第167話 宴にて - 5
「多感な若者達は、今回の一件で自分の人生を作り始めましたな」
ゴロウはそう言って含み笑いをした。視線の先には、カンザとヒビカに宴会場の端っこへと運ばれて行くリズがいる。
「いや全くですね」と隣で言うのは、アードボルトだ。
「しかし、それを『懐かしい』『いや、まだ自分も』などと思いながら、少し離れて眺める自分のこの年頃も、私は楽しんでいますよ」
「『まだ自分も』ですか……。あなたに力を振るわれると考えると、アキツ棟梁であるワシはなかなか恐ろしいですな」
ゴロウが笑いながらそう言うと、アードボルトも笑った。
「いやあ、私はもう総理大臣は辞めるしかありません。同時に政治家も引退しようかと考えてます」
「何と……」とゴロウは目を丸くする。
「『辞めるしかない』とは……どういうことですかな?」
「もう支持率が一ケタになってしまいましたからね。戦争も終わりましたし、潮時ですよ」
「しかし、そなたはこの戦争から連合国を守った立役者。国民はそれでも支持を……」
アードボルトの奥からリオラがゴロウに笑顔を向けた。
「それは連合国の国民には伝わりません。世界一巨大な国ですから、アキツ国のように自由に小回りの効く政治はできないのですよ」
「なるほど……。まあしかし、我らアキツも、国の在り方を変えねばなりません。ハンゾ・タクラの一件で、ワシも思い知りましたからな。今までは外国との交流を遮断し、一国だけで国家として自給自足をしていれば幸せになれると思っておりました。だが、そんなワシの国の治め方が、ハンゾをアキツから隠し、イェガを連合国から隠す結果となった」
ゴロウが渋い顔で言うと、アードボルトがうんうんとうなずいた。
「今回の事件をきっかけに、是非連合国とアキツ国との交流を深めたいですね。連合国の次期総理大臣は、おそらくカザマ国防大臣になると思います。彼は私と違って、ストレートでその……裏表のない男ですから、どうかご安心を」
ゴロウが「うむ」と手を出し、アードボルトもそれに応じて固く握手を交わした。
*
「ジョウ、少し話を聞いてくれ」
ヒビカがジョウの隣に座った。
「リズをどう思う?」
早速そう聞くヒビカに、ジョウは少し頬を染めてしかめ面を見せた。
「あんな大事な話を、酒の勢いに任せてするなんて……」
「ハハハ」と笑うヒビカ。
「確かにな。プロポーズは本来あんな風にするべきものではない。それは私も同感だ。だが、リズの気持ちも分からないでもない。恐ろしくて勇気が出なかったのさ」
そう言ってヒビカはリズを見た。それにつられてジョウも見る。
リズは宴会場の端で寝かされ、カンザとマメに面倒を見てもらっている。
「ジョウ、お前がどうかは知らないが、世の中の男はみな若い女をちやほやするものだ。お前は五年もすれば魅力的な大人の男になるだろう。そしてお前の周りには、やはり魅力的な若い女が集まる。そんな時リズは三十三歳だ。『勝ち目はない。もし結婚してもいずれジョウの気持ちは……』と、リズはそんな事を考えたはずだ。それがどれほど恐ろしい事かお前にはまだ分からないかもしれないが、私には分かる。そしてお前へのプロポーズのためにリズがどれほどの勇気を振り絞ったのかという事もな。もちろん、だから結婚してやれなどとは言わない。だが断るとしても、今私が言った事を忘れずに、リズをできるだけ傷つけないよう大事にしてやってくれ」
「うん……大丈夫」
*
「あいつら、結婚するかな?」
コッパはテーブルの上でリンゴを持って座っている。視線は、リズの元へ向かうジョウの背中に向けられていた。マナも同じようにジョウの背中を見ている。
「したら、素敵だね。あの二人なら上手くいくと思うし」
「オイラもそう思う。……ところでマナ」
「うん?」とマナはコッパに顔を体を向ける。
「さっきの話……もう考え直しはしないのか?」
「うん。もう決めたから」
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