第5話『虚構の英雄』

###第5話『虚構の英雄』



 目の前の存在、それは明らかにバランスブレイカーと言われても過言ではなかった。

その大きさは、ARガジェットでも破格とも言うべき存在――7メートルと言う巨体でも、その能力は計り知れない。

アカシックワールドに降臨したのは――ある意味でも巨大ロボットと言っても問題はなかった。

 放たれる拳は、重装甲タイプでさえも一撃で粉砕し――遠距離でもバックパックに搭載されたレーザーエッジが逃さない。

左肩にはシールドブレード、右肩には有線型のシールドアンカー、更にはガトリング等の武装も持つと言う。

アカシックワールドでは使用武装は限定される為、これらはあくまでも使用出来る武装と言う事だろうか。

その人物の顔を見た者はいないが――あれだけのガジェットを容易に使える人間は一握りだ。

「あのプレイヤーはバケモノだ」

「別のARゲームではエントリーしていないのが、不幸中の幸いか?」

「彼女もジャンヌと同じアバターじゃないのか? そうでなければ、あの機動力は理解できない」

「どう考えても――試作型ガジェットと言う路線以外は、考えたくない。アレが市販品だったら――」

「下手をすれば、リアルウォー待ったなしだ」

 該当人物と遭遇したプレイヤー、観戦していた人物は――口をそろえるように、彼女の存在に怯えた。

唯一の手がかりが、ARスーツのデザインが肌の露出を極限まで0にしたような意匠の一方で、貧乳だった事である。

口調的な部分でも――女性と言う可能性が非常に高い。そこだけは共通しての結論らしいが――。

 この人物の情報は前日から出ていた訳ではなく、本日になって唐突に広まった物である。

何故、このタイミングだったのかは――ジャンヌ・ダルクに便乗しようと考えていた可能性はあるかもしれない。



 午後4時、周囲のプレイヤーがざわつくような情報がネット上を駆け巡った。

こういう部類は偽のニュースや虚構ネタである事が多い。しかし、これに限っては――。

【さすがのジャンヌも、これは無理だろう】

【アリと巨象――とまではいかないにしても、ゲームバランスが成立するのか?】

【ジャンヌは別の意味でもリアルチートと言っても差し支えのない。それを緩和する為の存在であれば、問題ないと言う事じゃないのか?】

【どう考えても、勝てないだろう。運営は何を考えているのか】

【炎上商法じゃないのか?】

 アカシックワールドにおけるゲームバランスを知らないユーザーが、こうした知ったかぶりやエアプレイ勢力のつぶやきをしていき、急速に拡散していく。

それを見た炎上させて目立とうと言う人物、芸能事務所AとJのアイドル人気を盛り上げようと考えるアイドル投資家と言った勢力が――ネットを炎上させる行動を起こすのは、火を見るよりも明らかだ。

「あからさまな地雷を踏みに行くのは、モノ好きのやることだ――他の連中に任せればいいだろう」

 タブレット端末でつぶやきサイトの記事を見ていたのは、レ―ヴァテインである。

彼は――別の目的があって、草加駅から近場のアンテナショップへと徒歩で移動をしていた。

その距離は5分ほど歩いた場所にある。アークロイヤルと遭遇しなければ、おそらくはもう少し早く到着していたのかもしれないが。

歩きながらのタブレット操作は、下手をすれば交通事故の可能性があるだろう。

その為か、タブレット端末を操作するのは、足を止めて信号待ちをしている時に限っていた。

「あいつは――明らかに純粋な目をしていたような気がする。そう言う人物に限って、ARゲームの真実を知った時に衝撃を受けるレベルは高くなるだろう――」

 レーヴァテインはアークロイヤルに警告を行った。彼女が全てを聞いた上で、あの表情をしたのかは――本人にしか分からないが。

『それに、君はARゲームの真実を――神原颯人(かんばら・はやと)が何を行おうとしているのか、知っているのか?』

 レーヴァテインは神原颯人の真実を知っていた。

彼がアカシックワールドで何をやろうとしているのか、何故にパワードフォースの世界観などをベースとしてゲームを作ったのか――。

「パワードフォースを広めようと言うのであれば、もっと別の手段があるだろう。海外のイベントで売り出す事も――視野にあるはずだ」

 単純にパワードフォースの知名度を上げる為に――彼がアカシックワールドを生み出したとは考えにくい。

ネット炎上勢力や炎上マーケティングを行おうとしている勢力、アイドル投資家の様なコンテンツを炎上させるだけの勢力――そちらとやっている事に変わりはないと思っている。

作品に触れる機械を作るだけでも、興味を持ってくれるユーザーもいる中で、どうして神原はあのような行動に移したのか?

