一章 38 ウェルキンvsレヴァナ①

ウェルキンとレヴァナは対峙し睨み合っていて、お互い動く気配はない


ウェルキンは狐太郎からもらった魔力を回復するポーションは先程1本飲んだが、魔法袋にまだ3本残っている

魔力も満タンで体は好調のはずだが、ウェルキンは自ら動き出せずにいた

それは一にも二にもレヴァナの実力が本物で隙がなかったからである


「(改めて対峙してみてわかったが隙がねぇ・・強いな)」


ウェルキンは舌打ちしたくなる気持ちをぐっと堪え、攻める手立てを考える


「うふふ、どうしたのかしら?来ないならこちらから行くわよ」


動かないウェルキンに痺れを切らしたのかレヴァナは地を蹴り一気にウェルキンへの間合いを詰める

一気に懐まで入ると黒い手刀がウェルキンの心臓目掛けて突き出される


「--!!くっ・・」


瞬きする一瞬で間合いをゼロにされたウェルキンは驚く間もなく突き出された手刀を防ぐべく剣を振るう

かくしてそれは間に合いレヴァナの手刀を弾く事に成功する

キィンと甲高い音が木霊する

そして手刀が弾かれたレヴァナはさらなる追撃をするでもなく再び後方に下がり間合いを開けた


「へぇ、今のを防げるのね。それに私に傷を付けるなんてやるじゃない。その剣いい剣ね。」


レヴァナは弾かれた手刀から一筋の血の後が出来ていた

そこから流れる血をレヴァナは舐めるように掬いとる


「ちっ・・(硬い!コタローからもらったこいつじゃなかったらやられてた)」


剣の腹で防ぐつもりだったのが、相手の動きが早すぎて刃で弾く形になった

以前のウェルキンなら今の攻撃で死ぬことはないにしろ、致命傷になっていてもおかしくはなかった

ウェルキンは内心で狐太郎と訓練を手伝ってくれたマキシムに感謝の言葉を吐きながらレヴァナの動向を伺っていた


「それじゃ、こんなのはどうかしら」


その場から動かないウェルキンに、さらにレヴァナが攻勢に出る

レヴァナを中心に小さな黒い粒が無数に浮かび上がる

大きさは小さな石ころサイズから大きければ直径5cmほどの大きさの物まで様々だ


ドゥンケルグラァヴァル闇の礫


レヴァナが言葉を発すると周りに浮かんでいた黒い粒たちは、さながら弾丸のように一斉にウェルキンに襲いかかった


「くっ、こんな攻撃もできるのかよ」


ウェルキンは悪態を付きながらも、迫り来る黒い弾丸達をかわし、あるいは剣で弾きながらよける

しかし剣で弾かれた黒い礫は力を失い消滅したが、避けたものに関してはウェルキンの後ろでグルリと旋回するように回ってきて再びウェルキンに向かってきた


「追尾型か。まったく面倒な攻撃してくれるじゃねえか」


再びウェルキンに向かって飛んでくる闇の礫がウェルキンの間合いに入る

しかしウェルキンは落ち着いた様子でなにやら呟いている


エスクドヘル・ファイア業火の盾


その瞬間、ウェルキンの前方に全身を覆い隠してなお余りある、炎の盾が出現した

いや、盾と言うかもはや壁と言った方がいいのかもしれない

闇の礫はその盾に触れるやいなや、炎に包まれジュウゥゥと言う蒸発するような音をたてて消滅する

すべての礫が業火の盾によって消滅し、あたりには水蒸気のようなものが立ち込める


「やるわね」


レヴァナの素直な賞賛にもウェルキンは睨みつけたままだ


