一章 29 王都へ

翌朝


部屋に運ばれた朝食を食べて部屋で待機している一行

食事を持ってきた侍女からしばし待機していて欲しいと言われたのだ


「なんでしょうね」

『何かあったのかな』


寝不足かつクリスティアの説教でぐったりしていた狐太郎とウェルキンは疲労回復のポーションを飲み体調をある程度回復させている

しばらく待機していると扉がノックされ、メアリーが扉を開けるとアレインが立っていたので彼が案内人のようだ


アレインの案内で一階のダイニングに通されると先客が2人すでに待っていた

入口で狐太郎達は先客を見て驚き固まる

アレインは先客の背後に控えるように移動する


「よく来てくれた。とりあえず立ったままは辛いだろうから座ったらどうだ?」


先客の1人フリッグ伯爵は席を促す

その言葉に我に返った狐太郎達は席に移動する


「ふふ、無理もないわね。私もこんなに回復が早いとは思わなかったもの」


席に着く様子を眺めながらもう1人の先客ローリアは笑顔で口を開く

全員席に着くと侍女達が茶菓子と飲み物を用意して各自配っていく

全員に配られたのを確認したフリッグ伯爵は狐太郎達をゆっくり見回す


「まずはクリスティア様達に感謝を。領民と部下達、そしてローリアと私を救ってくれて感謝する。ありがとう」


伯爵は頭を下げるとローリア以下アレインや侍女達も頭を下げる


「そして、そうだな。色々聞きたいことがあると思うが・・・まずは皆が一番疑問に思ってる事に答えようか」


フリッグは再び狐太郎達を見回す


「病気だったのに何故こんなに早く回復したのか?だろう。それについては運が良かったと言えばいいか」


クリスティア達は首を傾げているが構わず話を続ける


「私は兄にあの薬を飲まされてベッドから起き上がれなくなった。普通に考えれば寝たきり状態なら四肢の筋肉は衰え、回復したとしてもそうとうなリハビリ期間が必要だろう」


フリッグは一旦言葉を止め、飲み物を一口飲む


「しかし私の場合は薬の効きが良すぎたのか症状が早かった。薬のせいで手足は痺れ感覚もなくなり動かすこともできなかったが・・・」

「短期間だった為、四肢の衰えなかったと?」


クリスティアが言葉を引き継ぐとフリッグはそれに頷く


「薬の中に多少の四肢を弱らせる効果もあったかもしれないが、潜伏期間が短かった為大事には至ってない。そして」

「コタロー殿がくれたユグドラシル薬。あれの効能のお陰もある」


狐太郎を見つめる


「しかしまぁ完全回復とはいかなかったようで、歩く時は肩を貸してもらわなければいけないし、食事もまだ固形の物は難しい。しばらくリハビリは必要だが、こうして座って話す分にはほぼ問題は無い」