「著作権がどうのこうの――と言える立場でもないが、ARゲームで実行している以上は許可済みか」

 版権作品の二次創作等としてARゲームを発表する事は、基本的には不可能である。

同人作品としてのARゲームはゼロではないが、基本的に世界観などは全て一次創作に限定されていた。

版権作品のARゲームを出している以上、アカシックワールドはパワードフォースの制作会社から許可を得て開発されたと言ってもいい。



###第5話『虚構の英雄』その2



 そもそも、パワードフォースとは何なのか? その疑問を持つ者は多かった。

アカシックワールドの元になっている物が、パワードフォースかもしれないのだが――。

ネット上で判明しているのは、パワードフォースと言う特撮番組が存在する事、パワードフォースがシリーズ化している事位である。

既に10作品ほどあり、長期シリーズである事も書かれていたが――重要なのはそこじゃない。

「スーツのデザイン、使用されているガジェット、大まかなストーリーライン……そう言う事か」

 ジャンヌ・ダルクに敗戦後、蒼空名城(あおそら・なぎ)は気になる事が合って情報を集める。

アカシックワールドが何のために生み出されたのか――よりも、彼が重要視していたのは別の事だった。

「何故、アカシックワールドを炎上させてオワコン化させようと言うのか」

 蒼空はタブレット端末を巧みに操作し、サイトの記事をチェックし続ける。

彼がいる場所はコンビニやイースポーツカフェ等の中ではない。アンテナショップのセンターモニター前だった。

センターモニター前にはいくつかの待機用の椅子が置かれており、そこに座ってゲームの順番を待つ事も出来る。

当然だが、蒼空のようにセンターモニターから出ている電波を使ってネットを見ることだって可能だ。

 ちなみに――このネット専用回線の使用は無料である。

時間制限等はないのだが、センターモニターに居座り続けても、他のプレイヤーの迷惑になるので――適度に席を離れたりするのだが。

「まだ、ジャンヌも手札の全てを見せた訳ではない。それに――」

 圧倒的過ぎたジャンヌの能力に、太刀打ちは不可能かもしれない。そう、彼は感じていた。

勝てる手段はあるかもしれないが、毒を以て毒を制すみたいなチート合戦は不適切だろう。

それに、そんな事をして勝っても――ARゲーム的には興ざめなのは間違いない。



 午後4時20分、そろそろ用事も何とか終わったのでアークロイヤルは帰宅をしようと考えていたのだが――。

「何なの、あれ――!?」

 自宅へ帰ろうとアンテナショップを出ようとした矢先、彼女は言葉にならないような声で驚いた。

アカシックワールドが映し出されていたのは事実だが――その対戦相手に閉口せざるを得ない。

「あの都市伝説、ガチだったのか」

「ネタと思ってスルーしていたら、これか!?」

「信じられない」

「ルール的にありなのか?」

「ARゲームで公式運用されているガジェットであれば、問題はないはずだ――他のARゲームでの事例だが」

 周囲のギャラリーも驚いているが、大型ガジェットの運用自体に問題はない様子。

しかし、明らかに戦力差が――と言う事で、驚く人物もいれば――この状況を受け入れられない人物もいた。

「ロボットもののARゲームも存在するって聞いていたけど、アレは――」

 巨大ロボット同士で対決するARゲームも、ある事にはあるだろう。

しかし、目の前の映像にあるのは――巨大ロボットとアーマーを装備しているとはいえど、生身の人間である。

このマッチメイクをしたのは何者なのか――。まさか、炎上マーケティング狙いの合成映像か?

