第2話:『非日常と化した世界』

###第2話:『非日常と化した世界』



 神原颯人(かんばら・はやと)が、ある方法を用いてARゲームを強制終了したのでは――そうアークロイヤルが疑う。

何故、そんな発想になったのかはこの発言をしたからである。

『始めたばかりと言うのであれば、それはプレゼント代わりとして受け取って欲しい。ARガジェットと言っても、1万円弱はするだろう?』

 発言には裏がないとも考えたが、彼の手際の良さはおかしいと――次第に思い始めていた。

「真戯武装パワードフォースだと――この場面で――」

 アークが唐突に言った一言、それが神原にとっては致命的な一言になったのである。

まるで、アークロイヤルは自分が真戯武装パワードフォースをベースにしてアカシックワールドのARゲームを作った事――それを分かっているのでは、と。

「真戯武装パワードフォース、見た事があるのか?」

 自分が誘導尋問をされている可能性も否定できないが――覚悟の上で質問をする。

それで向こうが納得すれば、それはそれでこちらの計画がばれた訳ではないだろう。

「ええ。第1作から――最新作まで」

 彼女の言う最新作とは第9作ではなく、現在放送中の第10作だろう。

それを考えると、逆に彼女を危険に晒してしまう可能性があるのでは――そう思い始めた。

神原は、若干視線をアークロイヤルからそらしながら周囲の景色を見るのだが、それでごまかせるとは思えない。

 そんな行動が数秒は続いた辺りで、遂に神原は半ばあきらめた表情で事情を話す事にした。

下手に彼女が危険にさらされるのは――あのガジェットを渡した事があるとはいえ――。

「そこまで見ているのであれば、話す必要性があるのだろう」

 フィールドは既に展開されていないので、別の落ち着いた場所で話そうと神原は考えるが、周辺に喫茶店やファミレスはない。

コンビニは数件確認出来たが――さすがにイートインスペースがあるようなコンビニは限られるだろう。

「ただし、ここで話すのにはリスクがあり過ぎる――」

 結局――ある程度は歩く事になるが、タブレット端末で発見したゲームカフェへ移動する事にした。

丁度、徒歩で数分位の場所に有名なゲームカフェがあるので、そこならば問題なく話せるだろう。

「リスクって?」

「さっきのプレイを見て、気づかなかったのか――ドローンや中継用カメラの存在に」

 アークロイヤルはプレイに夢中で気づいていなかったようなので、神原はドローンや中継用カメラ、それ以外にも複数の監視カメラがある事に言及する。

それを聞いても、表情を全く変える事のなかった彼女は――単純に馬鹿なのか、それとも本当に夢中になると周囲の情報にも気づかないのか?