「ふん、そう簡単にやれると思うなよ」


業火の盾を消し改めてレヴァナに向き直る

攻撃特化のウェルキンが防御の魔術を覚え使いこなしている事を、彼を知ってる者達からすればみな驚き、驚愕するのは間違いない





~~~~~~~



「なんで防御魔術を覚えなきゃならん」


フリッグ領の地下訓練場にウェルキンの声が響く


「ウェルキン、お前さんの欠点は防御面にあるんだよ」


吠えるウェルキンにマキシムは攻撃だけではいずれ限界がくると説明する

それには狐太郎も同意見なので頷いている


「攻撃面をさらに強化すれば問題はない」

『攻撃は最大の防御って奴?』

「そうだ、相手に反撃の隙を与えずに一方的に攻撃して倒す」


ウェルキンはさも当然とばかりに言う

マキシムは内心「この脳筋め」と思ったが流石に口には出さない


「それは1対1の時や敵の数が少ない時、格下相手にはそれでも大丈夫だ。しかし今回は相手は魔族だ。身体能力からして違う。レッサーデーモンでも苦戦する状態で上位の魔族が出てきたらどうする?」


マキシムは「さらに」と言葉を続ける


「王都は敵の巣と言ってもいいのだろう?ならばここにいたより上位の魔族がいてもおかしくないし、質も数も上だと見るべきだ。それが複数出てきたら、防御面に不安があるお前さんは王女様を守れるか?」


マキシムの正論にウェルキンは口を噤んでしまう


「お前さん1人が窮地に追い込まれ、最悪死ぬのは自業自得だが、そのせいで王女様に危害が及ぶのは困るだろう?今まではデュラインやロイザードが守っていたが、そういう状況がいつか崩れる時が必ず来る」


痛いところをつかれ苦々しい顔をするウェルキン


『攻撃面を上げるのは悪くないと思う。だけど今回は相手が待ち構える場所に行くんだ。できる事は増やしておいた方がいいよ』

「わかった」


狐太郎の言葉にウェルキンも承諾するが、攻撃に対して防御は地味なイメージがあるのかテンションは低い


『幸いウェルキンに渡した魔剣ファラムがあれば防御の魔術は覚えやすいと思う。炎を使った防御魔術なら行けると思うよ』

「こいつで防御魔術が使えるようになるのか?」

『うん、あとは持ち主のやる気次第だけど』


狐太郎のさり気ない発破にウェルキンはやる気をみなぎらせてくる

もう一息かなと狐太郎がさらに言葉をかけようとする


「覚えた防御魔術で窮地の王女様を救う場面を想像してみろ」


狐太郎の言葉の後をマキシムが繋ぐ

ウェルキンはしばらくその言葉を吟味し固まっていた

恐らく脳内で王女様を救う場面を思い描いているのであろう


「クリスティア様を危険に晒すわけにはいかんからな。防御魔術を覚えてやる」


休憩は終わりとばかりに走り出したウェルキンの顔は至極真面目な顔だったが口元は笑みの形になっているのを2人は見逃さなかった


「なんと言うか単純だな・・」

『クリスティア様至上主義だからね、ウェルキンは』


些か呆気に取られる2人


「おい、ぐずぐずするな!時間がないんだ。早く防御魔術の特訓をするぞ」


傍から見てもやる気をみなぎらせ上機嫌のウェルキンに2人は互いに視線をかわし、笑い合う


「ああ、時間がないから厳しく行くからな。覚悟しろよウェルキン」

「上等だ、それくらいじゃないと困る」