 アークロイヤルは、目の前の映像を――いつの間にか足を止めて見ていた。

合成映像の類であれば、すぐに通報されるのは目に見えている。それは過去にVRゲームでも行われていたから――。

 そう言えば、アカシックストーリーズへは特定ガジェットではないとエントリー出来ない――そう公式サイトには書かれていたのを見た。

しかし、大型ガジェットも特定ガジェットなのか? 疑問に思う個所もアークロイヤルにはあるのだが――今は忘れる事にする。



 対戦相手のプレイヤーが目の前のARガジェットを見上げていた。それ程に巨大だったというのもある。

全長7メートルほど、横幅は――そんなに細身と言う訳ではないが、コクピット部分が小さい訳でもない。

それに――デザイン意匠はSFと言うよりも神話系統をモチーフに持ち出している気配もあり、装備の一つ一つがSFのソレとは大きく異なった。

確かにアカシックワールドは、モチーフにSFが多い傾向だが――それは、あくまでもパワードフォースを元ネタにしているような要素があるからである。

『こっちとしては、特にチートとか持ち込んでいないはずだよ』

 目の前の巨大ガジェットからは女性の声が聞こえた。

女性プレイヤーだからと言って馬鹿にされていると相手が思っていたら――それもネット炎上に悪用される。

そう言う世の中になってしまったのは、それだけまとめサイト等に依存するネット住民が増えてしまった身体と思われるだろう。

「こっちもチートを持ち出したら、即失格になる。そう言う事を言いたいのか?」

 相手プレイヤーもチートガジェットの類は使用していない。使っていたら、バトル開始前にストップをかけられる。

しかし、このステージは彼にとって明らかに不利過ぎた。周囲に有効的な遮蔽物と呼べるような建物がない。

大型ARガジェットを持ち出した以上、建物に入る事が出来ないエリアもあるので――行動範囲が限定される向こうも不利かもしれないが。

『そう言う事。正々堂々とバトルをしようよ!』

 まさかの正々堂々と言う単語が出てくるとは――相手プレイヤーの方も驚いていた。

最近のARゲームではチートプレイヤーが暴れ放題だった過去を踏まえ、規制を強化したが――それをすり抜ける手段は闇ネットに存在する。

つまり――結局の所は、悲劇の繰り返しが行われているのだ。

 しかし、バトル開始前に彼女は予想外の行動に出たのである。

大型ARガジェットは消えたわけではなく、ガトリングを搭載したバイク型とシールドブレードとシールドアンカー等を組み合わせたようなボード型ユニットに分離した。

この行動には相手プレイヤーも驚いたのだが――もっと驚くのは、目の前に現れたARゲーム用インナースーツとARメットを装着した人物の方である。

そして、彼女が持っていた武装は――大型ARガジェットではシールドブレードとして使用している物であり、複数のアーマーパーツに分離して装着されていた。

「そちらも、こちらの武装に合わせる――と言う事か」

 相手プレイヤーは、彼女が取った行動に若干の動揺をしたのだが、それでも――あの巨体が相手では歯が立たないのは事実だろう。

向こうにどのような意図があるのかは不明だが――これはチャンスと考える。

『さぁ――始めるよ!』

 しかし、これが作戦の内だと相手が気付く事はなかった。

彼女の名は蒼風凛(あおかぜ・りん)、これでもプロゲーマーである。知名度の問題で、ARゲームでは目立った存在ではないのだが。



###第5話『虚構の英雄』その3



 アークロイヤルが足を止めた中継映像、それは巨大ロボットにも思えるようなARガジェットだったと言う。

アカシックワールドでは公式ガジェットであれば問題ないという認識があるとはいえ――戦力差が大きい。

しかし、その状況下で蒼風凛(あおかぜ・りん)はロボット形態を解除したのである。

『さぁ――始めるよ!』

 彼女はバイク型ガジェットではなく、ボード型ユニットの上に乗り――数百メートルは距離を取るような動きを取った。方角は北である。

相手は遠距離武装を持っているような気配ではないのだが、隠し玉を持っている可能性も――。

【隠し玉じゃないな。あれは相手をなめてるとしか思えない】