「とにかく、ここからは移動する。他のプレイヤーも場所を使うからな」

 神原が振り向いた方角には、既に別のプレイヤーが待機していた。どうやら、別のARゲームをプレイする為の待機列らしい。

アカシックワールドとは違うゲームなのは間違いないのだが、ジャンルを確認するような余裕は2人にはなかった。



 午後3時、2人が辿り着いた場所はイースポーツカフェと看板には書かれている。

外見こそファミレスに見えるのだが、おそらくは射抜き店舗と呼ばれるタイプだろう。

草加市内には、このような店舗で営業しているイースポーツ絡みの店舗が多い。

使用目的を聞いて、新規店舗がすんなりと許可されるかと言うと――周辺住民が許さないので、こういう形式が多いのかもしれないが。

 外から内部の様子は確認出来ないが、風俗系の店舗だったりはしない。

そんな店舗であれば、近隣にアパートやスーパーのある場所では営業できないだろう。

駐輪場には数台の自転車があるのだが、それ以上に20台ほどの車が入るであろう駐車場が満車だった。

「ここならば、何とか――なるだろう」

 店内に入った神原は、周囲の光景を見て驚く様子は全くない。

逆にアークロイヤルはゲームの爆音や自前で持ってきたノートパソコンでFPSゲームをプレイする光景は――異質と言えるのだろう。

「話って、一体――」

 アークロイヤルの言葉は、神原には聞こえていないだろう。ゲームの爆音が――それを妨害しているような物だから。

逆に言えば、この爆音ならば他の周囲に話が聞こえるようなことはない――と言えるのかもしれないが。

「ここにするか――」

 アークロイヤルの話を無視し、神原はあるスペースを発見する。

そのスペースでは、ARゲームのネット動画等を視聴できるスペースらしい。

神原は受付嬢にスペースが空いているかを聞き――大丈夫だったので、そこへアークロイヤルを案内した。

厳密には、別スタッフの誘導で開いているスペースへと移動するのだが。



 2人が座った場所、それは複数人専用のテーブルを改造したスペースだろうか。

近くにはドリンクバーも設置されているが、ソレ用のコップなどはテーブルに置かれていない。

どちらかと言うと、飲食禁止の様なスペースなのではないか――とアークロイヤルは考えるが、しばらくしてスタッフが何かを持ってきた。

「ごゆっくりどうぞ――」

 彼がカートに乗せて持ってきた物、それは小型テレビと言うべき物である。

それをテーブル近くにある取り付け口に装着すれば、テレビを視聴できるのだろう。

その他には、タンブラーを2個、それにメニュー表の役割を持つタブレット端末を持ってきた。

 アークロイヤルはメニューをチェックし始めると、自分の知っているファミレスとは違う名称のオンパレードに目を回しそうだったのである。

神原の方は落ち着いたような表情で、チョコ焼きと焼きそばパンの画像をタッチして注文した。明らかに慣れた手つきと言わざるを得ない。

「メニューで1000円を超えるような物はない。どれを選んでも構わないが――」

 確かに、神原の言う通りにメニューを見ると1000円オーバーは存在しない。消費税を入れると1000円を超える物もあるが――。

コースメニューと言う類ではなく、時間制限ありの食べ放題を思わせるような雰囲気もあった。

「一つ聞いてもいいですか? ここは、どういう店舗ですか?」

 アークロイヤルの疑問も一理ある。

そこから話さないといけないのか――と神原は頭を抱えるような案件だが――半分は諦めた表情で話す事にした。

「草加市はARゲームを利用して町おこしをしようとした。過去に様々なゲームジャンルで同じような事を実行しようとしたが、一部ゲーマーにしか馴染む事はなかった――」

 肝心の部分を話し始める神原だが、アークロイヤルの方は興味なさそうにしている。彼女の方から質問されたのに、この対応には涙を禁じ得ない。

それからしばらくして、スタッフが注文した焼きそばパンとチョコ焼きと言う物を持ってきた。

 スタッフに関しては仕方がないのだが、ここまで興味を示さないのには――自分の話し方や話の切り込み方が間違っているのか?

しばらくして、チョコ焼きから焼きたてを思わせるような匂いがしたことで、アークロイヤルはそちらの方に興味を惹かれる。

「ただし――町おこしと言っても、ゲーセンを多く配置しようとかゲーム関係のグッズ専門店を増やそうと言う物ばかりではなかった」

 チョコ焼きの方に視線が行ったアークロイヤルに対し、その中の一つをフォークで切る。

明らかにたこ焼きと同じような形状で、はちみつ、カラフルなチョコチップ、鰹節と思ったらチョコパフ――そんなトリックメニューだったが、その中にはパンケーキ生地にチョコソースと言う物だったのだ。

8個入りで500円、草加市の誇る――とまでは言いすぎだが有名スイーツとなっている。

「その内の一つが、このイースポーツカフェに代表される――交流スペースと言えるだろう」

 チョコ焼きの切った半分をアークロイヤルに食べさせる。この光景だけみると、カップルに見えるだろうが――そういう関係ではない。

「――! 何、この熱いのは?」

 アークロイヤルもあつあつのチョコにやけどしそうな気配だったが、そこまでは熱いものではない。

あつあつおでん等とは別のベクトルで扱ったのは間違いないが――チョコソース的な意味で熱かったのだろう。

急に、こういうリアクションをされても反応には困る。しかし、先ほどまでの興味を示さない感じからは変化している――のは確実だ。

「たこ焼きからヒントを得たというチョコ焼きだ。今では草加市の有名スイーツとしてネットでも知名度は高い」

「確かに――チョコ焼きは一時期に話題になっていたけど、今はブームは冷めているけど市民権を得ているわね」

 アークロイヤルも、ようやく興味を示したか――と神原は一安心。しかし、話す事は他にもある。

ガジェットの事もあるし――あの時の中断した一件も話さないといけないだろう。



 その後、アークロイヤルはカレーパンとドーナツを注文し――飲み物はアイスコーヒーである。

アイスコーヒーはドリンクバーとは別扱いの為、料金はドリンクバーとは別だが。

「食べている途中で悪いとは思うが、そろそろ本題に入るぞ」

 本題に入ろうとした神原だが、アークロイヤルの左手にはアイスコーヒー、右手にはカレーパン――話を聞くような気配ではない。

「――食べながらでも問題はない。興味がある部分だけ聞くだけでも――構わない」

 しばらくすると、隣のスペースからリズムゲームの楽曲と思わしき曲が流れてきた。

ARゲームの動画を視聴するだけでなく、このスペースでは無線LAN等が完備しており、ソシャゲ等をプレイする事も可能らしい。

その為、このスペースにいるお客はタブレット端末やスマホを片手にドリンクバーのドリンクやスイーツ、丼物を食べている人物もいるだろうか。

外見に関しては自分達の様な服装の人物もいれば、ARゲームで使用するARインナースーツをそのまま来ている人物、コスプレイヤー、挙句の果てにはスク水と言う女性もいる。

それなのに――警察が取り締まる事もなければ、他の客がトラブルを起こすような光景も全くない。

 仮にあったとしても、プレイヤー同士でエキサイトし過ぎて怒鳴り合い等がある程度。ただし、それもゲームの爆音で聞こえない場合が多い。

おそらく、こういう音環境だったからこそ、神原はこの場所を選んだのかもしれない。

「草加市は、ARゲームによって町の様子が一変したと言ってもいい」

 神原が本格的な話を切りだすが、アークロイヤルはチョココロネを食べ始めている。

食べながらでもいいと言ったのは自分なので、そこは突っ込んだら負けなのだろう。

「非日常と化した世界――この草加市は、ゲームやアニメの世界等を取り込んだ結果として生まれた、特区と言ってもいいだろう」

 特区と言う言葉を聞き、アークロイヤルの反応が変わる。ゲームと言う段階で表情は変わっていたが、特区と聞いて変化したと言ってもいい。

「ゲーム特区って事?」

「噛み砕いていうと、そうなる。ARゲームの設置しているゲーセンやフィールドが多いのも、草加市が圧倒的だ。だからこそ、海外ゲーマー等も聖地巡礼する」

「聞いたことある。VRゲーマーの中にも、草加市で活動しているプレイヤーがいて、神環境ってネットで書きこんでいる人もいた」

「神環境と言ういい方には――少し語弊があると思うが」

 アークロイヤルの神環境と言う単語には、神原も困惑していた。

ソシャゲでも神運営と呼ばれているゲームもあるにはあるが、それはそのゲームをプレイしているプレイヤーに取ってだろう。

神原は――ARゲームで神環境と言われると、間違ってはいないが――完全な正解ではない。

「それと、このガジェットはどんな関係が?」

 アイスコーヒーを持っていた手で、先ほどのガジェットを取り出し、それを神原に見せる。

ガジェットの状態は電源を入れていないかのように、黒い画面のままだが――いわゆる待機画像だった。

未設定なので、このようになっているとも神原は説明する。

「そのガジェットは、特殊なガジェットだ」

 この一言を聞き、アークロイヤルはゲームプレイ時の違和感を思い出した。

VRゲームとARゲームでは環境が違うのは当然だが、それ以上に違う物がアカシックワールドにはあったと言ってもいい。

まるで、VRとARのいいとこどり――と言うか、まるで何かをモチーフにしているような感じもある。




###第2.5話:『その手にした物の正体』



 神原颯人(かんばら・はやと)とアークロイヤルは動画を視聴する事にした。

ガジェットの事に関しては、ダンマリではないのだが――横道にそれた話ばかりで、なかなか本題に入らない。

そう言った事もあり、百聞は一見に如かず――と言う事で動画を見る流れになったのである。

「特殊なガジェットと言っても――ネット上ではMRと呼ばれているが、それとも違う物を――生み出したと言ってもいい」

 そして、タブレット端末とは別のモニターを操作し、何かの動画を検索し始めた。

動画に関してはVRゲームやARゲーム以外にも、様々なサイトの動画を視聴できる。

ただし、アダルトビデオの様な年齢制限がある物、ニュース的な物、政治色が強い物、倫理観の問題が指摘されるグロ画像等は公開されていない。

「これは――」

 アークロイヤルも初めて見る動画なのだが、これがARゲームと言うらしい。

拡張技術を利用し、CG等で疑似的なごっこ遊びが可能――と一部のまとめサイトは言及しているが、あながち間違いではなかった。

「これがARゲームだ。VRとは違って、広いフィールドが必要、現実とゲームの区別がつかないと言う事で――色々とネット上では議論が尽きないが」

 現在見ている動画では、まるで本物の格闘ゲームを見ているかのような――非現実的なバトルが展開されている。

プロレスや相撲、格闘技中継では体感できないような空間が、目の前で展開されていたのだ。

例えるならば――バトル漫画を実写化とは違う形で映像にしたような――そんな気配がする。アニメ化とも――違うかもしれない。

