第137話 作戦開始




「何だこれは、皿か? 皿の周りでホタルイカが泳いでいるのか?」

 コン! と机の上の紙を筆で叩くアカネ。ゴロウは「分からん!」とバッサリ。


「皿にしか見えん! 皿とホタルイカが空を飛んでアキツに向かっているというのか」

 ゴロウがそう言うと、アカネはコンコンコン! と苛立ったように筆で紙を叩く。


「モス・キャッスルですよ。六匹のホタルイカは、恐らくデメバードでしょうね」

 ジャオもアカネが絵を描く紙を覗き込んでいた。アカネの描く絵によると、まだアキツの島からだいぶ離れてはいるが、以前の位置より近付いている。真っ直ぐこちらに向かっていると見て間違いないだろう。


「アレは大気圏内での移動速度は遅いですからね。ここまで来るには、まだ相当時間がかかります。ゴロウ、あなたは『ブインタスール』での戦いの準備に専念してください」



 ブインタスールは連合国内で一番アキツに近い港町だ。陸海軍基地があり、ジェミルに奪われなかった旧式の兵器が数多くある。ジェミル軍はそれを狙って侵攻して来ていた。

 もしこの街を守り切れなければ、連合国は一貫の終わり。もちろん、アキツも終わりだ。


「そっちは任せておけ。それより、モス・キャッスルの方は大丈夫なのか? 今どうなっておるのだ」


「今、リズさんがデメバードを落としに行くところですよ……。もう離陸したかもしれませんね」

 ジャオがそう言うと、アカネが紙に絵を描き始めた。すぐにゴロウが覗き込む。

「それは何だ、蝶々か? 蝶々で飛行戦艦を落としに向かったのか?! 本当にお前は絵心がないな!」


 アカネは紙をコン! と筆で叩いた。




                *




「リズどうだ、見えてきたか?」

「デメバードは見えてきたよ。モス・キャッスルってのはまだ見えないね」


 ジョウとリズが無線で交信していた。リズはすでにバタフライ・ルーチェに乗り、デメバードを目指して海の上を飛んでいる。

 アキツ国、マラコの工房前には、モニターやコントローラーが置かれ、ジョウとマナ、コッパ、マラコや妖達、そして、シンシアが集まっていた。みな静かにジョウとリズの会話を聞いている。


「モス・キャッスルがまだ見えない? おかしいな……デメバードのすぐそばにいるらしいんだけど……」


「悪い、見えてた」

 リズからそんな言葉が返ってきて「はあ?!」と呆れるジョウ。

「おい、しっかりしてくれよ! 何で気付かなかったんだ?!」

「雲だと思ってたんだよ」


「雲?!」「なんと」と妖達がざわついた。ジョウが人差し指を立てて静め、またリズとの交信に戻る。

「とにかく、敵機が見えたなら小型無人機を落とせ」


「了解。カウントダウン、五、四、三、二、一、投下」


 リズの合図と共にシンシアの手元のコントローラーに明かりが点き、モニターに無人機が撮影している映像が送られてきた。

「シンシア、無人機の操縦は任せたぞ」

 シンシアはジョウに親指を立てて見せ、コントローラーを握りしめた。ジョウはモニターを食い入るように見つめる。バタフライ・ルーチェの姿を捉えた。ジョウがまたマイクに顔を近づける。

「オーケー。そっちの姿は確認した」


 モニターに映し出されたモス・キャッスルの姿は、確かに雲のようだ。小さな島なら飲み込んでしまうかと思うほど巨大な、真っ白な城。窓や扉、飛行機の発着口が数えきれないほどあり、いくつものブロックが連結され、複雑に入り組んだ形をしている。

 今度はそれにどよめく妖達を、コッパが「しーっ!」と静めた。


 モニターに映るバタフライ・ルーチェに、小さな飛行機が一斉に近付いてくる。


「リズ、今近付いてきてるのミニワスプか?」


「ああ、見ときな。自動操作の機体なんか、一機残らず落としてやるよ!」

 バタフライ・ルーチェは一気に降下し、下から回り込むようにしてミニワスプの群れの脇に飛び込むと、機関銃を放った。早速、一機のミニワスプが煙を吐き出して墜落していく。


「お見事!」とマラコが手を叩いた。ジョウも「よしっ!」と大声を出す。


「一機落とす毎にいちいちそんなのいらないよ」とリズ。


「シンシア、カメラ少しズームできるか?」

 ジョウがそう言うと、シンシアはコントローラーの左端にあるカメラ操作のツマミに手を伸ばした。しかし、その途端無人機がガクンと揺れる。

「ごめん、ちょっと……」

 シンシアはすぐに無人機の操作に戻った。事前の練習ではシンシア一人で出来ていたのだが、緊張しているからか、上手くできない。

 マラコが「あっしがやりましょう」とカメラの操作を買って出てくれた。


 バタフライ・ルーチェに新たなミニワスプが近づいてくる。



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