第0/1 やさしい世界
注意:後付けの世界説明話です。興味のある読者さんだけ読んでください。
物語を早く読み進めたい人はスルー推奨。1話から読むことをお薦めします。
—――そこは、やさしい暗闇に支配された場所であった。
気温は常に温暖に保たれ、生い茂った木々の影響で大気の保湿は十分。生物の生きる糧である大気もまた、正常に保たれていた。
各処に配置される
故に、この地を乱そうとする無粋な存在も、この場所を訪れ、自己主張することはなく、稀にこの閉鎖空間と外部が繋がる折、風に乗って羽虫が迷い込む程度であった。
無論、本来の住人たちも静かな我が家の近くで騒ぎを起こすほど馬鹿ではない。
―――大樹の楽園は、そんな外部から隔絶された清浄な空間であり、暗闇を含め、すべてがやさしさで構成されたかのような空間であった。
サクッ… サクッ… サクッ… サクッ…
サクッ… サクッ… サクッ… サクッ…
その様なやさしさに満たされた空間に、何者かが落ち葉を踏みしめて歩く音が響いていた。
その足音は、よく似ているものが二つ。
元々、静謐な隔絶された異空間であったために、落ち葉が踏みしめられる音は他の音に混じり掻き消されることなく、周辺へと響き渡る。
そんな暗闇に抱かれた大地(?)を歩む音源の正体といえば、二人の良く似た少女であった。
落ち葉を踏みしめて楽器を鳴らすように進む、クリーム色の寝巻にアコースティックギターを肩に下げた、金髪に白磁のような肌の少女二人組である。
瓜二つな容姿の少女は、暗闇で碌に足場が見えないのにも関わらず、慣れた足取りで歩みを進めていた。
なぜなら、この暗闇に包まれた閉鎖空間は、文字通り二人の庭であるのだから。
そんな彼女たちの目的は一つ。
お気に入りの場所で、この空間の朝の訪れと共にギターを爪弾くことである。
程なく、楽園の所々にある
この閉鎖空間の朝が来るのだ。
それと時を同じくして、二人の少女…ツイン・タニアはお気に入りの曲を爪弾くのである。
ふわりと金色の髪を靡かせ、二人で一人の聖少女ツイン・タニアは、演奏場所である岩場を目指して歩いていく。
この空間に合わせて姿を変えた、群生する名もなき花々の側を通り過ぎて程なく、聖石が輝きを増した。
それに照らされて、大樹の楽園の統率者である彼女の居城いばらの城が、程なく姿を現すだろう。
そんな我が家の様子を眺めながら、二人で一人の統率者はアコースティックギターを爪弾き奏でる。
まるで城に眠る後輩の聖少女たちに、目覚めの曲を聞かせるかのように。
今しばらくの後、夜明けを迎える大樹の楽園は、ツイン・タニアの奏でる曲に導かれて、やさしさに満ちた朝を迎えることだろう。
◇ ◇ ◇
大樹の楽園。
そこは、20世紀となり、人類の破壊に対する欲求が暴走し、核という人類を根こそぎ滅ばせる兵器が誕生して以後、爆心地である日本付近の異空間に誕生した異空間である。
所謂、最悪の事態に人類が陥った場合に、少数の選ばれた者たちが逃げ込むための避難所である。
そして、大樹の楽園出現と同時に、大樹の楽園の産出物である聖石によって生み出された存在が、聖少女たちであった。
彼女たちは、邪悪な意志を持つ者たちから、楽園と聖石を守護し、無垢なる祈りと共にある人々を助ける存在として生み出されたのである。
以後、彼女たちは人類の歴史の裏側で独自の活動を繰り広げる。
大樹の楽園以外に、人類の避難所である異空間を生み出すために仲間を集め、聖石の大結晶体の移植を敢行した。
その甲斐あって、
天空に二つ。
大地に四つ。
海の底に一。
計七つの楽園を齎したのだった。
そうして、聖少女たちル・フェルたちは、外部の世界に極力干渉しないように引き籠った。
基本、新たに聖少女へと覚醒する少女を迎え入れる以外、現世には干渉しない掟を導入したのである。
そうして、長い長い時間が過ぎ去り、その末に、大樹の楽園にアムルという運命の聖少女が導かれてやって来た。
その日の朝も、今現在と同様に、ツイン・タニアの目覚めの曲が爪弾かれていた。
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