 流れている動画では、気功波の様な光線系の必殺技、更には瞬間移動の様な高速移動までやっている。

これは――さすがのアークロイヤルも開いた口がふさがらない。

VRゲームでも、ここまでの物は出来るのだが、それはあくまでも――VR空間での話。ARは現実空間で行われているのだ。

「信じられない。これが、ゲームだと言うの? 下手をすれば、怪我だってする。更に言えば――」

 思わずアークロイヤルも熱く語っている。先ほどまでは興味すら湧かなかった話題なのだが、映像を見て何か感じたのかもしれない。

「ARゲームは、あくまでも現実空間に付加情報を表示させて、現実空間を拡張――それを利用したゲームだ」

 そして、動画の終了時間になったタイミングで別のゲーム動画をタッチして表示させた。

次の動画はレースゲームに見えるが、乗っているのはバイクや自動車と言った物ではなく、ボードだと言う事にアークロイヤルは驚く。

しかも、そのボードは変形してロボットになった事には――。

「しかし、アカシックワールドは違う」

 神原の目つきが変化し、遂に本題――という感じを彼の表情から感じた。

それ程に重要なガジェットを自分が手にしたのか、アークロイヤルは改めて思う。

「アカシックワールドは、ネット上ではMRと言う複合現実とも言及されているが――それとはもっと違う物だと、思っている」

 動画を閉じて、アークロイヤルが手にしているガジェットとは違う物を取り出した。

この形状には――アークロイヤルも見覚えがあったのだが、それもそのはず――。

「これって、真戯武装パワードフォースの――変身アイテム!?」

 見覚えがあったのは当然である。目の前に出てきた物の正体、それは真戯武装パワードフォースのバトルガジェットだったのだ。

ガジェットの名称はシリーズによって異なり、形状も違う。この辺りは玩具メーカーの商品戦略もあるのかもしれないが。

 神原が取りだしたバトルガジェットは、ハンドコンピュータと言うなブレスレット+投影型モニターと言う変わりものである。

時計型の携帯電話なども商品化されて話題となったが、それ以上に最先端を行くようなガジェットだったのだ。

放送当時、まさか類似形状のガジェットが現実化するとは――玩具メーカーサイドも予想外だったかもしれない。

「アカシックワールドが目指している物、それは真戯武装パワードフォースのリアルゲームを生み出す事だ」

 神原は本来の目的を話す事は、この段階では非常に危険と判断し――予定を変えて若干ぼかした形で話した。

しかし、アークロイヤルの方はバトルガジェットの現物を見て目をキラキラしていた為に、そこは聞いていないと思うが。

 現実世界と仮想世界の壁を破壊し、将来的には真戯武装パワードフォースの世界が日本で実体験できるような――と行きたい所だが、色々と上手くいかない。

神原は噛み砕いて色々とアークロイヤルに話すのだが、バトルガジェットを操作していてそれどころではないようだ。

「そう言えば、最新作も玩具のCMは見たけど――アレも?」

「さすがに――そちらは、まだ無理だな。権利問題よりも、別事情だが」

 アークロイヤルは、神原の回答を聞いてガッカリする。それでバトルガジェットから手を離すかと言うと、そうではなかった。

自分も同じような物を――と神原は思うのだが、アークロイヤルにとっては目の前にあるバトルガジェットの方が重要かもしれない。

 神原は、更にもう一つ、伝え忘れそうになった事があった。

それは――あの時のバトルを無効にした手段について――アークロイヤルが興味を持つかどうかは別にしても、話しておく必要性はあった物である。

これに関しては、ガジェットにダウンロード済みのアプリをアークロイヤルに見せた。

「そのアプリって、ARパルクールの――?」

 アークロイヤルもある程度のジャンルは知っていたので、タブレット端末に表示されているアプリアイコンがARパルクールの物であると分かった。

しかし、これとバトルの中断に何の関連性があるのか?

