第5話
そこでアーレンは息絶えていたのだ。
「おい、嘘だろ? なんであの程度の敵にやられるんだよ!」
たかが物理的な攻撃しかしてこない元一般人だ。数の差があっても数人ごときでは銃の前に立っていられるほどではない。
しかし、リーフはその死体のおかしな事に気がつく。
「なんだ……これ」
今まで死んできた味方とは全く違う死に方。本来なら首を絞められたり、殴られたり、そして抵抗した事による傷跡が残るのだが、アーレンにはそれが全くない。
あるのは、頭蓋には貫通したと見られる小さな穴が一つだけ。明らかな死因であり、致命傷並びに即死だ。
「銃にやられた……だと?」
背筋が凍った。
果たして先ほどまでの敵に銃を持つ奴はいたのか、否。倒した相手は少なくとも半数以上が手ぶらだった。
もしかして自分の放った弾が跳ね返って当たったのか、否。この弾も魔術も、拡散や跳ね返る力は持っていない。
だとしたらアーレンはどこから撃たれたのか。
見えない死角に敵がいるのか、それとも自殺でもしたというのか。
いや、傷痕を見る限り後ろから弾が入っている、自殺の線はかなり低い。
「おい、メリア! メリア! 応答しろ、メリア!」
その場から逃げ出すように、リーフは走り去りながら連絡を取り始めた。
しかし音信不通、彼女が出ないことにより焦りが募る。
「くそっ、誰がやったんだ! どこに敵がいる? 隠れてないで姿を現せよ!」
不可解な死因、見えない恐怖、のし掛かる重圧。
それだけでリーフの心は壊れ始めていた。
「生き残りたい、生き残りたい、ここで死にたくない!」
戦場を放棄し、一目散に砦へと足を向ける。
目に映る景色はシャッターを切る度に変わっていき、もはや何が存在しているのか正面以外を映すことがない。
無様と言うにもほどがあるが、今のリーフはそこまで考える余裕も格好もなかった。
ただ走り、ひたすら走る。
生きるための最善手だけを打ち続けていた。
◇
辿り着いた。
それと同時、逃げ切ったという確かな感触が額から頬へと流れ落ちる。
どのみち未確認の敵であることは間違いないので、すぐさま安心というわけにもいかないが、少なくともいつも通りの揺らぐことのない平常心に戻ることは出来だろう。
大きく深呼吸をし、ドアノブに手を掛ける。
そして押し倒すように中へと入っていった。
「おい、メリアいるか……」
と言葉を口にしかけたところで、リーフは入り口で立ち止まった。
手に持っていた銃を真っ正面に、本能的に構えて。
今目の前にある光景は何なのか。
分かってはいるが、状況を理解できない。
まず、死体があった。それも重なるようにしていくつも。
埃とゴミで灰色に染まっていたはずの床は、流れた血で赤色に変わっており、所々黒ずんで固まり始めている。
壁には朝まではなかったはずの風穴がポツンポツンと空いており、ここで銃撃戦があったことを示している。
だが、それらは自我のない人物ではない。昨日まで、正確には今日も含まれるのだろうが、リーフと共に戦っていた味方であった。
「なんで」
漏らした言葉が振り向かせる。
踏み込んだ足がグチャリと音を立てるので、下に一瞥を投げれば、死んだ味方が横たわっており、口と腹から内臓が飛び出している。
もう一歩踏み出せばベチャリと血の海に靴が浸り込む。
そしてその位置からリーフは構えて対峙した。
「なんでなんだよ、メリア……」
そこには怯えた表情で壁を背に座り込んでいるフリーシカと、その額に拳銃の銃口を当てている殺伐とした雰囲気を漂わせるメリアがいた。
リーフは最初見間違えたのかと思った。しかし、それは返り血によってメイクしただけだと気がつき、目が合うことにより確信をした。
彼女がアーレンを殺したことを、そしてそのせいで自分が取り乱したことを。
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