【アレを使用するにも前提条件があるのでは? すぐに使えなかったというのは別のバトルでも事例がある】

【ソレは違う。確かに別のバトルではすぐに使わなかった。それは、アカシックワールドでの話だ】

【今回の都市伝説が生まれたのは、ARロボットバトルでの活躍等も影響しての尾びれが付いた物と言う話もある】

【考えて見れば、ロボットバトルの方で蒼風と言えばそこそこ有名なプレイヤーだったな】

【しかし、そうなると彼女がアカシックワールドに来た理由が分からない】

 つぶやきサイト上では、様々な意見が飛び交っている。

都市伝説を引き合いに出す者、まとめサイトの記事をソースとして出す人物もいれば――。

【都市伝説? 謎のプレイヤーに関する情報はこちら――】

 中には、フィッシングサイトや出会い系サイトへと誘導するようなつぶやきも混ざっている。

こうしたサイトは、明らかに周囲が知りたがっている情報を餌にしてスパムサイトへ誘導する手口で被害を広めていた。

この手口に関してはネット炎上勢力やアイドル投資家等は無関係と言及しているが、どう考えても悪目立ちしようとして広めているとしか思えない。

「彼女、もしかすると――自分と同類なの?」

 アークロイヤルは中継映像を見て、蒼風も実は別ゲーム出身なのではないか――そう思っていた。

しかし、VRゲームの技術が通用するような世界ではない事を分かっているアークロイヤルに対し、蒼空の方は――明らかに違っている。



 相手プレイヤーは遠距離へ移動したのを、逃げたとは認識していなかった。

逆に逃げたと考えれば、それを追いかけた途端にガジェットを合体させて迎撃されかねない。それが頭をよぎる。

「蒼風と言えば、ロボットゲームでは有名と言われるプレイヤーだ。しかし、ロボットゲーム仕込みの戦法が通るとは――」

 彼が取った行動、それはレーダーで蒼風の場所を把握した上での遠距離攻撃だった。

使用する武装はロケットランチャーである。しかも、破壊力が非常に高く、爆風でダメージを与える事も可能だ。

しかし、破壊可能オブジェクトが極端に少ないエリアである為、建物を破壊しての隠れ場所を減らす作戦は使えない。

その為に彼が最初に取った行動とは、ジャミングを使用してのかく乱作戦だった。

こちらもレーダーが一定時間使えなくなるが――向こうも状況は同じになる。

 そして、彼はジャミング電波を展開し、レーダーを一時使用不能にさせた。

しかし、これによって中継映像が視聴不能になるかと言うと――そうではない。

さすがに、ジャミング使用中に青い画面で『しばらくお待ちください』という時代ではないからだ。

「これで――勝負あった――?」

 彼は勝ち誇り、蒼風が向かった方角とは逆の方向へとホバー移動を行う。徒歩と言う考えもあっただろうが、足跡で察知される危険もある。

逆にホバーの音で位置を特定されかねないが、それは向こうも同じだ。大型のARガジェットを使っている以上、動力源の音は――?

『勝ち誇る行動は、一種の負けフラグ――それ位分かるよね? これは、あくまでもゲームなのだから』

 何と、南の方角に自分は移動していたはずなのに――移動した先には、何と蒼風の姿があったのだ。

しかも――合体後のARガジェットで。これは、彼も運がなかったと言えるのかもしれない。

『ヴァルキューレ!』

 大型ARガジェット、ロボットタイプとも言われるヴァルキューレのシールドアンカーが放たれ、その一撃で相手はあっという間に吹き飛ばされ――気絶した。

この決着には周囲のギャラリーも言葉に出来ないが、WEB小説にあるような勝利パターンだった事もあり、一部の層には反応が良かったらしい。

「何て奴なんだ?」

「チートじゃないのか?」

「これが、都市伝説?」

「圧倒的だろう」

「戦闘描写が少ないのは、勝利フラグなのか?」

 どう考えてもメタ発言もあるかもしれないが、センターモニターで中継を見ていた観客が盛り上がっているのは事実だった。

そして、アークロイヤルもこのバトルには――驚かされたのである。

「彼女も、いずれ自分の前に立ちふさがるかもしれない――」

 ARゲームでも炎上要素を持っていそうな人物が現れた事は、アークロイヤルにとってはトラウマの再来でもあった。

過去に諦めたプロゲーマーの夢を、またしても――?