言いながらフリッグは飲み物を飲み干す

すぐに新しい飲み物が追加される


「そしてユグドラシル薬が本物と実証されたわけだが」


フリッグが何を言いたいのか察したクリスティアは小さく頷く


「はい。お父様・・王にも効果があると言うことです」

「うむ、コタロー殿」

『はい、すでに一本クリスティア様に渡しています』

「そうか。しかし心配なのは王の容態だ」

「それについても恐らく大丈夫かと」

「ほう」

「王の症状はフリッグ様と逆に進行が遅いのです。私が王宮から脱出するときは寝たきりでしたが、話すことはできました」

「なるほど。だがゆっくりもしていられまい」

「はい・・・」


気が気ではないのは確かだ

最後に見た時は話ができたとはいえ、未知の病気な為あとから症状の進行速度が早まる可能性もある


「で、だ。ここにクリスティア様が訪れた理由は何かあるのだろう?此度の騒動を鑑みれば察しはつくが・・・」


フリッグ伯爵は真剣な表情でクリスティアを見つめている


「力を、貸してください」


同じく真剣な眼差しで見つめ返しながらクリスティアは開口一番口を開くと言葉を続ける


「大臣と・・アゼル兄様の起こした反乱を止めたいと思っています」

「ふむ、王都の事は私も聞いている。しかし本当なのか?」

「はい。止めようとしたシャルロス兄様とルティーナ姉様は幽閉されていますし、私達も刺客に襲われました」

「それでは今国を動かしているのはアゼル殿と大臣か」

「恐らく。私が王都から脱出した事で表立って逆らう人はいないと思いますので」

「わかった。私としても協力するのは当然だと思っているし、準備を進めてはいた」

「え?」

「だが、それを見計らったようにここでも反乱が起きてな。結果は周知のとおりだ」


フリッグ伯爵の言葉に一瞬沈黙が流れる


「それもクリスティア様のお陰で被害も少なく済んだのだ。感謝してもしきれない。なのでこちらから協力させてくれと言いたいくらいだ」

「---では!?」

「うむ、是非協力させてくれ。私としても見過ごせない事態だからな」

「ありがとうございます」


フリッグ伯爵の言葉にクリスティアはホッと安堵する


「しかし準備に少し時間を要するのは理解してくれ」

「わかってます。こんな事があったばかりで本当なら領内の混乱も沈めないといけないのに・・・」


申し訳ない表情でクリスティアは呟くが、伯爵は首を横に振る


「マキシム達が裏で色々動いてくれたお陰で領内の混乱と被害は微々たるものでそれほど大した事ではないのだ」


一呼吸置いた後伯爵は再び口を開く


「ただ、移動に要する馬車の準備や食料などは兄が豪遊してたようでな・・・現状確認中だ」

「わかりました。何から何までありがとうございます」

「なに、これくらいは安いものだ」


フリッグ伯爵は笑顔で頷くと、ひと息つくように背もたれに背中を預ける

すると後ろに控えていたアレインが心配そうにしているのをクリスティアは見る


「フリッグ様お話はこの辺にして少しお休みなさっては?少し辛そうに見えます」

「あなた、クリスティア様もああ言ってますし休ませていただきましょう」

「ん、いやまだ・・・」

「あまり無理をなさっては治るものも治りずらくなりますわ」

「・・・わかった」


女性陣2人にそう言われて口を噤む

特にローリアには心配させっぱなしなので大人しく引き下がるしかない


「では好意に甘えて少し休ませて頂こう。2、3日もすれば準備は終わると思うのでそれまでここで過ごしてもらってかまわないし、街へ繰り出すのもかまわない。いる間は自由にしてくれ」

