ブッシャア!ゴボゴボゴボ!!ブクブクブク....!!

ちびまるフォイ

なんで飛び散るの?

「なんかのど乾いたなぁ……」


コップを出して水道をひねると水が勢いよく飛び出した。

水はのたうちまわるように縦横無尽に暴れてあたりを水浸しにした。


「な、なんだ!? どうなってる!? 水道壊れたのか!?」


蛇口を閉めても水は暴れ続ける。

たまらず外に出ると、消火栓から水が噴き上がっている。


もう人為的なレベルじゃない。


「ちょっと! なによこれ!?」


家の中から妻の怒声が聞こえたので戻ると、ずぶ濡れの姿で鉢合わせ。


「わからない。水道が壊れてるのか……」


「もうこのままじゃ風邪ひいちゃう」

「風呂を入れるよ」


風呂を入れると再び妻の悲鳴。


「今度は何だ!?」


「これ水風呂じゃない! どうなってるの!?」


「そんな馬鹿な!?」


たしかにお湯の蛇口をひねったのに。

シャワーの水も水温がめちゃくちゃに出てくるし

湯船の水は勝手に流れたりする。


「いったいどうなってる……」


テレビをつけるとこの水災害が報道されていた。


『現在、各地で水による反乱がおきているようです!

 みなさん、けして川や海には近づかないでください!

 水たちは何かに怒っているようです! お近くのシェルターに避難を!』


「み、水の反乱……!?」


「あなた! 私たちも早く避難しなくちゃ!」


冷蔵庫の氷が弾丸のように飛んできたので、たまらず家を出ることに。

こっそり偉い人が作っていたシェルターが地下にあるそうで、

みんなそこに避難してきた。


「みなさん、ここはもう大丈夫ですよ。

 核爆弾が落ちても平気な構造になっていますし、

 潜水艦と同じ作りなので浸水する危険はありません!」


「あなたよかったわ」

「ああ、本当になんだったんだろうな」


水は人間を狙うように暴れていた。まるで何かに怒るように。

シェルターは言っていた通り完璧な安全構造で、水の危機からは脱した。


ニュースによれば外の人たちもみなシェルターに避難し

ゴーストタウン化しているらしい。


「……のど、乾いたなぁ」


ふと漏らした俺の言葉に避難してきた全員がぎょっとした。


「お前、まさか飲み物持ってきてないよな!?」

「こんなところで水が暴れたらどうしようもないぞ!?」


「え!? いやいや、持ってませんよ!?」


ほっとしたのもつかの間、俺の言葉でみんなが問題に気が付いてしまった。


「このまま水が飲めなかったら、わしら死んでしまうのかのぅ……」


「でも、あんなに暴れてる水を飲んだら体内でどうなるか……」


恐ろしい絵面を想像して誰もが顔を青ざめさせた。

俺は勇気を奮い立たせて立ち上がった。


「俺が……俺が水を説得してきます!」


「あなた、本気なの?」


「このままここに隠れていても、みんな死んでしまう。

 水は何かに怒っているようだったから、それを解決すればいい。

 また前みたいに共存できるはず!」


「あんた、交渉する仕事でもしてたのかぃ?」


「ええ、まあ。ネトゲを少々」


「ぜんっぜん仕事じゃねぇ!!」


ネトゲ廃人を水との交渉人として送り出すのは難あったが、

他に行く人もいないので夫婦で水との和解交渉のため外へ出た。


「うそだろ……」


外はもう完全に水の国になっていた。


機械を冷やすための水、噴水の水、ウォーターサーバーの水

下水の水、消防車の水、温泉の水、水、水、水……。


さまざまな水が混然一体となって、怪物の形を成していた。


「あなた、やっぱり戻りましょう!」


「いや、ここで戻ったら何にもならない」


高層ビル以上の大きさの水へと話しかけた。


「あの! 水の反乱を止めてくださいませんか!?」


「汝……人間か。おのれ、よくも今まで我らをコケにしてくれたな」


「こ、コケにした……!?」


「今まで我が汝らにどれだけの恩恵を与えたと思う。

 なのに貴様らと来たら我に感謝もせずに湯水のように使いおって……!!」


水が赤く染まっていく。


「それでこんなに怒っていたんですね」


「一番耐えきれないのは、ウォシュレットの水として使われることだ。

 あれほどの屈辱……耐えきれるわけなかろう!!!」


「そこかぃ!!」


水が怒っている理由がやっとわかった。


「すみません、確かに私たち人間は水をありがたがることもなく

 汚し続けていました。反省しています」


「我の怒りは人間どもすべて飲み込むまで引くことはない」


「これからはちゃんと感謝もします。汚したりしません。

 それでもだめですか?」


「ほざけ小僧。この場で水の藻屑に変えても良いのだぞ」


「あと、ウォシュレットには使いません!」


「よしわかった。反乱を止めよう」


「そこだったの!?」


水たちは波が引くように各々の場所へと戻っていった。

水浸しだった町はやっと人が暮らしている状態にまで戻った。


「しかし忘れるなよ人間。我らは人間と共存する身。従属ではない。

 貴様らが水を再び汚せば反乱すること、肝に銘じておけ……!」


水の反乱は終わり、俺はやっと水を飲むことができた。


「終わったわね……」


「ああ、本当によかった」


俺たちは家に帰った。

家についてしばらくした後、妻の怒声が響いた。


「あなた! もう、どうしてトイレで

 おしっこ飛び散らせるのよ!? 掃除する身にもなってよ!」




「そ、それは……あれだよ。水が反乱して飛び散ったんだ」



水に責任転嫁したところ、再び水の反乱が発生した。

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