 


 その一方で、アカシックワールドのメーカー側も動き出そうと考えていた。

草加市内にビルを構えているメーカー、決して大規模メーカーではないのだが――。

ARゲームの開発メーカーは、何故か草加市に集中していると言う。他のゲームを開発しているメーカーも、ARゲームは草加市に部署を置いている感じだ。

「ジャンヌ・ダルクと言う人物が起こしている行動、もはや放置できるレベルではなくなってきている」

「メーカーとして適切な対応を取らなければ、ネット炎上は確実か」

「しかし、あのゲームには神原が無断で介入しているという話も――」

「あの男は――既に別のゲーム開発を行っているではないのか?」

 会議室では、幹部クラスの人物が数人集まって緊急会議を行っている。

会議室と言うには、数十人規模の人間しか入られないような小規模な部屋で行われ、しかもパイプ椅子に折り畳み可能なテーブル――緊急性を優先したのだろうか?

本来はアカシックワールド以外の話題で情報交換をしていたが、一連の話題が幹部の耳に入って――今回の会議になったらしい。

さすがに防音施設ではないので、怒鳴り声が飛び交う様な状況にはなっていないが――こうした部屋しか確保できなかった事からも、緊急案件だと言う事が分かる。 

「アカシックワールドは、あくまでも試作ゲームとしてプロジェクトが動いていたのでは?」

「あれを完成させたのは神原だ。本人を呼び出した方が早い」

「しかし、神原は外出中と言う話ですが?」

「すぐに呼び戻すか、電話はつながらないのか?」

「呼び戻して対応できれば、ここまでの大事にはならないでしょう。問題は、我々のメーカーにピンポイントでネット炎上を仕掛けている勢力――」

「そちらと神原が絡んでいると?」

「違います。我々のメーカーに敵対しているメーカーは多いでしょうが、ここまであからさまな炎上を仕掛けるのは――」

 会議は神原颯人(かんばら・はやと)を呼び戻すと言う話にまで言及されたが、それは上層部の指示で止められた。

そちらよりも重要視する案件がある――という鶴の一声で。

 会議のメンバー自体、開発チーム数名と上層部幹部数名のみ――しかも、外部スタッフは一切呼ばないという徹底ぶりだ。

そこまでして情報が外部に漏れる事を恐れている案件を話しているという事なのだろうか?

 今回の会議では緊急案件以外に、他のARゲームで行うコラボイベントに関しての会議も行われた。

むしろ、本来であればコラボイベントのスケジュール調整がメイン議題のはずが、すり替えられた格好である。




###第5話『虚構の英雄』その4



 5月14日――更なるプレイヤーの出現がネット上で話題となっていた。

その人物の名はファルコンシャドウ。しかし、それ以上の情報が出てこないのはなぜか?

