第128話 新たな飛行機への道
ジョウはパンサーの中で、新しい飛行機の部品『タブローラー』の製作を続けていた。二機目の飛行機には、これが必要不可欠だが
「ああくそっ! ダメだ!」
ジョウは持っていたピンセットを壁に投げつけた。ラグハングルにいる頃からずっと挑戦し続けているが、うまくいかない。形は作れるのだが、回転してほしいローラー部分が上手く回転してくれないのだ。
ジョウは気分転換しようとパンサーから降りた。すると、パンサーの翼端のプロペラをしげしげと下から見上げている男を見つけた。
筋肉質で太い体に少し細めの目。服は明らかにアキツ国ではなく連合国のスーツだ。あごの下に手を当てて、実に興味深そうにプロペラを見るその男は、どこかで見たような気もするが、思い出せない。
近付いて話しかけてみた。
「あの……このプロペラがどうかしました?」
男はやっとジョウの存在に気付いたらしく、少し驚いた様子で、組んでいた手を降ろした。
「失礼。このプロペラの構造は初めて見たものでね」
「ああ、そういうの詳しい人なんですね。二重反転式のティルトプロペラは、今のとこ世界でこの『クリムゾン・パンサー』一機だけだと思いますよ」
ジョウがそう教えると、その男はますます驚いた。
「君の方こそ……随分詳しいな」
得意げに「ふふん」と笑うジョウ。
「コイツのことなら何でも分かりますよ。なんたって、俺が設計したんですからね」
「ほ、本当か?! 君は……見たところ、アキツ国の妖ではなさそうだが、連合国の人間かい?」
「はい。ファルココ出身のアーマー職人です」
ジョウがそう答えると、男は胸ポケットから名刺を取り出しながら言った。
「是非! この機体の設計図を見せてくれ! 私は以前、海軍で戦闘機開発に携わっていた経験があってね。それなりの知識は持っているんだ」
渡された名刺に書いてあった名前は『ジョゾ・カザマ』。ジョウはテレビで何度か見たのを思い出した。元海軍人で国会議員。そして、アードボルト内閣の新国防大臣だ。
*
「本当に……戦が始まるんですか?」
神妙な顔で聞くイヨにギョウブが「うむ」とうなずく。
「ゴロウの元に連合国総理大臣のアードボルトが来たそうじゃ。ジャオの読みでも、連合国とジェミルとの間で戦が始まるという。間違いなかろう」
イヨだけでなくザハも、そしてカンザまでも黙って真面目に聞いていた。
「それでお主に頼みがある。戦のための物資調達じゃ。
「あ、そんな、頼みだなんてギョウブ様……。ご命令とあらば」
照れるように笑ったイヨにギョウブは「馬鹿もん」とパシリ。
「お主はすでに南方守護の四賢人。ワシから『命令』などできんのじゃ。アキツ南方の安全と平和は、そなたの一挙手一投足で揺らぐかもしれんのだぞ。いい加減自覚を持て」
イヨは少し体を縮こまらせて、頭を深く下げた。
「はい。『仙亀甲』が必要だという事、マメ様とシバさんが動けない事、私が行くべきであるという事……全て自ら気付かなければいけませんでした。申し訳ありませんでした」
「ワシの頼みは受けてくれるのか?」
「はい。もちろんです」
ザハがそっと手を上げた。
「ギョウブさん……私達は、一体何をすれば?」
ギョウブは「おっと」と思い出したように言った。
「お主ら二人にもワシから頼みがある。イヨの手助けをしてやってくれ。仙亀甲は貴重な上に、普通の亀の甲羅と見分けるのが難しい。生物学者と薬医師のお主ら二人なら、すぐに見分けられるようになるじゃろう。どうじゃ?」
暇であるザハは「お力添えさせて頂きます」と即答。イヨにくっついていたいらしいカンザも「やらせてもらいますよ」と承諾。
「では、お二人とも遠出の準備をして一時間後に大門へ来てください」
イヨはそう言って立ち上がり、階段へと歩き出した。それをギョウブが「イヨ!」と呼び止めた。
「さっきはああ言ったが、アキツ南方の守護は実質的にはまだタマモがやっておる。お主はお主らしく、今は目の前の仕事に励むのじゃ」
「はい」と返事をしてイヨは体をギョウブに向け、改めて頭を下げた。
*
リズはコッパを肩に乗せ、秋大寺を散歩していた。マナの治療は手伝えず、修行をするわけでもなく、する事がない。
「コッパ、最近リンゴ食べてないんじゃないの?」
「うん。ここは野菜と穀物しか育ててないらしいからな」
「この寺は周りに街もないし……どこか買える場所ないのかな?」
「リズさーん」
男の子の声。振り返ってみると、クロウだった。
「クロウ、久しぶりだね。どうしたんだよ今日は」
クロウは少々興奮した様子で「聞きました?!」とたずねる。
「リズさんのあの飛行機、連合国政府が設計図を買い上げるそうですよ!」
「えっ?!」
あまりにも突然の出来事に言葉を失うリズ。自分達の他に連合国の人間が来ている事は知らなかった。
「おまけに、ジョウさんの二機目の飛行機も、作れる部分は連合国で明日からでも作り始めるそうです!」
「……え」
まだ言葉が出ない。何だか……ジョウが突然遠くへ行ってしまったような気分だ。
「でも、どうしても必要な部品がいくつかないらしくて。アキツにある唯一のアーマー鉱山に行こうって話になったんです。僕がジョウさんのお手伝いをして二人で行くんですけど、お二人もお暇なら行きましょうよ!」
「それなら……」と返事をしたリズ。マナのそばを離れたくないというコッパは秋大寺に残し、ジョウ、リズ、クロウの三人でアキツ唯一のアーマー鉱山『イワミ』へと向かう事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます