第3話『リアルと虚構の境界線』

###第3話『リアルと虚構の境界線』



 ゴールデンウィークあけの5月10日、ジャンヌ・ダルクの動画は瞬く間に拡散していった。

圧倒的な能力は、チートと言う一言で片づけるには――多くの謎が浮上する。

仮にチートであれば、プレイ開始前に警告が出るはず。それを踏まえると、チート路線はなくなるだろう。

それ以外にもハッキングや特殊なプログラムで警告が出ないようにしていると言う説も出てきたが、これも彼女がそう言った事前行動をしていない為に――。

「一連の動画は――何処まで伸びるのか」

 特に雨が降る訳でもなく、強風が吹いている訳ではないので――ARゲームにはもってこいの天候だろう。

その中で、ガーディアンのコートを羽織り、スマートフォンを片手にサイトを閲覧している人物がいた。

身長175位、黒髪のセミロング、若干スマートな体型の男性である。

特に女性から黄色い声援もないので、その辺りには無縁のジャンル出身かもしれない。

「とにかく、あのジャンヌと言う人物を放置するのは危険だ。下手をすれば芸能事務所AとJが便乗宣伝などに――」

 彼の名は蒼空名城(あおそら・なぎ)、ローマ字のスペルで書かれたネームプレートがコートに取り付けたれているので、そこで名前が分かるだろう。

ちなみに、彼はサイタマガーディアンと言うARゲームのチートプレイヤー摘発などを目的とした組織にいたが、ジャンヌ絡みで離脱する事に。

丁度、ゴールデンウィーク突入前には離脱する事を報告済みだったが――向こうは手放したくない様な事を言っていた。

未練がましいと言うのかどうかは、この段階では分からないが――彼の実力が高い事の表れなのかもしれない。

『貴様か――ガーディアンと言う組織にいながら、こちらの行動を探るのは――』

 まさかの展開である。コンビニから若干離れたと同時に、ジャンヌ・ダルクの声が響いてきたからだ。

蒼空は周囲を見回すが――それらしき姿はない。誰かのいたずらなのか、それともネット炎上を狙った物なのか――。

そして、蒼空はしばらくして周囲の光景に違和感を感じ始めていた。それは――ARゲームのフィールド形成を思わせるような、CG演出があった事。

これが意味しているのは、このエリア内でARゲームが始まった事である。もしかすると、隣のエリアで――と思って、改めて周囲を見回し、確認した結果――。

「背後――まさか!?」

 まるで、何もないような空間からポリゴンが形成され、別のVRゲームにおけるアバター登場を思わせる演出で――彼女は現れた。

そう、外見の重装アーマー、ARメットを装着しないスタイル――間違いなくジャンヌ・ダルクである。

『そのコートはARゲームのガジェットが搭載されているのだろう? それが仇となったな!』

 ジャンヌは、すかさず右手の指をパチンと鳴らし――瞬時に白銀の大型ガントレットを呼び出す。

そのサイズは形状だけで100センチは――あるかもしれない。シールドを装着しているような物ではなく、剣らしき物が1本固定されている。

剣ではなく――籠手の方を見て、蒼空は戦慄を感じた。おそらく、あの装備がガーディアンの調べていた物と同じであれば、あの性能は――。

「ジャンヌ・ダルク! ネット炎上を起こし、芸能事務所AとJに加担する獅子身中の虫め!」

 蒼空はコートに隠していた30センチほどの細長いパーツを合体させ、即座にビームライフルとして構えるのだが――。

熱くなり過ぎて明白な負けフラグを発言した事――それが彼にとっての致命傷となる。

『お前達は――史上最大の失態を犯した。私は――芸能事務所とは無関係だよ』

 今度は左手で指をパチンと鳴らすと、次の瞬間には右腕の籠手が発光し始めた。

そこで、蒼空は――ジャンヌ・ダルクが持っている武器の正体に気付いたのである。

『白銀の腕――アガートラーム、ガーディアンならば存在自体は知っているだろう? これを持っている人間が、芸能事務所に手を貸すと思うのか?』

 ジャンヌの言う事は正論だ。それに気付かなかった、蒼空は――アガートラームの一撃でKOされる事となったのである。



 KOされた蒼空は気絶することなく、まだ立っている。ジャンヌは『しぶとい』と言いだしそうな表情を――と思ったが、彼女は冷静だ。

距離としては1メートルくらい離れている。やはり、距離が離れすぎて――威力が落ちた可能性が高い。

「アガートラーム、油断したか――」

 蒼空は若干ふらついているが、流血をしている訳ではなかった。ARゲームで流血沙汰になるのは、ゲームの即時中断及び無効試合を意味する。

意識の方もアガートラームの一撃が直撃したわりには、ARスーツの安全装置が起動した事で衝撃は半減していると言ってもいい。

ガーディアンの装備は一部で試作型ガジェットが提供されている噂があるのだが、それを裏付ける物だったという事か。

その点だけは、ジャンヌも若干の油断があったのかもしれない。自分の装備を過剰に信用していたのだろう。

『お前も自覚していただろう。リアルとゲームの境界線がARゲームによって破られようとした時、政治家や一部のネットイナゴが取った行動を――』

「それは、こちらも関係していたから分かっている。だからこそ、単独で事件の真相を知ろうとした」

『ガーディアンと言えど、上層部の人間は――下の人間の意見を聞こうとはしない。そう言う物だろう?』

「意見の完全無視は、それこそ利益至上主義に走った芸能事務所AとJの2勢力――そして、彼らはライバルコンテンツをグレーゾーンを駆使してオワコンにしてきた」

『そう捉える人間もいるが、この問題はそう言うまとめサイトや一部勢力のシナリオ通りには――事は運ばない』

 冷静に話し続ける2人の会話の内容、それはギャラリーにも聞こえているだろう。

しかし、周囲のギャラリーが目を向けるようなことは全くない。足を止めたとしても、別のフィールドで行われているARゲームの方に視線が向いていた。

つまり――2人の会話を聞いているのは、ネットでの中継を見ている視聴者等に限定されていたのである。

「だが、アガートラームの真の力はチートブレイカーとしての――要素だ」

『不正破壊者(チートブレイカー)か。確かに、チートアプリやマクロツールの類を使っていたプレイヤーにはワンパンチ決着だったのは――こちらも自覚している』

「つまり、お前はアガートラームが何なのかも――まだ把握できていないと言う事だ」

『しかし、私の能力がアガートラームだけだと思ったら、大間違いだ!』

 まだ倒れない蒼空に対し、ジャンヌが右手でパチンと鳴らして展開した物、それは30センチ弱のビームダガー。

しかも、ダガーの刃部分は全てビームである。それに加えて、何かの細工があるのだが――。

「そのダガーで、こちらの動きを止められると――」

 蒼空はコートを本格的に着用し、システムを起動させる。

それと同時に、蒼空は右手を開く事でビームシールドを展開――飛んできたダガーをシールドで無効化していく。

しかし、ジャンヌの表情は落ち着いていた。ダガーはシールドで無効化されていると言うのに。

『そのダガーが単純にビームダガーとでも思ったのか?』

 アガートラームを解除後、両手で指をパチンと鳴らす。すると、ビームダガーのビーム刃が消滅し、次の瞬間――激しい閃光が放たれた。

「フラッシュグレネード――そう言う事か!?」

 気づくのが遅かった。ダガーでダメージを与える事が本来の目的ではなかったのである。

既にゲームはジャンヌの勝利で終了している以上、この場で話を続けることは――ジャンヌにとっても自分の目的を知られる事を意味していた。



 その後、フラッシュグレネードダガーでジャンヌを取り逃がす結果となり、情報を手に入れる事もかなわなかったのである。

それに加えて、思わぬダメージを受けてしまったのだが―ー。

「このコートでも対抗できないと言う事は――」

 蒼空は戦略の練り直しを余儀なくされた。単独で挑むにしても、この装備では勝ち目がない。

ジャンヌ・ダルクは――本当にARゲームのプレイヤーなのか? あの登場演出を考えると生身の人間とは思えないだろう。

VRゲームのアバターが現実に姿を見せたと言う事であれば、それ相応のウェポンは必要かもしれない。

しかし、今の自分はVRゲームの知識がない――それが痛かった。

「今の段階では、あのジャンヌは無敵――と言う事か」

 若干落ち着いて話しているような口調だが、それでも完敗と言えるような敗北には悔しい訳がない。

彼がフィールドから去っていく姿は、どこか悲しげにも見えた。



###第3話『リアルと虚構の境界線』その2



 5月11日、ネット上では例によってジャンヌ・ダルクの話題が上がっている。

しかし、それらが朝のワイドショー等で取り上げられている訳ではない。ワイドショーでは、大抵が芸能事務所AかJのアイドルの話題ばかりだ。

それに飽きた視聴者は別の通販番組や時代劇の再放送等にチャンネルを変えている場合が多いだろう。

 そういう展開がワンパターンと化しているのも原因の一つだが、そうした報道が続くのはアフィリエイト系まとめサイト等を利用して印象操作やレッテル張りなどを行う芸能事務所AとJの陰謀説さえある。

