第101話 次の目的地
ヒビカとタブカ、ジョイス達三人がコッパの元へやって来たのは、ほぼ同時だった。コッパは、泣き叫びながらヒビカに飛びついた。
「ヒビカああああ! マナが! ああああマナがああああ!」
ヒビカはすぐにマナの状態を確認した。外傷はなく、息もある。だが、叩いてもゆすっても起きない。
「変な仮面の男が、マナの胸に腕を突き刺したんだ! うわあああああ! マナああああああ!」
コッパは大粒の涙をボロボロこぼしながら、ガラガラになった声で泣き続けている。
「コッパ、辛いだろうが落ち着け。死んではいない」
「仮面の男というのは、恐らくガム・ファントム大将ですね」
タブカは、ザハとパンクを起こしながらそう言った。
「あの人は、陸軍四将の中で最も正体の知れない人物です。使う技も、他の誰とも似つかないもので……」
蹄の音が響き、その場に緊張が走った。ヒビカとタブカは剣を抜いて構える。門の向こうから現れたのは巨大な野牛と、尻尾が二又になった猫だ。
ヒビカが剣を構えて近付くと、野牛は慌てて後ずさった。
「うわっ! 大丈夫僕です、クロウです! 驚かせてごめんなさい」
クロウはすぐに人型に戻り、マナにかけよった。
「イヨ、見てあげて」
イヨも人型に戻ってマナの前に膝をつく。胸に目を凝らし、黒い煙のような物が漂っているのを捉えた。
「これは……」
ドオン! と空を揺さぶるような大きな音が、中央塔から響いた。頂上から赤い光が放射状に広がり、辺りは夕焼けに照らされるようにオレンジ色に染まっていく。
「とにかくここを離れましょう。僕が走りますから、みなさん乗って!」
クロウが再び野牛の姿になり、しゃがんで背中を低くした。
*
中央塔から放たれる赤い光は、十分もしないうちに収まり、第四塔に停まっていたデメバードも、第四塔の街を焼き尽くして去っていった。
第三塔へリポート。パンサーの中に、みな戻ってきていた。
依然として意識のないマナをイヨが診ている。それを見守るのはコッパとクロウだ。他の面々は、マナを守り切れなかった無力感と罪悪感に打ちひしがれていた。
「俺が弱いから……マナさんは心配して俺達のところまで……俺は、無能のクズだ……」
泣きじゃくって目を真っ赤に腫らすパンク。その隣でジョイスもうなだれている。
「あんたは、自分がやれることはやっただろ。闘い抜いたんだから。あたしは、絶対もっと上手くやれたはずなのに……」
それにシンシアとヤーニンが申し訳なさそうに言う。
「ごめん、私達が……」
「力不足だったから、お姉ちゃんの足引っ張って……」
「違うって! あんたらは、相性が悪かっただけだよ」
ジョウとリズは、どうしてもお互いの顔を見られずにいた。胡坐をかいて顔を伏せるジョウを背中側に感じながら、リズはヒビカの前に座った。瞳を潤ませながら、頭を下げる。
「ヒビカさん、すいませんでした……あたし達が、すぐに門を閉めてれば……」
首を横に振るヒビカ。
「違う。そもそも私の判断がおかしかった。デメバードを見つけた時に、すぐマナを止めるべきだったんだ。それに、私にもっと力があればマナをこんな目には……くっ!」
ヒビカは立ち上がると、パンサーの壁を拳で思い切り殴りつけた。
「くそおおおおおおおおおおっ!!」
全員の気持ちを代弁したヒビカの叫びがあたりに響き渡る。ヒビカはずるずるとその場に崩れた。
「イヨ、どう?」
診察を終えたイヨにクロウがそう聞く。イヨは厳しい顔で答えた。
「私では無理です。マメ様にお願いしないと……」
クロウはすっくと立ちあがった。
「みなさん、聞いてください。提案があります」
全員の注目が集まる。
「マナさんを助けたい、守りたい。そのために力が欲しい。みなさんのその願いに、お力添えできるかもしれません。僕とイヨの故郷である、東の果て、アキツ
*
「ヒビカさん、みなさんを頼みます。僕はこのまま陸軍に残って、ジェミル達の事をもう少し調べようと思います。僕はバンクと親しかったですから、上手くすれば、相手の懐にもぐりこめるかもしれません」
タブカはヒビカの手を取って強く握った。
「そうか……心強い。だが無理はするな」
「はい。週に一度くらいのペースで、クロウ君宛に手紙を送りますよ。そこに僕が得た情報を海軍式の暗号で書いておきます。それでは」
タブカが降りた後、パンサーを飛び立たせようとリズが操縦席に座ると、後ろからシンシアが歩いてきた。
「リズ、あなたはずっと運転し通しだし、疲れがたまってるでしょう? ここからアキツへは、私が運転する」
*
動かないマナのそばから離れないコッパ。リズはその近くにやってきた。コッパの頭に手を添えて言う。
「辛かっただろうね。あんたが一番辛かったはずだよ」
コッパは、振り返ってリズの手を取った。
「ありがとうな。……マナがお前達に言えなかった秘密、オイラから話すよ。知ってほしいんだ、お前達には。マナを受け入れてやってほしい」
ジョウやヒビカ、ザハにパンク、ジョイス達も、コッパの話に耳を傾けた。
「何度も『ハウ』って名前を聞いたろ。あいつは、マナにランプを与えてこの旅のきっかけを作った男……マナが心の底から愛した、婚約者だ。オイラは元々、ハウと一緒に旅をしてた。マナと出会ったところから、全部教えるよ。聞いてくれ」
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