一章 24 合流

狐太郎達は処刑台の近くに潜んでいる

まぁ隠れてる訳ではないがローブのフードを被ってるのでバレないだろう


ちなみに処刑台の上にはダムルの私兵の紫と赤の鎧を着たゴロツキ紛いの兵士が10人立っていてウェルキン達を待っている

うち3人程は腰には処刑人の剣、所謂エクセキューショナーズソードを差している

エクセキューショナーズソードは刃先が尖っていなくて平らである

これは処刑人を断罪する為だけの・・・剣なので突く必要はないとされ刃先は平らなのだ


『一応みた感じは五体満足そうだな・・・』


檻付きの馬車、檻車から降ろされ処刑台へ歩かされているウェルキン達を見ながら狐太郎は少し安堵する


「公開処刑するまえに死なれてはかなわんって事なんだろうよ。食事も普通に与えられたようだしな」


マキシムの返答になるほどと狐太郎は頷きながらウェルキン達を見据えている

狐太郎が見る限りウェルキン達は諦めの表情はしていない

何か考えがあるのだろうか

デュラインの事だから何かあるだろうとは思うが、まさか来るかも分からない狐太郎頼みだけって事はあるまい

狐太郎もそう思ったからこそウェルキン達の表情を見て思わずニヤけてしまったのだ


「この後に及んで笑えるとは余裕だなコタロー」

『ただ無事なのが嬉しかっただけだよ、そういうマキシムだってリラックスしてるように見えるけど?』

「あぁ、腹は決めたからな」

『そっか・・』


なんとも頼もしい限りである

お互いそう思ってる事であろう


「んでタイミングはどうするんだ?」

『そうだなー流石に処刑される直前じゃタイミングが難しいだろうし』


狐太郎が思案してる間にウェルキン達は処刑台に上げられる

そして何故かダムルの演説が始まっていた


『うん、この話が終わったらにしよう』

「それがいい」

『マキシムはどうする?』

「俺も一緒に出ていこう。一瞬の勝負だからな」

『助かるよ』

「そろそろ終わるぞ」


もっと話が長々と続くかと思われたが、ダムルは暑いのか扇子を仕切りに仰ぎながら席に戻っていった

そして席に着く前に片手を高々と掲げ、宣言した


「やれ!」


それを合図に処刑台の私兵がエクセキューショナーズソードを抜き放つ


『行こう』


狐太郎の言葉にマキシムは無言で頷きながら2人は人混みの間を縫うように走り出す

だがそれと同時に動き出した者達がいた


「もういいだろ?」

「ええ、これ以上は」

「時間稼ぎ頼みますぞ」


ウェルキン達である

ダムルの演説で視線や意識がこちらから逸れてる間に準備は済ませてある

座った状態から一気に走り出す


「なっ!?」


エクセキューショナーズソードを構えようとしていた私兵は虚をつかれ一瞬動きが止まる

ウェルキン相手にその一瞬は命取りである


「おらぁぁ!!」


すでに魔法袋から取り出し抜きはなった赤く輝く刀身、魔剣ファラムを駆け抜けざまに振り抜く

赤い刀身が綺麗に弧を描く

相手の生死を確認する間も惜しいのか、止まらずに次の相手へ肉薄する

その間にデュラインとロイザードも縄から脱出しており、各々の武器を取り出している

ウェルキンが2人目の私兵を切り捨てた時、私兵もようやく我に返りウェルキン達に武器を手に向かってくる


「な、何がどうなっている?縄で縛って動けなくしてたんじゃないのか!?えぇい、お前ら行け!逃がすんじゃないぞ」


ダムルも一瞬の出来事に停止していたがやおら立ち直ると大声で怒鳴り始める

そして他で待機していた私兵がこぞって処刑台のウェルキン達に群がる

周りで見ていた領民達はそれを見て慌てて広場から逃げ出そうとする

一瞬で阿鼻叫喚地獄となる

ウェルキンが1人目を切り捨てて2人目に向かってる時、狐太郎も処刑台に上がりこみ近くの私兵を切り捨てデュラインの近くに到着した

マキシムも近くの私兵に斬りかかり無力化していた


『あー、なんか見せ場持ってかれた。まぁ目立たずに来れたのは良かったけど』

「久しぶりですねコタロー。増援助かります。それでそちらの御仁は?」

「マキシムだ。訳あってコタローに味方している」

「私はデュライン、こちらはロイザード。あそこで暴れているのがウェルキンです」

『自己紹介は終わった?流石に相手も立ち直ってきたよ』