「噛み砕いて説明すれば、ゲームフィールドの予約をギリギリのタイミングで入れた。そして、アカシックワールドは強制中断――と言う事だ」

 原理を説明してしまうと犯罪に転用される恐れもあるので、神原は噛み砕いて説明するにとどめる。

ゲームのダウンロードを行っていたのは、ARパルクールのアプリをインストールしていた為だろう。

そして、ギリギリのタイミングでアプリを起動して――フィールドを予約する形でゲームを中断させた。

実際に別ゲームの待機プレイヤーを見かけたのは、このゲームをプレイする為だったのかもしれない。

アークロイヤルには、若干どうでもよい事だったが。

 その後も色々な話をアークロイヤルとしていく中、午後4時となった。

「そろそろお時間ですが――延長しますか?」

 5分前位にはスタッフが訪ねてきたのだが、延長しない事を既に告げていたのである。

そして、話も終わったので店の入口でアークロイヤルとは別れる事に――。



 店の外へ出て、帰路に就こうとしたアークロイヤルだったが、ふとした事でコンビニに設置されたモニターが気になった。

モニターの形状としては薄型テレビの様なスペースを取らないタイプと思われがちだが、色々と装置が付いているので実は巨大な機械でもある。

センターモニターでは、該当フィールドで行われているARゲームへのエントリー、動画や中継映像の視聴と言った物も可能。

 しかし、ゲームアカウントその物はアンテナショップでエントリーを行う必要性があった。

インターネット上でもアカウント作成は可能だが――手続きはアンテナショップでやった方が時間がかからないだろう。

アンテナショップだと手数料が若干かかるが、インターネット上では手数料が無料になる。

それを踏まえると、少し手までもインターネットで行う人間が多い――とは限らない。

「ネームは――?」

 プレイヤーのネームを見て、アークロイヤルは別の驚きを覚えた。

それは、真戯武装パワードフォースにも登場する人物と言うよりもパワードフォースと同名だったからである。

「斑鳩――? それに、対戦相手は――見覚えがある?」

 そのネームは斑鳩(いかるが)と表示されている。漢字も出ていた為に判別出来たような物だが――。

もう一方の相手は、あの時に戦った騎士とも似ていた。騎士と言うモチーフ自体、出尽くしている気配はするだろう。

「アレが噂の――」

「ネット上では、既に100人ほどは倒されているという話だ」

「ゲーム荒らしか?」

「単純な荒らしであれば、運営がアカウントをはく奪するだろう」

「しかし、噂では彼女に関する通報は行われていないようだな」

 周囲のギャラリーの話が聞こえてきた。ネット上では既に噂が出ている事に――アークロイヤルは言葉に出来なかったようだが。

それに加えて、彼らの話で聞こえてきた単語と言うのが――。

「ジャンヌ・ダルクとは――何とも皮肉な名前を付けた物だな」

 これを聞いたアークロイヤルは、何かを思い出していた。それは、トラウマと言っても過言ではない物である。

確かにジャンヌ・ダルクと言えば歴史上の偉人であり、それをモチーフにしたゲームやアニメの登場人物は――大勢いるので、特定困難なのは間違ない。

しかし、あの時に見たアーマー、素顔を隠す気配がない様子は――VRゲームでの類似プレイヤーを思い出し――。

『私の最終目標、それはコンテンツハザードを起こすことだ』

 その時に彼女が言い放った一言――それが彼女の脳裏にフラッシュバックする。

あの時のバトルでは何も言及はしなかったが、おそらくは自分があの場にいた事に向こうが気づかなかったから――と言う可能性も否定できない。



 バトルの方は、1対1と言う仕様で行われている。これは、アークロイヤルが行った時と同じ物だった。

どうやら、基本システムは同じと言う事のようであるが――明らかに不利なのは斑鳩。

「既にゲージは2割弱――向こうはノーダメージにも等しい。明らかにチートが使われているような疑惑もあるのに」

 若干に気を切らすような――不利な状況。北欧神話チックな鎧は、アーマーの耐久に関係しないようなマーキングや装飾が若干は出であった。

それに、ARメットはフルフェイスタイプであり、そこに神話の騎士を思わせるアーマーが発生しているような状態である。

ARアーマーはインナースーツとARメットに装着される、テクスチャーの様な物に該当していた。

それでも、耐久度がある事は――不思議ではあるが、それも一種のご都合主義としてゲーマーには受け止められている。

 使用している武器は、既に遠距離武装のビームキャノンと中距離用の30センチ位の小型ブーメランは使用不能――打つ手なしだ。

持っているのは、近距離の2メートル前後はするであろう大型のシールド一体型のロングブレード、これでは機動力と言う部分で勝ち目がない。

射程としては1メートル未満でなければ、大型過ぎてまず当たらないだろうか。実際、斑鳩とジャンヌの距離は5メートル以上ある。

『チートだと? チートではないのは、ゲーム前のチェックでも明らかだろう』

 一方のジャンヌは余裕の表情で斑鳩を追い詰めていく。

彼女には挑発や煽りという感情で言及している訳ではないが、ネット上のまとめサイト等ではそう捉えられていた。

まるで、彼女が突如として現れたコンテンツ流通を妨害する刺客――そう言う筋書きをまとめサイトや一部メディアが考えているようでもある。

そう言う風にしたいのは、芸能事務所AとJから資金提供を受けてネットを炎上させている悪目立ち勢力やフーリガンと言う単語で例えるのも、サッカーファンには失礼な集団――。

『タイムオーバーも間近だ。素直に降伏をすれば――』

 ジャンヌは、まさかの降伏勧告である。冷静に言及している辺り、もしかすると余裕の発言なのか?

「ここで降伏する位なら――」

 斑鳩の目は――まだあきらめていなかった。だからこそ、距離を詰めて一撃を加えようとしている。

武器の威力を考えれば、この一撃が当たれば――数割は削れるだろう。そこからチャンスを――。

『降伏をしないか。ならば、仕方がない――』

 右手でパチンと指を鳴らすと、何もなかった空間から斑鳩を取り囲むように1メートルほどの細長いシールドが複数出現した。

まさか――と考えた斑鳩も、瞬時に出現した物体に即座対応できるような空気ではない。

いくら、彼女がプロゲーマーに片足を突っ込んでいるような実力者でもあっても――勝負は見えていた。

『舞え――エクスカリバー!』

 細長いシールドは、分離と変形を繰り返し――1本の剣に変化した。

その剣を、彼女はエクスカリバーと言った。聖剣エクスカリバーの逸話は有名だが、あまりにもメジャーな武器を――彼女が使うのか?

 結局はなすすべもない斑鳩は、エクスカリバーに切り裂かれるような形で敗北する事なる。

アーマーブレイク等はせず、アーマーに傷はあっても血が流れているような描写は全くない。

リアルとゲームの中間点――と言う意味でも、パワードフォースの原作再現と言って差し支えはないだろう。

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