「ありがとうございます」


礼を言って立ち上がるクリスティア達は扉近くにいる侍女を先頭に部屋を出る


「さて、2、3日時間が空いたわけですがこれからどうしますか?」


部屋に戻るとデュラインからの言葉にクリスティアへ視線が集まる


「各自自由行動で。何かあった時はすぐに連絡を」

「わかりました。とりあえず今日は夕食時までには戻ると言うことにして自由にしましょう」

「それで構いません」


すると扉をノックする音が聞こえ、メアリーが開けると入ってきたのはマキシムだった


「よう、話は終わったのか?」

「はい、とりあえず2、3日こちらでお世話になります」

「そりゃ良かった」

「どういう事だ?」


マキシムの言葉にウェルキンは尋ねる


「ウェルキンとコタロー、うちで訓練しないか?」

「まさかそっちから言ってくるとはな。こっちから出向こうと思ってたくらいだ」


ウェルキンはニヤリと笑う


「たかが3日で何ができるかわからんが、恐らく奴らの戦力は最低でもレッサーデーモンだろう」

『少なくとも単独で倒せるくらいにはなりたいね』


狐太郎も同意する

その目は悔しさと強くなりたいと言う決意の目だ


「決まりだな。王女様、この2人を借りて構わないか?」

「ええ、2人が望むなら」


マキシムの言葉にクリスティアも頷く


「了解した。なら地下訓練場に行くか」

『そこは普通の訓練場とは違うの?』

「何、行けばわかる」


意地が悪そうな笑みを浮かべるマキシムにウェルキンは強く頷く


「強くなれるならどんな訓練だろうと構わん」

「じゃあちょっと2人借りて行きます。夕食には返しますので」


マキシムは踵を返し歩き出し、狐太郎達もそれに続く


「ロイザードはどうしますか?」

「某は少し調べたいこともあるので図書館にでも行こうと思う」

「なら一緒に行きましょう。私も調べたいものがあるありますので」


「クリスティア様はどうされますか?幾分顔色が悪いように見えますが・・」


デュラインはフリッグ伯爵との集まりの後から少し体調が悪そうにしていると心配していた

恐らく長旅の疲れと、一つの目標だったフリッグ伯爵の協力を無事取り付けた事で緊張の糸が切れたのではないかと推測している


「私は・・少し休みます」

「その方がいいでしょう。少し長旅で知らないうちに疲労が溜まっていたのかもしれませんね。メアリー、クリスティア様をお願いします」


メアリーが頷くのを確認しデュラインはロイザードと部屋を出ていった


「クリスティア様、横になられますか?」

「そうですね」


クリスティアは立ち上がろうとしてふらつく


「クリスティア様!」

「大丈夫です。少し疲れました」


メアリーに肩を貸してもらいながらベッドまで歩き横になるとやはり疲れが溜まっていたのかすぐに寝てしまった




・・・・・・




~翌日~



「気をつけてゆくのだぞ」

「はい、ありがとうございます」


フリッグ領の入口で会話を交わす伯爵とクリスティア

見送りのメンバーは伯爵と夫人、マキシムと伯爵が心配で駆けつけている治療班とアレインと少数だ

結局3日間クリスティアはのんびり過ごした

あのあとすぐにメアリーが侍女を呼び事情を説明すると医療班が駆けつけてきてくれ診察してくれた

診断結果は長旅での疲労の蓄積だと言うことが

わかった

一晩ぐっすり休んで翌日には回復したが、この際だから3日間ゆっくり休めと言うメアリーやウェルキンらの面々に強く言われゆっくり休んだ

そしてこの3日で準備も滞りなく進み馬車はもちろんの事食料や長旅用の布団などももらい食料は狐太郎のポシェットへ、他はクリスティア達の魔法袋だ


「しかも色々と融通までしてもらって・・・」

「大したことではない。しかし魔法袋がこんなにあるとは驚いた。しかもコタロー殿のは時が止まったままとは・・・」

「私もコタロー様には驚かされっぱなしです」


クリスティアは後ろの馬車に視線を向ける

当の狐太郎はウェルキンと馬車の中で絶賛爆睡中である

この3日どうやらかなりハードな特訓だったらしく先程まで起きていたのだが疲れて寝てしまった

ウェルキンなんかは時折うなされている


「コタロー殿の素性はできるだけ秘匿した方が良いだろうな」

「私達もそう思います」

「さて、名残惜しいがあまり引き止めても悪い。我々も準備が出来次第すぐ王都へ向かう」

「よろしくお願いします」


伯爵の後ろ盾を得たクリスティアは笑顔で返事をする

今までとは違いその笑顔は曇りない明るい笑顔だ


「グリッド、ヘマするんじゃねぇぞ」

「任せてくださいよ、隊長じゃないんだから」


マキシムに言われグリッドは笑顔で頷くと御者台に座る

今回クリスティア達に同行するのはグリッドだ

馬車の御者役だが、何かあった時の斥候としても高い能力を持つ

本来ならマキシムやボルグなど腕の立つ人を同行させるべきだと伯爵は言っていたが、領内が完全に落ち着くまではとクリスティアが断った


「それとあの2人だが、短期間だったが見違えるように強くなったぞ。正直根を上げると思っていたが、根性ある。特にコタロー・・・」


マキシムは思い出し畏怖するような表情を浮かべる

しかしそれは一瞬で誰にも気づかれなかった

言葉が途切れた事で首を傾げるクリスティア達


「あいつはこれから強くなる。頑張れと伝えといてくれ」


一転ニヤリとした笑みを浮かべる


「隊長~、話長いっす。年寄りは長話になるって本当ですね」

「うるせーグリッド」


マキシムとグリッドのやり取りに思わず笑うクリスティア


「じゃあそろそろ行きますね」

「我々もすぐに向う。それまで無茶するんでないぞ」


伯爵の言葉に元気よく「はい」と返事をしてクリスティアは馬車へ乗り込む

「じゃあ出発しますよ」と言うグリッドの言葉で馬車は発信する


しばらくは馬車からメアリーが手を振っていたが次第に見えなくなる


「行ってしまったな・・・」

「そうね」


伯爵の言葉にローリアが返事をする


「クリスティア様、これからが大変ですぞ・・・」


伯爵ら面々はクリスティア達が去っていった方をしばらく見つめていた


「それでは我々も色々と準備をしなければいかん。アレイン」


「かしこまりました」とアレインは返事をして領内に戻ると医療班も一緒に戻っていく

残るは伯爵とローリア、マキシムだけだ


「マキシム、何か報告があるのだろう?」


周りに人の気配が完全になくなってから伯爵はマキシムに問う


「はい、まぁ報告と言うかコタローの事なんですけど・・・これを」


口に出して万が一誰かに聞かれでもしたら困るのか書面で伯爵は受け取る


「--これは・・本当なのか!?」


しばらく読み進めていた伯爵は驚きの声を上げる


「恐らくは」

「そうか。何か関連性があるのかもしれんな・・」


伯爵は紙を畳むとクリスティア達が去っていった方を再び見やる





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