々を入れるのも何なので狐太郎は黙っていた
「そしてそいつ1人とその仲間数人に僕らは押され始めた。馬鹿なと思うよね?たかだか10人に満たない人間に押されるなんて。それを聞いて僕はそのとんでもなく強いと言われてる人間を仕留めようと部下を連れて探し回ったんだ。そしてみつけた」
「そいつは真っ白な髪と真っ白な外套を着ていてさ一瞬でわかったよ、強いってね。すでにそいつの周りは味方の魔族はいなかった。だからチャンスだと思ってつれてきた部下達をけしかけた。いってはなんだけど部下と言ってもそこらにいるレッサーデーモンやグレーターデーモンなんかよりはよっぽど強いよ。並の人間が束になっても敵わないくらいにはね。だから実力を測るにはちょうどいいと思ったのさ」
「でもね、途中でそいつの仲間達に部下は足止めされてね。そいつらも強かったよ。僕の部下を確実に仕留めてたからね。対魔族用の武器も持ったし。どうしたもんかと思ってたら向こうから近づいてきてくれたんだ」
「そいつの仲間が後ろで何か叫んでたけどそいつはお構い無しに僕に向かって歩いてきた。その余裕さに一瞬ここが戦場だって忘れたくらいさ。「お前が大将か?」って聞くから「そうだよ」って答えた。そして最初は様子見として攻撃を仕掛けたんだけど、軽く手で払いの蹴られちゃってさ。その余裕の態度に少しカチンと来た僕は強めに攻撃したんだ。そしたらそれも簡単に防がれちゃってね。さすがに驚いた顔をしてたらそいつが僕に一言言ったんだ」
「「大したことないな」って。人間なんかに侮辱されたのは初めてだったから激昴しちゃってさ、さっきの君に仕掛けた攻撃もしたんだけどあいつは自分の周りに防御空間を作り出してあっさり防いだんだ。そしてそいつが剣を持って襲いかかってきた。初めて見た時は変な剣だなと思ったけど、あれが刀って呼ばれてたのは後で知ったんだ。今はそこそこ出回ってるらしいけど当時刀の所有者ってほとんどいなかったらしいんだよね。だからすぐに名前もわかった」
『そいつの名前は?』
狐太郎は真っ白い髪でピンと来て、すでに当たりを付けてはいたがあえて訪ねた
「その時はリロイって名乗ってたよ。真っ白い髪で、目立つからひと目でわかる。そういえばこれも後で知ったんだけど[白死神リロイ]って有名だったみたいだね」
狐太郎はやはりと内心ため息をついた
人間で長寿だと聞いた時から薄々は勘づいてはいたが、改めてラルガスの口から聞くと驚愕よりもため息しか出ない
多分その仲間と言うのもおそらく知っている人だろう
「驚かないね?[白死神]って有名でしょ?[魔人戦争]の英雄だし、僕達魔族の間でも天敵として有名だ。今は人間達の間でも語り継がれてるんじゃないかな」
なんと言おうか狐太郎は迷った
まさか弟子ですなんて言ったらどうなるのだろうか
そもそも刀や精霊は同じでも仕方ないのだが、言葉遣いまで似てると言われては凹まずにはいられない
『あー、その人師匠だ・・』
迷った挙句素直に話す
ラルガスは目を大きく見開き狐太郎をじっと見つめる
「なんだって?」
そこには多少の怒気が含まれていた
『俺が会った時は名前が違ったけど、師匠は名前をいくつか使ってるから。でも真っ白い髪はこの世界で1人しかいないから間違いない』
狐太郎の言葉にラルガスは俯いていて表情は伺いしれないが全身を震わせている
「あはは、アハハハハハハハハ。こんなところにあいつの関係者がいるなんて思ってなかったよ。僕はなんて運がいいんだ」
両手を広げ天に向け狂ったように言葉を紡ぐ様は、さながら舞台俳優のようだ
「君を殺せばあいつの悔しがる顔を見れるかな。君の首をあいつの前に差し出せば絶望する顔が見れるかな」
『残念ながら師匠は俺が死んだ程度じゃ動揺しないよ』
「あは、それじゃ試しに君を殺すよ。それであいつの前に捧げてみよう」
『そんなことされたら俺が殺されるから御免だね。それに・・』
狐太郎が言葉を止めるとラルガスは訝しむように狐太郎を見る
『死ぬのは俺じゃなくてお前だからな』
「アハハ、言うね。そんな所もあいつにソックリだよ」
怒気を含ませながらラルガスは言葉を紡ぐとラルガスが纏っていた影が膨れ上がる
「無駄話しちゃったけど、再開と行こうか」
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