一章 17 知らせ

「ん?まだ何か作るのか?」

「そうだけど、企業秘密なの」

「ここまできてそれはないでしょー。いいじゃない」

「んー、どうするコタローくん」

『僕は平気ですけど・・』

「もう!コタローくんは事の重大さをわかってないわ。・・・はぁ、仕方ないわね。でも今からの事は絶対他の人に話しちゃダメだからね。話したらレフィルに会わせないから」


「わ、わかった」

「誓います」


びしっと音が聞こえそうな感じで伸ばした指をこめかみ辺りに持ってきて敬礼のポーズをするライカ


「それじゃまずはディーノは扉の鍵を掛けてきてもらっていいかしら?」

「おいおい、そんなヤバイ事なのかよ?俺ちょっと後悔してきたかも」

「もう遅いわ。ライカは外から覗かれないように窓のカーテン閉めてね」


了解と言いながら、カーテンを閉めに行くライカ

2人が戻ってきたのを確認するとリリアはじゃあお願いと数歩下がってスペースを空ける


『んじゃまずはシャンプーから行きますね』

「なに、しゃんぷーって?」


作業に入る狐太郎に視線を送りつつもリリアに聞く


「美容の為の商品よ」

「え?」

「は?」


一応作業の邪魔をしないように少し離れて小声で話している


「どこから話したらいいのかしら・・まずはそうね。カズラン草は根っこはポーションになる。これはいい?」

「うん」

「そんなの誰でも知ってるだろ」

「それじゃそのカズラン草の根っこ以外はいつもどうしてると思う?」

「そりゃ捨ててるだろ。役に立たないんだから」


ディーノが答えライカも頷いている

が、何故今更そんな質問をする意図がわからないらしく訝しんでいる


「普通はそうよね。でもね、コタローくんが言うにはカズラン草の葉っぱは不眠症に、花って美容に効果があるらしいのよ」

「え?」

「まじかよ」

「ええ、他の薬草にも部位によって色々あるらしいわ」

「それを今確認する為にやってもらってると」

「それが本当ならすげー事じゃねえか!!」

「だけど1つ問題があってね、物凄い魔力を消費するらしいのよ」


リリアの問題点に最初は何故それが?的な表情を浮かべていたライカが、あ、と納得した表情に変わる


「わかった。その消費魔力量が大きすぎて作れる人がいないって事ね」

「そう、コタローくんはどうやら幼い頃から魔力を使うことをしてたらしくてね」

「それで今の魔力量か」


納得する3人を尻目に狐太郎は次々と商品を完成させていく

狐太郎から膨大な魔力が放出されては吸い込まれていく光景を3人は呆然とも唖然ともつかない表情で見ている


「たしかにあれは並の魔力の持ち主じゃ無理ね」

「発表しても実戦できる奴が少なすぎるか。下手すりゃ希少な人材って事で拉致される可能性もある」

「だから今は公にできないの」

「納得」

「改めて極秘にする重要性がわかったわ」

「そう言ってもらえると助かるわ」

「しかしロイとリクネにはポーションの事どう説明するよ」

「信用できるなら最悪教えてもいいわ。他言しないって誓えるなら」

「一応組んで長いから信頼はしてる。俺は構わんがライカは?」

「私もいいわよ。どの道隠し通せるとは思ってないし、リクネもロイもその辺は私も信用してる」


そんな話をしているウチに全部完成したようだ


「相変わらず早いわね」

「それとあれだけ魔力使ってよく魔力切れで倒れないな」

「コタローくん体調は大丈夫?」


リリアが狐太郎に近づき顔を覗きこむ


『あ、リリアさん。大丈夫です。一応言われた奴は完成してます』


言われて見ればそれぞれ容器の形が違う


「これも瓶って奴か?」

「これだけでも価値があるわね」

「コタローくん説明してもらっていい?」


はいと頷きながら端から順に説明していく


やはり中でもリリアとライカが反応したのはシャンプーだ


「コタローくん、これ私も欲しい」


シャンプーを持ちながらライカが言う

が、現状一本しか作れてない

リリアからの依頼で最低限の採取しかしてなかったので一本が限界だった

そもそもディーノとライカは最初はいる予定がなかったのだから仕方ない


「俺はこれが気になる。不眠症?って事は眠れない人用の奴なんだろ」

「この入浴剤?って言うのも気になるわ」


他にも疲れ目に効く点眼薬だとか体のむくみを取る薬だとか

ただし、それぞれ一本ずつしかない


「と言うかよく見ればほとんど女が喜びそうなのばかりだな」

「うっ・・」


ディーノの的を射た言葉にリリアは固まる


「まさか私利私欲?」

「ま、まさかー・・効果を確かめるのに適した物を選んだだけよ。他の人に使うわけにもいかないし私が使える物じゃないと」

「それはそうなんだが、なんか釈然としないな」

「ディーノそれは考え過ぎだ!」

「ライカ、しゃんぷーを抱きしめながら言っても説得力ないからな」


あきれ顔でライカを見るディーノ


「でも一本ずつしかないわ。どうする?」


普段より三倍増しくらいの真剣な表情で話し合う3人

そこへおずおずと挙手する狐太郎


『えーと、ちょっといいですか?シャンプー類はもう一本ずつならストックありますよ』

「ほ、本当なの?」

「さすがコタローくん!」


リリアではなくライカが抱きついてくる

その光景にリリアは出遅れたと悔しそうに呟き、ディーノは恨めしそうに見ている


『は、はい。一応封を開けてないのなら一本ずつならありますよ』


ライカの抱きつきを引きはがしながら答える


「それじゃ一本ずつでいい?あ、ディーノはいらないわよね?」

「そのしゃんぷーやら入浴剤?とかはいらんがこれは欲しいな」


手に取ったのは不眠症の容器


「何?ディーノ夜寝れないの?」

「ん?ああ、最近な」

「大変ねー、恋の悩みってのも」


リリアにしたり顔で言われて顔を赤くするディーノ

残念ながら当人はこっちを見ていない


「さて、それじゃあこれで終わりかしら?」


あらかた欲しい物を手に持つとリリアは見回しながら言う


「そうね。ちょっと長居しすぎたから早く帰らなくちゃ」

「ああ、リクネやロイがうるさいからな」

「んじゃ解散しましょう。あ、コタローくんちょっと手出して」


言われるままに手を出す狐太郎にリリアはお金が入った袋をその上に乗せる


「無理やり付き合わせちゃったからお詫びと代金よ」

『え?いや・・』

「大人しくもらっておきなさい」

「あまり拒否るのも相手に失礼だぞ」


断ろうとすると横かライカとディーノに窘められる


『わかりました。ありがとうございます』


そう言いながらポシェットへお金をしまう

それを確認し、じゃあ出ましょうかとリリアが発しようとした時扉を叩く音が聞こえてきた


「リリアーいる?」


その声にリリアは慌て鍵を外し扉を開ける

入ってきたのはミリッサって人だ

走ってきたのか若干息を切らしている


「どうしたのミリッサ?」

「リリア、手伝って・・」

「え?もうそんな時間?」


窓から外を見ると夕日だった

このくらいの時間になると冒険者も狩りを済ませ帰ってくるのだ

なのでギルド内部は凄い忙しくなる


「ごめんね、私先にもどるわ」


そのままミリッサと一緒にパタパタと駆けていくリリア


「んじゃ俺達も帰ろうぜ」

「そうね。コタローくん今日はありがとね」

『こちらこそありがとうございます。お疲れ様でした』


ペコリとお辞儀をする狐太郎にじゃあなと手を振るディーノとライカ

それを見送った狐太郎は自分も宿に帰ることにした


ギルドの広間に入ると凄まじい喧騒が聞こえてくる

中は冒険者でごった返していた

この時間だけは新規専用の受付も開放され、5つある受付は依頼報告用に変わる

それくらい忙しいって事だ

それを横目で見ながらギルドから出ようとする狐太郎を凄まじい勢いで冒険者の報告依頼を捌いていたリリアが発見する


「コタローくーん!今日はありがとう。気を付けて帰ってねー」


喧騒もものともしない大声に、一瞬喧騒が止み幾多の視線が狐太郎に突き刺さる


『あ、は、はい。ありがとうございました』


と焦りながら挨拶をしギルドを出た

あの視線の多さは正直堪える

ほとんどが嫉妬や妬みの視線だ

視線で相手を倒せるんじゃないかってくらいだ


『リリアさんも自分に人気があるのを自覚してほしいな・・』


毎回ギルドに行く度にあの視線に晒されては堪らないと呟く狐太郎である

そんなんでキツツキ亭に到着し、中に入るとこちらもそこそこ騒がしい

夕食の時間のようでそこかしこからいい匂いがしてくる


「おや、コタロー遅かったね。晩御飯は食べるんだろ?」


テーブルの片付けをしていた女将が狐太郎を見つけ話し掛けてくる


『はい、まだ大丈夫ですか?』