過去には――そう言う事例が発生した事に対し、ガーディアンがネット炎上勢力を撃退したと言う都市伝説もあったらしいが、今は昔と言う状態であり、誰も言及しようとはしない。

 こうした行為を規制できないか、という話もネット上では目撃例が少ないが実在する。

しかし、政府として動かないのは――単純に芸能事務所AとJだけで国家予算10年分の税収を得られる為――と言うのも、ネット上でのレッテル貼りの一つだ。

何処が拡散したのかは明らかではない一方で、どう考えてもWEB小説の見過ぎ等と言及されるのは目に見えている。

こうした発言が『WEB小説のテンプレ』や『ワンパターン芸』と言われていた中、そうとも言えなくなった原因はジャンヌ・ダルクにあるだろう。

彼女の出現は、ネット上の都市伝説やネット炎上事件にスポットライトが当たるきっかけにもなった。

【ジャンヌ・ダルクって、やっぱりあれか?】

【ジャンヌで検索しても、色々と対象が多すぎる。例の人物だけを絞りきれない】

【画像検索でも――似たような結果だな。コスプレイヤーやイメージAVビデオの様な物まで出てくる――】

【あのジャンヌは何者なんだ?】

【もしかすると、元ネタはないのでは?】

【ソレはおかしいだろう。ジャンヌ・ダルクと言えば歴史の教科書でも有名な人物――創作作品でも題材にしている作品は多いと聞く】

 ネット上のつぶやきサイトでは、ジャンヌの話題だけでホットワードに浮上する程のレベルだが――。

ワードを絞り込んでもアカシックワールドに姿を見せたジャンヌをピンポイントで検索するのは困難であるのは言うまでもない。

その為か、情報を集めようと言う人間にとっては苦行と言っても――。

 しかし、そういう苦行を緩和する為にまとめサイトが存在――しているはずなのだが、その多くはアフィリエイト収入を目的としたダミーサイトである事が多い。

結局はネット炎上に利用されてしまうのは、避けられない宿命なのか? あるいは一連の事件でさえマッチポンプや炎上マーケティングと切り捨てられてしまうのか?



 午前11時、ネット上の記事をコンビニの入り口前でチェックしていたのは――セミロングのメカクレにメイド服、眼鏡と言う女性だった。

彼女の名前は斑鳩(いかるが)――あのジャンヌ・ダルクと交戦した斑鳩と同一人物である。ARゲーム時と普段ではギャップが激しいのもあるが――。

「また、あの事件のネット炎上が――」

 彼女が手に持っているタブレット端末が若干震えている。バイブレーション機能的なものではなく、単純に右手が震えているだけだ。

その様子を見ているギャラリーはいないので、反応を悟られて正体がばれる事もないのだが。

 それから数分後、斑鳩の目の前を通過する人物がいた。アークロイヤルである。

しかし、彼女の視線はコンビニの方角を見ていた訳ではないので――素通りと言うオチになったが。

「あの人物は、そう言えば――」

 アークロイヤルの姿を一瞬だけ見た斑鳩は、ネット上で情報の検索を始める。

しかし、検索しても実在の空母や擬人化等しか発見できず、アカシックワールド以前にARゲームでの彼女を発見は出来ない。

まだ参加していないのか? それとも、更に偽名を使っているのか?