周りを見ればほとんどの私兵がこぞってこちらに集まってきていた

ウェルキンも2人目を倒した後慌ててこちらに戻ってくる


「遅いぞコタロー」

『タイミングが同じだっただけだよ』

「しかしさすがに領民がパニックになっていますな」


ロイザードがそう呟くのも無理ない事だ

ほぼ満員だった広場の大半が領民なのだ

それが我先に逃げ出す事態にパニックにならない方がおかしい

しかしそれも次第に収まって行く

事態収集に動いていた人物がいたのだ

マキシムはそれを見るとニヤリと口角を上げる


「グリッド!!そっちは任せるぞ!」


大声で事態収集に励む仲間に声をかけると、率先して当たっていたグリッドはマキシムに向かって片手をあげて答えた

グリッドはパニックになる領民をうまく先導し広場から逃がしていた

それを確認した後マキシムは周りがすでに私兵に囲まれている事に小さく舌打ちする


「まったく、どこに隠れていたんだってくらいいるな」

「ふん、だが所詮は烏合の衆だ。何人集まろうと物の数ではない」

「頼もしいな」


マキシムは安物の剣を捨てて倒れている私兵かは剣を拾う


「てめぇマキシム、裏切るつもりか!」


狐太郎達を囲んでいる私兵の1人がマキシムに怒鳴り散らす


「裏切る?違うな。俺が忠誠を誓う人物は今も昔もただ一人、フリッグ様だけだ。どこぞのダルマに忠誠を誓ったことは一度もない」

「てめぇ!!」


マキシムの冷静な物言いに激怒した私兵が襲いかかってきた

それを合図に他の私兵達も動き出した

マキシムは襲いかかってきた私兵の斬撃を軽くいなすと返す刀で腕と足を斬りつけ無力化していく

その剣さばきは軽く一般兵を凌駕していた

ゴロツキ同然の私兵が適うはずもなく数合打ち合わせただけで無力化される


「無駄な殺生は好きではないんでね」

『にしても数が多すぎるな』


狐太郎達を囲む私兵はざっと見た所50前後だろう


「全部うち倒せばいいだろう」


襲い掛かってくる私兵を有無を言わさない一刀で沈めているウェルキンは事もなげに言う

この囲まれた状態では特攻は愚策である

向かってくる敵だけ相手をするのが正解なのだ


「それでは時間が掛かりすぎます。ロイザード」

「うむ」


ロイザードがシャッテンスキアー幻影の杖を構える


アースバインド大地の拘束

サウザントナイトメア千の悪夢


ロイザードが魔術を唱えると大地から根っこが飛び出してきて私兵達を拘束する

といっても全身雁字搦めではなく両足に絡む程度だが、一本一本の根の太さが手首ほどある

そして次に唱えたサウザントナイトメアは複数の敵に悪夢を見せる幻術である

幻術は人によって差異があり、掛かりやすい掛かりにくいがあるが使う魔力が高ければその分効果も高まり掛かりやすくなる


現にロイザードの魔術でほとんどの私兵が動けなくなり、幻術にかかっている

幻術も個人個人で見る悪夢が違うのか、泣いてる者や気絶してる者、叫びながら剣を振り回してる者多数いる


「すまぬ、すこし範囲を間違えたようだ。数人逃した」

「なに、問題ない」


ウェルキンは魔術から逃れてる私兵を確認しながら答える


「全部持っていかれると俺が困る」


狐太郎達の周りに残っている私兵は6人

しかし怖気付いたのか掛かってこない

こちらの様子を伺ってるだけである


「なんだ?今更臆したのか?情け・・・」


マキシムが言葉を紡ぎ終わったる直前、私兵達の影から何かが盛り上がるように出てくる


「なんだあれは!?」


盛り上がって来た影はそのまま2m程まで大きくなりそこから人型の形をつくる


「黒騎士・・」


誰かが呟いた

出現した黒騎士の数はどう見ても20体近くはいる


「多い。10数体じゃないのか」

「これは想定外ですね・・」


デュライン達は一気に窮地に立たされる


「ふはは反乱者共、貴様らの悪あがきもこれまでだ」


勝ち誇ったようにダムルが喋り出す

そのダムルの近くにも4体の黒騎士が出現している


「黒騎士よ、奴らを殺せ!」


ダムルが宣言すると黒騎士は包囲を狭めるように動き出す


「流石に多勢に無勢ですか・・」

「なら諦めるか?」

「まさか、簡単には諦めませんよ」

「某はしばし準備がかかりますな」

「鍛練を怠ってるから発動まで時間がかかるんだ」

「そもそも某は錬金術師・・・」

