殺人鬼を探しています。
是人
0.殺人鬼の行方
「殺人鬼を探しています」
広い教室にそんな言葉が響いた。
開け放たれた窓から初夏の風が吹き込み、カーテンがパタパタと音を立てる。
「皆さんも探していますよね?」
顔色の悪い少年はそう続けた。
彼は教室の椅子に腰かけ、手元でタブレットをトントンと叩いている。
もうほとんど人が残っていない昼前の校舎からは奇妙な閑散さを感じた。
本来なら四十人も入る教室もやけに広く感じる。
誰一人として少年の問いには頷かなかったが、全員ある殺人鬼を探しているのはわかりきっていることだ。
もちろん、自分も例外ではない。
「どうです? 皆さんで探しません?」
「
「オレも文句ねーな。ただし、アイツはオレが殺す」
おしとやかな女子生徒とガラの悪い男子生徒は即座に賛同した。
そして顔色の悪い少年は返事を促すようにこちらを向く。
すると自分が口を開くより先に、椅子に座っている女子生徒が先に返事をした。
「もちろん。それに、あたしがいた方が見つかりやすいと思うし……」
力強く返事をした彼女だが、視線は徐々に沈んでいく。
「それで、
「……」
女子生徒の方に気を取られていると急かされるように声をかけられた。
あまり気は進まないが、ここで嘘を吐くより加担して情報を得る方が得策だと判断して影浦は首を縦に振る。
「……協力しよう」
「それじゃあ決まりですね!」
全員からの賛同を得た少年は机から飛び降りると、教室中央の机にタブレットを置いた。
そして全員に見るよう手招きする。
「二年前に姿を消して以来、彼は裏の情報網でもしっぽすら捕まえられてません」
画面に表示されるのはSNSや掲示板等、ネットで情報交換の出来る場所全て。
しかしそれらはどれもプライベート設定が施してあったり、閲覧制限がついているものばかり。
さらには普段TVや新聞では目にしないような物騒なものばかりだ。
「で、す、が。今朝彼の模倣犯らしき人殺しが死体を出したのは……皆さんも見ましたよね?」
また少年以外の四人は無言の肯定をする。
「きっとあの死体の犯人を追えば、いずれ彼に辿り着くのではないかと僕は思っています」
「安直だな」
「しかし今の段階ではそれしか手掛かりがありません」
ガラの悪い男にお嬢様が反論した。
まだお互いの名前や学年すらもわかっていない五人だが、目的が合致しているのだから名前なんて関係ないだろう。
タブレットを指差していた少年の指は、スッとそのまま窓の向こうを指し示す。
「とにもかくにも人殺しはヒトゴロし、殺人鬼に変わりはないですしー……」
窓からはちょうど学校の正門が見える。
校門では校長や教頭が何人かの警察官と話をしているようだ。
そして、彼等のすぐそばには青いビニールシートが何かを覆い隠している。
「まずは、手ならしにあの犯人を見つけませんか?」
夏休みを目前に控えた七月中旬のある日。
彼等の通う学校の目の前で、惨殺死体が発見された。
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