「情報がない? そんなはずは――」

 斑鳩は慌てて別のARゲームサイトを開き、そこでアークロイヤルを調べるが――そちらでも検索結果は0だった。

登録から最低でも1週間経過すれば、情報は嫌でも入ってくる。それは、情報非公開などの特別な事情がない限り――。

ARゲームでは、アカウント転売を防止する為にARガジェットを準備後のエントリーを呼び掛けたり、不正転売をしないように啓発活動を行っている。

「こうなったら――」

 斑鳩は奥の手と言わんばかりに、あるARゲームアプリを立ち上げた。

このアプリは、つい最近になってダウンロードしたばかりのアプリである。タイトルは『アカシックワールド』と言う、試作ゲームのアプリらしい。

ゲームの内容までは確認していないが、アクション系かFPSとメインジャンルで明記されていた覚えがある。

 ウイルス系アプリやランサムウェアの類でない事は確認済みなので、裏アプリでなければ――データが出てくるはずだ。

プレイヤーの登録リストを検索するが、登録者の数は100人にも満たない。プレイヤーの個人情報を集めるアプリか――と言う予感もしている。

そこで、斑鳩は自分のプレイヤーネームがいつの間にかエントリーされている事に気付いた。

「えっ? このアプリってインストールすると強制登録なの?」

 斑鳩は慌て始め、近場にあったARゲームのセンターモニター端末に自分のARガジェットをタッチする。

モニター部分にガジェットを近づけても何も起きないのは知っているので、赤っ恥をかかないように指定された場所でガジェットをタッチした。

 すると、モニターではなくタブレット端末には、アカシックワールドのアカウントが作られている事が――明記されている。

それに加えて、バトルリザルトも存在していた。つまり、何処かのタイミングでアカシックワールドをプレイしていた事になるのだが。

「このバトルって、まさか?」

 そのまさかであった。初登録後にバトルした事に加え、第1戦でリザルトに表示されていたのは――ジャンヌ・ダルク戦である。

その結果は、敗北になっているのだが――結果ではなく、プレイしたような覚えもないようなゲームをプレイしていた事の方が驚愕の事実と言えるだろう。

アカシックワールドとは一体――斑鳩は、あまりにも都市伝説を思わせるような唐突な出来事に驚く暇もなく、目当ての人物の名前を発見した。

ただし、今の心理状態でアークロイヤルの名前を発見したとしても――本来の目的を達成したとは言えないのかもしれないが。




###第3話『リアルと虚構の境界線』その3



 神原颯人(かんばら・はやと)、彼は大手ARゲームメーカーに在籍していると表向きには通っている。

しかし、スリートライアングルと言うゲームを開発した際は、途中降板ではないが――バランス調整等は別スタッフが担当していた。

そう言う経緯を知っている人間からすれば、神原は別の意味でも『中途半端』と言われているのかもしれない。

一方で途中で外されるのはメーカー側からの指示と言う説もあり、実際に彼が開発していた別のゲームでは――意図的に外されたと言う。

実は、そのゲームこそ『アカシックストーリーズ』なのである。ただし、ゲーム自体は正式リリースがされた訳ではない。

これには別の事情があって、その調整が出来ていない為と言われている。

「ARゲームは、一定の売り上げが必須――ソシャゲの様なアイテム課金方式とも違う」

 神原は、昼食を取ろうと入った牛丼店でカウンター席ではなく別のお座敷へと通された。

牛丼店でお座敷も珍しいだろうが――チェーン店とは違う店舗なので、そう言うスペースもあるのだろう。

煙草のにおいが一切しないのは、全面禁煙の看板が入り口にもあった事による物。アルコール系のにおいは――通されるまではなかっただろうか。

 お座敷のテーブルにはメニューが置かれているが、牛丼以外には色々な丼物がある。

ちなみに、お座敷と言っても靴は脱ぐタイプではなく、雰囲気がお座敷なイメージのテーブル席と言うべきか。

近くからする海鮮系なにおいは――隣の客がマグロ丼を食べているからだろう。

神原は便乗して――とも考えたが、もう少しメニューを見てから決める事にする。

「どうするべきか? ここは牛丼がおいしいという話だが――」

 1分はメニューとにらみ合っていたが、ドリンクバーが書かれていたので、まずは――ドリンクバーを注文する。

専用のコップをバイト店員から渡されてからは、自分でコーナーの一角まで移動し、コーラを持ってきていた。



 今回の事件が発生する約2か月前、あるARゲームのロケテストが行われていた。