『来るよ!』

「いっちょ俺も最後まで足掻いて見るか」


マキシムは剣を構え直して不敵に笑みをつくる


「いい顔してんじゃねえか、マキシムだっけか?これが終わったら手合わせしたいねぇ」

「俺で良ければ相手になろう」

「ならこんな所で殺られるわけにはいかねぇな!」


ウェルキンとマキシムが同時に飛び出し一番近くに接近していた黒騎士と斬り結ぶ


「ロイザードはそのまま援護できるようになったらお願いします。コタローは近くに寄ってきた黒騎士から優先でお願いします」

『わかった』


ウェルキンとマキシムが暴れる中、狐太郎は一番近くに近づいてきている黒騎士へ狙いを定め突っ込んで行く


『負けるわけにはいかないから最初から飛ばしていくよ』


黒い鞘から抜き放った日本刀で黒騎士の剣を受ける

そのまま刀を滑らせ間合いを詰め、黒騎士の胴に蹴りを放つ

食らった黒騎士は数歩下がるもダメージらしきダメージは受けてないようだ


『体勢崩そうと思ったのに少し下がっただけ!?しかも凄い頑丈。体術じゃ無理そうか・・・でもお陰でわかったよ』


開いた間合いを詰めるべく狐太郎はさらに前進する

黒騎士はのそりと前進し、再び剣と刀が交錯し、金属どうしの火花を散らす

グッと力で押し込んでくる黒騎士に狐太郎は逆らわずに下がる

それに虚をつかれたのか黒騎士の態勢がわずかに崩れる

狐太郎はそれを見逃さず今度は全力で踏み込む

狙うは態勢を崩して下がった頭部

すれ違いざまに渾身の力を込めて刀を振るう

ガキィンと金属音を響かせて黒騎士の兜が宙を舞う


『力は強いし硬いけどスピードはそれ程じゃないね』


呟く狐太郎、しかし手応えはあったのだが背後に嫌な気配を感じて全力で横に飛ぶ

さっきまで狐太郎がいた場所に斬撃が飛ぶ

飛んで間合いから離れ振り返った狐太郎は驚愕する


『中身がない!!』


黒騎士は鎧の中はがらんどうだった

わかりやすく言えば魔力で動くリビングアーマーだ


「コタロー殿、胸にある宝玉です。おそらくあれが動力源です」

『わかった』


デュラインの言葉に頷きながら再び突っ込む狐太郎

それをのそりと動き出し迎え撃つ黒騎士

頭上から振り降ろされる一撃に半身でかわす

そして胸の宝玉目掛けて全力の突きを放つと宝玉は小さな破砕音を響かせ砕け散る

同時に動いていた黒騎士は電力が停められた機械のように次第に動きが緩慢になり止まる


『ふぅ、ありがとうデュライン助かった』

「いえ、言葉を話さないのでもしやと思いましたが」


視線は敵に向けたままデュラインの近くに戻る


「何だ、あの宝玉を壊せば止まるのか?」

「だから言っただろう、怪しいと」

「ちゃんと仕留めてたんだからいいだろ」


振り返るとウェルキンとマキシムも戻ってきていた

ちなみに彼らが戦っていた場所に目をやると倒れている黒騎士は宝玉は砕けてないが動く気配がない

鎧がバラバラになっていた

どうやら狐太郎と同じく倒れなかったのでバラバラに斬ったようだ


『よくあの硬い鎧斬れたね?』

「ああ、お前からもらった剣の切れ味が良かった。刃こぼれもない」

「いい剣だな」


マキシムを見れば最初に持っていた剣ではない

恐らく黒騎士に折られたのだろう

代わりに黒騎士から奪った黒い大剣を持っている


「相変わらず脳筋ですね」

「うるさい、結果は同じだ」

「でロイザード、どうですか?」

「ダメだ。魔力で動くリビングアーマーなら幻術は通用しない」

「やはり」

「なら補助頼むぜロイザード」


ウェルキンは再び剣を構える

先程かき乱したお陰で包囲は狭まらなかったが、囲まれたままである

まだ10体以上残っている


「早く片付けてクリスティア様を助けに・・・」


ウェルキンはチラリとクリスティアがいる方に視線を送る


「クリスティア様!!」


ウェルキンが叫ぶ



・・・・・・・



黒騎士達と狐太郎達が戦い始めた時

ダムルはすでに勝利を確信したような余裕の表情だ

そしてクリスティアに視線を送るとすこし驚いた顔を浮かべた


「さて、ん?クリスティア様いつのまにそんな杖を?」


見るとクリスティアとメアリーはアクアクリティア水流の杖エクラルミエール光の杖を構えていた


「私も最後まで諦めません」

