第2話 役不足

「私には役不足かもしれないけれど、シンデレラの役……やりたいです」


「それは違います!」


 それは文化祭で行われる劇の配役を決めるHRホームルームでのことだった。

 いつも大人しくしていて、自信のなさそうな柏木かしわぎ初音はつねが勇気を振り絞り、主役に立候補していた。

 そこにクラスのマドンナ橋姫はしひめ若菜わかなが発言した。

 あまり、直接的な表現をするのもどうかと思うが、橋姫と柏木はクラスの美少女の一位、二位といったところだ。

 温厚な橋姫に限ってあり得ないと思うが、この直接対決でクラスに亀裂が入る可能性もある。

「ご、ごめんなさい……。やっぱり、私なんか主役はダメだよね。うぅ……」

「やっぱり、そうですよねっ。私が間違ってるかと思いました」

 嬉々として語る橋姫。

 泣き出しそうな柏木。

 橋姫はこんなイジメのようなことをやる性格ではないと思うのだが。

「やはり、この場合のは誤用ですね。役不足とは配役に不満があるときや、自分の力量より軽い仕事に対して用いる言葉です。ですから、を用いるのが適切ですかね」

「そ、そうだったんだ……教えてくれてありがとう、橋姫さん」

「いえ、私も不安だったんです。指摘してみましたけど、実は柏木さんがやるという意味だったらどうしようかと」

「……」

 ホッ、と胸を撫で下ろす橋姫。

 柏木は嫌味を言われたと思いショックを受けている。

 HRの後、すぐに周りからのフォローで柏木は誤解だとわかったらしい。

 だが、この一件以降、柏木は橋姫に苦手意識を持ってしまったらしい。

 そして、橋姫の配役は継母ままははに決まった。

 きっと、天然サディストの橋姫さんにはイジワルな継母なんて簡単過ぎて役不足であろう。

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