このARゲームは、アカシックワールドとは違うのだが――システムは若干類似している。

同じスタッフが関わっているので、似るのは当然という声が――ネット上で出るのも、10分と言う時間もかからなかったという。

「このゲームはヒットする要因がある。数字的に言い表しても負けフラグにしかならないでしょうし、敢えて言いませんが」

 ゲームに関与したと思われるプロデューサーは、こういう事をロケテスト前の会議で言っていた。

具体的な数字目標は、ARゲームでは死亡フラグにしかならない。

『ミリオン間違いなし』と言っても、超有名アイドルのCDとは違うので――そう上手くいくわけがないだろう。

彼らが売れているのは、政治的な部分等で都合のよい後ろ盾がいる事が判明している。その勢力が何者なのかは――この際どうでもいいが。

「しかし、この作品は明らかにパクリと言われるような要素がある」

 会議室の役員も内容を見た上で指摘する。

何も見ないで指摘しては、単純に芸能事務所AかJの全面タイアップを付ければいい――と言う雰囲気になりかねないからだ。

「そうでしょうか? 名称は全く違いますし、そちらの制作している会社にも事前に問い合わせて、類似する箇所がないか調べました」

 このスタッフは、こうした意見が出るのも承知で色々と調べたらしい。

公式コラボであれば――何も言われないかもしれないが、これはあくまでもオリジナル作品としてリリース予定の物だ。

トラブルがあっては大変とメーカーも考えているのかもしれない。

「このゲームがヒットすれば、スリートライアングルの失敗は――」

 ここまで発言した所で、挙手をして反対意見を出そうと考えている人物が現れた。

それは、背広姿で正装した神原である。スリートライアングルも、彼がプレゼンしている作品も――神原が元は作ったものだ。

「アレと失敗作と言うのであれば、貴方は――何を成功と見るのですか? フジョシ勢力が夢小説の二次創作で盛り上げてキャラ人気やカップリング支持されれば、ネットイナゴが炎上マーケティングを展開すれば――」

 神原の発言は、別の意味でも周囲の役員等が動揺するような痛いところを突く。

しかし、プレゼンしていたスタッフは言葉が出ない。つまり、反撃できるようなコメントが浮かばないのである。

所詮――ソシャゲの様に低予算や短期間でリリース出来ればネット炎上しようが無関係――という事なのかもしれない。

「ゲームは作ればそれまで、後の事はプレイヤーの勝手――そういう時代は終わったのです。オンラインにおけるチートプレイ、ネット炎上行為、それ以外にも――」

 神原は自分のコンテンツ流通における重要な事を訴える。役員の一部には、耳が痛い話ではあるだろう。

それは、数人のスタッフが議論中に退席をした事からも分かるかもしれない。



 そう言う事もあってか、神原はゲーム開発から手を引こうとも考える時期があった。

あの時に言及した発言は撤回する事はしなかったが――プレゼン後には、該当するスタッフが更迭される騒ぎにもなったのである。

「おまたせしました――コロッケ丼です」

 別の男性バイトが神原に持ってきた物、それはコロッケ丼と呼ばれる物だった。

丼と言う割には、長方形な弁当箱を連想しそうなお重に入っている。それがコロッケと言われれば、誰もが驚くだろう。

出来たてと言う事もあり、テーブルに置かれたお重の蓋に手を付けて――。

「これだ――」

 その中身は明らかにコンビニ弁当の三色弁当とも言える物である。きゅうりの浅漬け、ねぎとわかめの味噌汁、鳥の唐揚げ2個も付いて、580円はお買い得だ。

三色の内訳は、鳥そぼろ飯、特製のたれがかかった飯、おかか飯――コロッケは2個付いているが、その中身はメニューではじゃがいもと書かれていたような。

「さて、そろそろ食べると――」

 せっかく箸を持って食べる態勢だったのに、タブレット端末からメールの受信を知らせる着信音だ。

昼食時なのに――誰からなのか?

【ARゲームでトラブルがあったらしい】

 またか――と思い、メールの続きをチェックせずに食事をしようとする。せっかくの料理が冷めてしまうからだ

しかし、タブレット端末でページを下に進めていく内に――衝撃を受けるような発言が、出てきた事には衝撃を隠せない。

【該当する人物は、ジャンヌ・ダルクを名乗っている】

 食事時に、このニュースは悪いニュースとしか思えない。食欲を減らそうと――連中は考えているのか?

仕方がないと思いつつも、コロッケ丼をゆっくり食べている余裕はないだろう。しかし、こういうときは――何も考えないに限る。

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