「いけませんな、そんな玩具を持ち出して。戯れが過ぎますぞ」


ダムルがクリスティアに一歩近づく


「さぁその玩具をこちらに渡してください。今なら不問にしましょう」


近くに控えていた私兵がこちらに来る

しかしそこに割って入る人物がいた


「おいボルグ、そこをどけ」

「どけませんな。王女様に危害を加える者は近づけられません」

「ボルグ・・」

「あぁ!?てめぇ如きが俺に勝てると思ってるのかぁ?」


私兵は腰だめから剣を抜こうとするがボルグの動きは俊敏だった

一気に私兵との間合いを詰めるとアッパーを放つ

それは見事に私兵の顎にクリーンヒットし一瞬棒立ちになるも脳が揺さぶられたのかガクッと膝をつく

そこにトドメとばかりにボルグが蹴りを顔面に見舞い、私兵は吹っ飛ぶ

そのまま起き上がらない所を見ると気絶したらしい

それを驚愕の表情を貼り付けていたダムルは我に返る


「ぼ、ボルグ!貴様裏切るのか?」


ボルグは吹っ飛ばした私兵の元へ歩いていき私兵が持っていた剣を手に取る


「裏切りではない。先ほど隊長も言っていただろう?使える主は今も昔もただ一人、フリッグ様だけだと」


剣をビシッとダムルに突きつける


「き、貴様ぁ!!黒騎士、行け!奴を殺せ」


激昴したダムルが側にいた一体の黒騎士に命令すると、黒騎士は漆黒の剣を抜き放ちボルグにゆっくり近づいていく


「王女様、すこし下がっていてください」

「危険です!」

「大丈夫です。これでもマキシム隊長の片腕ですから」


ボルグは黒騎士に向き直り数歩前へ出る


「同朋の仇、取らせてもらうぞ!」


一足飛びに間合いを詰めるボルグに黒騎士は迎え撃つと壮絶な斬り合いを始める

スピードはやや黒騎士に分があるように見えるがボルグは長年培ってきた経験でそれを弾き、逸らしかわしている


「なかなか粘るではないかボルグ。黒騎士もう一体も行け!」


もう一体の黒騎士がのそりとボルグに向けて接近する


「ちっ・・」


それを見たボルグは小さく舌打ちする

流石に互角の相手を2対1では部が悪すぎる


セントディファンス光の盾

アクアヴァッサークラフト水流の加護


クリスティアの魔法が、続いてメアリーの魔法がボルグを包み込んだ


「これくらいしかできませんが・・・」

「わ、わたしだって・・クリスティア様が頑張ってるんです・・・」


メアリーは幾分声が震えている


「感謝します」


2人の思いかげない援護にボルグは気合を入れ直し、押され気味ながら踏ん張っている


クリスティアとメアリーの2人も定期的に回復や補助を掛ける


「何をやっているか!!えぇい、もう一体行け!」


ダムルが痺れを切らしたようにまた叫び出す

側に控える黒騎士は残り2体

しかしこの2体は他の黒騎士と違い一回り大きい

その1体が動き出す

通常の黒騎士よりも数段早い動きにボルグは驚きながらもなんとか初撃は受け止めたが数メートル程飛ばされる


「くっ・・3体だと?しかも他の黒騎士とは違うな・・・」

「だ、大丈夫ですか」


クリスティアとメアリーが慌てて回復と補助を重ねがけする


「有難うございます。ですが今回はすこし分が悪いかもしれません。今のうちに・・・」


逃げてくださいと言おうとした所でボルグは言葉を失う

黒騎士も補助魔法を使っていたのだ

一回り大きい黒騎士が

ボルグは皆まで言わずに黒騎士に向かって駆け出した

3体が先程より素早い動きでこちらに向かってきてたからだ

3体の猛攻をしばらく凌いでいたボルグだったが他の2体も補助のせいか動きが良くなっており劣勢になる


セントディファンス光の盾

アクアミスト水流の幻


クリスティア達の補助魔法で一時は持ち直すがそれも一時しのぎ

しかし1体の黒騎士がボルグの脇をすり抜け剣を振り上げクリスティア達に肉薄する


「くっ・・・しまった」


ボルグも助けに行こうとしているのだが黒騎士2人に阻まれ動けない


「クリスティア様!!」

「え!?」


遠くからウェルキンの叫び声が聞こえ、振り向くクリスティア

黒騎士の接近にクリスティアは気付くものの動きに付いていけず棒立ちになっている

そこに黒騎士の無慈悲な一撃が振り降ろされた




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