~~~~~~~





窮地の王女様を目の前で救うと言う妄想は果たせなかったウェルキンだが、自分がやられれば被害がいくので結果的にはよしと納得する


「今度はこっちから行くぜ」


幾分緊張がほぐれてきたのか、今度はウェルキンが間合いを詰めるべく右手に剣を握りしめ走り出す


「私、接近戦は得意じゃないのよ」


再びレヴァナの周りに同じような闇の礫が浮かび上がる

しかし今度のは大きさが均一になっており、なおかつ槍のように鋭利になっている

そしてそれからは瘴気のような物が立ち上り揺らめいている


「行きなさい!ドゥンケルアイスランス闇氷の槍


レヴァナの言葉にそれはウェルキンに襲いかかる


「氷は効かねぇぜ!」


ウェルキンは剣の刀身に炎を生み出す


「舞え!プラーミア・バイレ炎舞


刀身から生まれた炎がさながら巨大な蛇のように弧を描き、向かい来るレヴァナの闇氷の槍を喰らい尽くすべく襲いかかる

先程と同じように炎に触れるやジュウゥと言う音と共に蒸発していく

しかしすべてを消しさる事はできなかったようで何本かの闇氷の槍はウェルキンに襲いかかる


「ふっ!」


はなから全てを無効化できると思ってはいなかったのか、ウェルキンは慌てずに剣の間合いに入った闇氷の槍を剣で砕いていく

最後の闇氷の槍を気合い一閃で砕くとパキィンと言う音が響き立ち割られ砕け散った

ウェルキンはそのまま減速せずにレヴァナへ接近する


「なるほどね」


接近されてもレヴァナは特に慌てることなく、迎撃態勢を取り右手に魔力を送り込む


ドゥンケルハルト・アーム闇硬化


右腕の肘から先が硬化し、さらに長さがショートソード並の長さまで伸びる

その右腕でウェルキンから放たれたスピードの乗った斬撃を受け止めギリギリと鍔迫り合い状態になる


「接近戦は苦手なんじゃなかったのか」


力では流石にウェルキンに分があるのか、徐々にレヴァナは押し込まれる態勢になる


「苦手、っよ!」

「--っな!?」


しかしレヴァナは踏みとどまる

ウェルキンが驚の声を上げ、さらに押し込もうとするもビクともしなくなる

何故ならレヴァナの腕が一回り大きくなってるからだ


ウェルキンが一瞬止まったスキを見逃さずレヴァナは一気に力を入れて押し返す

その勢いを持ってウェルキンの胴を薙ぐが、しかしこれは我に返ったウェルキンが押された勢いそのままに後ろに飛んでかわす


「まさか押し返されるとは思わなかった」

「これはあまり使いたくないんだけどね」


言いながらレヴァナは太くなった腕を瞬時に元に戻した


「そのままだったら俺に勝てるかもしれんぞ?」

「見てわかる通り美しくないでしょ?あんな腕じゃ。私、醜いのは嫌いなの」


言いながら左手で髪をかき上げる


「ふん、そんな余裕なくしてやるよ」


再びウェルキンは開いた間合いを詰めるべくレヴァナに向けてダッシュする


ドゥンケルアイスランス闇氷の槍


レヴァナが再び闇色の氷の槍を出現させる


「またそれかよ!」


ウェルキンは速度を落とさないままでそれに突っ込む

それを見てレヴァナは小さく笑みを作る


「舞え!プラーミア・バイレ炎舞


先ほどと同じようにウェルキンは刀身から炎を生み出す

刀身から出た炎が闇氷の槍を蹂躙・・にはならなかった


「-!?なに?」


レヴァナの闇氷の槍の威力が上がったのか、ウェルキンの炎舞が弱かったのかわからない

防げたのは数本のみで、さらにその数本を防いだお陰で水蒸気によって視界が遮断、水蒸気を切り裂いて闇氷の槍がウェルキンに突き刺さった


「ぐあっ!」


咄嗟に身を捻り致命傷は避けることに成功するも傷は浅くはなく、思わず膝を付くウェルキン


「うふふ、どうしたのかしら?もうおしまい?」


最初と同じ結果にならなかったのは最初よりも先程の闇氷の槍の方が威力が高かったからにすぎない

もちろんそうしたのはレヴァナなのだが

最初に放った闇氷の槍をウェルキンが炎舞で防いだ時に全て防がれなかったのを見たレヴァナが炎舞の威力を確認し、2回目の結果につなげたのだ

もっともウェルキンがあれ以上の炎舞を出す可能性もあったが、それはそれで最初の攻防に戻るだけでレヴァナの不利には働かないと判断したのだ


水蒸気が細かい霧状になり辺りに漂う中、レヴァナがウェルキンに近づいてくる

視界は徐々に開けてくるが辺りにうっすら霧が立ち込め遠くまで見ることはできない


「見た感じ致命傷を与えたつもりはないのだけれど、動けない所を見ると当たりどころが悪かったのかしら」


片膝を付いたまま俯き動かないウェルキンに訝しみながらもゆっくり近づくレヴァナ

距離は、そう1歩踏み込めば剣の間合いにまで近づいてきていた


不用意に近づいたレヴァナに動けなかった--いや、正確には動けない振りをしていたウェルキンは顔を上げ、剣の間合いまで一気にふみこんだ


「・・えっ!?」


いきなり動いたレヴァナは完全に虚をつかれ、誘いだったとわかった時はウェルキンの剣がレヴァナの胴に触れた時だった


「油断大敵だ」


ウェルキンの魔剣はレヴァナの胴を綺麗に真っ二つにした


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