「もちろん大丈夫さ。カウンター空けとくから準備できたら降りてきなよ」


言いながらも女将はテキパキと作業をする

はいと返事をしながら2階の部屋へ向かう

といっても手荷物はほとんどないので簡単な着替えだけだ

ローブを脱いで洋服掛けに掛け軽装になると食堂へ向かう


「来たね。ちょっと待ってな。すぐ用意するから」


カウンター席に狐太郎を座らせると女将は厨房へ入っていく

しばらくすると料理を乗せたトレーを持った女将が出てきた


「はいよ。しっかり食べて明日に備えなよ」


見ると物凄いボリュームの量の料理が乗っている


『え?これ多くないですか?』

「しっかり食べとかないといざって時に動けなくなるからね」


残さず食べるんだよと言い放ち、女将は再び厨房へ入っていった

狐太郎は首をかしげながらも食事を開始する



無事完食しトレーを戻そうと持ち上げる寸前、トレーに一枚の紙が置いてあるのに気づく

狐太郎は何だろうと紙を手に取り開いて見る

見た瞬間その顔は驚愕に包まれる

そして全部読まずに慌てて紙をポシェットにしまい周りを見廻す

狐太郎のおかしな行動に訝しんだ人はいない


トレーを戻しごちそうさまと挨拶し急いで部屋へ戻る

部屋へ入りとりあえず深呼吸して先程の紙をポシェットから取り出し読む


宛名はデュラインからだった

内容は簡単に言えばこうだ


街を出たクリスティア一行は無事にフリッグ伯爵領に到着したらしい

しかし領に入ってすぐに兵士に囲まれてしまう

そこで現れたのはフリッグ伯爵ではなく兄の

ダムルだった事

まさか兵士を倒してしまうわけにもいかず大人しく拘束されて今は地下牢にいる事

そして弟のフリッグ伯爵も別の地下牢にいる事

さらに自分たちは後3日で処刑される旨が書かれている

クリスティアは生かされるだろうがウェルキン達に侍女のメアリーは処刑されるだろうと

それが3日後に迫っている


そして狐太郎は思い出したようにクリスティア達が出発時にデュラインから手渡された手紙を思い出す

それを慌てて引っ張り出して読んでみる

その手紙には何かあった時の王都での協力者の名前などが書かれていて、恐らくフリッグ伯爵領に行っても協力は得られないだろうと書いてあった


読んだ後狐太郎は歯噛みした

この手紙を貰った時に読んでれば王都へ行って協力を要請できたかもしれない

が、それを悔やんでも仕方ない

もはや賽は投げられた

狐太郎は一刻も早く出発しクリスティア達を救わなければならない


そうと決まればもたもたしていられない

手早く準備をすると部屋を出て階段を降りる

1階の食堂に降りると客はいないが明かりがついている


「いくのかい?」


振り返ると女将が立っていた


『はい。ちょっと野暮用で急がなくてはいけなくて』

「手紙を読んだようだね。なら早く行ってやるこったね」

『え?』

「あの手紙はデュラ坊が飼っている鳥が運んで来たもんさ。当初はあんたの所によこしたみたいだけど不在だったからね。あたしの所に来たのさ。昔からデュラ坊が鳥を使って文書のやり取りをしてるのは知ってたからね」

『女将さん・・一体・・・』

「なぁに、昔のデュラ坊を少し知ってるだけさね。さぁ無駄な話をしてる暇はないよ」


言うなりテーブルにドンとデカい包みを置く


「弁当さ。無事生きてたらみんなで食いな」

『ありがとうございます』


巨大な弁当をポシェットに仕舞いこみ女将に礼を言う


「死ぬんじゃないよ!時には逃げる勇気も必要さね。生きてればチャンスはあるからね」

『はい、行ってきます』


狐太郎は宿を飛び出すと街の門まで来た

門は夜も遅くなり閉じている

門兵はいるが出してくれるだろうか

近づくと門兵から話しかけてきた


「あんたがコタローか?」

『?はい・・・』


よく見ると1頭の馬を連れている

狐太郎は返事をすると女将から事情を聞かされてるようですんなり門を開けてくれた


「話は聞いている。馬は乗れるか?」

『なんとか乗れると思います』

「詳しい事情はわからんが女将の頼みだ。気をつけて行ってきな」

『たすかります。必ずお礼に戻ります』


門兵はおうと返事をして道を開けてくれる

そこを狐太郎は馬に跨り駆け抜ける



目指すはフリッグ伯爵領



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