画像が出回らないのも原因の一つかもしれないが――動画も出回っていないのが大きいだろう。

「名前だけで判断するのは危険か――」

 ネットの掲示板を巡回していたガーディアンの一人がつぶやく。

確かに名前だけで炎上勢力と言うレッテル貼りを行うのは危険極まりないが――。

【名前だけで判断するのは、逆にアイドル投資家やまとめサイト勢力等と同じ民度と思われる】

【夢小説勢の民度も下がっているという話だ。表に公開して、芸能事務所が一斉摘発を依頼したとか?】

【まずは情報を集めなければ――】

【せめて、プレイ動画が出回れば――】

 ネット上でも、名前だけで悪と決め付けるような流れではない。

その一方で、下手に騒ぎ立てれば一部のまとめサイト勢力等と同じようにARゲームプレイヤーが低レベルと見られてしまう。

それこそ――あってはならない事だったのである。



 翌日の5月15日、アークロイヤルが自宅のパソコンを開いていた際、そこで動画サイトに投稿された動画を発見する。

その内容は――別の意味でも衝撃的なものと言える物だった。

「これは――!?」

 言葉を失う様な光景だった。相手プレイヤーがチートを使用していた事も理由かもしれないが――。

ファルコンシャドウは、既に戦意を失っているプレイヤーに対し、容赦のない攻撃を加えていたのだ。

しかも、ARウェポンで容赦なく――である。

デスゲームが禁止されているとはいえ、意図して相手を負傷させる行為が禁止されているARゲームで――これは、どう考えても認められないだろう。

動画内では音声が収録されていない為、どのような会話をしていたのかは不明だが――前後の行動を考えて、相手プレイヤーのチート行為に我慢できなかったのかもしれない。

【まさかの展開だな】

【チートガジェットが使用出来るARゲームと言う事で拡散されると、都合が悪い】

【チートプレイヤーがランキング嵐を行えば、それこそ芸能事務所AとJが介入してくるだろう】

【だからと言って、強引な方法が許されるはずがない。それは、過去の事例でも分かっているはずだ】

【WEB小説で拡散している我侭姫か――。あれはフィクションと言う話だろう?】

【あれだけではない、一部のARゲームを題材にした小説は――】

 つぶやきサイト上ではファルコンシャドウの行為に関しては賛同出来ないという意見が大半だった。

大半と言っても5割ではなく、8割近くの人間がファルコンシャドウの行動原理に否定的である。

しかし、チートプレイヤーに対して有効な対策がなければ、自分たちで作ればいい――という理論は規制されていない。

「これじゃあ、VRゲームの時と――」

 VRゲームの時のネット炎上、あの時のトラウマを再燃するような事が――起ころうとしていた。

たった一人の発言により、大炎上する事になった――。その再現がアカシックワールドでも起こる可能性を懸念する。

 アークロイヤルの動揺は、そのレベルで済めば良かったのだが、彼女にとってあの事件は切っても切れないような物だった。

「アレを繰り返せば、芸能事務所AとJのコンテンツが神と言う時代が――?」

 アークロイヤルは何かを閃いたような気配がした。そんな事をしている様なテンションではないのだが――何故か、思いついたのである。

それは――ジャンヌ・ダルクの目的だ。ネット上ではコンテンツハザードと言う単語も拡散しているが、いまいち把握できていない。

【まとめサイトと芸能事務所が手を組んで炎上マーケティングを展開していたのも、今は昔の時代だろう】

【その時代は終わったと思いたいが、まだ続いているかもしれない】

【WEB小説サイトでは、異世界転生や異世界転移と言ったジャンルがヒットした時代があった。しかし、それを塗り替えるように――】

【コンテンツ流通に関して疑問を投げかけるような小説が大量に投稿された事もあったが――】

【それでも、その小説が読者に受け入れられる事はなかったという話だ】

 ネット上で、様々な意見が存在する。その中で、ある小説の存在がピックアップされていた。

内容の詳細は不明だが、コンテンツ流通に関する様々な問題点を――ライトノベルにした物らしい。その作者とは――。

「青空奏(あおぞら・かなで)――」

 アークロイヤルは、作者の名前を見てもパッとするような物を感じなかった。

その名前に聞き覚えがないという可能性もあるが、別の理由と言う可能性も否定できない。

「虚構の英雄ねぇ――」

 フィクションの英雄が、実在する超有名アイドルよりも売れるコンテンツに出来る方法がある――作者は、そう訴えていた。

しかし、この人物はつぶやきサイトの様な物を使っていない。おそらく、ネット炎上をおそれているからだろう。

「何事も――やってみなければ、フラグも立たないと言うのに。この人物は――」

 アークロイヤルは、この人物に何かを感じる事はなかった。

しかし、ジャンヌ・ダルクの一件は――コンテンツ流通に何か大きな物を起こそうとしているような感じがあった。

だからという訳ではないが――彼女は、この人物が書いた作品を1つチェックする事にする。



 その一方で、その作者へ直接接触を考えている人物もいた。

小説サイトを調べても作者の住所が載っているはずはない。当然と言えば当然だろう。

「やはり――そう言う事か。管理人に問い合わせても、見つかる訳もない」

 コンビニ前でタブレット端末を見ていたのは、ヴェールヌイである。

何時もの賢者を思わせるマントは周囲からすればコスプレイヤーにしか認識されていない。

それもあって、大きな騒ぎになる事無く調べ物が出来ると言うのもあるが。

草加市がARゲームやアニメ等のコンテンツで聖地巡礼を増やすと言及したのは、今回の事件よりも前の話だ。

10年以上前には埼玉県の市町村で同じような事を考え、実行した所もあるのだが――定着に関しては難しい現実もある。

 彼女は、作者の住所を見つけられなかった事に落ち込む事はなかった。

命の危険性があると言うような案件ではないからだが――それでは、まるで別のアニメを思わせるような事件になるだろう。

「これに関しては焦る事はない。他の案件も整理していき、そこから――」

 いつまでもコンビニの前で――と言うのも、印象を悪くするかもしれない。

場所を変えて、調べ物を続行する方向で動く事にしたが――?

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